万華鏡後のありふれた異世界物 作:恵比寿酒
完全に油断しきっていた。この世界に来てから魔術や魔術協会が見つからなかったからとはいえ、存在しないとは限らなかった。
しかし、異世界というのは予想できなくても仕方がなかったと、今では思う。
一瞬閉じた目を開くと、見知らぬ場所にいた。
「…は?」
大理石らしきもので出来た、大広間だ。同じような素材で出来た柱で、天井はドーム状になっており、俺たちはその中心にある巨大な台座らしきものの上にいるようだ。
周囲には三十人前後法衣のようなものを着た人々が、こちらに祈りをささげている。状況的に彼らが俺たちを呼び出したのだろうか。
いや、それ以前に
「転移魔術?」
「私たち以外が?」
それにあんな形の魔法陣は見たことがない。
魔術協会の無い世界で、初めて見る魔法陣に、高校生がさらわれる?
俺とクロエを狙ったのだとしても、もっとタイミングがあるだろう。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位についておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そうこちらに話かけてきたのは、
それにしてもわけが分からない。
トータスなど初めて聞いた地名だ。聖教教会というのも初めて聞く。
それにイシュタル?シュメール神話に登場する女神の名だが、関係はあるのだろうか。さらには勇者?それこそわけが分からない。
まずは落ち着いて話ができる場所に案内しましょう、と長テーブルと椅子が用意された広間に案内された。
メイドたちが来て飲み物を給仕してくれた。
メイド、か。セラさんやリーゼッロトさんを思い出す。
「クロエ、トータスなんて地名聞いたことあるか?」
「いいえ、私も初めてきいたわ」
やっぱりクロエもか。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
イシュタルと名乗った老人は、そう言って話し始めた。
馬鹿馬鹿しい。話を聞いてそう思った。
いわく、この世界はトータスと呼ばれる異世界であると。
トータスには大きく分けて三種類の種族が存在している。
北一帯を支配している人間族。南一帯を支配している魔人族。そして東に存在する大樹海に隠れ住んでいる亜人族。
人間族と魔人族は数百年以上の間戦争を続けており、個人が強い魔人族に対し人間族は量で対応していたとのこと。
戦況は長年拮抗していたが、最近魔人族が魔物を使役し始めたことにより戦況は一変。一気に人間族は劣勢に。
魔物とは野生動物が魔力を取り込み、変質した異形とのことだ。
今までも使役できる者はいたが、せいぜい一、二匹であり今回のように大量に使役される例は初とのこと。
ともかく、魔人族は魔物を使役しだし人族の数という有利が崩され始めたと。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神。エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方は例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には、“エヒト様”の御意志の下、我ら人間族を救って頂きたい」
正直詐欺かと思った。
何百年と戦争を続けているのはまだいい。戦争による恨みは早々消えない。それに異世界というのも納得しよう。転生も平行世界あるのだ、異世界が存在してもおかしくは無い。
だがなぜ異世界の人物を呼び出す?関係ないのだろう。それに剣も振ったこともない者がほとんどだ。俺やクロエは例外のようなものだし、戦力になるとは思えない。
そしてこいつしゃべっている間、目がイッていた。あの目は覚えがある。狂信者の目だ。
「…なんでさ」
士郎さんの口癖を思わず真似てしまう位には、俺は疲弊していた。