アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA   作:雨在新人

10 / 29
アナスタシアー星空

夜の帳が降り、空に欠けた月が輝く頃

 392プロダクションの屋上で一人、アナスタシアは空を眺めていた

 頼んだらナガセPが用意してくれた雨風を凌げる簡易的な小屋の中には私物の望遠鏡があるが、今日はそれを使うことなく、肉眼で星を見る

 「きれい、です」

 幾多の戦いは、この地球上でも起きていて、空は昔みたいに綺麗じゃない。父が幼い頃アナスタシアに見せてくれた夜空の写真より、今見える星はあまりにも少ない。郊外であり、街の灯りが星空を掻き消す事はあまりないというのに、だ

 それでも、アナスタシアはそんな星達が好きだった

 

 「……やっぱり、ここか

 あと30分もしたら、扉を閉めるよ」

 「プロ、デューサー?」

 殆ど靴音も無く、一人の男性が屋上の扉を開き、現れる

 ロシア系の血の入ったクォーターだという金の髪に、深い色の瞳。中学・高校ではなく、小学校卒業後にとある4年制専門学校に入り16で卒業、以降は高校卒業資格もないしと中卒労働者みたいに働いてきた、だから正直その問題解けない気がする、と宿題で出た中の難問の解き方を教えてくださいと幸子に頼まれた時に笑い話にしていた……20歳とは思えない程に、なにかを潜り抜けてきた顔の青年。392プロダクションプロデューサー、神威流星(ナガセ・カムイ)

 「ああ、私だ

 星を、観てたのか」

 冷えるよ、と赤い小さな缶をミギテデ差し出しながら、ナガセPは問い掛ける。あまりにも分かりきった問いを

 この屋上は、室外機だなんだでかなり狭苦しい。少なくとも、開放的な感覚は無い。そんな場所、好き好んで訪れるのは事務所の中では飛鳥とアナスタシア、そしてナガセPの三人だけだ。そして、そのうちアナスタシアは、郊外のここではあれば、まだ星が見えるという理由で、夜に訪れることが多い

 「ダー。けど、あまり、見えないです」

 冷えた手には少し熱い小さな缶を受け取りながら、アナスタシアは言う

 「そう、か」

 やはり空を見ながら、ナガセPは呟いた

 

 瞬く星は、50にも満たない。街中では、星なんて見えないが、周囲に灯りのあまり無い392プロダクションでも、やはり満天の星空は、見えることはない。まだ、少し離れた街の灯りのほうが、余程多い

 

 「天の光は総て星、地上の光は総て人……

 そんな言葉がある」

 ふと、二人空を見上げて一分経っただろう頃、ナガセPが呟いた

 「プロデューサー?」

 「天の光は総て敵、なんて言うつもりは流石に無い。けれども……」

 空に一条の流れ星が瞬き、爆発して消えた

 「あの光のうち、どれだけが敵なんだろう。そう思う時がある」

 「Bper、敵、ですか?」

 「……敵。遥か宇宙(ソラ)の彼方から、機動兵器と共に現れる侵略者達

 彼等にだってきっと母なる星はあるんだろう。だから、あの星の光のうち幾らがそうなんだろう、という事

 

 悪い、変なことを言った」

 少しだけバツが悪そうに、ナガセPは自分の手にある缶に口を付ける

 「ダ、ニェット……。そうかも、しれないです。だけど、そんなの、悲しいです」

 「……そう、だね。もっと明るく考えるべきだ」

 「ダー、そのとおり、です」

 空を見上げ呟くナガセPに、そうアナスタシアは頷き、貰った缶に久地を付ける

 かなり甘く暖かい、コーンポタージュの味が舌に拡がった

 「フクースナ、美味しい、です」

 「それは良かった」

 「プロデューサー、のは?」

 「ブラックコーヒーだよ。女の子が飲むものじゃない」

 苦笑するように、ナガセPは自身の缶を振る

 「アスカ、『コーヒーはブラック。それが通というものだよ』と言ってました」

 「単なる格好付けさ、それは。実際には、何時もミルクと砂糖を欠かさずに入れている」

 まあ、正直豆が悪い部分もあるけれども、とナガセPは付け加えながら笑った

 

 「プロデューサー、質問、です」

 また、二人空を眺めながら、ふと、アナスタシアは問い掛ける。ずっと気になっていた、不思議な点を

 「どうした、アナスタシア?」

 空を見上げたまま、ナガセPはしっかりとそう返す

 心配してくれている、ということはアナスタシアにも分かるのだ。けれども、それでも気になって仕方がない

 「プロデューサー、どうして、アーニャって、呼んでくれ、ないですか?」

 そう、"アナスタシア"。愛称のアーニャではなく、だ。これが、堅苦しいプロデューサーならば、理解できる。けれども、飛鳥、蘭子、幸子と年下のアイドルに対しては下の名前で呼び、あの蘭子の独特の言葉に対してであれば理解者であろうと同様の言葉遣いを取るなど、ナガセPは割とフランク……というか、柔軟に対応してくれる。なのに、アナスタシアの事だけは、一度もアーニャと呼んだことがない

