紅魔女中伝   作:ODA兵士長

11 / 55
こういうことを書くのは良くない……というより嫌われそうな気がするけど……

感想が欲しいです()
批判でもいいです←

あと、関係ないけど、バレンタインチョコ欲しいです(切実

すみません、本編どうぞ










第11話 悪魔の妹

 

 

「パチュリー様、紅茶とクッキーをお持ち致しました」

「あら、ありがとう。毒は入ってないかしら?」

「そんな事は致しません」

「聞いたわ。レミィには入れたんでしょう?」

「……私に、パチュリー様を殺す理由はありませんから」

「そう……まあ、例え毒を入れられてても、何とか出来るからいいのだけど」

「信用ないのですね」

「そりゃあそうでしょう? 貴女はつい1ヶ月前、私達に刃を向けていたのだから」

 

 そう言ってパチュリー様は、私を少し睨みつけた。

 だが私は、そこに私に対する嫌悪感を感じることはなかった。

 

「パチュリー様は咲夜さんの作るクッキーが大好きなんですよ〜」

「……こぁ、要らないことは言わなくていいのよ」

「甘くって美味しいですよね! パチュリー様?」

「まあ、そうね」

「今度私にも、お菓子作りを教えてくれませんか?」

「ええ、いいけど……料理本くらい、ここにもあるでしょう? 私もそれを読んで作ってるのよ?」

「むぅ……」

「こぁは咲夜と料理がしたいだけでしょう?」

「パチュリー様!要らないことは言わなくていいんです!」

「……? 料理くらい、いつでもしてあげるわよ」

「!!」

 

 小悪魔は目を輝かせて喜んでいる。

 ただ料理をするだけでここまで喜ぶのか、と私は疑問に思った。

 

「……ところで咲夜」

「なんでしょうか、パチュリー様?」

「首の傷は、まだ温かそうね」

 

 私は傷を隠すように首を抑える。

 そこには包帯が巻かれている。

 それは先ほど自分で巻いたものだ。

 

「……失敗致しましたので」

「そう……吸われる分には、レミィも程度を(わきま)えているでしょうし、構わないわ。ただし、吸われた直後は絶対にレミィの目を見ちゃダメよ」

 

 パチュリー様は語気を強めながら続ける。

 

(くど)いようだけどもう一度言うわ。吸血鬼は血を吸った直後には感情が高ぶるから、普段以上に周りを惹きつける。特に目を凝視したら、貴女も吸血衝動に駆られるわ。吸血鬼との血の交換は、絶対にしてはならないことよ」

「……承知しております」

「貴女が吸血鬼になりたいのなら、さっさとレミィの血を飲むことをお勧めするけどね」

「いえ、私は死ぬまで人間ですので」

「貴女がそうありたいのは分かってるわ。だから忠告しているのよ」

「お気遣い感謝致します」

 

 私はパチュリー様に一礼する。

 

「では、館の掃除に戻りますわ」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

 私は姿を消した。

 

「……能力の使いすぎも、注意しようと思っていたのに」

「何か問題が有るんですか?」

「まあ、寿命が短くなる程度の問題だけど」

「ええっ!? 人間なんて、只でさえ短命なのに……」

 

 パチュリー様はクッキーを1枚手に取ると、それを口に運び頬張った。

 

「……甘いわね。とっても美味しい」

「パチュリー様は、かなりの甘党ですものね」

「頭を使うと、甘い物が欲しくなるのよ」

「魔法使いにも食欲って有るんですか?」

「そんな訳ないでしょう? 私が食事をするのは、只の"戯れ"よ」

 

 パチュリー様は紅茶を飲み、口の中の甘さを掻き消した。

 

「それにしても、咲夜さんは格好いいですよねぇ」

「……惚れたの?」

「まさか! 私は小悪魔ですよ? 人間なんかに心を奪われては、悪魔を名乗れません」

「出来損ないの悪魔だから、"小"悪魔なんじゃなくって?」

「ち、違いますよ! ただ……ちょーっとだけ、魔力が少ないだけです」

「人間と戦えない程度には、魔力不足だものね」

「五月蝿いですよぉ!」

「あら、自分の主に向かって、そんな口の利き方するのね」

「ひっ!?」

「馬鹿ね。何もしないわよ。貴女をからかうのは本当に面白いわ」

「……意地悪ですね、パチュリー様は」

「ふふっ……でも真面目な話、あんまりあの子に入れ込んじゃダメよ?」

「咲夜さんに……ですか?」

「あの子は一応、この館の主を殺そうとしている、言わば敵なのだから」

 

