紅魔女中伝   作:ODA兵士長

13 / 55
投稿が遅れて申し訳ないです。。。
ここまで読んでくださっている方々に、深くお詫びとお礼を申し上げます。
今後も亀更新になると思われますが、楽しんで頂けだら幸いです。

それでは本編をどうぞ。









第13話 楽園の素敵な巫女

 

 

「ッ……!」

「あ、気付きましたか?」

 

 目が醒めると、私は誰かに膝枕をされた状態で廊下にいた。

 

「……小悪魔?」

「はい、小悪魔ですよ」

「どうして……いや、此処は?」

「お嬢様からの伝言です。此処で博麗の巫女を殺せ、と」

「……そう、分かったわ」

「あの、咲夜さん」

「何かしら?」

「痛く……ないですか?」

「え……?」

 

 小悪魔が私の頰を撫でた。

 

「お嬢様に平手打ちをされたと聞いたんですが……」

「あぁ……そういえば、もう痛くないわね」

「それってやっぱり––––「そんなことより」

 

 私は小悪魔の言葉を遮って言う。

 

「そろそろ恥ずかしいのだけど」

 

 誰かに膝枕をされるなど生まれて初めてのことだったが、これは何とも恥ずかしいものだ。

 必然的な無防備な状態、且つ、顔と顔の距離の短さが羞恥心を掻き立てる。

 小悪魔は私の顔を覗き込むように顔を下に向けており、さらに手を頰に添えていることが––––そして何より、おそらく私が目覚めるまでこうして介抱していてくれたのだろうということが、私に無理やり上体を起こすことを許さなかった。

 

「あ、すみません! どうぞ、起きて下さい」

「ええ。遠慮なく」

 

 そう言って私は上体を起こした後に立ち上がった。

 所持しているナイフの確認をしていると、あることに気がついた。

 

「……やけに身体が軽いわね」

「あ、それは……その……」

「何かしら?」

「えっと、今の咲夜さんは、その……あはは、なんて言えば良いんでしょう?」

「私に言われても、知らないわよ」

「ですよね……えーっと、気を確かにして聞いて下さいよ?」

「え、ええ……」

 

 一体、何を言うつもりなのだろうか?

 小悪魔は視線を私から外したまま、オドオドしながら言った。

 

「今の咲夜さんは、人間ではありません」

「……は?」

 

 小悪魔の言っていることが、理解ができない。

 

「咲夜さんは、お嬢様の首を噛んだことは覚えてらっしゃいますか?」

「ええ……」

「その時、僅かにお嬢様の血を飲んでしまったようです」

「……まさか、私が吸血鬼になったとでも言うの?」

「いえ、吸血鬼とも呼べません。半分人間、半分吸血鬼といったところでしょう。それに一時的なものです」

 

 半吸血鬼ということだろうか?

 どうりで体も軽いし、視力もいつも以上な気がするし、力も有り余っているように感じる。

 

「そう……なら良いわ」

「え、い、良いんですか!?」

「時間が経てば、元に戻るんでしょう? 時間が解決できることは即ち、私が解決できることなのよ」

 

 私がそう言うと、小悪魔は目を見開いて驚いたのちに、大きく安堵のため息を吐いた。

 

「……よかったぁ。咲夜さんが怒り狂って私を襲うんじゃないかとヒヤヒヤしてたんですよ」

「貴女の中で、私ってそんなイメージなのかしら?」

「だ、だだ、だって! 咲夜さん、すぐにナイフを突きつけてくるでしょう!?」

「……はぁ、それは"あの日"だけでしょう?」

「そ、そうですけど……」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

「でも、ちょっと八つ当たりしたい気分」

「……さ、咲夜さん?冗談ですよね?」

「……」

「咲夜さん……?」

「……いえ、何でもないわ」

 

 私は小悪魔に突きつけたナイフを下ろすと、再び時を止めて元の位置に戻る。

 

「まだ、体調が優れませんか?」

「……むしろ、優れすぎてて怖いのよ」

「あぁ、そりゃあ人間の時よりも身体能力が––––って、何してるんですか!?」

 

 私はナイフで自らの手の甲に傷をつける。

 

「ただの実験よ」

 

 痛みがあった。

 ただの切り傷なのに、鈍い痛みがドンと襲って来た。

 これも私の体が半吸血鬼になった証拠だろう。

 

 ––––だがすぐに、傷は消失していた。

 

「今なら誰にも、負ける気がしないわ」

「さ、咲夜さん……お顔が––––」

 

 

◆◇◆

 

 

「さぁて、道案内してもらいますよ」

「すみません、お嬢様〜」

「……この霧の犯人はその"お嬢様"ってことね」

「さぁ? 私は門番ですから、内部のことには疎くて」

 

 紅美鈴が門を開けて中へ入ると、博麗霊夢もその後に続いた。

 霊夢の隣には霧雨魔理沙も居る。

 

