魔女と魔法少女の集まる街、神浜市。
五十鈴 れんと綾野 梨花は魔女結界の中で黒い魔法少女として噂の呉 キリカと出会った。
今日は不思議なことが起きた。
学校に行くと、昨日まで私をいじめていた子が、何も言わなくなった。私以上に静かになって、唯一聞こえる笑い声はとても小さなものになっていた。
マスクをしていたし、最初は喉でも痛めたのかな?・・・とか考えたけど、それが昨日の出来事でのことだというのはすぐにわかった。
昼食のとき、やっといじめっ子はマスクをはずした。唇は腫れていて、痛々しい切り傷があった。
「どうしたの?なんか今日は暗いね」
「うぅん・・・なんでも、ない・・・」
放課後、また梨花さんと集まって、本屋さんに来ていた。色鉛筆を買うと言ったら、梨花さんもついてきてくれた。
「いーや、なんかあったでしょ?悩みとか相談事ならいくらでも聞くよー!」
衣美理さんみたい・・・
「えっと・・・本当に、あの・・・大丈夫です・・・はぃ」
「えー!いいから、いいから!梨花お姉ちゃんに何でも言って!」
こうなると梨花さんは言うまで止めない。
そしていつも私は諦める。
「えっと、昨日の魔女のことなんですが・・・」
少しの間、途中途切れながらも何とか私は話し終えた。
「つまり、昨日の魔女の中にいた人が、昨日の魔女みたいに口をケガしてるってこと?」
ちゃんと伝わってる。
私は無意識に胸を撫で下ろし、ホッと一安心する。
「そんなことあるのかな。それにもしも、あの子が魔女だったら、もう死んでるんじゃないかな?」
「確かに・・・でも・・・」
「まぁ、私はれんちゃんのこと信じるよ。どんなに声が小さくても、どんなに伝わらなくても、れんちゃんは絶対に嘘をつかない。そう思ってるからさー」
「梨花さん・・・ぁ、ありがとう、ございます・・・はい」
本当は昨日拾ったハンカチのことも言おうとしたけど、今の私にはこれ以上は無理だと思った。
「お、死神ちゃんじゃん」
その声は突然、私たちの耳に入ってきた。
「昨日の・・・」
「れんちゃん、下がって」
梨花さんが私の前に出る。
「私だってちょっとした常識はある。ここで君たちを殺し始めたりはしないよ。ちょっと着いてきてよ、君たちの用を終わらせてからでいいから」
梨花さんはキリカさんを威嚇するかのように睨む。
「ぁ・・・わ、わかりました・・・。梨花さん、これ、買ってきます・・・はい」
私が今やるべきこと、それは色鉛筆を買うことだった。
「ちょっと!れんちゃん!?」
「で、話って何?」
この本屋さんの向かいのドーナツの店に、私達とキリカさんはテーブルを挟んで座る。
「話ってのはさ、私のハンカチ、知らないか?昨日、なくしちゃってさ!織莉子が買ってくれたハンカチなんだ!」
「ハンカチ・・・!」
「お、何か知ってるの!?」
キリカさんは身を乗り出し、私に顔を近づける。
「ぇ、えっと・・・これ、ですか?」
すかさず私はポケットからハンカチを取り出した。
「おー、それだ、それ!・・・探してたんだよ。昨日、帰ったら織莉子に怒られてさ。洗濯にハンカチ出てないけど、どうしたの?、って!」
「はぁ・・・」
キリカさんは表情を変えて話し始める。
昨日の学校裏で出会ったときとは大違いだ。
「そのときの織莉子の顔は怖かったけど、それでも私への愛を感じられたね。そうだ、もう一つ話があるんだけどさ」
「な、なんで・・・しょぅか・・・?」
「ここらへん一帯を、私の領域にできないかな?」
「ぇ?」
「はぁ!?何言ってんの、アンタ!さっきから聞いてればさー!」
梨花さんは声をあらげ、テーブルを強く叩いた。テーブルの上の物が一瞬中に浮く。
「梨花さん・・・」
「ここらへんには魔法少女がたくさんいる!みんなが、みんな助け合って戦ってるんだ!アンタ一人にそれを全部渡せとかバカなんじゃないの!?」
「神浜・・・ここは私の住む町よりも魔女が多く、魔法少女も多い。私の邪魔をする魔法少女がね。話は変わるけど私が今、なんて呼ばれてるか知ってる?」
「・・・?」
「魔法少女殺しの黒い魔法少女・・・ってね」
「魔法少女・・・殺し・・・」
「そのままの意味だよ」
歯茎が見えるくらいの不吉な笑顔を見せる。
「なんで・・・なんでそんなことをするんですか!」
私はキリカさんのその行動が許せなかった。
「なんでってそんなの決まってる・・・織莉子のためだよ。私が魔女を倒すのも、魔法少女を殺すのも全ては織莉子のためだ!織莉子の願いを叶えるためさ!」
店内にキリカの笑い声が響き渡る。
店員は注意もせず、棒立ちになって動けなくなっている。
そのときだった。
パァンッ!
