~高天原~
翌日。
銀はひなたに言われた通り、国津神のトップ――大国主の領土を訪れていた。
浮き島には初期の出雲大社をモチーフにした建物が建てられており、長い長い階段の上にこじんまりした社が建てられている。
社の大広間に通された銀は、胡坐をかく壮年の男性と面会していた。
黒い髪にきちんと整えられたアゴ髭、少し日に焼けた肌を持つ彼こそ、日本神話2大勢力の片翼、国津神のトップを務める大国主である。
「待っておったぞ、銀。要件はわかっておる。儂に依頼されていた物を取りに来たのだな?」
「はい。」
銀は背筋をピンッと伸ばして、応える。
「何度も言うが、もう少し楽にしても構わんぞ? 儂は気にせんからな。」
「そう言う訳には……」
大国主の要求に銀は苦笑いを浮かべる。
かの神は礼儀にとやかく言うタイプではないが、その身に纏う雰囲気がフレンドリーに接することを許さない。
「ふぅ……まあ良い。おい、“アレ”を持ってまいれ。」
大国主の命令に従い、彼の眷族である白兎が三方と呼ばれる神具を持ってくる。
銀の目の前に置かれた三方には和紙が敷かれて、その上には一台のスマートフォンが置かれている。
「それがお主の副官に依頼されて作った物だ。」
「見た目は普通のスマートフォンですね。これなら、天照大御神様から賜った物が……」
「確かに見た目は普通だ。だが、その端末にはあるシステムが搭載されておる。」
「あるシステム、ですか?」
「うむ。発案はお主の副官だが、中々興味深い案だった。これを他の神々に話したら、ノリノリで協力してくれてな。挙句の果てには、天照も乗って来た。」
(ひなた……お前、一体どんな物を発案したんだ?)
高天原の神々がノリノリで作り上げたシステムと聞かされて、銀も興味が湧いた。
「ここで儂が説明しても良いが、全部を説明すると時間が掛る。詳細はアプリに書いてあるから、そっちを読んでくれ。」
「分かりました。」
「うむ。それと、天照から貰ったスマートフォンは儂が返しておこう。」
「お願いします。」
新しいスマートフォンを受け取り、以前天照大御神から支給されたスマートフォンを三方の上に置く。
早速スマートフォンの電源を入れ、ひなたが提案したというシステムを確認する。
インストールされているアプリは以前のモノとほとんど同じだが、アプリが1つ増えていた。それこそ、ひなたが提案したシステムを使うアプリ。
「…………大国主様。ひなたはこのシステムを何と呼んでいましたか?」
喰い居るようにスマートフォンの画面を見つめる銀。
画面に映っているアプリは灰色の円の上に若葉が描かれてたアイコン。
そのアイコンのアプリを銀はよく知っている。
しかし、それは銀の前世に関係があるアプリなので、幼馴染のひなたが知っている筈がない。
「確か……“勇者システム”と呼んでいたぞ?」
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「偶然の一致、とは考えられないな」
高天原から戻った銀はとある建物の上でスマートフォンの画面と睨めっこしていた。
画面に表示されているのは ひなたが発案し、日本神話の神々が作り上げた戦闘システム――【勇者システム】の詳細情報である。
「でも、システムの中身はちょっと違うな。」
『そうなの?』
「ああ。この精霊とかはアタシが使ってたシステムになかったしな。」
この世界の勇者システムは、龍脈を流れる霊力をエネルギー源にしている。
龍脈の霊力を使用して、神々の恩恵を再現してシステムの使用者に与えるのが本システムとなっている。過程は違えど、もたらされる結果は銀の知るシステムとまったく同じ。
「直接聞いてみるか…………」
新しいスマートフォンを操作して、神社に居る筈のひなたに通信を繋げる。
『もしもし、銀ちゃん。何かありましたか?』
「大国主様からちゃんと受け取ったよ。ひなたが考案したアプリがインストールされたスマートフォンを。」
『そうですか。では、これから堕天使の討伐ですか?』
「その前にひなたに聞きたいことがあるんだ。」
『何ですか?』
「ひなた、どうして勇者システムのことを知ってるんだ?」
銀は胸に抱いた疑問を素直にぶつけた。
『その口ぶりですと、やっぱり私の予想は当たっていたようですね。
銀ちゃん、貴女は神世紀……バーテックスが現れた世界からの転生者ですね?』
「今更隠す必要もないかな。ひなたの予想通りさ。アタシは神世紀の世界から転生した元勇者さ。ひなたは?」
『私も銀ちゃんと同一の世界からの転生者ですよ。ただし、私は銀ちゃんの時代から300年近く前の人間ですが。』
「300年前!? それって、死のウィルスが蔓延し出した時代じゃないか!?」
銀は驚いた。
彼女の前世の世界は人類は蔓延した死のウィルスの影響で生存圏を大幅に縮小した。