「……霊夢、次は私にやらせてくれよ」

「え? 戦うのはジャンケンで決めるって言ったの、魔理沙じゃない」

「でも、3回連続でお前じゃないか! 私だって戦いたいんだ!」

「……はぁ、まあいいけど。負けたら承知しないわよ」

「負けなきゃいいんだろ? 簡単な話じゃないか」

「ここから先の相手は、そんなに簡単とも言えないと思うわよ?」

「……なんだよ、脅しか?」

「そんなつもりは無いわ。ただ、勘でそう思っただけ」

「お前の勘は当たるからなぁ……って、もしかしてジャンケンに勝ちまくってるのも!?」

「そうね、貴女の出す"手"なんて勘で当たるわ」

「くっそぉ………」

「着きましたよ、2人とも」

 

 霊夢と魔理沙は何の気なしに美鈴に付いて行くと、気付いた時には目の前に大きな扉があった。

 その扉の上には" LIBRARY "と記されていた。

 

「ここにその"お嬢様"とやらが居るのかしら?」

「さっきも言いましたが、内部のことには疎いので私には何とも」

「……ふーん」

「とりあえずこの先に誰かが居るんだろ!? よっしゃあ、一番乗りぃ!!」

「……ちょっ、待ちなさいよ魔理沙!!!」

 

 魔理沙は好奇心を抑えられぬままに駆け出し、勢いよく扉を開く。

 その扉の内側には、圧巻されるほどの広さを持つ大図書館があった。

 

「わぁ、本がいっぱいだぁ」

 

 そしてそこに綺麗に並べられた本たちが、より一層魔理沙の好奇心を掻き立てた。

 

「後で、さっくり貰っていこ」

「持ってかないで〜」

 

 箒に腰掛け空を飛び、その大図書館を見回る魔理沙の呟きに反応する声があった。

 その声の主はパチュリー・ノーレッジ。この図書館の主である。

 

「持ってくぜ」

「えーっと、目の前の黒いのを、消極的にやっつけるには……」

 

 載ってるのか……? と疑問を浮かべる魔理沙の後方から、霊夢の怒号が聞こえてくる。

 

「こら魔理沙! はしゃぎ過ぎるんじゃないわよ!」

「いいじゃないか。こちとら緒戦を控えてウズウズしてるんだ」

「……まったく。にしてもここは悪趣味な館ね、窓が1つも見当たらないわ」

「それはここが地下だからじゃないのか?」

「……え? 階段降りたっけ?」

「降りたぜ、確か」

「ふーん、そう。だけど……外から見たとき、こんなに広かったっけ?」

「そこの紅白!」

 

 霊夢と魔理沙が自分を抜きにして話し始めたことをよく思わなかったのか、パチュリーは少し苛立っていた。

 そんな彼女が、その会話に横槍を入れる。

 

「私の書斎で暴れない」

「書斎?」

 

 紅白と呼ばれた事を疑問に感じつつも、霊夢はそれを口にはしなかった。

 確かに私の巫女服は随分とめでたい色合いをしている、と内心で納得していた。

 

「これらの本はあなたの神社の5年分の賽銭程度の価値があるわ」

「うちは年中無休で参拝客が無いわよ」

「まぁ、その程度の価値しか無いんだよ」

「だったら貰ってってもいいじゃないか」

「貴女たちには、その程度の価値しか……いや、その価値すら見出せない代物だと言っているのよ」

「……お前も見たところ魔法使いだろ?同業者じゃないか、仲良くしようぜ」

「同族嫌悪って言葉、知ってる?」

「私の種族は人間だぜ。"同族"じゃないな」

「そんなことより……あなたが、ここのご主人?」

 

 そう言って強引に話を戻したのは霊夢だった。

 

「お嬢様になんの用?」

「霧の出しすぎで、困る」

「じゃぁ、お嬢様には絶対会わせないわ」

「邪魔させないわ」

「待て待て、今回は私だろ?」

「あぁ……そうね、好きになさい」

「よっしゃ、行くぜッ!」

 

 魔理沙は懐からスペルカードを取り出すと、それらをパチュリーへと向けた。

 

「なぁんだ。巫女が相手じゃないのね」

 

 そう言いながらパチュリーは魔道書を開きつつ、スペルカードを提示した。

 

「足りない鉄分を、貴女で補わせてもらうわ」

「私は美味しいぜ」

「えーっと、簡単に素材のアクを取り除く調理法は––––」

 

 

◆◇◆

 

 

「あの魔法使いは魔理沙に任せて……」

 

 霊夢は呟く。

 後ろで色鮮やかな弾幕が展開されている事など気にも留めずに図書館を出た。

 先ほどの門番は、もうそこにはいなかった。

 

「さて、"お嬢様"とやらを探したいのだけど……」

 

 周りに気配は感じなかった。

 この近くには誰もいない。

 霊夢は推理などという面倒なことは出来ないので、勘にまかせて館をうろつく事にした。

 

「馬鹿と煙は高いところが好きよね」

 

