アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
ナガセPによる大仕事が発表されてから、約一週間が経ったある日
392プロダクション所属アイドル、高森藍子はひとり、街を歩いていた
「あっ、猫さん」
目的は、特に無い。ただ、ブラブラと街を歩く、それだけの事。まあ、趣味みたいなものである
たまには忙しそうなナガセPを誘ったり、何だかんだ興味がありそうな同僚……輿水幸子を誘ったりすることもあるが、今日は一人。理由はとても簡単、ナガセPは営業に朝早くから出掛けており、他のアイドル達は全員来るべき大仕事に合わせての揃ってのレッスンの日だからだ。軍基地は怖いからと元々未参加の藍子のみが得た、空いた時間、休みの日
そんな日を、ちょっと悪いなーと思いつつも、藍子は過ごしていた
今日はちょっと奥まった路地裏にある、シックで御気に入りなカフェへ行こうか
それとも、さっき見かけた猫さんを追いかけてみるのも良いかも
そう、のんびりとした昼下がり
そんな中、藍子は一組の少年少女と出会った。ちょっとはねた茶色の髪の少女と、彼の腕に自分の腕を絡めた銀髪の少女。藍子は、その二人を知っていた。ナガセPと街をお散歩したときに、紹介してもらったから
柊陽太と柊結希。まだまだ未成年で、それでも母の骨董品店を手伝っている義兄妹である
向こうも藍子に気が付いたのか、軽く頭を下げて挨拶を交わす
「高森、藍子さん……ですよね?」
「はい。高森藍子です」
「ああ、やっぱり。俺とユキの事は」
「ヨウタさんと、ユキちゃん。ちゃんと覚えてます」
ふわりと、藍子は微笑んだ
藍子が纏うとされる雰囲気はゆるふわ。346プロダクションに所属する日野茜や南条光みたいには熱くもなく激しくもなく、けれどもどこか癒される感覚。それにあてられたのかヨウタの顔が緩み、むっとしたユキに脇腹を軽く小突かれていた
「それで、お二人はどうしてお散歩に?」
話しかけられたのだから何か会話しないといけないだろう。そんな考えから、無難なものを藍子は振る
「藍子さんはどうなの?」
ユキが興味津々といったように、聞き返してきた
「ちょっと、ユキ」
「わたし、知りたい」
少しだけヨウタがたしなめるが、それでもユキは言葉を続けた
「私は……お散歩に」
「わたし、知ってる!今度は一緒に路地裏の……あれ?」
意気揚々とユキは歌いだし……直ぐに首を傾げる
それが可笑しくて、藍子は小さく微笑みを気が付くと浮かべていた
「はい。今日は皆さんお仕事で、私だけがお休みなので一人です」
「皆が仕事ってことは、カムイさんも?」
「プロデューサーさん?」
藍子は軽く首を傾げる
「プロデューサーさんなら、琴歌ちゃんのお父さん相手に営業努力してくるって、朝から事務所にいないって言ってた気がします」
「そっか、残念」
言葉に合わせ、微かにヨウタが肩を落とす
「散歩理由なんだけどさ、ユキと一緒にカムイさんを探してたんだ」
ヨウタの目線が、ユキが絡めた腕の上に乗っかるペンダントへと移る
「カムイさんに聞きたいこととかあって」
うんうん、とユキが頷く
「なら、お電話は」
「個人的な事でさ。名刺は貰ってたんだけど……プロダクション自体に電話はしたくない」
その話で、そういえばと藍子も思い出す
スカウトの際に渡された名刺には、確かにプロダクションの電話番号しか載ってなかったと
「ちょっと待って下さいね」
けれども、藍子はアイドルになると決めた後に、どうしても必要な時はとナガセPの個人番号も教えて貰っている。スマートフォンを手持ちの小さくて茶色い鞄から取り出して、電話帳からプロデューサーさんを選ぶ
数回のコールの後、不在連絡が流れ出した
