ノーゲーム・ノーライフより空と白
ちなみに異世界に行く前の話となっておりますので、空と白以外のキャラクターは登場しません。
あと、もしかしたら読む人によっては少し不快に感じるかもしれませんが、そこはご了承下さい。あくまで、二次創作ですから(作品違う)
前回と早速違う話を始めるスタイル。ではどうぞ。
『 』の幼馴染
ーー夕方、それももうすっかり暗くなり夜へと突入する時間。
息を吐けば、白い息が口からもれ、冬が近づきずいぶん早く暗くなるなぁ、と独り言を呟く。
帰り道には誰もいないから独り言は言い放題だ。
………人がいなくてもやめよう。なんかむなしい。
まぁ、帰り道ではないけどね。
俺は学校のカバンとは別にスーパーの袋を3つほど持っている。
野菜やお肉などの食材はもちろん、食器やお風呂用洗剤などの日用品が山ほど入っている。
これなら帰りに「タイムセールあるから買ってきてね!」と母親に頼まれているようだが、今日は違う。ほとんどオカンだけど。
てかオカン、男子高校生の帰りにスーパー行かすな。周りの人たちから変な目で見られる。
向かうのは俺の家とは反対方向の一軒家。玄関前まで到着し、インターホンを押す。
「………」
もう一度念のために押しておく。相変わらず反応はない。しかしインターホンは壊れていない、正常に働いている。
1時間ほど前に携帯に連絡を送っておいたが結局未だに返事が来ない。
「たくっ、しょうがないな」
仕方ないのでこの家の主にお願い(という名の脅迫)をしてもらった合鍵を使い、家へと入る。
「おーい、上がるぞ」
一応玄関に入って声をかけてみるが、またしても返事は返ってこない。
真っ暗な家の電気をつけ、ため息を吐きつつ、周りの部屋の確認。リビング、洗面所、お風呂場。全部まるで使われた形跡がなかった。
「やっぱり二階だよな………」
階段を上っていき、1つの部屋の前に立つ。廊下まで真っ暗だが、この部屋だけは異常な程の光が出ていた。
しかも照明ではなく様々な色の光、そして聞こえてくるゲーム音。
俺は覚悟を決めてその部屋に入る。
そこに広がっていたのは、ゴミ溜めの部屋だった。服やカロリーメイトの袋の残骸があちこちに転がっていた。
そして目の前には一人でコントローラを四つ使いこなしている二人の人間。
足で操作するとはなんとも器用だ。
その器用さをなぜ他の事に使えないのか不思議でならない。
「おい、白!寝てないでこっち手伝ってくれ!」
「無理………エネルギー切れ………」
「あぁ、くそ!こんな時に!」
どうやらゲームで困っているようだ。見るとFPSゲームみたいだ。
ふむ、困っているなら放っておくわけにはいかない。俺では戦力外だろうが、一つ声をかけてやるか。
「空、手伝ってやろうか?」
「あぁユウスケ!助か………」
さて、どうやら二人はやっと俺の存在に気づいたようだ。ここで俺は二人を観察する。
まず髪や衣服が乱れきっている。ここ数日風呂に入ってなければ、服も変えていない証拠。
次に散らばっているカロリーメイトの山。ろくな食事をとっていない。そして掃除をしていない。
さらに誰もが寝ていないことが見て分かるであろう目の下にできている大きなクマ。ゲーム三昧なら当たり前か。
おやおや二人とも、何を顔を真っ青にして震えているんだい?僕はこんなにも素敵な笑顔をしているのに( ^ω^ )
「や、やややややややややぁ、ユウスケ。久しぶりだなぁ………」
「あ、ああああああああああいかわらず、元気そうでなにより………」
うん、そうだね。久しぶりだね。約三日ぶりかな、ここに来るの。おかしいなぁ、その時ちゃんと掃除しておいたのになぁ。
まっ、とりあえず二人に会ったんだ。挨拶はしておかないとね。さーて、大きく息を吸って………。
「なーにゲーム三昧してんだこの引きニートどもがぁぁぁぁぁぁ!!さっさと風呂入ってきやがれぇぇぇぇぇぇ!!」
「「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!わかりましたぁぁぁぁぁぁ!!」」
俺が怒鳴ると急いでゲームの電源を切り、我先へと部屋から飛び出す二人。
ドタドタと階段を下りる音が響き渡る。
「ふぅ………」
呼吸を整え、一つため息を吐く。そして改めて部屋の現状を見渡す。
「………先に掃除しとくか」
あらかじめ持ってきたゴミ袋とゴム手袋を装着し、掃除を開始する。
「『 』に敗北はない」と「ゲームは始める前に終わっている」が信条であり、あらゆるゲームで無敗を誇り、ツールアシスト、チートを使っても勝てないとされる都市伝説にまでなった最強のゲーマー。
そんな兄妹の空と白。
