駒王町には、2人の管理者が存在している。
1人は日本を領土とする高天原に公認された管理者、三ノ輪 銀。
駒王町が管理者不在状態だった時期から管理を任され、侵入者を感知する結界を管理は空狐族が引き受けている。はぐれ悪魔などのはぐれ勢力の討伐の他にも駒王町を流れる霊力の流れ――霊脈の管理も担当している。
もう1人は悪魔の名門貴族の令嬢、リアス・グレモリーである。
本人は駒王町の管理者を名乗っているが、実際には自称管理者でしかない。何故なら、土地の所有権を持っている高天原から管理者として認められていないからだ。
さらに言えば、リアスの場合は悪魔上層部から指示されたはぐれ悪魔を討伐しているだけ。つまり、無関係な人間に大きな被害が出てから討伐しているため、人間界に大きな被害が出ている。
銀はリアスに関わらないようにするため、秘密裏に動いていた。
そのため、リアスも銀の存在を知らない
しかし、この日。銀とリアスは初めて邂逅した。
「これは、貴女がやったの?」
燃え盛る炎に包まれたはぐれ悪魔の死体と廃屋に飛び散った血痕を見ながらリアスが呟く。
「そうだよ。コイツを野放しにしておくと、無関係なヒトに被害がでるからな。」
「此処は私、リアス・グレモリーが管理する土地よ。勝手なことしないで頂戴。」
「アンタたちが動くのを待ってると、無関係なヒトに被害が出る。その命令には従えないな。」
「そう……こちらの命令に従わないなら仕方ないわ。」
リアスの言葉を合図に彼女の眷族3人が戦闘態勢に移行する。
約一名だけは状況について行けずオロオロとしているだけだったが……
「おいおい、そうやってすぐに暴力を振るうのはどうかと思うぜ?」
「私が管理する町に不確定要素を残しておく訳にはいかないわ。祐斗!! 小猫!!」
主の命令に従って、小柄な白髪の少女と金髪のイケメンが飛びかかってくる。
銀はすぐさま【神足通】を発動させ、2人の攻撃を避ける。
「戦うのは面倒だから、トンズラさせてもらうぜ。」
「逃げられると思ってるの?」
「思ってるさ。神足通!!」
銀はもう一度【神足通】を発動させ、廃屋から姿を消す。
まるで初めからそこに居なかったかのように姿を消してしまった銀にリアスたちは驚きを隠せなかった。
転移の術自体は珍しくないのだが、それらは大なり小なり痕跡や予兆がある。
例えば、悪魔が使う転移の術は魔法陣が現れる予兆が存在し、使用者の魔力が僅かに残る。
これに対し、銀の【神足通】は転移の痕跡や予兆がまったくなかった。
リアスたちからすれば、彼女は忽然と消失したようにしか見えなかった。
「幻覚……ではないわよね?」
「その筈です。きちんと匂いがありました。」
「予兆も痕跡も出さずに転移した……? そんなことが……」
「もしかすると、転移系の
「どうしますか、部長。」
「今日は帰りましょう。追跡ができない以上、此処に居る意味はないわ。」
そう言って、リアスとその眷族たちは早々に現場から立ち去った。
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一方、【神足通】で逃亡した銀ははぐれ悪魔討伐の報告を高天原に挙げた後で神社に帰還した。
「ただいま~」
「おかえりなさい。首尾はどうでしたか?」
「侵入したはぐれ悪魔は討伐。だけど、グレモリーに遭遇して、戦闘になったよ。」
銀の報告にひなたは険しい表情を浮かべる。
「手札は何を晒しましたか?」
「神足通だけだよ。言われた通り、戦闘は避けたしな。」
「それなら良かったです。神足通ぐらいなら、大丈夫でしょう。」
ひなたは安堵した。
ひなたが心配していたのは、リアスを通じて銀の手札が悪魔に知られること。
銀の相棒であるリヴァイアサンは肉体を失っているが、裏世界の勢力図を一変させる程の力を持っている。そのことが知られると、その力を狙う悪魔が出てくるのは確定。