 「ユウコは、ユッコって呼んでる、です

 サチコの事、冗談でさっちゃんと呼んでたのも、アーニャ、見ました」

 思わず、少しだけ声を荒げる

 どうしてなのか、解らなくて

 「なのに、アーニャって、呼んでくれない……アーニャ、淋しい、です」

 「……すまない、アナスタシア」

 ナガセPの手が、アナスタシアの、女の子としては短い銀の髪に触れる

 「……それでも、君をアーニャとは呼べない」

 けれども、返ってきたのはそんな言葉

 「アーニャ、嫌われてる、ですか?」

 アナスタシアの声が、無意識に震える

 大丈夫だ、君はアイドルとして輝ける。ナガセPは初めて出会ったとき、アナスタシアにそう言った

 不思議と、他人な気がしなくて。その深い瞳が、星のように綺麗に見えて。プロデューサーを信じたくて、アナスタシアは392プロダクションに入ると決めたのだ

 なのに、と

 

 「違うよ、アナスタシア

 嫌ってなんかいない。星のように輝いて欲しい。その言葉は嘘なんかじゃない

 ただ……」

 ふと、ナガセPは言い淀み

 「これは、私側の問題だよ」

 淋しそうな声で、そう続けた

 「プロデューサーの、問題?」

 「……そう。私には、アーニャって幼馴染が居てね。アナスタシアみたいに、綺麗な銀の髪をしていたよ」

 何処か遠くを見ながら、ナガセPはそう語る

 「ムニェー ヌラーヴィッツア」

 「……そう。何度か話したね。初恋の人だよ」

 アナスタシアも、送り迎えの際の世間話などで、聞いたことがある。あまり多くは語っていなかった、実らなかったという初恋の話

 「だから、ですか?」

 「そう。何処か似ていてね。アナスタシアをアーニャと呼んでしまうと、どうしてもあの女(ひと)を思い出す

 だから、アナスタシアはアナスタシア」

 「その、アーニャ、は」

 何時もはナガセPが語らない事、今ならば聞けるかもしれない。飛鳥も知りたいと言っていたその話を

 だから、アナスタシアはそう言葉を続け

 そして……後悔した

 「……アーニャは……」

 胸のポケットから、ナガセPは一つの御守りを取り出す

 小さな星のマークの入った、一部が赤黒い不思議な色をした、くたびれ所々解(ほつ)れた手作りだろう青い巾着式の御守り

 「彼女の両親から貰ったよ。あの子を大好きだった星空(ソラ)へ連れていってあげてくれって」

 強く、ナガセPは手を、御守りを握り締める

 逆の手に握られたコーヒーの缶が、その握力で変形する。ある程度の強度はあるはずのスチール缶が悲鳴をあげる。それにすら、ナガセPは気が付かない

 「それが、アーニャ……ですか?」

 「……こんな小さな骨になってしまったけれども、ね」

 寂しそうに、ナガセPは微笑った

 「ごめん、なさい、です」

 「アナスタシア?」

 ふと、遠い目をしていたナガセPの瞳が、アナスタシアの瞳を捉える

 「アーニャ、そんなこと、知らなくて……

 ひどい、事」

 「それは違うさ、アナスタシア」

 ナガセPの手が、優しくアナスタシアの銀髪を撫でた

 「言いもしていない事を知るなんて、ユッコじゃないんだ、そうは出来ないさ」

 「ユウコなら、出来ますか?」

 「……言い直そうか。エスパーにしか出来ないさ」

 そんな訂正に、アナスタシアはくすりとして

 「寧ろ、思い詰めてた事、言ってくれて助かったよ、アナスタシア」

 

 「そなたー?どーこーでーしーてー」

 不意に、屋上にそんな声が響いた

 「施錠時間か。少しは、分かってくれたかい?」

 左手の時計を確認しながら、ナガセPは呟く

 「もう、訊かないです。アーニャ、プロデューサーのその目、嫌です」

 御守りを出したその時のナガセPの眼にぞくり、と怖気が走った。孤独で寂しい、されども決意を湛えた……狂気の瞳

 そんなプロデューサーを、アナスタシアは見たくない。いや、392プロダクションのアイドルは誰しも見たくないだろう。此処に居るのは、その過去が何であれ、この時代にこそアイドルは必要だというナガセPの言葉を信じて集まった人間だから

 「やっぱり、ここでして」

 下駄のようなヒールの音を鳴らし、一人の翠主体の和装の少女が、雰囲気を壊すように現れる

 「……芳乃」

 「失せ物探しは、得意なのでして」

 そう微笑すると、芳乃は手にした資料をナガセPに手渡し、その一つに括った長い茶髪を尻尾のように揺らし、アナスタシアへと歩み寄る

 「お邪魔、してしまったのでして?」

 「ニェット、大丈夫、です」

 「それでは、帰りましょー」

 纏めるように、芳乃は宣言した




暫くは、アイドルとPの関係を描くこととなります。話が進むのはしばらく後ですが、お付き合いお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。