紅魔女中伝   作:ODA兵士長

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第26話 幽人の庭師 (挿絵あり)

 

 

「な、何やってんだアイツは……」

 

遅れてその場に到着した魔理沙は驚きのあまり、その後の言葉を失っていた。

彼女が見ているのは、咲夜と銀髪の少女の弾幕ごっこである。

しかしそれが弾幕ごっこなのか、魔理沙は少し疑問だった。

確かに、スペルガードルールによる決闘法では、必ずしも弾幕を放つ必要性はない。

ただ、美しさを競うと言う重要な側面がある為に、派手で優雅な弾幕が用いられることが多いだけだ。

だからこそ、その決闘を"弾幕ごっこ"と呼ぶのだ。

 

「……」

 

咲夜も、銀髪の少女も、弾幕を使用していない。

強いて弾幕と言えるのは、咲夜の投げる魔力ナイフくらいだろう。

しかしショットのようなものは何も撃ってないない。

2人とも打ち出す弾幕は最小限に、それぞれが持つ、それぞれの刃物を用いて戦闘を行なっていた。

 

「……なんで、こんなに綺麗なんだよ」

 

そんな2人の"弾幕ごっこ"だが、魔理沙はそれに美しさを感じていた。

 

 

◆◇◆

 

 

最初に動いたのは銀髪の少女だった。

彼女が刀を振るうと、その軌道上に弾幕が発生し、真っ直ぐ私に向かって飛んでくる。

軌道が読みやすく、避けるのは容易(たやす)かった。

しかし、そのスピード、そして精度は今回の異変で出会った者の中で群を抜いていた。

 

––––この少女は、強い。

 

それが分かる一撃だった。

第2波、第3波と続けて、少女は剣を振るい弾幕を飛ばす。

気付けば私は避けることに精一杯で、防戦一方の形になっていた。

 

 

––––時符「パーフェクトスクウェア」

 

 

初めにスペルを切ったのは私だった。

時を止め、弾幕を全て相殺するボムだ。

少女の弾幕が消え去ると共に、私は一気に間合いを詰める。

 

「ッ……!」

 

少女は間合いを取ろうと少し下がるが、逃がさない。

私は、少女の刀が有効に使えない間合いまで詰める。

そして魔力ナイフを首元に当てた。

 

「チェックメイトよ」

 

私が勝利を確信し、油断したその瞬間だった。

 

「がはッ!?」

 

横から、謎の白い塊が突っ込んできた。

堪らず私は吹き飛ばされる。

なんとか着地した私は、すぐに体制を立て直した。

 

「そ、それは……?」

「半霊よ。言ったでしょ? 私は半分"は"幽霊ではないわ」

「じゃあ、幽霊でない半分とは?」

「貴女と同じ、人間よ。私は半人半霊だから」

「人間と幽霊のハーフってことかしら?」

「そう。驚いた?」

「別に」

「強がらなくてもいいのに」

「そういうわけじゃないわ……だって、この幻想郷には、人外が多すぎる」

「失礼ね。私は半分人間よ?」

「じゃあ半人前ね」

「な、何を〜〜!」

 

少女は、やはり実直で真面目なのだろう。

揶揄(からか)いやすくて、面白い。

 

「剣の扱いは、貴女より上手いわ!」

「……私を挑発してるの?」

 

––––パチンッ

 

「その刀、私には一度も当たってないけど?」

「なッ!?」

 

なんだか、久々に銀ナイフを取り出した気がした。

私は時を止めて間合いを詰め、少女の首筋に銀ナイフを突きつけた。

 

「その半霊動かしたら、喉……抉るわよ」

「ッ……」

 

少し力を入れる。

少女の肉が切れ、鮮血が滴った。

 

「良かった、幽霊も切れるみたいね。銀だから?」

「何度も言わせるな、私は半分は幽霊ではないッ」

「なるほど、本体は殆ど完全な人間なのね。少し冷たいけど」

「……」

「それに、半人前だけど」

「ッ……!」

 

そこで私は力を緩めた。

その隙に、少女は私から離れて間合いを取る。

 

「お前の能力は……何だ?」

「その質問、答える奴いるのかしら?」

「どうやって私に近づいた!?」

「さぁ? どうやったんでしょう?」

「瞬間移動か……?」

「ふふっ、残念––––」

 

––––パチンッ

 

「––––ハズレよ」

「ッ!?」

 

時を止めている間に設置していた魔力ナイフが一斉に少女に降りかかる。

少女には、突然ナイフが現れたように見えているだろう。

少女は咄嗟に剣を振るい、ナイフを落とすが、全てを落としきることは出来ずに被弾した。

 

「いたた……一体、何が……?」

「さっきの、弾幕用のナイフなの」

 

私は時を止めることなく、ゆっくりと歩いて彼女に近づく。

 

「銀ナイフだったら……貴女、死んでいたわよ?」

「ッ……」

 

その瞬間、少女は再び半霊を私に()つけようとする。

 