もちろん、銀がそうそうやられることはないが、親しい者が人質に取られればその限りではない。
ちなみに、あらゆる場所に出現することができる【神足通】は銀の持つ手札の中で、外部に漏れても問題がないレベルの能力だったりする。
「そうそう。銀ちゃんが保護した堕天使、目が覚めましたよ。」
「おっ、ようやくかぁ。」
「はい。それで、銀ちゃんに話があるそうなんです。」
「ん、分かった。」
銀はひなたに先導される形で堕天使の少女に宛がわれた部屋に向かう。
少女が目を覚ましたのは、ちょうど銀が〈白鳥農園〉の手伝いをしている時間帯で現在に至るまでの経緯等はすでに説明を済ませたらしい。
「よっ、気分はどうだ?」
部屋の襖を開けると、黒と白の和装に身を包んだ幼女が自分の翼を手入れしていた。
「悪くない気分です。このような身体になったのは予想外でしたが。」
「それはどうしようもなかった。」
「別に気にしてませんよ。その気になれば、いくらでも姿を変えれますから。」
翼の手入れを止めて、黒髪の幼女――レイナーレは銀と向き合う。
「それで、アタシに話があるって言ってたけど……」
「短期間で強くなる方法を教えてもらいたいのです。」
レイナーレは胡坐をかく銀の背後――正確には、ゆらゆらと動く尻尾を見ながら言う。
「私はグレゴリに居た頃、様々な伝承を読み漁りました。もちろん、その中には空狐族に関する記述も存在しました。空狐族は9本の尾を持って生まれ、力を増す度に尻尾が減る。」
空狐族の実力は、実体化している尻尾の数によって判断できる。
生きている時間に比例して力を増すと、9本の尻尾が1本ずつ霊体化して“霊視”という特殊な能力を持たないと見えなくなる。そして、最終的には全ての尻尾が霊体化する。
しかし、全ての尻尾が霊体化して真の空狐になるには3000年という長い長い月日が必要になる。
つまり、空狐族というのは空狐になる可能性を秘めた種族なのである。
「空狐族は尻尾が1本減るぐらいに力を増すのにもとんでもなく長い時間が掛ります。それなのに、お二人の尻尾はすでに複数減っている。」
ちなみに、尻尾の数は銀が6本、ひなたが7本である。
「だから思ったのです。もしかしたら、短期間で強くなる方法を持っているのではないか、と。」
「うーん……あるにはあるけど、それを聞いて何をしたいんだ?」
「ある少女を守るために。」
「どういうことですか?」
「駒王町に侵入した堕天使の目的は、
「おいおい、ちょっと待ってくれ。アタシの記憶が確かなら、神器を抜かれたヒトは……」
「お察しの通り、彼らは無関係なヒトの命を奪い、いくつもの神器を収集しています。」
聖書の神が人間たちにもたらした異能、
十人十色な能力を持つソレは持ち主が亡くなると、次の所有者に転生する特性を持っている。そのため、抜き取るには特別な儀式を行う必要がある。
しかし、神器は所有者の魂と密接に結びついているため、無理に抜き出すと所有者は亡くなってしまう。今までにも複数の
「そのことを知ったのは最近。ずっと、命を奪わずに抜き出す手段を手に入れたって、騙されてたから…………」
「ん? じゃあ、何でアイツの神器は取らなかったんだ?」
銀が言うアイツとは、レイナーレが身代わりになった少年のこと。
どうやら今はグレモリーに身を寄せているようだ。
「彼……イッセーくんが持ってるのは、
(あの時の男が天照さんが言ってた
その力は字が現しているように神様すらも屠る力を発揮すると言われている。
「銀ちゃんから貴女は自殺未遂を起こしたと聞いてますが、守りたいヒトが居るのなら生き続けるべきなのでは?」
「当初の予定では、私が死ぬと同時に守りの秘術が彼女に発動する筈だったんです。悪意あるモノを寄せ付けない堅牢な守りであの子は守られる。」
『ひなた。今までの話にウソが交じってるか?』
