三国クエスト   作:賀楽多屋

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覇王のノンビリ物語(IV)

 

 

「そーれ、ざくっざくっとなぁ。典韋、腰が全く入ってないだぁ。そんなんじゃちーっとも野菜は実らねぇだ」

 

 辺り一面に畑が広がる長閑な田舎の光景の中、巨体を丸めて鍬を降る一人の男がいた。横にも縦にも大きなその男が握っている鍬は鉄製の農作業用の物であるのに、男が持っていると玩具のように見える。

 

 大男の隣で鍬を振るっているのはツルリとした頭が眩い人相の悪い男だった。畑で鍬を振るっていなければ、追い剥ぎのようにも見える凶悪な人相をした男は「マジかよ!」と頓狂な声を上げた。

 

「俺、めちゃくちゃ腰沈めてやってるぞ。こんだけ落としても駄目か、許褚」

 

「駄目だぁ。まだまだ落とせるはずだ、典韋」

 

 許褚ののんびりとした指摘を受けて、典韋は首の裏を掻く。元の世界でも許褚とは戦の日々の合間に畑で鍬を振るってきたがどうやらまだまだであるらしい。農業と言うのは奥が深い。

 

 二人むさ苦しく横に並んで畑を耕している前で、男達が雁首揃えて円陣を組んでいた。

 

「なぁ、楽進。この辺で葡萄なんかみたことがあったか? 俺の勘はこの辺り一体に葡萄なんか成ってねぇって言ってるんだけどもよ」

 

許褚達に背を向けて唸っているのは天然パーマが風に揺れる若い男だ。宙を睨みながら若い男は楽進と言う右隣で筋肉質な両腕を組み、悩む素振りを見せる男に声を掛ける。

 

「そうですね。私も葡萄と言うか、果物は一つもこの辺りで見たことはありません」

 

「む、困ったで御座るな。曹丕様が葡萄を食べたいと仰ったのは良いが、物がなくてはお出し出来ぬ」

 

 楽進が若い男の問をバッサリとぶった切った所で、今度は若い男の左隣にいる頭巾を被った男がむむっと顔を顰める。

 

「どうすんの!? 曹丕様に安請け合いしちゃったぜ!! 俺達!!」

 

「何か代わりのものを探すとかでしょうか?」

 

「しかし、そうは言ってもこの辺りに果物は生えていないので御座ろう? では、代わりの果物をお出しすることは出来ませんな」

 

「徐晃の言うとおりだぜ。うがぁぁああ、マジどーすんの!? 俺!!」

 

 許褚達のいる畑からそう遠くない場所で雁首揃えて頭を覆っている男達の名を李典、楽進、徐晃と言う。内、楽進と徐晃は魏の五将軍として名高く、そうでない李典にも数々の武功が存在する。そんな猛者達が頭を突きあわせて自国の皇子による我儘に頭を悩ませていた。

 

「曹丕様は甘い物が食べたいんだなぁ。ってことは、カラちゃんとこでクッキーさ、貰ったらどうだか?」

 

 目の前でうんうんと唸る男達に嫌気が差した訳でもなく、許褚は穏やかな笑顔で三人の悩みに対する解を告げた。

 

 この男達が仕える魏の総大将には曹丕という跡取りがおり、またこの皇子様が大の甘党であった。父親と揃って冷たそうな風貌や口調をしている割には可愛らしい嗜好をしているのである。

 

 

「そうと決まればあとはカラ殿の下に行くだけですね。では、私が一番槍を頂きます!!」

 

 楽進は一緒に悩んでいた仲間達に輝かしい笑顔を見せるやいなや、土埃だけを残して去ってしまった。一番槍に拘り続けて五将軍になれたのだから彼らしいと言えばそうなのだが。土埃を立てて既に姿を豆粒程の大きさの楽進を李典と徐晃は見送って、それからどちらからともなく顔を見合わせた。

 

「思ったんだけどよ、徐晃」

 

「何で御座ろうか? 李典殿」

 

 

 珍しく固い顔をして己を見てくる優男風な出で立ちのこの男に徐晃は聞き返す。普段は飄々としている李典であるが、物事の本質を突くことには定評がある。彼はそれを己の勘だと言ってるが、徐晃はそれ以上のものだと思うのだ。

 

 ーーー勘と言うよりかは野生の本能に誰よりも近いので御座ろう。

 

 獣ならば、人よりも危機に敏感である。きっと、李典の勘もそういったものなのだ。多くの魏の者達が李典のこの勘に助けられてきた。もしかしたら、今回もその勘が何やら囁くのだろうか?