どれくらい縮小したかと言うと、日本の四国地方のみが生存圏となっている。
300年前とはそんな人類のとっての歴史の転換期が起こった時代なのだ。
『ああ、未来ではそのような話になっているんですね。』
「ん?」
『いえ、こっちの話です。それについては、戻ってから話します。』
「ん、分かった。アタシは拠点を潰してから帰るよ。」
通信を切り、銀は立ち上がる。
時刻は深夜。新しい勇者システムの調子を確かめている内にすっかり日が暮れてしまった。
そして、レイナーレから聞きだした拠点に向かおうとした時、スマートフォンが軽快なメロディが流れる。
「何だよ、こんな時に。」
画面をタップして、アプリを起動すると地図に赤い目印が立っている。
勇者アプリには空狐族が管理する結界と連動して、転移反応を感知した場所を表示する機能が実装されている。これによって、いちいち管理代表であるひなたを介する必要がなくなった。
「近いな……先にこっちから片付けるか。」
銀は足場を蹴り、大空を跳ぶ。
アプリに指し示された場所は現在位置から近く、彼女の足なら1分も掛らない距離だ。
「あれだな。神足通!!」
目的の建物を視界に収めた瞬間、【神足通】で建物の前に転移する。
そして、不用心に開けられたままになっている扉から侵入し、僅かな灯りが漏れる部屋の扉を思いっきり開ける。
「んぁ?」
「えっ?」
「お、お前は!?」
「あ、貴女は!?」
その部屋に居た者が三者三様の反応を浮かべる。
一部、知っている顔があったが、銀と入れ替わるように転移してしまった。
しかし、それに気づかない程に銀の視線は部屋に居た者ではなく、部屋にあった死体に向けられていた。
十字架に張りつけられた遺体は臓物がはみ出ており、四肢には釘が打ち付けられている。
普通じゃない殺し方をされた遺体は見るに耐えない状態で放置されていた。
「………おい、これをやったのはお前か?」
「イエスイエス。この質問も二回目だねぇ。先に来た悪魔くんは、ママに連れて帰られましたねぇ。この欲求、アンタで晴らさせてもらいますよ!!」
「に、逃げてください!!」
光の剣を振りあげて襲いかかってくる銀髪の少年。
銀は剣筋を見切り、最低限の動きで避けて鳩尾に思いっきり力を込めた拳骨を打ち込む。
「どういう理由でこのヒトを手に掛けた?」
「ゲホッ、ゴホッ。ああん? そんなのソイツが悪魔を呼び出す常習犯だからに決まってるじゃありませんか。悪魔に頼るのは人間として終わった証拠ですからねぇ。」
「そうか……お前、覚悟はできてるんだろうな!?」
「おうおう、強気だねぇ。でも、この人数が相手でも同じことが言えるかなぁ!?」
現れたのは1人の堕天使とはぐれ神父が十数名。
「フリード、こんな所で何をしてる。」
「すいませんねぇ、天使さま。アイツが邪魔してくるもんで。」
フリードと呼ばれた少年神父は銀を指差す。
「アンタがそいつらの親玉か?」
「いや、違うな。私はカラワーナ。そして、今からお前を殺す者だ。」
敵側全員が武器を抜き、中級堕天使カラワーナも光の槍を召喚する。
「堕天使も一緒に現れるなんて、ちょうど良い。」
銀は不敵な笑みを浮かべて、スマートフォンを取り出す。
「あまつちに きゆらかすは さゆらかす」
「何のつもりだ?」
「かみわがも かみこそは きねきこゆ きゆらかす」
カラワーナの問いかけを無視して、銀は呪文を唱え続ける。
日本の神事のことを知らない彼らは知らないが、銀が唱えているのは“阿知女作法”という神楽歌の1つをモチーフにした呪文である。
「みたまがり たまがりまししかみは いまぞきませる」
「何をしているのか分からないが、無防備だぞ!!」
「みたまみに いまししかみは いまぞきませる!!」
勇者アプリのアイコンが代わり、若葉からボタンの花へと変化する。
神父たちの攻撃が届く前に画面をタップし、銀は勇者システムを起動させる。
全身を覆うインナースーツの上に形成される牡丹の赤を基調にした衣装。
今までも同じ衣装を戦闘用の装束にしていたが、今回のはリヴァイアサンの【複写】で再現したレプリカではなく、神様の恩恵が施された真の勇者装束だ。
「覚悟しろよ、堕天使に神父ども。大橋の勇者、三ノ輪 銀が相手だ!!」
使いなれた2丁の斧を握りしめ、銀は戦闘に突入するのだった。
やっぱり、勇者であるシリーズなら勇者システムがないとね。
そういう訳で、序章も序章だと言うのに勇者システム登場。
残念ながら「結城友奈は勇者である」の勇者システムの劣化版なので、満開は存在しません。
さらに言うと、ベースは「乃木若葉は勇者である」のシステムなので、「鷲尾須美は勇者である」のシステムよりも弱体化。その代わり、精霊は実装されています(次話登場)