『いいえ。ウソを感知する結界を張らせていますが、反応はないみたいですね。』
『―――ってことは今までの話は全部本当ってことか……』
『どうしますか?』
『ここで拒否するのは、アタシの性分じゃないからな』
思念通話でレイナーレの話していた内容に一字一句ウソが紛れ込んでいないことを確認した銀は、レイナーレの要求に応えることにした。
「冥界の一角に〈ダンジョン〉っていう地下迷宮があるんだ。理由は分かんないけど、そこに住む魔物を倒せば、格段に早く成長できる。」
そう言って、銀は一枚の書類をレイナーレに渡す。
それは〈ダンジョン〉に潜るための許可書である。
そもそも〈ダンジョン〉は、とある悪魔が秘密裏に所有していた施設であり、現在は前所有者の悪魔と繋がりがある銀が引き継いでいる。
そのため、〈ダンジョン〉を利用するためには銀が発行する許可書が必要になる。ちなみに、無理に侵入すると、とある神様がお仕置きにやってくることに……
閑話休題
「ありがとうございます。」
「その代わり、今回侵入してきた堕天使の規模とか教えてくれないか?」
「構いません。まず、今回の活動はグレゴリとは無関係です。そして、堕天使の数もそう多くはありません。私が知る限り堕天使は3人で、町に居るのは2人です。」
「あら、案外少ないですね。10人ぐらい居ると思ってました。」
「但し、大勢のはぐれ神父が居ます。正確な数は分かりませんが、30は越えると思います。」
「なるほどな。じゃあ、アイツらは何処を拠点にしてるんだ?」
「駒王町にある教会です。今は廃墟になっていると聞いていますが……」
「ああ、あの教会か。確かに、あそこならヒトも寄りつかないし、良い場所だな。」
レイナーレが話す拠点に銀は心当たりがあった。
駒王稲荷神社周辺にある教会は、何年も前に廃墟になった教会のみ。
町の郊外にあるため、今はヒトも寄りつかなくなっているので、はぐれ勢力が身を隠すには都合が良い。
「聞きたいことはそれぐらいかな? ひなたは何かあるか?」
「そうですね……ダンジョンのことで1つ。ダンジョンに潜る前に必ず運営に寄ってくださいね? いろいろ手続きがあるので。」
「分かりました。」
「じゃあ、今日はゆっくり休めよ。」
「それでは、ご厚意に甘えさせていただきます。」
「おう。」
レイナーレを部屋に残して、銀とひなたは立ち去る。
「さてと。拠点の場所も聞き出せたし、明日にでも殴り込み掛けるかな。」
「そのことなんですが、その前に銀ちゃんに受け取って来て欲しい物があります。」
「受け取って来て欲しい物?」
「はい。実は、大国主さまに“ある物”の開発をお願いしていたんです。銀ちゃんには、それを受け取って来て欲しいんです。」
「別に良いけど……一体、何を頼んだんだ?」
「ふふふ♪ それはもらってからのお楽しみです♪」
「本当に何を頼んだんだ…………?」
銀の疑問にひなたが答えることはなかった。
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そして、同時刻。
駒王町に2つの人影が近づいていた。
それは建物の屋根から屋根へと音もなく飛び移り、駒王町の方を目指す。
やがて、駒王町と隣町の境界線近くに立つビルの屋上で2つの人影は足を止めた。
「これ……霊力の結界? こんな大規模な?」
「杏、何かあるのか?」
「うん。かなり大規模な霊力の結界が張られてる。これは……転移に反応するみたい。」
「じゃあ、タマたちには関係ないな。杏、行くぞ!!」
「ああ!! 待ってよ、タマっち先輩!!」
この日。駒王町に新たな来訪者が現れた。
しかし、この2人の来訪者に気付く者は誰も居なかった。
物語の展開が早いかもしれませんが、これくらい早く進めないと完結にどれだけ時間が掛るか分からないので………
今回出て来た『ダンジョン』は、当然オリジナルの施設になります。