万華鏡後のありふれた異世界物 作:恵比寿酒
しっかりと相手を見据え、油断なく構える。黒い骨をした骸骨の戦士が10体。手にはロングソードとラウンドシールドを持っていて、どちらも新品のように輝いていた。
背後は南雲がベヒモスを抑えているため下がれない。ここで押しとどめる。
「はっ!」
クロエが前方の1体に切りかかり、それに合わせて他の1体に火球を飛ばす。防がれた。防がれないような大掛かりな魔術は、詠唱の時間が足りない。
クロエとこちら側に5体ずつ迫ってくる。出の早い魔術で隙を作り、剣を奪う。
素早く奪った相手の首を切り裂き、背後から切りかかってきた骸骨には火球を浴びせる。クロエの方を少し見たが、問題はなさそうだ。
右手に剣、左手に杖を持ち、構える。魔術と剣を両方扱う
「せいっ!」
魔術で体勢を崩し、剣で切り裂く。他から打ち込まれる攻撃を、杖で弾く。時に剣の隙を魔術で補い、時に剣と杖の二刀流として使う。剣は奪えるが、杖は1本しかない。武器にするのは最小限だ。
大丈夫。この程度なら今の俺でも倒せるはずだ。クロエは心配しなくても大丈夫。後ろに行かせないことだけを考えろ。
「八神君!アインツベルンさん!もう少しで魔力がなくなる!」
「分かった!」
最後の骸骨を倒すと、南雲から声がかかってくる。クロエも問題なく倒せたようだ。クラスメイトたちが相手をしていた骸骨たちも騎士団と天乃河たちにによって処理され、詠唱の準備に入っている。後はタイミングを合わせて撤退するだけだ。
「3、2、1、錬成!」
南雲が最後の錬成でベヒモスを拘束し、3人で駆け出す。すぐにベヒモスが脱出するが、前方からいくつもの魔術が飛んでくるが、仮にも天職持ちたちだ。誤射の心配はないはず。が、魔術の1つが突如軌道を曲げ、南雲に迫る。このままではぶつかる。このままではそのまま当たってしまうだろう。
──ダメだ。こんなに
とっさに南雲をかばい、火球を背中に受ける。
「ぐっ…!」
「照人⁉︎」
「八神くん⁉︎」
幸い俺は火属性耐性を持っているため、ダメージは少ない。しかし、他の2人の足も止まってしまった。ベヒモスがこちらに迫る。なんとか避け切るが、橋が限界を迎えて崩れていく。崩れる前に何とか動こうとするが、俺も、クロエも、南雲も、ベヒモスさえも橋の下──奈落へと落ちていく。
クラスメイトたちは誰も落ちていないようだった。落ちながら見上げると、白崎が南雲の方へと行こうとする姿と、暗い笑みを浮かべる檜山が見えた。
「照人!」
「クロエ!」
落下しながら必死に動く少しでもクロエの近くへ。背中の傷など気にしない。このまま落ちれば、助かったとしてもバラバラになるだろう。それだけはなんとしても避けなければいけない。
なんとかクロエと合流し、胸に抱える。下に水が流れる音が聞こえた。これなら助かるかもしれない。
こうして俺とクロエは、万華鏡後のありふれた異世界物を始めることとなってしまった。