三国クエスト   作:賀楽多屋

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作者も驚く程に久しぶりの更新です。
しかし、シリアスすぎる。


エンドールに響く高笑い(IV)

 エンドール。それはこの世界の中心と言っても過言ではない大国の名前だ。世界中の貨幣がエンドールに集まり、人々はその豊かな市場を目指して各国から集まってくる。生粋のエンドール民を探すよりも、地面に落ちているカジノコインを探した方が楽だと言う諺もあるように、移民や行商人で賑わうかの国では、連日に渡って行われている王族の結婚式で大層な盛り上がりを見せていた。

 

 

 エンドール城は、格闘技場を有する珍しい城だ。有象無象の確かな身元証も持たない国民や旅人を王城に招いて試合を見せられるのは、一重に言ってエンドールの兵士の質の高さがあってこそ出来る所業である。武闘を国の宝としているだけあって、エンドールの兵士に志願する者の実力はどの国の兵士の志願者よりも抜きん出て高く、兵士を養成する養成所も文官を育てる私塾の数より多い。

 

 

 そのため、エンドールの城下町は世界で一番治安の良い町としても名を馳せている。並の冒険者よりも腕の立つ兵士によって守られているという安心感か、人々の心にも余裕があり、魔王が復活するという黒い噂がある中でも未だに平穏な暮らしをどの住民も保っている。

 

 

 まさか、その魔王を復活させようと企む魔族の王がこのエンドール城下町に来ているとは知らず、人々は今日も滑稽に顔見知りに出逢えば、挨拶を交わし、時間があれば世間話に洒落こもうという始末である。

 

 

「おう! ピサロの兄貴じゃねぇか! 今日はまだカジノには行ってねぇのかい? バニーちゃん達が今日はポーカーの担当が初出勤だから楽勝に勝てるって言ってたぞ」

 

 

「──ー今日は少し別用がある。そちらには、また次行かせてもらおう」

 

 

「折角のタレコミなのにもったいねぇ。まぁ、用事があるっつーならそっちの方が優先だわな。……おっと、俺はもう行ってくるぜ! 今日もまたお姫様と王子様の結婚式で一稼ぎだ」

 

 

 エンドールの宿場通りの中でも、一等豪勢な造りをした宿屋の踊り場では、言葉遣いとは裏腹に一級品のスーツを身に纏った優男が、偶然鉢合った赤いバンダナを巻いた、長い銀髪の優男に挨拶をしている真っ最中であった。

 

 その宿屋は、カジノを有していることもあって羽振りが良く、利用客層も上級貴族や成金商人と言った金持ちが多いこともあって、階段や柱等の細部に至るまで装飾が品よく施されている。彼等はこの芸術品のような宿屋で泊まることを一種のステータスとでも思っているようで、カウンターに並んでいるどの客の顔にも自信に満ちた傲岸さが張り付いているのだ。

 

 

 そんな金持ち客とは違って、この踊り場で相対した二人には、何処か陰鬱めいた影が瞳孔を覆っていた。片頬を上げて笑うスーツの男には胡散臭さが纏わり付いており、ピサロと呼ばれた男に至っては異質めいた冷徹さが見受けられる。

 

 

 

 

 ピサロには、冷徹そうに見える顔以外にも特筆すべき特徴が何点かある。先ず彼は、この宿屋に泊まって何日か経つ割りには常時、黒い外套を羽織っていた。片腕には複雑な文様が施された歪な形をしている笛を手にしていることも多く、ピサロはその事を問われても色良い返事は全くしなかった。

 

 

「この額に巻いた赤いバンダナの優男は、いつも不思議な格好をしているな」とスーツの男は感想を抱くが、吟遊詩人ならそういうものかと早々に彼は自分の疑問を片付けた。優男以外の者達にもピサロは自身の職について一切語らないが、その彼等も吟遊詩人なのだろうと勝手に思い込んでいる。

 

 

 ピサロと朗らかな朝の挨拶を終え、仕事場へと慌ただしく向かっていくスーツの男をピサロは酷く冷めた目付きで見送っていた。しかし、それも刹那のことである。ピサロは早々に踊り場を後にし、自分の部屋へと戻ってくると、途端に荒々しく髪を掻き上げると息を吐いた。

 

 

