第1話 「始まり」
~駒王町商店街~
「砂糖、塩、しょう油、みそ……他に必要なモノはあったかね~」
おやつ時の午後3時。
駒王町にある商店街の通りを大きな買い物袋を携えた銀が歩いていた。
大量の調味料が入った袋は重そうに見えるが、見た目小学生ぐらいの銀はそれを軽々を持ちあげている。
「うーん、ちょっと本屋に寄りたいけど、お金は……」
サイフを開けて残金を確認すると、銀の手持ちは513円だけ。
ちなみに、銀が持っている買い物の品は高天原から支給される生活費から出ている。
それとは別に空狐族の面々は余った生活費や報酬金から得た個人資金を有している。
「そういえば、この前マンガを大人買いしたなー。まあ、今月は新刊とか出てなかった筈だし、大丈夫だろ。」
そう言いながら銀は商店街にある本屋の方に足を向ける
そして、本屋の新刊コーナーの赴いた銀が見つけたのは、お気に入りの漫画の新刊。
「くぅ……半年に一回しか出ないから油断してた。ギリギリお金が足りない。」
銀が見つけた新刊を買うにはお金が200円ほど不足している。
悔しがる銀の視界にもう1つのサイフが映る。高天原から支給される生活費が入ってるため、そこそこ潤沢なお金が入っている。
(砂糖とか安く買えたし、200円ぐらい使ってもバレないバレない。)
『そうは問屋が下ろさないわよ~』
(ゲッ!?)
共用のサイフから小銭を抜き取ろうとした時、相棒の声が聞こえてくる。
精神を相乗りしているため、銀の感覚の一部はリヴァイアサンも共有している。なので、銀の悪だくみは基本的に筒抜けなのだ。
(見逃してもらえませんかねぇ?)
『ダ・メ♪ ひなたに怒られたくなかったら、その手を戻しなさい。』
(ちぇ……)
リヴァイアサンに諌められ、小銭を戻す銀。
結局、銀は何も買わずに本屋を後にした。
「ん? アイツは…………」
大人しく帰ろうとした銀の視界に2人組のカップルが映った。
この商店街には、アクセサリー店も軒を連ねているのでカップルが居るのは珍しくない。
しかし、そのカップルの中に普通の人間ではない存在が混じっているのなら、話は別だ。
(ねえ、リヴァイアサン。あの女性の方…………)
銀が見つけたのは、高校生ぐらいの青年と睦まじい様子の女性。
少しスレンダーで長い黒髪はストレートに伸ばしているのが特徴な彼女だが、その程度の変装では銀の目を欺くことはできない。
『間違いなく堕天使ね。大御神の話にあった堕天使でしょうか?』
(はぐれ堕天使、ね。まったく、ここの悪魔は何をしてるんだか)
銀は心の中で、駒王町の管理代行者に毒づく。
(まあ、ちょうどいいか。リヴァイアサン、行動次第では狩るよ。)
『了解よ。』
銀は商店街の人通りのない路地に入ると、荷物だけを転移させる。もちろん手紙を添えるのを忘れない。
さらに、普段着から前世で慣れ親しんだ赤と黒を基調にした戦闘用の衣装へと衣装チェンジすると、今まで隠していた空狐族の特徴である耳と尻尾を表に出す。
「ん~やっぱり自然体が一番だな!!」
『はぐれの討伐って、いつ以来?』
「先月ぶりぐらいかな? おかげで、金欠だよ。」
銀の個人資金の収入源には、はぐれ勢力の討伐報酬金が存在する。
悪魔や堕天使などの大規模勢力の中には、指導者に反目したはぐれ者が大なり小なり存在する。そういった者たちは自分勝手に動き、時には何も知らない人間を手に掛ける。
銀たち空狐族は高天原より悪質なはぐれ者の討伐を任されており、討伐した場合には報酬金が支給される。もちろん、無意味に殺すことは禁止されているが。
