この町は魔法少女、魔女が集まる街になっていた。
そしてとある立ち入り禁止のビルの屋上に一人の少女が飛び降りようと、屋上の縁に立っていた。
その日、私は自殺しようとしていた。
立ち入り禁止のビルの屋上、そこは私の感情とは真逆の気持ちの良い風が吹き、気持ちの良い太陽の光が降り注いでいた。
それでも、私の心は悲しみと苦しみで溢れていた。
でも、
「やっぱり、怖いよ・・・」
そのとき、私はキュウべぇに出会った。
★
「五十鈴さーん、五十鈴 れんさーん!」
「は、はぃ・・・!」
昔のことを思い出していた私に、先生は呼び掛ける。
「50ページの最初から、51の10段落目まで読んで」
「はぃ・・・は・・・ぇ・・・っ・・・」
途中から口が開かなくなってくる。昔からそうだ。人と話すときや本を読むとき、口が重たくなって開かなくなる。
「・・・大丈夫ですか?どこか具合でも」
「ご、ごめんなさ・・・ぃ」
「・・・えっとじゃあ、次の人、五十鈴さんの代わりに読んで。五十鈴さん、座ってー」
「はぃ・・・」
私は教科書を閉じて椅子に座った。
「いーすーずーさんっ!」
「ひっ!・・・な、なんで・・・しょうか?」
休み時間になると、先生が教室から消えて私一人になる。そして、そこにいつも後ろ席から、私をいじめる子がやってくる。
「あなたのせいで、私が読むことになったじゃん。」
「ご、ごめん・・・なさぃ」
私へのクレーム。
治したいけど治らない、私の口。
「声が小さいんだよ!アハハハハハハ!」
暴力。先生のいないのところで、普段見えないような場所を殴る。アザになっても気づかれないし、私が先生に伝えられないからだ。
「・・・ふぅ。次はどうなるかわかってるよね!?」
「は、・・・はぃ」
「ならいいんだけどねー」
いじめっ子は耳に響くような笑い声をあげながら、その場から離れていく。
もしも、私がここで魔法少女になれたら・・・と考えることはあるけど、この力は人を守るための力だと心で何度も自分に問いかけ、ソウルジェムである指輪を押さえる。
「我慢・・・」
痛みはソウルジェムが濁るだけであまり体に残らないけど、攻撃を受けたときは痛い。
「あ、れんちゃん!おーい!」
放課後はいつもの場所で同じ魔法少女の友達と集まる。
私を呼ぶのは梨花さん。私の初めての友達。
「梨花さん・・・」
「今日はどこに行く?」
「ぇ、えっと・・・私は」
「そうだ!今日ここ来る前に、あることを聞いたんだー!何かあっちの学校の近くに魔女の結界があるって噂」
「魔女・・・い、いき、ましょう!」
「うん、行こ!」
梨花さんは私の手を引っ張ると、来た道を戻っていく。
「こっちの道はれんちゃんの方が知ってるよね?案内頼むよー!」
「・・・うん!」
とっくに日は沈み、街灯が着き始める。
私たちは少しずつ魔力を感じ始め、結界に近付いてきているのに気づいた。
「ここらへんだよ。確かあそこらへんに、あった!」
梨花さんは指を差す。その先には結界の入り口があった。魔力の高さが魔女のいることを私たちに知らせる。
「行こ!」
梨花さんは魔法少女へと姿を変え、私の手をとる。
私も梨花さんに続いて魔法少女になる。
そして結界に入った。
結界の中は海のような潮風が吹き、足には波打ち際のような弱い波がある一定のリズムで当たっていた。
「すごいね、まるで海に来たみたい!」
「すごい・・・あ!」
海原の方、月明かりに照らされて何かが動いているのがわかる。
「あれ・・・!」
「あれがこの結界の魔女!よーし、ってれん!?」
こんなときだけ私の身体は積極的になる。私は波に足をとられながらも、武器の杖を鎌に変え、魔女へ立ち向かう。
「魚?いや、あれはサメだ!れんちゃん!」
私の前でサメの形をした魔女が水面から跳び跳ねる。
「わかってる・・・!」
こっちに向かって跳んできた魔女の鼻をジャンプ台にして跳ぶと、魔女の背中に乗って背びれ部分を鎌で切り落とした。
「やった!私も負けられない!」
私は魔女から離れないために、鎌を背中に刺す。
砂浜では梨花さんがこっちに武器のコンパクトを向ける。
「ビームッ!」
コンパクトから放たれたビームは魔女のお腹辺りに穴を開ける。
「アハハハハハハハハハハ!」
「笑い・・・声?」
「この魔女、笑いの魔女ってこと!?」
この耳に響く笑い声・・・聞いたことがある。確か・・・
「声が小さいんだよ。アハハハハハハ」
「あの子の!・・・梨花さん、あの中に・・・」
「え?何!?どうしたの、れんちゃん!」
「ぁ・・・の・・・人がぁ・・・ぁッ!」
目の前から来た波の勢いで鎌が背中から取れ、私は波に流された。海の中で、私はあのいじめっ子の姿を見た。
まさか、あの子も魔法少女だった・・・ってこと?