俺はそんな二人の幼馴染であり、唯一の友達である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「「う、うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
「………………おかわりいる?」
「「もちのろん!」」
「息ぴったりだな」
まるで今までろくな食事をしなかった人間みたいにがっついてごはんやおかずをかき込む空と白。
あっ、『みたいに』じゃないか。
わが幼馴染なだけに複雑な気分である。
「にしても助かったぜユウスケ。ようやくカロリーメイト地獄から抜け出せたんだからな」
「ユウスケのごはん、すごくおいしい」
最近幼馴染のグッジョブの形がとても綺麗に見える。いつも二人は俺の食事を美味しそうに食べてくれるので、それを見てるとつい嬉しくなってしまう。なのでついごはんも大盛りによそってしまう。
女子にモテたくて小学生の頃から料理を教わったのに、引きニートの幼馴染を養うことに役立つとは。
ちなみに俺はモテない。というか学校で料理する機会がほとんどないことに最近気づいた。
すまない、オカン。あなたの教えてくれた料理は今、彼女ではなく引きニートどもを養うことに使われている。
「そうだユウスケ、一昨日から新しいFPSゲーム買ったんだよ」
「さっきお前たちがやってたヤツか?」
「うん、中々の良ゲー。こんかいはあたり」
そうなのかー、と適当に頷きながら味噌汁をすする。うむ、ちょっと濃くしすぎたかな?
「それでさ、ユウスケも一緒にやらないか?」
「いや、俺FPSゲームとかあんまりやったことないから足手まといだと思うけど」
正直ああいう銃火器をいくつも使うゲームはバイオ以外やったことがない。たまにゲーセンに置いてあるのをやるけど。
「いいんだよ、お前とのゲームは楽しいからな」
「ユウスケのゲームスタイルは白もにぃも。ううん、誰にも真似できないから」
二人ともすごく純粋な笑顔を向けてくれる。
引きニートである二人が純粋に笑うのは本当に珍しい。恐らく全人類の中でも見たことがあるのは俺くらいだろう。
(ゲームスタイルが珍しい、か………)
『 』にここまで絶賛させる俺のゲームスタイル。確かに珍しいと思うが二人が絶賛する理由はそれだけではない。
一回。
本当に一回だけだが、実は俺、『 』にゲームでの勝負で勝利してしまったのだ。
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幼馴染と言ったが、家が近所とか、親同士が友達だからというわけではない。
むしろなんの繋がりもないし、俺が二人に出会ったのは中学生になった時である。楽しみもあれば不安もある、そして色々と知りたくなかった現実を知ってしまう時期(真面目にやれや)
入学式当日、新しい環境だけでなく、今まで知らなかったような奴らと出会う。
この時のクラス分けの時、俺と空は同じクラスだった。出席番号が近いわけではない。
しかし全員が自己紹介をしていく中、俺は空の自己紹介の様子だけは今でもはっきり覚えている。
『空と言います。よろしくお願いします』
言葉と態度は至ってそこら辺にいる普通の奴らとなんの変わりもなかった。なので他の奴らはなにも気にせず拍手をし、次の奴へと移った。
しかし俺だけは違和感を覚えた。あのつくられた笑顔に隠された瞳、あれは『観察』をしている目だった。
自己紹介が終わったあとも、空は何食わぬ様子で周りを観察していたのだ。無論、俺もその内の一人だった。
なぜ俺だけが気づいたのか。
いや、なぜ俺だけが空の『瞳』に気づいたのか。
恥ずかしながら、俺は小学生の時、いじめを受けていた。俗に言う『いじめられっ子』と言うやつだ。
いじめられた理由は簡単。ただでさえフツメンの俺は小学生の時は太っていた。デフメンだった。
当然、いじめの対象になる。殴られるは蹴られるは、暴言を吐かれるは、毎日が苦痛だった。
するとどうだろう。次第に俺は人の視線というものに人一倍、敏感になっていた。
『いじめられっ子』だった人には分かってくれるだろう。
分からない人はいじめられた経験がない奴だ。
なんとしてもこの状況から抜け出したかった俺は、両親に頼み込み、近所の空手教室に通い始めた。
するとどうだろう、元々あった肉は消え、筋肉へと変わっていった。おかけで俺はデフからスポーツマンの肉体を手に入れ、いじめっ子たちを撃退できるようになった。
武術をやっていた事も関係あるだろう。武術は一対一の真剣勝負。その時『相手の目をよく見ろ』と教わったことはあるのではないか?
