紅魔女中伝   作:ODA兵士長

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第33話 萃まる夢、幻、そして百鬼夜行 (挿絵あり)

 

 

 ––1st Day 10:30––

 

「あー、これだから嫌なのよ」

 

 博麗霊夢はため息と共に愚痴を漏らしていた。

 彼女は1人で昨夜の宴会の片付けをしていた。

 場所を貸すだけで酒とメシが舞い込んでくると魔理沙に言われ、勢いで場所を提供してしまうのだが……

 この片付けをしている間だけは、毎回その判断を悔やんでいる。

 散らかすだけ散らかして帰る参加者たちの顔を思い浮かべては、霊夢は怒りに震えていた。

 

 ちなみに、紅魔館のメイドや白玉楼の庭師、八雲の式なんかがやるのは宴会の準備とその運営まで。片付けには一切手をつけない。

 それは主人と関係ないからやる必要がないだとか、霊夢が困る姿を見るのが良いだとか、理由は色々だが……

 アイツらに人の心はあるのだろうか?と常々霊夢は思う。

 約2名は人じゃないが。"約"2名ね、ここ大事。

 

「次の宴会じゃあ、覚えてなさいよ……くそっ」

 

 誰が吐いたか分からない嘔吐物の処理をしながら、霊夢は何度も怒り嘆いていた。

 

「……にしても」

 

 ––––妖気が濃くなっている。

 もちろん、宴会の時に比べれば薄まっているのだが……

 宴会毎に蓄積されていくように、辺りを漂う妖気が増している。

 

「あーあ。また参拝客が減るわね」

 

 元々いないけど、と内心で付け加えた。

 こんなに妖気が漂ってしまっては、妖怪神社などと呼ばれてしまう。

 ただでさえ妖怪が集まって、参拝客が来ないというのに。

 

 ––––それでも宴会はする。

 この妖気に当てられたせいもあるかもしれないが、実のところ霊夢は乗り気だった。

 彼女が宴会を断らない理由、それは魔理沙の言う通り食べ物が舞い込んでくるからというだけではなかった。

 

 ––––この宴会には裏がある。

 

 霊夢の勘がそう言っている。

 それに、宴会の度に妖気が充満し始める。

 まるで妖気さえも宴会に参加しているかのように、どこからか集まってくるのだ。

 つまり霊夢は、その正体を掴むために宴会を断らない––––そう言えば何とも聞こえがいいが、実際はそうじゃない。

 彼女以外の誰かにこの状況を解決して欲しいのだ。

 この妖気に気が付かない者も多いだろうが、きっと気付いて解決しようとする者も現れるはずだ。

 だから彼女は何もせず宴会を繰り返す。

 いつか解決されるその時まで––––

 

「はぁ、一服しようかしら」

 

 異変解決は巫女の仕事だって?

 これは異変なんて呼べたものではない。

 それに私がやるのは面倒くさいんだもの。当然よ。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ––1st Day 11:45––

 

「さてさて、次の宴会はどこでやるかな……?」

 

 霧雨魔理沙は箒にまたがり空を飛ぶ。

 昨日の宴会でも幹事を務め、周りに(はや)されかなりの量を飲んでいた。

 しかし今朝にはケロっとして、魔理沙は再び宴会を企画し始めていた。

 

「まあ、やっぱりあそこだよな!」

 

 そう言って魔理沙は博麗神社へと向かった。

 

 ––––漂う妖気のことなど、微塵も気にしていない。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ––1st Day 11:50––

 

「貴女もたまには参加してみたら?」

「うーん……」

「楽しいものよ?」

「……ここでやるならね」

 

 むーっと、レミリアは頰を膨らませた。

 彼女の親愛なる友人、パチュリーを宴会に連れ出したいのだ。

 もちろんそれは友人と共に参加したいからという理由もあるが、それ以上に––––

 

「レミィ、貴女も気付いてない訳じゃないでしょう?」

「……え?」

 

 ––––この友人に、宴会に漂う妖気を調べさせようと思っていたのだ。

 

「パチェ……気が付いていたの?」

「まあ……貴女がこんなに誘うもんだから、どんなものかと思って昨日の宴会を覗いたのよ」

「ほう……? それで?」

「言わなくても分かるでしょうに。言わせたいの?」

「ふふっ、私分かんないもーん」

 

 羽をパタパタとさせながら、レミリアは喜んでいるようだった。

 何とも可愛らしい光景だが、ニヤリと笑う口元に鋭い牙がキラリと光っている。

 パチュリーはそんな彼女の様子に呆れているようだった。

 