 パチュリー様は紅茶を一口お飲みになる。

 

「……あの子にはもう、レミィを殺すつもりなんてないでしょうけど」

 

 

◆◇◆

 

 

 私は門を開くと、そこに立っている門番に声をかけた。

 

「美鈴、クッキーを焼いたわ。少し作りすぎちゃったから、貴女にも––––」

 

 その門番––––紅美鈴は、ムカつくほど大きな胸の下で腕を組み、下を向いて眠っていた。

 

「……はぁ」

 

 そんな彼女に、私は"挨拶"をした。

 

「……む? あ、咲夜さん! おはようございます」

「とっくに太陽は傾いているのだけど?」

「あはは……」

 

 美鈴は指の間にナイフを挟んだまま、乾いた笑みを浮かべた。

 

「それ、返してくれるかしら?」

「あ、はい。どうぞ」

「……どうも」

「何か用ですか? あ、もしかしてその包みは……」

「ええ。クッキーを少し作りすぎてしまったから、包んで持ってきたのだけど……寝起きで甘い物なんていらないわよね」

「ええっ!? 欲しいです!」

「どうして居眠り門番に、わざわざ餌を与えなきゃならないのかしら?」

「え、餌って……いいじゃないですか! 捨てるよりはマシでしょう?」

「はぁ……まあいいわ。はいどうぞ、引き続き頑張りなさい」

「はーいッ!……あ、ちょっと待ってください!」

「あら、何か––––ッ!?」

 

 振り返る私の口に、美鈴は何かを押し込んだ。

 一瞬理解出来なかったが、押し込まれたのが私のクッキーであることが分かると、私はそれを受け入れ噛み砕いた。

 美鈴は私に、毒見でもさせたつもりだろうか?

 これはパチュリー様用だから、毒など仕込む理由がない。

 そもそも美鈴に持っていく食事に、毒など仕込んだことはないのだが。

 

「美味しいですか?」

「……私には甘すぎるわ」

「咲夜さんは働き過ぎですから、甘い物を取った方がいいですよ」

「貴女だって、3時間しか寝ていないでしょう?」

「私は妖怪ですから。それに立ちながらでも寝れますし」

「寝るな」

「ははは……頑張りまーす」

 

 再び乾いた笑みを浮かべた美鈴を尻目に、私は館へと戻っていった。

 美鈴はそれを見ると門を閉じる。

 そして美鈴は、包みから1枚のクッキーを取り出し頬張る。

 

「……甘くて喉乾くなぁ、これ。美味しいけど」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

「と思って、紅茶を用意したわ」

「うわっ!? ささ、咲夜さん!? いきなり現れたらビックリするじゃないですか!」

「これに入れてきたから」

「あ、どうも……ありがとうございます」

「じゃあ、頑張りなさい」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

 美鈴は紅茶の入った水筒を手に、唖然としていた。

 

 

◆◇◆

 

 

 ––––コンコンコンコンッ

 

「お嬢様、十六夜咲夜で御座います」

「入りなさい」

 

 ––––ガチャ

 

「失礼致します。夕食の準備が整いましたわ」

「ええ、今行くわ」

 

 既に起床され、身支度を整えていたお嬢様が私の方へと歩み寄る。

 私が扉を開けると、お嬢様は部屋を出て食堂へと向かう。

 私はお嬢様の部屋の扉を閉めた後に、お嬢様の3歩後ろを歩く。

 

 そして食堂が見えてくると、私は時を止めて先回りし扉を開ける。

 お嬢様は歩みを止めることなく食堂へ入る。

 それから私は再び時を止めて食堂の扉を閉めると、お嬢様がお掛けになる椅子を引いた。

 

「どうぞ」

「ありがとう、咲夜」

 

 お嬢様がお掛けになったのを確認すると、私は時を止めて食事を並べる。

 

「いただきます」

 

 この幻想郷がある日本では、食事の前に挨拶をするようだ。

 その言葉には食事を作った者に対する感謝だけではなく、食材となったモノに対する感謝も含まれている。

 その点に酷く感心なされたようで、お嬢様も真似をしているのだ。

 