「どいつもこいつも間抜けばかりだな、人間は。まさか、私が魔王を蘇らせようとしていることも知らずにああも親しげに名を呼び、声を掛けてくる……耳が腐りそうだ。下等生物の声など聞きたくもない」

 

 ピサロの耳は、いつの間にか人間の丸みを帯びた耳では無く、エルフが持つような鋭利な耳へと変貌していた。薄く履いた笑みは口元で嘲笑に染まり、血の如く赤い瞳は怨嗟に塗れて淀んでいる。

 

 

「マスタードラゴン、天空人共め。今に見ているがいい。私がその貴様らの両羽を圧し折って見せる。地上で蛇のように無様に這いずり回るのが奴等にはお似合いだ」

 

 

「フン。貴様はそのマスタードラゴンや天空人を呪ってばかりだな」

 

 

 ピサロの独り言を咎めるように声を発したのは、部屋のベッドに腰掛けて本を捲る中性的な顔立ちをした陰険そうな目つきの男だ。肌の見えない裾の長い衣を纏っていても、その体が貧弱な程にやせ細っているのは見て取れる。しかし、この男はピサロが嫌う人間であった。丸みの帯びたピサロとは違う耳がそのことを証明しているが、ピサロはそのことを気にすることなく、男の向かい側にあるベッドに腰掛けた。

 

 

「嗚呼、呪ってばかりだとも。私と連中は謂わば陰と陽。元々、相容れぬ存在だ。魔族と天空人、生息している場所も魔界と天界で分けられている────ー何故こうも長い間、一つの世界に共存しているのかが不思議な程に反りが合わんのだ」

 

 

 

 

 男はピサロが向かいに座ったことを気にも止めず、本の頁を捲り続ける。ピサロは男の無体な様子に眉根を上げることなく言葉を続けた。

 

 

 

「司馬懿。もし、お前が人間でなければ、私の配下になるよう頼むのだがな」

 

 

「フン。私を配下に置けるのはあの方のみだ。貴様のような輩を頂かねばならないほど、落ちぶれてなどいない」

 

 

「本当にお前は、碌な口を叩かない男だ。まあ、おべっかを言う奴よりかは何倍もマシだがな」

 

 

 いらぬ口しか利けない司馬懿に怒るどころか、微笑みを浮かべてそう返したピサロは、腰掛けているのも飽きたのか背からベッドの上へと倒れこんだ。

 

 

 弾みのついたピサロの体が、ベッドのスプリングの抵抗で小さくバウンドし、軋んだ音が部屋に響く。

 

 文句ばかりを口にしながらも、すっかり寛ぐような態度になったピサロに司馬懿の眉間が更に深まる。開いていた本を閉じて、ピサロを一瞥するその眼差しは大層冷ややかだ。

 

 

「ピサロ、貴様の用事とやらはいつ始末が着く? これ以上、貴様の道楽に付き合う義理は無い筈だが」

 

 

「いいや、まだ付き合ってもらうぞ。私とて、人の国など居たくもない。だが、我が野望を叶えるためには、人に紛れ込むことも厭うてはならぬのだ」

 

「では、その用事を早々にこなすがいい。馬鹿めが、いつまで私を此処に閉じ込めておく気だ。今日で既に三日になることを忘れてはいないだろうな。妻にはしっかり貴様から事情を話すことだ」

 

 

「嗚呼、早くロザリーに会いたいものだ」

 

 

「たわけが! 私の話を聞かぬなら、そのお飾りの耳など捨ておけ!!」

 

 

 寝ても覚めてもロザリーのことだけを考えているピサロが、さらっと司馬懿の台詞を無視してまで、ロザリーへの思いを赤裸々に口にするものだから、司馬懿の怒りはついに頂点に達してしまった。

 

 三日に渡る軟禁生活を強いられたこともあって、司馬懿の我慢もここでとうに果ててしまったのだ。

 

 もし、司馬懿の元主がこの現場に遭遇すれば、「仲達も我慢を覚えたのか」と要らぬ口を叩いていたことだろう。

 

 そもそも、腐っていく祖国に我慢ができずに謀反を起こしたことのある男である。司馬懿に三日の軟禁生活を強いたピサロが凄いと言わざるを得ない。

 

「私は、貴様に手を貸すとは言ったが、貴様の駒になる等とは一言も言っていない。認識を違えているのであれば、私も貴様への評価を改めねばならぬようだな」

 