梨花さんはキリカさんを殴った。
キリカさんはその勢いで、横の椅子に倒れ込む。
「最低!行こう、れんちゃん!」
「でも・・・」
「いいよ、そんなヤツ!」
「キリカさん・・・」
梨花さんは私の手を掴むと、店の外まで連れていく。そこから離れるとき、私には見えていた。テーブルの下で怒りをこぼす、キリカさんの表情が。
「あの魔法少女・・・死神ちゃんには悪いけど、殺すしかないみたいだ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・梨花さん。」
すでに辺りは暗くなっていた。
「れんちゃんはまだ知らないよね?あの黒い魔法少女のこと。でも、まさかあの人がその魔法少女だとは思わなかった。私の友達を殺した犯人だとは!」
梨花さんは怒りで拳を地面に叩きつける。
「梨花さん・・・。私は・・・あの人は・・・」
「みいつけたっ」
こちらに向かってくるそれはすでに戦闘体勢になっており、手には血のような赤と黒の交ざった色をした爪の刃を三つ付け、右目は隠されていた。
「驚かなくて良いよ、死神ちゃん。君は殺さないから」
「来るッ!」
梨花さんはすぐに魔法少女に変身し、そのコンパクトからビームを放つ。
ビームはキリカさんの横を通りすぎ、奥の街灯の柱を砕いた。
「なんで!なんで当たらないの!?」
その後もビームはキリカさんに向かって飛んでいくが、キリカさんは当たる直前でビームを避け、こちらへ少しずつ近づいてくる。
「私の魔法の前でそんなビームが当たるとでも?・・・さぁ、次は私の番だ」
私の体は咄嗟に動き始め、梨花さんを突き飛ばした。
梨花さんの体があった場所をキリカさんの爪が通る。もし梨花さんがあそこにいたら、お腹を裂かれていた。
「避けたか。・・・まぁいいや。死神ちゃんは死んでないし」
「梨花さん、逃げましょう!・・・はい」
「逃がすか!」
梨花さんを攻撃するキリカさんの爪を、私は武器である杖で防ぐ。
そして、杖を鎌へと変えると、キリカさんを弾き飛ばした。
「ッ!この魔力!」
「今ならとどめをさせる!」
梨花さんはコンパクトをキリカさんに向ける。
ビームはキリカさんの脇腹辺りを貫通し、アスファルトに穴を開けた。
「梨花さん!」
私は追撃しようとする梨花さんの手を掴み、公園の外へと走った。この公園の外ならたくさんの人がいる。
「クソ!・・・待て!ッ、ててて」
キリカさんが追ってくることはなかった。梨花さんのビームが効いたのだろうか・・・。
★
「待て!」
キリカは逃げる二人を追うために立ち上がる。
「こんなところで何をしているの?キリカ」
倒れるキリカの側に誰かがやってきた。白いドレスのような服装にふんわりした白っぽい髪。
「織莉子・・・」
そこにはキリカの主、美国 織莉子が立っていた。
「これは・・・その・・・織莉子~~~」
キリカは織莉子に跳んで抱きついた。
織莉子はキリカの頭を撫で、キリカを安心させる。
「大丈夫?お腹から血が出てるじゃない」
「これくらい大丈夫だけど・・・魔法少女逃しちゃった。それに織莉子から貰ったハンカチを探してて魔女も魔法少女も全然狩れなかったんだ」
「キリカ・・・大丈夫よ。今日できなかったら明日は必ずできるようにしなさい」
「わかったよ、織莉子。」
キリカは織莉子から一度離れると、変身を解いて織莉子の手を掴んだ。
「で、二人のうちの一人がさ」
「知ってるわ、その子を見たから・・・
その子の破滅のときを・・・