 フォークとナイフを器用に使いながら肉を食し、グラスに入ったワインを喉に流し込む。

 そんなお嬢様の口には食べかすが付いていた。

 それを私は時を止めて拭き取る。

 お嬢様がそれに気付いているのかいないのか、私には分からないが、お嬢様は何事もなかったかのように食事を進めた。

 

「ごちそうさま。今日も美味しかったわ、咲夜」

「お粗末様でした」

「やっぱり貴女は、料理が上手ね」

「勿体無きお言葉でございます」

「ところで咲夜。例によって、"アレ"を貰えるかしら?」

 

 ––––パチンッ

 

「はい。こちらに」

 

 時を止めているうちにお嬢様の食器を片付け、"例の料理"をグラスに入れて、テーブルの上に用意した。

 

「ありがとう。じゃあ、貴女はここで待っていなさい」

 

 そう言うとお嬢様はそれを持って立ち上がる。

 私は一礼して皿洗いに取り掛かる。

 

 ––––いつもならば。

 

「お待ちください、お嬢様」

「……何かしら?」

「誠に僭越ながら、1つ伺ってもよろしいですか?」

「ええ、いいわよ」

「その食事を、一体どちらへ持って行かれるのですか?」

「前にも言ったと思うけど、貴女が知る必要はないわ。下がりなさい」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

「……どういうつもりかしら?」

 

 グラスは、私の手に移っていた。

 

「この食事を用意したのは私ですわ。それが何方(どなた)に食されるのかを知る権利はあるかと」

「はぁ……分かったわ。教えてあげる。ただし––––」

 

 お嬢様は私へ近づくと、グラスを私から取り上げた。

 

「––––絶対に、興味を持たないで。貴女、壊されるわよ」

「……?」

「付いて来なさい」

 

 お嬢様はそういうと、食堂の扉へと向かった。

 私は急いで時を止めて扉を開け、食堂を出たお嬢様の後に付いていった。

 2人で廊下を歩いている間、お嬢様は何も話さなかった。

 何処へ向かうのかも分からないまま、私は付いていく。

 お嬢様に行き先を訪ねることはしなかった。

 

 辿り着いたのは図書館だった。

 ここに着く少し前から、まさかとは思っていたが、図書館へ向かっているとは思わなかった

 

「……それをパチュリー様に持って行くのですか?」

 

 魔法使いは睡眠も食事も必要としない。

 それはパチュリー様自身が仰っていたことだが……

 

「違うわ。貴女は黙ってついて来ればいい」

 

 そう言うと、お嬢様は図書館の扉を開けた。

 

「パチェ! いるかしら?」

「はいはい、居るわよ〜……って、咲夜もいるの?」

「ええ。気になるらしいから、連れて来たわ」

「はぁ……咲夜には言うなって言ったでしょう?」

「私は言ってないわ。此処に連れて来ただけよ」

「……あぁそう。分かったわ」

 

 パチュリー様は全く納得していない表情だったが、諦めたように溜息を吐いてから私に視線を移した。

 

「咲夜、貴女がどうしても知りたいのなら私は止めないけど……後悔しない?」

「……? たぶん、しないと思いますわ」

「大丈夫よパチェ。咲夜は死なないわ。いや、私が死なせない」

「レミィが言うなら大丈夫なのでしょうけど、今日は蘇生石なんて無いのよ?」

「分かってるわよ」

「そう……じゃあ、行きましょうか」

「ええ」

 

 よく分からないが、ひとまず私は2人に付いて行くことにした。

 

 

◆◇◆

 

 

 図書館を出て少しすると2人は立ち止まった。

 そこは図書館から見て食堂とは反対の方角の場所だ。

 とは言え、よく私も使う何の変哲もない通路である。

 

 ––––以前から違和感のある空間だとは思っていたのは確かだが。

 

 パチュリー様が壁に手をかざして、何らかの呪文を唱えた。

 すると壁が歪み、気がつくとそこには扉が現れていた。

 現れた扉にお嬢様は手を掛け、そのまま押し開けた。

 中は暗闇に包まれており、よく見えなかったが、階段があることだけは確認できた。

 パチュリー様がその暗い空間に手をかざすと、その階段の両端の壁に掛けられていた蝋燭に火(のような何か)が灯る。

 それを確認すると、お嬢様はパチュリー様に"例の料理"が入ったグラスを渡して、先頭を歩き階段を下る。

 続いてパチュリー様、そして私の順で階段を下る。

 その階段はレンガで作られているようだったが、館に使われているレンガよりも新しいものに感じた。

 そんなレンガの上をコツコツと音を立てながら歩くと、再び扉が見えた。

 そこには頑丈そうな金属製のストッパーが付いており、中から開かないようになっていた。

 お嬢様がそれを退けると、扉を開く。

 