ちなみに、駒王町に侵入したはぐれ者の討伐は本来、表向きの管理者リアス・グレモリーという悪魔の仕事だったりする。
閑話休題
「さて、と。追跡を開始しますかね。」
銀が取りだしたのは、単なる布切れ。
「デュプリケイト!!」
《Deplicate!!》
銀の左目の力を行使すると、単なる布切れが立派なマントに変化する。
それを上から被ると、銀の姿が見えなくなってしまった。
銀の相棒、リヴァイアサンは【複写】という能力を持っている。
【複写】はすでに存在する物を複製することもできるが、物質を変質させて自分の思い描いた通りに作り替えることもできる汎用性の高い能力である。
銀が被っているマントもこの能力によって布切れを変質させた物であり、透明化の能力を付与されている。もっとも気配や声を殺すことはできないので、気付かれる時は気付かれるが。
「おっ、居た居た。」
路地から出た銀は人を避けながら堕天使の少女を追跡する。
『銀は声は出さないように。声まで消せないんだから』
(おっと。そうだった。)
『それにしても、私の能力って使う人が使えば、こんなに強力になるのね。』
(同感。アタシも蓄えたマンガ知識がこんな所で役に立つと思わなかったよ。)
リヴァイアサンの【複写】は空想の物を作り上げることができる。
しかし、その本領を発揮するにはイメージ力が必要になるので、センスが要求される。銀の場合は、今まで読んだ漫画を参考にして、多種多様なアイテムを作り上げることができる。
『そういえば、あのカップル見て、彼と同じようなことしたいと思わないの?』
(うーん……アイツはどちらかと言うと、友達感覚の方が強いからなー)
『彼も可哀そうね。』
(いや、本人も今の関係を楽しんでるみたいだし、良いんじゃないか?)
脳内で世間話を続けながら、銀は堕天使と人間のカップルの追跡を続けるのだった。
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そして、時間は過ぎて、気が付けば夜になっていた。
カップルは噴水のある公園にやって来て、銀は茂みから様子を見ている。
常人なら距離的に聞こえない声も空狐族で高い聴力を有する彼女には問題なく聞こえている。
「今日は楽しかったわ、イッセーくん」
「お、俺も楽しかったぜ、夕麻ちゃん。」
「…………本当に、楽しかったわ。最後の思い出には勿体ないくらいに。」
「え……?」
少年が口を開くよりも早く夕麻と呼ばれた少女は動いた。
彼の背後に回り込み、口元に白い布を押し付ける。やがて、少年の全身から力が抜けてその場に崩れ落ちる。
「イッセーくん。私に、最高の思い出をありがとう。」
堕天使の少女――夕麻の目尻からポロポロと涙が零れ落ちる。
そして、決意を固めて涙を拭うと、夕麻は立ち上がる。
「居るんでしょ? グレモリーの眷族。」
「………気付いていたんですね。」
夜の公園に現れたのは、駒王学園の制服に身を包んだ白髪の少女。
高校生の割には小柄な体で、身長は肉体年齢12歳の銀よりも低い。
「堕天使の私がこんなのことをお願いするのも変だけど、イッセーくんをお願い。」
「………何をするつもりなんですか?」
「こうするのよ。」
すると、夕麻は変身して、少年の姿と瓜二つになる。
「うちの上司は単純だからな。こうやって、身代わりを立てれば簡単に騙されてくれるぜ。」
夕麻は見た目や衣服だけでなく、口調や声色までも一緒になっていた。
彼のことをよく知らない人ならあっさりと騙されるだろう。
「イッセーのことは任せたぜ。」
そう言い残して、夕麻は公園から出て行った。
『どうする?』
(追い掛ける!!)