 ピサロは気怠げな眼差しで、司馬懿を見る。怒る司馬懿の目は、声の荒さからは考えられないほどに冷徹であった。

 

 ────ー本当にこやつは、愚か者に手厳しい。

 

 だが、だからこそ、ピサロは司馬懿が人間だとしても、悪くは思えない。凄まじい程に、凡人を嫌い、非才を良しとするこの男の胸中に宿る果てなき野望はピサロにとって、酷く心地好く、そして共感し得ることであった。

 

 そして、天へと届くほどに傲岸で、不遜なこの男は、そこいらの魔族よりもよっぽど魔族らしい。人の身でありながら、あそこまで欲望に忠実であるのに身を滅ぼさないとは、天晴としか言い様がない。

 

「司馬懿。私は、魔族の王だ。別の世界から来たお前には想像も出来ないだろうが、私は今すぐにでもお前の首をへし折ることが出来る──ー口を動かすだけでな。そして、それはお前の家族にも言えることだ。ロザリーは悲しむだろうが、私の命令が聞けない異分子をあの村に置いておくことが出来ない」

 

「──ーほう、この私に脅しを掛けるか。魔族の王よ」

 

 何故、この男は、危機的状況に陥った方が元気よく見えるのだろうか。

 

 あまり、好き勝手な行動を取るのであれば殺すと言ったばかりなのに、一つも動揺など見せず、ニヒルな笑みを見せるばかりの司馬懿にピサロは「そうだ」と容易く首肯する。

 

「私は、煩いのは苦手でな」

 

「であれば、私を早々にあの場所に戻すがよかろう。そうすれば、我が声も聞かなくて済むことになるだろう」

 

 ああ言えば、こう言うを見事に体現してみせる司馬懿に、ピサロは段々と馬鹿らしく、そして妙な可笑しさがこみ上げてくるようであった。

 

 ピサロにここまで、口先だけで刃向かった者は居ただろうか? 

 

 身内には、ピサロを慕う魔族や魔物しかおらず、誰もピサロの意見に否を唱える者は居ない。

 

 敵だとしても、ピサロのお喋りに付き合ってくれるほど気の長い者はおらず、早々に刃を交えてしまうことが殆どだ。

 

 これ迄、対等にピサロと言葉をかわせる存在はロザリーしかいなかった。

 

 しかし、異界から突如やってきたこの男は、出会った頃よりピサロと同じ目線で物を喋る。

 

「司馬懿、お前が引きこもり続きで腐ってしまったことはよく分かった。ならば、外へ行こう──ー異論は無いだろう?」

 

「フン。その程度のことで、私の機嫌が直るとでも思っているのか」

 

「この国は、世界で一番の大国だ。詰まるところ、この世界の最新の技術や学問、果てには料理までが揃っている────見たくはないか、異界の訪問者よ」

 

 この偏屈屋が己の誘いに乗らないはずがないと分かり切っている傲慢な質問に、司馬懿が嫌そうに顔を顰める。

 

 だが、遣る瀬無いことに、己はこの男の誘いに乗ってしまうだろう。

 

 抑えられない好奇心に歯噛みし、司馬懿は最後の抵抗とばかりに本に視線を落としたのであった。

 

 

終わり




三國無双を知らない方へ

司馬懿
字は仲達。主君である曹丕亡き後、曹爽らの愚鈍な国営ぶりに腹が立って普を興そうと謀反を起こした人。司馬師や司馬昭のお父様。よって、張春華の旦那でもある。七つの大罪にある強欲と傲慢を、人間の身でありながら引き受けられそうな程に傲岸不遜。仕事の腕前はピカイチ。しかし、詩の腕前は驚く程に非才。笑い方のデフォは「ふははははははは!!」

ドラクエを知らない方へ

ピサロ
魔族の王で、最終的には魔に飲まれて魔王と化する。ロザリー信者。彼氏面してるけども、本当にロザリーとそういう関係なのかは謎。どちらかと言うと、崇拝してるような気さえする。DQIVのラスボスだが、リメイク版では仲間になる斬新なキャラクター。FFのセフィ〇スでは無い、決して。冷徹だが、詰めの甘さが目立つため、おっちょこちょいさが随所に見られる。

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