「ッ!!」

 

 開くと同時に、中から小さな魔力弾が幾つか飛んできた。

 それは小さくも、かなりの威力を持ったものだった。

 お嬢様は手で弾くだけで対応し、パチュリー様は魔法陣を展開した。

 

「……咲夜!?」

「大丈夫です、パチュリー様」

 

 パチュリー様は振り返ると、私がいないことに驚き声をあげた。

 私は既に、時を止めることで部屋の中からは死角となる位置へと移動していた。

 パチュリー様は私の声のする方へと視線を移し、私の姿を確認すると安堵したようだった。

 お嬢様はそんな私達を尻目に部屋へと入る。

 

「……あれぇ? 今日は2人じゃないんだ」

 

 中から声が聞こえてくる。

 その声はとても幼いものに感じた。

 

「もしかして私のオモチャ!?」

「違うわ。アレは私のだもの」

 

 その時部屋に灯りがついた。

 それはパチュリー様がつけたものなのか、はたまたお嬢様、もしくはこの部屋の主と思われる少女によるものなのか、私には分からなかった。

 私に分かることは、お嬢様に似た金髪の少女が部屋にいる事くらいだ。

 

「お姉様ばっかりずるいわ。私にもオモチャを頂戴?」

「ダメよ。貴女はすぐに壊すでしょう?」

「……じゃあ、お姉様がオモチャになってよ!」

 

 少女がお嬢様に右手をかざす。

 

「キュッとしてぇ––––」

「悪いわね、妹様」

「––––ドカ……あれ?」

 

 両足両手首に魔法陣のような何かが取り付けられた少女は、身動きが取れないようだった。

 その間にパチュリー様はドアの傍にグラスを置いた。

 

「じゃあ、また後でね」

 

 お嬢様はそう言いながら、身動きの取れない少女の頭を軽く撫でると蹄を返した。

 

「……ま、待って! 行かないでよ、お姉様!!」

 

 部屋の扉は再び硬く閉められた。

 

 

◆◇◆

 

 

 あの地下への道を再び結界により封じた後に、私たち3人は図書館へと戻って来ていた。

 

「あの子は私の妹、フランドール・スカーレットよ」

 

 地下室を出てからここに来るまで、無言を貫いていたお嬢様が話し出す。

 

「……妹様、ですか。どうして彼女はあの様な場所に?」

「それはあの子の能力が危険すぎるからよ」

 

 パチュリー様が口を挟む。

 お嬢様はそれが少々気に食わない様子で少し睨みつけていたが、そんな事はお構い無しにパチュリー様は続けた。

 

「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」

「……破壊?」

「そうよ。対象が物質的な"物"であれば、妹様はどんな物であろうと破壊することができるわ。一度に破壊できるのは1つまでのようだけど、その大きさや質量には制限がないわ」

「加えて言うなら、あの子は普通じゃないのよ。気が違っているもの」

「実の妹に対して酷い言い方ね、レミィ」

「事実を言ったまでよ」

「もうすぐで、幽閉期間も495年になるわ。気が違ってもおかしくないわよ」

「貴女がここに来る前から……いや、私がハッキリと物心がつく頃には既に狂っていたわよ」

 

 495年など、人間にはあまり実感のわかない年月である。

 私はよく理解できぬまま、2人の話に耳を傾けていた。

 

「話を戻すわ。えっと……そんな訳で、危険だから結界の中に封じているわ。生憎、結界は物質的な物ではないから、妹様には壊せないのよ」

「……そうですか。私には全てを理解しかねますが」

「そうね。人間の貴女には、よく分からないかもしれないわ。でも、それでいいのよ。咲夜はもう関わるべきじゃない」

「パチェ、寝言は寝て言え」

「……何よ、レミィ?」

「咲夜がどうするべきかを決めるのはお前じゃない。私さ」

「ふふっ」

「何がおかしい?」

「レミィ。貴女、自分がどんな時に口調が変わるか気付いてる?」

「……は?」

「それは相手よりも優位に立ちたい時、或いは––––」

 

 パチュリー様はニヤニヤとしながら私の方を見た。

 

「––––大切なモノを守りたい時よ」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。