「はぁ……宴会中の妖気に当てられた?」

「あの程度の妖気でおかしくなるほど、下賤じゃないわよ」

「よかった。なら、高貴な貴女はこのままでいいの?」

「よくない。どこのどいつか知らないけど、誰かの掌で転がされてる気分は最悪よ」

「だったらやはり、ここで宴会をやりましょう? 妖気の持ち主が業を煮やして出てくるかもしれないわ」

「……無理よ」

 

 少し肩を落として、レミリアは言葉を続ける。

 

「あれはきっと人妖を惹きつける能力がある。どうあがいても、ここで宴会をする未来は視えないわ」

 

 そう語るレミリアの瞳は鋭く光り、声色は恐ろしいものに変わっていた。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ––1st Day 12:00––

 

「おっす霊夢。魔理沙さんの登場だぜ」

 

 空からやってきた魔理沙は、博麗神社の境内へと着地した。

 そして自慢の箒を片手に、魔理沙は言葉を続ける。

 

「次の宴会もここで頼むぜ、霊夢」

「はぁ……またその話ね。何度も何度も宴会して、よく飽きないわね」

「だって楽しいじゃないか」

「……ええ、そうね」

 

 実を言うと、この宴会を終わらせるのは魔理沙だと思っていた。

 毎度幹事をしているだけあって、宴会に一番精力的に関わっているのは彼女だ。

 魔理沙ならこの宴会のおかしさに気が付いてくれる……と思っていたのだが。

 

「そうと決まれば、また皆を誘わないとな!」

 

 能天気と言えるほどに無垢な笑顔で魔理沙はそう言った。

 ––––魔理沙はダメか。他には誰がいる?

 咲夜?––––アイツは元々幻想郷の人間じゃない。幻想的な力である妖力に気付けるかどうかも怪しい。没。

 妖夢?––––アイツは気付いたとしても解決できると思えない。没。

 アリス?––––アイツはこの前が初参加。動くとしてもまだ時間がかかるだろうし……そもそも妖気に興味を示すかも怪しいところ。没。

 紫?––––アイツは面白がってそうだし、幻想郷に危険が及ぶものでなければ動かない。没。

 幽々子?––––アイツは楽しければ何でもいいだろうから動かない。没。

 他に解決しそうな奴なんて…………

 

「……あ」

「ん? どうした霊夢?」

「え? ああ……いや、こっちの話よ」

「なんだよ。おかしな奴だな」

 

 いる。いるじゃない!

 漂う妖気に気付くだけの力があり、その妖気に興味を示し尚且つそれを良く思わない者が……ッ!

 

「次の宴会が楽しみね、魔理沙」

「あ? あぁ、そうだな。楽しみだぜ」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ––1st Day 16:00––

 

「そろそろ教えてほしいわ」

 

 ––––旧地獄。

 それは幻想郷の地下に広がる忌み嫌われた妖怪たちの楽園である。

 そんな彼らの中心にいるのは、鬼と呼ばれる妖怪だ。

 彼らもまた、地上で人間に嫌われ、そして人間に嫌気が差してここにいる。

 

「何が目的なの……? 萃香」

「いいじゃないか。楽しく宴会が出来て」

「ええ、毎回宴会は楽しいわ。不思議に思うくらいにね」

 

 春雪異変が終わってから、幻想郷には短い春が訪れた。

 そんな春を満喫すべく、霊夢や魔理沙を中心に"花見"と称した宴会が繰り返されていた。

 霊夢は場所の提供。

 魔理沙が参加者の勧誘。

 そして参加者達は酒や肴を持参し、中には宴会の準備を手伝う者もいた。

 そして宴会が終わると、すぐに次の宴会の準備が始まるのだ。

 

 ––––誰も宴会を止める気を起こさず、ひと月が経っていた。

 もう桜は散ってしまっている。

 それでも、"花見"は終わらない––––

 

「言ったろう? 私は今の幻想郷が見たいのさ」

「本当に?」

「鬼が嘘をつくわけないじゃん」

 

 それは最早、異変であった。

 そしてこの異変の元凶を八雲紫は知っている。

 目の前にいる鬼––––伊吹萃香であった。

 

「嘘はついていなくとも、隠し事は出来るでしょう?」

「隠し事は出来るが、隠し事があるとは限らない」

 

 萃香は涼しい顔でそう言った。

 鬼は酷く嘘を嫌う種族だ。

 人間に嫌気が差した理由も、それが大きな部分を占めるだろう。

 萃香もその例に漏れず、嘘を嫌う。

 しかし彼女にも鬼特有の誠実さがあるかと言われれば、そうでもない。

 現に彼女は隠し事を()()()()