私はすぐに水面に顔を出した。そして大きく息を吸って、海に潜る。
いじめっ子の周りにはそれを守るように小さな魚が渦を巻いている。
「魔女は・・・!」
魔女は私を見失ったのか、砂浜で魔法を放つ梨花さんの方へと進む。
私はすぐに海から出た。
「梨花さん!そっちに・・・」
「え?そっちに何?」
「魔、女が・・・!」
「魔女!?」
私は海の中から、杖で魔法を放つ。
放った魔法は途中で消えてしまう。というより、手下が魔法から魔女を身を呈して守っている。
「そんな・・・」
砂浜では梨花さんがコンパクトで抵抗する。
「アハハハハハハハハハハッ!」
「来てる!」
そして魔女はついに砂浜にいる梨花さんを攻撃しようと砂浜に飛び込んだ。
「ヤバい!」
「魔女、みーつけた!」
梨花さんの後ろから現れた黒い影が、魔女のぱっくりと開いた口から、尾びれまでを三つの爪で切り裂いた。
魔女からは大量の笑いと共に、キラキラと光る何かが飛び出す。
「キャッチー!っと」
飛び出したものを梨花さんはキャッチする。それはグリーフシードだった。梨花さんはその勢いで海に入ってしまうが、それと同時に結界はぼんやりと消え始めた。
1分後、結界は完全に消え、私と梨花さんはずっと砂浜や海で戦っていたのもあってか疲れでその場に座り込む。
黒髪の魔法少女は梨花さんに近寄ると、梨花さんのグリーフシードを握った方の手を握って引っ張る。
「助けてくれてありがとう。私は綾野 梨花。よろしく」
梨花さんは立ち上がると、黒髪の魔法少女に礼を言う。
「助ける?違うよ、私は魔女を倒すために攻撃したんだ」
月明かりが黒髪の魔法少女を鮮明に照らす。
夜の暗闇よりも暗い黒髪に白いシャツとピンクのスカートの魔法少女は梨花さんを睨むと、梨花さんからグリーフシードを奪い、ポケットにしまう。
「な、何するの!」
「最後、魔女を倒したのは誰だ?私だよね?」
「でも、あそこまで追い詰めたのは私とれんちゃんだよ!」
「そうなの・・・だから?」
黒髪の魔法少女は梨花さんを突き飛ばす。
「きゃっ!」
「ふんっ。これでまた織莉子が喜ぶよ」
黒髪の魔法少女は鼻歌を歌いながらその場を去ろうとする。
梨花さんは膝を擦りむいたのか、膝から血を流している。
「あ、あの・・・」
私は勇気を出して、黒髪の魔法少女に声をかけた。
だけど、
「あ"?」
「ぁ、あり・・・がとう、ござぃ・・・ます」
思っていた言葉と違う言葉が声に出た。
「ふふっ、面白いやつだな。仲間が傷付いてるのに、何を言うかと思えば、お礼か?」
「ぁ、えっと、その・・・」
「織莉子ほどでは無いけど、そういうの好きだよ、私。私は呉 キリカ。よろしく」
「い、五十鈴・・・れんです」
「なんてね」
次の瞬間、キリカさんは私を魔法少女のとき使っていた大きな爪で攻撃した。
「きゃあッ!」
「またどこかで会おう、死神」
「え?死・・・神?」
キリカは爪をしまうと夜の闇のなかに消えていった。
「れんちゃん、大丈夫?」
「大・・・丈夫・・・あ」
私は地面に何か落ちているのに気がつく。それはキレイなハンカチだった。きっとキリカさんの物だろう。
「ハンカチ?あの人のかな?」
私はそれをポケットにしまうと、近くの時計を見る。
「わ、もうこんな時間!帰らないと怒られるー!行こ、れんちゃん!」
「うん・・・」
私は梨花さんと一緒に家の方へ走っていった。
その日の夜、日記を書きつつ、私はキリカさんが落としていったと思われるハンカチを見ていた。
ハンカチ自体はピンク色にウサギの模様でとても可愛く、あの人の物というより、梨花さんのものに近い。
でも、梨花さんに聞いたら私のじゃないと言っていた。
「このハンカチ・・・どうしよう。」
キュウべぇさんによると、キリカさんはこの町の魔法少女ではなく、違う町の魔法少女らしい。
「誰かに頼む・・・ってのも私じゃできないし・・・」
私は久しぶりにため息をついた。きっと梨花さんなら、とか思ったけど無理そう。
「とりあえず、今日は何書くかな」
私はいつの間にか黒の色鉛筆を握っていた。字を書く鉛筆とは違う、色鉛筆の箱に付属で付いていたもの。それほどに今日はキリカさんという存在が大きかったのだろう。
その日の日記には私と梨花さん以外にキリカさんが書かれていた。
★
「ただいま~。」
「おかえりなさい。遅かったわね」
私は織莉子の元へ必ず帰る。今日は邪魔が入ったから遅くなったけど、ちゃんと頼まれたものは持ってきたし、頼まれたことはやり終えた。
「邪魔が入ってさー。ほら、グリーフシード三つ」
「本当にあの街には魔女がたくさんいるのね・・・」
「うん、あと魔法少女も。魔法少女は二人ほど逃しちゃったけど」
「あら、久しぶりね。あなたが獲物を逃すなんて」
「一人は殺してもよかったけど、久しぶりに面白そうな魔法少女に会ったんだ。なんていうか、
私よりも死神なんだよ。魔法少女として。
今回は読んでいただきありがとうございます!
現在投稿している小説はこれで三作目。
この作品の投稿が遅れるか、他の投稿が遅れるかはわかりませんが、できるだけ間を開けないように頑張りますので、ぜひ次の話まで待ってもらえたら光栄です。
では次回またここで・・・