 そう言って、霊夢は館の上を目指す事にした。

 

 

◆◇◆

 

 

「随分と遅かったわね」

 

 永遠と続いているかのように長い通路を、1人の少女が歩いてくる。

 その少女は博麗の巫女と呼ばれる存在で、その右手にはお祓い棒が握られている。

 それにしても随分と御目出度(おめでた)い色の巫女服だ、と私は内心苦笑する。

 

「掃除の邪魔になるわ、消えてくれる?」

「貴女……は、ここの主人じゃなさそうね」

「なんなの? お嬢様のお客様?」

 

 巫女は怪訝な表情で私を見る。

 この巫女が此処に来た要件など分かっている。

 そして向こうも、それが分かっているからこそ、こんな表情をするのだろう。

 目で"通せ"と言っているように感じる。

 

「通さないよ。お嬢様は滅多に人に会うようなことはないわ」

「軟禁されているの?」

「お嬢様は暗いところが好きなのよ」

「暗くない貴女でもいいわ。ここら辺一帯に霧を出しているの、貴女達でしょ? あれが迷惑なの。何が目的なの?」

「日光が邪魔だからよ。お嬢様、冥い好きだし」

「私は好きじゃないわ。止めてくれる?」

「それはお嬢様に言ってよ」

「じゃ、呼んできて」

「って、ご主人様を危険な目に遭わせる訳無いでしょ?」

「ここで騒ぎを起こせば出てくるかしら?」

「でも、あなたはお嬢様には会えない。それこそ、時間を止めてでも、時間稼ぎが出来るから」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

「……なんのつもり?」

「分からない? 貴女を殺すつもりよ」

「まさか、ルールに従わないの?」

「ルールは知ってるわ。でもお嬢様は私に、"巫女を殺せ"と命令なさったの。だったら私の取るべき行動は––––」

 

 私は巫女の首に突きつけていたナイフを、そのままスライドさせた。

 "博麗の巫女"は普通の人間ではないらしい。

 簡単に言えば、私のような人間の中の"例外"だそうだ。

 しかし幾ら"例外"だとしても、人間である以上はその肉体は脆く作られている。

 だからこのナイフは、その貧弱な肉を切り裂いて––––

 

 

 ––––夢符「封魔陣」

 

 

「ッ!?」

 

 巫女の周辺一体が爆発にも近い閃光に包まれる。

 私は時を止めつつ、なんとかその場を離れた。

 今の私の人間を超えた身体能力も味方して、傷一つ負わなかったが……巫女を殺し損ねてしまった。

 

「今のはスペルカードルールで言うところのボムに相当するわ。さて、一緒にルールを覚えましょうか」

「……ルールは知ってると言ったはずよ」

「従わないのなら、知らないのと同じでしょ?」

「なるほど。頭に覚えさせるのではなく、身体に覚えさせたいのね」

 

 今度は少し距離をとって様子を見る。

 本来のスペルカードルールならばボムの数には制限がある。

 故に先ほどと同じ事を何度も繰り返せば、孰れボムが使えなくなるはずだが……

 私がルールに従っていない手前、そのルールを前提に考えるのは危険だろう。

 そんな事を考えつつナイフを両手に持って臨戦態勢を敷いていると、巫女が私に問う。

 

「……ねぇあんた、もしかして人間?」

「さぁ、どうかしら?」

「どうして人間が、悪魔の館なんかに……?」

「ふふっ……その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ!」

 

 私はナイフを投げる。

 巫女はそれらを、難なく避けている。

 

「私が此処にいるのは、貴女の主を退治するために決まっているでしょう?」

 

 巫女は札を模した弾幕を展開した。

 私が動ける位置を制限するつもりなのだろうが、時を操る私の前にそれは無力だった。

 しかしこの巫女、まさかルールに従っているのだろうか?

 巫女は不可避の弾幕を展開しない。どの弾幕も必ず抜け道があるものだった。

 

「奇遇ね、私も同じような理由よ」

「……同じ?」

「––––お嬢様を殺すのは、この私だということよ!」

 

 

 ––––幻幽「ザクラ・ザ・ルドビレ」

 

 

 時を止めているうちに大量のナイフを設置した。

 抜け道など、作るつもりはない。

 その刃は、すべて巫女へと向いている。

 

 

 ––––パチンッ

 

 

「訳も分からないまま、死になさい」

「ッ!!」

 

 

 ––––夢符「封魔陣」

 

 

 突然現れたナイフに驚き目を見開く巫女は、再びボムを使用する。

 ナイフを全て掻き消し、巫女は少し安堵したように見えた。

 だが、そのナイフ達は全て陽動である。

 本命は私の右手に握られた、この一本のナイフだ。

 

 

 ––––パチンッ

 

 

「この程度じゃ––––ッ!?」

 

 私はナイフで喉を抉った。

 それは、まさしく一瞬だった。

 

「貴女の時間も私のもの……奇抜な巫女に勝ち目は、ない」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。