 彼女が隠し事を()()()()()と言っていないことが、何よりもそれを裏付けている。

 

「その目、やめとくれよ。気分が悪い」

 

 私が疑いの目で萃香を見つめる。

 誠実でないとはいえ、萃香も鬼である。

 隠し事をするには後ろめたい気持ちがあるのだろう。

 

「失礼ね」

「お前さんは綺麗な目を持っているのに……勿体ないな。胡散臭さで全てが台無しだ」

「褒めてるの? 貶してるの?」

「褒めてるんだよ。台無しだからこそ、八雲紫は幻想郷の管理者で居られるんだ。人に嫌われ、妖怪に疎まれる。最高じゃないか」

「……全く褒められてる気がしないわね。貴女も私が嫌い?」

「嫌いじゃないさ。むしろ好きだね。そういう胡散臭い仮面の下にある本心が分かっているからかな」

 

【挿絵表示】

 

「ッ……! はぁ、なんだか見透かされているようで気持ち悪いわ」

「それをあんたは普段他の奴らにやっているんだよ」

「ふふっ……そりゃあ、嫌われるわよねぇ」

「良いじゃないか。それだけお前さんの理想に近づくんだろ? この幻想郷が」

 

 実際、今の幻想郷はかなり私の理想に近い状態だ。

 人妖のパワーバランスも申し分ないし、人妖間での交流も少ないものの存在している。

 妖怪にとってはもちろん、人間にとっても楽園であること。

 それが私の目指す幻想郷だ。

 その為なら私は、幾らでも嫌われよう。

 その代わり、私の掌で踊ってもらおう。

 全ては、幻想郷に生けるありとあらゆる者の為に。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ––2nd Day 23:15––

 

「……咲夜」

「はい、お嬢様」

 

 お嬢様が月を眺めながら、食後のティータイムを満喫している時のことだった。

 

「明日、何があるか……貴女は知ってる?」

「はい。博麗神社で宴会でございます」

「そうそう。ついこの前も宴会だったのにね」

「……何かご不満でも?」

「宴会自体に不満はないさ。楽しくないわけではないもの」

 

 だけどね––––と、お嬢様が言葉を続ける。

 

「貴女は気が付かないの? この宴会の異様さに」

「…………何度も何度も繰り返して、よく飽きないものだなとは思いますが」

「そういう次元じゃないのよ」

 

 はぁ……と深くため息を吐きながら、お嬢様はやれやれと言った様子で首を振った。

 

「貴女はダメなのね」

「……?」

 

 よいしょ、といった小さな掛け声と共に、お嬢様が席を立たれた。

 そして言う。

 

「ちょっと、出かけてくるよ」

「こんな時間にですか? って、まあ普通の時間かしら」

「そんな訳で、留守番宜しくね」

「何言ってるんですか、お供しますって。夜は危ないですよ」

「誰に物を言ってるのよ。それに、今日はちょっと急ぎの用があるの」

「なら、私にお任せください。急ぎの用を任せたら幻想郷一です」

「私が急がないといけない用なの。今夜中に、幻想郷中を一通り脅して回って来るつもりなんだから」

「……何かあったんでしょうか?」

「何かあったの。咲夜と喋ってる時間ももったいないから、さっさと留守番すればいいのよ」

 

 お嬢様の意図が、私には読めない。

 

「……それは出来ません」

「命令に背くつもり?」

「私の知らないところで、勝手に死なれたら困りますから」

「心配してるの?」

「ええ、もちろん。お嬢様を殺して差し上げられなくなってしまうことが心配で心配で」

「甘く見られたものねぇ。貴女にさえ殺されない私が、誰かに殺されるわけないでしょう?」

「…………」

 

 プライドの高い私にとって、それはズルい質問だった。

 そうだ、と認めてしまえばお供に付いて行くことが出来なくなる。

 しかし違うと否定してしまえば、私よりも強い存在がいる事を認める形になってしまう。

 

 ––––そしてこの時の私は、"私がお嬢様を殺せない"ということを否定出来なかった。

 そしてそれに、気が付いてすらいなかった––––

 

「それじゃあ、留守番お願いね」

「はぁ……判りましたよ。日が昇るまでには帰ってきてくださいね」

「あ、そうか。一応日傘を持っていくわ」

「日が昇るまでに帰ってこないつもりですか?」

「転ばぬ先にアレが必要。覚えておきなさいね」




*挿絵に使わせていただいた素材

・八雲紫 モンテコア様 ぷれでたぁ様 みちるお様 min.様
・伊吹萃香 zakoneko様
・岩窟 himazin様
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