「それはもう見たわ」

「ッ!?」

 

霊体だからか、半霊には気配も空間的な違和感もない。

だが、来ることが予測出来ていれば、避けることは簡単だった。

私は時を止めて、彼女の背後に回る。

そして耳元で囁くように言った。

 

「貴女の剣は、私には当たらない」

「くそッ!」

 

少女は振り返りざまに剣を振るう。

しかし、やはり当たらない。

怒りに任せた太刀筋は、非常に読み易かった。

 

「お前の能力さえ、分かれば……ッ!」

「……分かれば、私に当たるとでも言うの?」

「当たり前だッ!」

「ふーん、そう」

 

この時の私は驕っていたのかもしれない。

油断していたのかもしれない。

もしくは、少女の取るに足らない挑発に乗ってしまったのかもしれない。

 

「––––じゃあ、能力を使わないであげるわ。教えるのは嫌だから」

「何だと……?」

「ハンデって奴よ。その方が面白いでしょう?」

「……不公平だ。なら、私は弾幕を使わない。この刀だけが、私の武器だ」

「なるほど。純粋な剣術だけで勝負すると言うの? ……いいわよ、乗った」

 

少女も私も、それぞれの刃物を構える。

普段の私なら、こんな勝負は絶対にしないだろう。

美鈴との組手で能力を封じることはあっても、あれはトレーニングだ。

実戦で制限を設けるなど……この時の私は何を考えていたのだろうか?

しかし私はこの時、底知れない愉しさを感じていた。

 

「剣を交える前に、名を聞きたい。私は魂魄妖夢。貴女の名前は?」

「十六夜咲夜。別に、覚えなくていいわ」

「十六夜咲夜……いざ、勝負ッ!」

 

––––愉しさの理由は、私には分からないが。

この時の判断を、私は後悔することになる。

 

 

◆◇◆

 

 

––––結論から話そう。

 

2人の戦いは、やはり弾幕ごっこではなかった。

魔理沙の感じていた疑問は正しかった。

咲夜の放つ幾多のナイフの鮮やかさも、妖夢が魅せる剣捌きも、魔理沙の心を動かすには十二分に美しかった。

しかしスペルカードルールに則った決闘、通称『弾幕ごっこ』は殺し合いではない。

その美しさを競うものだ。

ひかし、今繰り広げられている2人の戦いは、互いの命を賭けた本当の"決闘"である。

だからこそ、2人の戦いは弾幕ごっこではない。

 

––––ただ、それでも疑問は残る。

 

「咲夜……お前は何故、能力を使わないんだ……?」

 

咲夜には"時間を操る"といった、高次元の能力がある。

それを惜しみなく使い、相手を圧倒するのが十六夜咲夜だ。

咲夜の性格上、常に人の上に立ちたいと思っているからこそ、その攻め方をするのだろう。

少なくとも、魔理沙はそう思っていた。

 

だからこその、疑問。

何故能力を使わない?

何故相手と同じ土俵で戦う?

 

2人の戦いを途中から見始めた魔理沙には、到底理解出来なかった––––

 

 

◆◇◆

 

 

私と妖夢は、戦闘スタイルが全く異なっていた。

近距離では刃渡りの短い私のナイフが活きるが、妖夢の刀は有効な範囲でない。

妖夢の刀が得意とする間合いである中距離では、ナイフが届かない上に投げるにはある程度の動作が必要となり私に隙が生まれてしまう。

そして遠距離では、妖夢が弾幕を封じている分、ナイフを投げて応戦する私に大きく分があった。

お互いがお互いの間合いで戦うために(せめ)ぎ合う。

 

私は基本的に遠距離からナイフを投げて攻撃していた。

そして妖夢はそれを撃ち落とし、時には()ね返しながら間合いを詰めようとしていた。

しかし、私が無尽蔵に生み出すナイフがそれを拒む。

妖夢が私に近づくことは出来ない。

だが私は、妖夢にナイフを当てることも叶わなかった。

私までも美しいと感じるほどに、妖夢は見事に全て捌いている。

 

能力を使わずに戦うことに、私は歯痒さを覚えていた。

それが悔しかった、悲しかった。

私は能力が無ければこんなにも弱くなるのか。

その歯痒さは、さらに加速していた。

 

「お前なんか、能力が無ければそんなものだッ!」

 

私の心を見透かしたように、妖夢が言った。

私は、言葉に詰まる。

うまく、言葉が出てこない。

一瞬、ナイフを投げるのにも隙が生まれてしまった。

 

それが、命取りとなった。

 

 

 

––––人鬼「未来永劫斬」

 

【挿絵表示】

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に……斬れぬものなど、あんまりない!」

 




*挿絵に使わせて頂いた素材

・魂魄妖夢 アールビット様
・十六夜咲夜 アールビット様
・白玉楼階段 ゆっくり草餅様 nya様
・アニメの背景風スカイドーム5 seasalt 2014様

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