 

 李典は天で燦々と光を放つ太陽光を目を細めて仰いだ。それから口を開く。

 

「俺達、こんなところでのほほんと油を売ってて良いのか?」

 

「・・・拙者にも殿の真意は測れないで御座る」

 

「だよなぁ」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 配下の者達に『殿って何を考えているのか分からない』と言われているとは露知らず、曹操はソレッタの国王と和やかに会話を交わしていた。

 

 この世界で南にある大陸に唯一ある国家がこの『ソレッタ』である。しかし、独立した町『ミントス』よりも田舎風景繰り広がるこの国はとある問題を一つ抱えていた。

 

 それは主だった名産品となる特産物がこの国にはない事である。千にも満たないソレッタ民達が食べていけるだけの食材しかこの国の畑には植わっておらず、国庫は年々軽くなっていくばかり。火の車と言えるほどの火力もないと先日ソレッタ国王は笑っていたが、一国の帝であった曹操からして見れば笑い事ではない。

 

 名を曹操、字を孟徳とするこの御仁こそ、某世界の某大陸で苛烈な群雄割拠を勝ち抜いてきた時の覇王。放浪の王、劉備が建国した蜀を滅ぼし、鬼神呂布を討伐した魏帝である。

 

 

 魏のために非道と謗られるような手を打ち、何万人の民を戦火で炙ってきたこの男にすればソレッタの国王の言い分は甘っちょろいにも程がある。

 

 しかし、今はこの国に身を寄せる身だ。いきなり視界が真っ暗になり、すわお迎えがやってきたのかと覚悟をしたその次に瞼の裏を焼いた鮮烈な光。

 

 そして、その鮮烈な光が止まったと思えば見知らぬ地にいた。ところが、なんの因果か見たこともない魑魅魍魎が跋扈するこの世界に降り立ったのは曹操だけではなかった。共に戦場を駆け抜けてきた腹心が何人もついてきていたのである。

 

 幸い、魑魅魍魎達はそう強くなく数人の腹心だけで打ち払うことが出来た。その後、フラフラとあても無く彷徨っている内にこのソレッタの国に辿り着いたのだ。

 

 

「曹操殿。貴方の配下の方々は頼もしい方ばかりだ。どうすれば貴方のようなカリスマ性が身につくのかーーーいや、私には縁のない話でしたな」

 

 このソレッタの国王は気の優しい寝物語の王のような人であった。部下にも配下にも惜しみない慈悲を注ぎ、国王自らが鍬を取って民達と共に農業をする。

 

 まるで、そう、まるでーーー。

 

 劉備のような男なのだ。この国王は。

 

 

「儂にそのようなものがあるとすれば、それは欲しがりだってことであるな」

 

「欲しがり・・・。なんとも貴方とは結びつかない言葉だ」

 

 曹操の意外な発言にソレッタ国王は目を瞬いた。例え、農業国家と言えども一国の王である自分と対面して話していても気後れしないこの男が言うには幼い言葉だった。

 

 ソレッタ国王の動揺を察してかあやすように曹操が笑みを浮かべる。

 

「儂の下にいる者達の多くが、儂自ら望んだ者達だ。儂が欲しいと言ったから奴等もそれを承諾してついてきてくれた。ただそれだけのことよ」

 

 勿論、自分の下へと降らなかった者も多くいた。

 

 蜀の関羽や趙雲がそれの最たる例と言えるだろう。呉の二喬は少し欲張りが過ぎたのだろうが。

 

 何度言葉を連ねても、尽くしても振り向きもしなかった者達が散る様は、確かに戦乱が見せるまほろばの夢のように儚い。

 

 しかし、望んだものの殆どはこの掌中に収めてきたつもりだ。

 

 欲しいと思ったものに、曹操はあらん限りの力を尽くして手を伸ばしてきたのだから。

 

 

「私も欲しがれば、良いのだろうか。この国が豊かになるようにと欲しがれば民達にこうも苦労を掛けずに済んだろうのだろうか」

 

「そうだな。欲し、それに見合った行動を起こせば良いのだ。そうすれば、そのものへの道筋は自ずと見えてくるだろう?」

 

「確かに、そうかもしれぬ」

 

 両掌を見下ろすソレッタ国王の両目は僅かに戦慄いていた。この男は、今重大な決断を下そうとしている。

 

 董卓から命からがら逃げた時から始まった己の覇道。己の志についていくる者達が段々と増え、それが国へと繋がった。逆賊がのさぼる世は嫌だ、それならば麦を耕し安穏と暮らせる世が見たい。そう望んで必死に動いている間にこの手は驚くほど汚れてしまったが、別にそれを殊更苦に思ったことはない。

 