相手の目を見ていれば、次にどこを攻めてくるのか予測できるからだ。
まぁ、うまい奴にはほとんど効かなくなってしまうのだが、とても有効な策だと俺個人は思う。
そしてそれらの経験が合わさり、空の瞳に気づいてしまった。
『あいつは、孤独なんだ』
不思議と俺は、空と仲良くなりたいと思うようになった。
しかしそれから一ヶ月経った辺りから、空は学校へは来なくなった。
自分の教室に入ると、必ず席が一つだけ空いている。
しかしそれを気に留めるものは誰もいなかった。
誰も空を心配するものはいなかった。
始めは家が近いからという理由で連絡帳を空の家に届けてたヤツも今では面倒ぐさがって行くのを拒んでいた。
空の机を椅子代わりにして喋る奴らが増えていった。
俺は担任の先生と空の連絡帳を届けている奴に「俺に届けさせてほしい」と頼んだ。
俺の要求はあっさり通った。生徒は代わってもらって嬉しそうにしていた。
俺は先生からもらった住所と地図が書いてある紙を頼りに、空の家へと目指した。
到着したところは普通の家だ。しかしそのポストには物が雑に入れ込まれており、あふれ出ていた。
しかしよく見ると、俺の連絡帳とはまた別の連絡帳が入っていた。見ると小学校の名前が書いてあった。名前欄には『しろちゃんへ』と書かれていた。
(空の奴に妹がいたのか………)
一枚だけを取り出し、書かれていることを見る。そこには『はやく学校に来てね』とか『元気になってね』などと書かれていた。
「………!」
気がつけば俺は、その紙をくしゃくしゃに丸めて地面に叩きつけていた。しかしそれだけでは気が済まず、何回も踏みつけた。
腹が立っていた。こいつらは心にも思ってないことをべらべらと書いて、心配している振りをしている。
そんなこと望んじゃいねぇんだよ!!