再び透明マントを上から被って、銀は堕天使を追いかける。
しかし、銀が追い付く前に夕麻は夜空から降り注いだ流星によって心臓を貫かれた。
心臓を貫いたのは、堕天使がよく使う光の槍。
飛んできた方向を見上げると、2人組の堕天使が上空に佇んでいた。
「ふん、レイナーレの奴はうまくやったようだな。」
「どうするの? あのガキに手を出さないっていう約束は?」
「守るわけがないだろう。レイナーレには、スケープゴートになってもらう。
そして、あのガキは計画通り、
「了解っすよ、カラワーナ。」
堕天使2人は死体を放置し、その場から立ち去った。
そして、誰も居なくなった所で銀は透明マントを脱ぎ、堕天使の容態を確認する。
まだ辛うじて息があるが、意識は朦朧としている。
現在も心臓に空いた穴から大量の血液が流れだし、変身も解けてしまっている。
「何か……誰かが仕組んだじゃないかって思うような展開だな。」
そう呟きながら銀は以前、〈ダンジョン〉で入手して秘薬を取り出す。
正式名称、【偽典・アムリタ】。
時間を巻き戻すことでありとあらゆる傷を癒すことができる秘薬だ。
「うーんと……これぐらいで良いのかな?」
小瓶の中身の半分を瀕死状態の夕麻の体に注ぐ。
すると、身体の時間が巻き戻り、傷口が修復されていく。数分も経たない内に傷口は完全に塞がるが、時間遡行が終わる気配はない。
「えっと……これってどうやって止めるんだ?」
『………さあ?』
止める方法が分からず、銀は見守ることしかできない。
「わぁぁ!! いい加減止まってくれ!!」
巻き戻り続ける肉体の時間に銀は慌てる。
しかし、薬の効果は止まらず、時間遡行が終わったのは夕麻の身体が見るも無残な姿になったときだった。
「………これ、どうする?」
『取り合えず、神社まで運びましょう。このまま放置する訳にはいかないわ。』
「だよなー、よっ……と。さすがに軽いな。」
銀は夕麻を背負うと、神足通を使って駒王稲荷神社に帰還するのだった。
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~駒王稲荷神社~
「ただいまー」
「おかえりなさい、銀ちゃん。」
神足通で帰って来た銀をひなたが出迎える。
「……銀ちゃんの背中で眠ってる子は何方ですか? 」
「えっとだな。実はかくかくしかじかなんだよ。」
「ふむふむ。話には聞いていましたが、とんでもない効果の薬ですね。まさか肉体を若返らせてしまうとは……」
ひなたは銀の背中で眠っている夕麻の頬をツンツンと突く。
高校生らしい体つきだった堕天使の少女、夕麻。
貫かれた心臓も完治し、外傷は綺麗になくなった。しかし、【偽典・アムリタ】の影響で彼女の身体は何と小学生ぐらいまで若返ってしまった。おまけに、身長も銀より低い。
「この子、どうします?」
「とりあえず、起きたら事情を聞いて、その後は本人に任せるよ。」
「良いんですか? 空狐族のことが外部に漏れるかもしれませんよ?」
「元々隠し通せるとは思ってなかったさ。一度、子供が誘拐されてるし、一部の悪魔には知られてる可能性が高い。」
空狐族は裏の世界では、絶滅したと思われている。
日本全土を領土とする天津神・国津神及び妖魔連合――通称、高天原がそのように宣言したからだ。しかし、実際には空狐族は銀を族長として生き残っている。
「大丈夫だって。何かあっても、アタシが居るんだから。」
「分かりました。今回は族長の意志を尊重しましょう。(私の方で対策を打っておきましょうか。)」
ひなたは頭の中で思考を巡らせる。
「さあ、お堅い話は終わりにして、晩御飯にしましょうか。」
「じゃあ、アタシはこの子を布団に寝かせてくる。」
「はい。」
2人は仲良く神社の中に入っていくのだった。
本作ではレイナーレ生存ルートです。
あと、ロリ化したのは私の趣味です。