「おい!? 誰か居ねぇか!? 大変なんだ!!」

 

 ソレッタ国王の決断と曹操の物思いが決死な呼び声で中断する。まだ年若い少年の叫びに、二人は戸口の方へと振り返る。二人はソレッタ王城の中で会談していたが、ソレッタ王城は長年の貧困で藁屋敷と化していた。正直、ソレッタ王城というよりかはソレッタ屋敷である。

 

 息子である曹丕はこれを見た時失笑していた。『これが城とは笑わせる』とはついぞ言わなかったが、胸中では必ずそう零していたに違いない。

 

 藁屋敷なので王城と言ってもそう広くはなく、曹操とソレッタ国王が話している場所からも戸口がよく見えたのだ。

 

 戸口に立っていたのは深緑色の頭をした少年であった。長らく旅でもしているのか衣服は煤汚れている。しかし、何とも印象に残る少年であった。少年は曹操とソレッタ国王を見つけると慌ただしく駆け寄ってくる。

 

「なぁ! おっさん達!! パデキアってないか!? どんな病も一瞬にして治すとかっつー魔法みたいな植物!!」

 

 覚えのない曹操はともかく、覚えしかないソレッタ国王はその植物の名にびくりと両肩を揺らした。今しがた考えていたその植物の名を出されて動揺したのである。

 

「ほう。そのような珍かな物があるのか。もし本当にあるとするならば、持って帰りたいものよ」

 

 時が止まったように動かなくなったソレッタ国王に代わり、曹操が軽口を叩いた。まさか、本当にそんなものがあるのだと曹操は思わなかったのである。おおよそ、この国に伝わる寝物語の産物か。この少年はその寝物語を聞いてこの村にやってきたのだろう。現と夢の違いも分からずにソレッタへとやってきた少年には可哀想だが、どんな病も治すことが出来る植物などこの世界と言えどもある訳がない。

 

 しかし、曹操のそんな予想はソレッタ国王がやすやすとぶった斬る。ソレッタ国王は曹操に悲壮な顔を見せて遣る瀬無く首を横に振るのだ。

 

 

「・・・それは出来ぬのだ、曹操殿。何故ならこの国にもうパデキアは無いのだから」

 

「嘘だろ!? じゃ、じゃあ国王サマを出してくれよ! その人だったらパデキアを持ってるかもって」

 

「私がこの国の国王だ。残念ながら、この国にパデキアは無い」

 

 ソレッタ国王に首を振られた少年は愕然としたようであった。折角掴んだ手掛かりが無へと返ったのだ。確かに、そのように意気消沈しても仕方ない。

 

 これには曹操も驚いた。まさかそんな、夢の産物のような植物がこの世界には存在するだなんて。まさかの事態に曹操でさえも口を開けず、胸中で渦を巻く思いに少し顔を顰める。

 

 しかし、少年と曹操がそれぞれに気持ちの整理がつかない中でソレッタ国王の言葉は続いた。

 

「ーーーだが、パデキアの種を保管している洞窟がある。そこに行けば恐らく、パデキアの種は手に入れることはできるだろう」

 

「それ、マジの話なのか?」

 

 少年はパッと項垂れた姿勢から顔を上げるも一度希望を潰しているからか、妙に疑り深い目でソレッタ国王は見つめて来る。

 

「実は、曹操殿とこうして話す前にパデキアのことについて訪ねてきた少女がおってだな。その少女もパデキアの種を探しに洞窟へと向かっていった。腕には覚えがあると言っていたが、私はどうもそうには見えなくてな。洞窟の中に入るためには鍵のかかった扉を超えなければならぬのだが、私は少女の身を案じてその扉を開く鍵を渡せんかった。その少女にも助けたい人がいるのだろうが、あの洞窟には凶悪な魔物が蔓延っておるのだ。その誰かを救う前に少女をマスタードラゴンの身許へと送ることになってしまう。私はそれが怖かったのだ」

 

「多分、っつーか絶対爺さんが言ってた子だ、その子は! 俺もその少女と同じ人を助けたいんだ!! もう時間が僅かにしかない・・・! お願いだ、その鍵を貸してくれ! 俺、あの人を助けたいんだよ、オッサン」

 

「しかしだなーーー」

 

「分かった、ソレッタ王。儂からも人手を出そう」

 

 二人の話を黙って聞いていた曹操がここで口を挟んだ。いつの間にか熱中してお互いしか見ていなかったらしいソレッタ国王と少年が鶴の一声に口を噤む。

 

「ソレッタ王、そのパデキアとやらは何時頃に収穫出来る?」

 

「種を撒けば直ぐにでも。この少年が言ったようにパデキアは魔法の種なのだ」

 