「………いや、なに勝手にイラついているんだ俺は。これこそ、望んでないことだな」
俺が思っているのはただの『同情』だ。同情こそ、一番腹が立つだろうし、何より空はそんなこと望んではいない。
覚悟を決めてインターホンを押す。
ピンポーン
「………」
ピンポーン
「………………」
ピンポーン
「………………………居留守してるな、これ」
なんとなく予想はしていたが、対策は思いつかなかった。どうしたら良いのだろうか。
とりあえずドアノブを捻ってみた。
「まぁ、開くわけ………」
ガチャ
「まじかよおい。鍵かけとけよ」
あまりにも上手く事が運んだのでおもわず突っ込んでしまった。
なにしてんだよ空の奴。泥棒入り放題じゃねぇか。
「まぁ、いいか。お邪魔しま………」
玄関の扉を開けると、そこには一人の少女がいた。日本人とは思えない真っ白な髪をした少女。その隣にはお目当の空がいた。
そして二人の手にはPSPが握られていた。
「………」
「………」
「………」
『………………………』
沈黙。まさに何時間も時が経っていくような錯覚を覚えた。
どうやら二人はあまりの出来事に固まってしまってるようだ。
仕方ない。俺から喋るとするか。さーて、思いっきり息を吸って。
「休んでると思ったらなーーーーにゲーム三昧してんだこの引きニートどもがあああああああああ!!」
「「ご、ごめんなさあああああああああああああああい!!」」
これが俺と、空と白が初めて向かい合った瞬間であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おーい、ユウスケ。なにボーッとしてんだ」
「えっ?あ、いやなんでもない。明日の朝ごはんをどうするか考えてただけだ」
「ユウスケ。白、チャーハン食べたい」
「チャーハンか、いいな。了解した」
俺がチャーハンを作る事を伝えると白は嬉しそうに俺に抱きつく。可愛いので頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。
空はそれを見て、悔しそうに睨みつけてくる。はよ妹離れしろ、シスコン。
「こら白!ユウスケは俺の嫁だぞ!」
「いや俺かよ!つーかお前なに言ってんの!?」
「にぃ、だめ。ユウスケは白の嫁。誰にも渡さない」
「白さん!?あなたもなに言ってんの!?小学生から嫁発言されるとかどういう状況だよ!」
などと突っ込んでいる間に右手を空、左手を白が掴み綱引き状況になった。
しかしさすが引きニート同士。力勝負ではまるで決着がつかない。
力勝負で男子高校生が女子小学生と互角な現実がそこにはあった。
「こうなったら妹よ、あのFPSで決着をつけようじゃないか」
「上等。この勝負はぜったいにまけない………!」
力勝負では決着がつかない事を瞬時に理解した二人は、本人である俺を置き去りにし、俺という嫁を賭けて勝負を始めようとする二人。お米を一粒残さず食べ、睨み合う。
「いや、さっさと寝ろよ」
「うげぇ!」
「ふにゅ!」
二人の間にげんこつを振り下ろし、ベットに無理矢理押し込む。渋る二人だが、「俺と一緒に寝る」という条件付きで寝ることを決めた。
オカンに「友達の家に泊まる」というメールを送り、空を腹パン一撃で沈めると、白と同じベットに入る。
空?誰が野郎と一緒に寝るかよバカが。てめぇは布団と添い寝でもしてやがれ。
「ねぇ、ユウスケ………」
「うん?」
ベットに入ると白が上目遣いでこちらを見る。この子は本当に頭がいいから、こういう事を計算してやってるんじゃないか心配になる。
しかし不安そうにこちらを見るので演技ではなく素なのだろうと判断する。
「ユウスケ、ずっと白とにぃと一緒に居てくれる?」
俺はあの日以来ずっと二人の面倒を見に来ている。しかしそれもいつか終わるのではないか、いつか会えなくなるのではないか。
そう思っているのだろう。
………まったく、無駄な事で悩むなよ。
「あの時約束しただろ。だから俺はずっとお前ら二人の、『 』そばにいるよ」
「………!うん!」
俺の言葉に安心したのか不安な表情から一転して素敵な笑顔になる。
「ユウスケ」
「なんだ?まだなんかあるのか?」
「………だいすき!!」
「すみません、小学生は対象外です」
「むぅ!ユウスケ、そこは『俺も大好きだよ』って微笑み返すところ!」
ほっぺを膨らまして怒る白におもわず微笑む。抱きついてくる白を軽く撫でながらお互い夢の世界へと落ちていく。
これが俺と、空と白のいつも日常。
例え世間が二人を認めなくたって、俺は二人をいつまでも見守り続ける。
ーー次の日、朝起きたら白だけでなく空も俺に抱きついて寝ていたので、とりあえず回し蹴りをしておいた。
空と白って、現実の世界では完全に孤独でしたからね。そんな二人にもし、理解者がいたら?
そんな思いから今回の作品を作りました!
この作品ももうあと数話出すつもりです。ユウスケがどうやって二人
に勝ったのか書けてませんので。
では、また次回!