「そうか」

 

 曹操が一番気にかかったのは収穫期のことであった。植物と言うのは植えればすぐに育つものでなく、故事成語にもある『桃栗三年柿八年』と言うように大層手間と時間が掛かるものなのだ。

 

「オッサン、手を貸してくれるたって、なんで何も知らねぇ俺のことを・・・」

 

 少年がまたあの猜疑心の滲んだ眼差しで曹操を睨むように見つめて来る。こうしてみれば、そこそこ端正な顔をした少年であるのだが、何故かこの少年には暗い影がチラついており、それが少年の陰鬱さを加速させている。

 

 ーーーまるで、過酷な運命を歩んできたような目つきをしておるわ。

 

 

 曹操は不敵な笑みを浮かべた。その笑みは、董卓から命からがらに逃げてきた時にも浮かべていた笑みと同等のもの。欲しいと思ったものを手に入れるべく、動こうとする意思表示。

 

「儂もそのパデキアとやらが欲しいからだ。安心せい、そなたの友の分まではいらん。儂はその残りで良いから欲しいのだ」

 

 曹操にとって怖いものはそう多くない。けれども、その中の一つに病があった。

 

 曹操の目となり、世を見渡してきた頼りになる悪友。幾つもの戦で弄してきた策を成し、祝勝会では共に羽目を外してきた男がいた。

 

 その男が患っていた病は危うく命を奪っていきかねないものだった。今では元気に好物の酒や女にまたぞろ手を出し、豪快にやってはいるがいつまたあの病の魔手が自分のものに手を出してくるとも知れない。

 

 そう、自分の命さえ、奴等は狙っているのだ。

 

 その病から逃れる術があるのならば、欲しがらないはずが無い。

 

 少年は曹操を見上げて、一歩気圧されたように後ずさりした。今の曹操はソレッタに身を寄せる不思議な一団の頭領ではない。

 

 天下統一を成し遂げた魏の武帝、曹孟徳なのである。

 

「さぁ、言え。どのような才がそなたを助ける? 儂の配下は天下一品ぞ。そなたと儂の望みくらい容易く叶えてくれるわ」

 

 おわり

 







三國無双を知らない方へ





曹操
三国時代に魏を建国した人。野心旺盛で女の人大好き、あと優秀な人も大好きなのでしょっちゅう引き抜こうとする一流のスカウター。息子に甘党がいる。関羽にラブコールばかり送っていたせいか劉備の曹操への心象はあまり良くない模様。背が低い。普通に気のいいおじさんだったり、ヤクザの組長みたいになったりとなかなか個性豊かなおじさん。



許褚
食べることが大好きな大男。実は曹操の親衛隊でもある。畑を耕すことにかけては魏軍の中でも右に出るものが居ないようで、典韋のように教えを請うものが時たま居たりする。基本のんびりしていて、ぼんやりもしている。但し、野生の勘が鋭く時に物事の核心をついてくることもある魏の野生っ子一号。



典韋
禿頭と目付きの悪さが何処からどう見てもヤクザにしか見えない男。許褚と同じく曹操の親衛隊。曹操の盾であることを自認しており、彼の最期に泣かされる人は多数。口が悪く単純な質であるが、それ故に純粋な一面も覗かせる。



李典
天然パーマが良い塩梅の優男。戦場に張られた幾つ物の孔明の罠や周瑜の罠を勘で見破ってきた野生っ子二号。楽進と同期なせいか共に出陣すること多し。そのせいか口では小憎たらしいことを言ってても面倒見が良かったりする。実は数いる魏の武将の中でも苦労人ではないかと思われる。呂布軍の張遼とは犬猿の仲。



楽進
とにかく一番槍目指して戦場に突っ込んでいく男。世紀末にでもいたかのような格好をしているが、魏の純粋枠にいる一人。たまに電波と天然ぶりを発揮することもある。頭には一番槍と鍛錬以外は入ってないと思われる。小難しいことを言う張遼とはあまり仲が良くない。五大将の一人。



徐晃
常に鍛錬をしている男。一に鍛錬、二に鍛錬、三と四も鍛錬だろう。寺の僧のように頭から頭巾を被っており、穏やかな目元をしている。頭には武の事しか詰まっていない質なのである意味戦闘狂。ボケもツッコミもこなせるオールマイティな人。五大将の一人。







ドラクエを知らない人へ




ソレッタ国王
ドラクエの数ある国の中でも働き者の王様。ソレッタの行く末を憂いながらも畑を耕し毎日を終える。曹操が相手なのでなんとなく頼りなく見えてしまうかもしれないが、この人はドラクエの中でも人気のある国王様である。









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