「ごめんなさい、電源オフみたいです」
ぺこりと、藍子は二人に頭を軽く下げる
「あ、けど、プロデューサーさんの番号なら教えられ……」
その藍子の言葉は、突如スマートフォンから鳴り響く国家からの緊急連絡……即ち、避難警報に遮られた
ーーー(地球、392プロダクション)ーーー
「ほー」
392プロダクションを懸けた一大イベント……軍部の慰問ライブの総合練習の合間の一時間の休憩時間、何かに気が付いたように依田芳乃が頷いた
「離れた所に警報が出たみたいですね
まあ、か、カワイイボクはそんな化け物なんかに殺されたりしませんし」
「そんなこと言って、怖いんだろう、幸子」
からかうように、ソファーに座った飛鳥が言った
「カワイイボクが死んでしまうなんて、世界にとって最悪のバッドエンドなんですから、きっとないですよ!……ないですよね?」
幸子はそれを笑い飛ばそうとして、それでも少しだけ顔はひきつる
「大いなる神の盾……使うときが来たか(そういえば、この建物地下にはシェルターがあるって)」
「むむむーん!さいきっく・バリア!」
けれども、392プロダクションは郊外にあるからか警報範囲からはギリギリ外れた場所。マナーモードすら無視して警報音がなる事は無い。だからかそこまでの危機感は無く、アイドル達は思い思いに騒ぎ立てる
「コトカとモモカ、何処ですか?」
ふと、二人が居ないことに気が付き、アナスタシアがそう問い掛けた
「二人なら、急いでシェルターに行きました
大丈夫だとは思いましたが、二人は慎重みたいです」
割と真面目だからか、言葉遊びは加えず楓が返す
「何と!遅れを取ったか(見に行きましょう!)」
「……何もなければ行くことも無い場。興味はあるね」
「カワイイボクより先に避難するとは、二人とも心配性ですね!
まあ、気持ちは分からなくもないですが」
「アブリフチェーニイ、安心です」
二人とも、お偉いさんの娘である。彼女等の安全は周囲の人間にとっても重要な事。例えば、主君の娘が避難できていないならば、その護衛なり御付きの運転手なりが一人避難できるだろうか。無理だ。それでは万一の事が起こってしまった際にどうなるか分かったものではない。故に、いち早く安全を確保する事も、上に立つ者の務めの一つであるのだ
故にとっとと避難した二人を追うように自分達も行こうと騒ぐなか
ふと、芳乃の呟きを裕子は聞いた
「……あの方は、このような状況になったとしても、やはりまた戦場に立つのですなー」
ーーー(???)ーーー
「……言葉通りだな、
真っ暗で狭苦しい世界に、通信機を通して重苦しい声が響く
「よもやと思ったが、未来の襲撃を予測するその言葉は当たった
呼び込んだか?」
「冗談」
「知っている」
「これはただ、念能力者の勘に近いものさ。世界の歪みを、他人よりは先んじて関知できただけ。恐らくは今日明日辺りに、開くだろうと
私の言葉は変わらない
二度と、彼女等を喪わない、護り抜く。幾多のアイドルマスターなど不要、最低限止めを刺すのに彼女が必要だと痛感はしましたが、言葉を翻したりはしない」
「……見せて貰おう、
「要求は特機のはずですが」
「流石に、信じきれぬ相手に特機を製造するほどには御人好しでは無い。信じさせてみせろ」
「凶鳥は滅んでなど居ない。眠っていた最後の
それを世界に見せつけますよ……西園寺様」
暗闇の中、ヘルメットを被った青年は静かに起動の時を待つモニターを撫でる
「行こう、ヒュッケバインMk-Ⅱ。今度こそ、皆を護るために」
モニターに光が灯る。点滅する文字は……RTX-010-03SS
静かに、巨神に火が灯ってゆく。通信機音声以外は静かだった世界に、機械の駆動音が響き始める。
世界が、大きく開ける。鋼鉄のコクピットが、改装されたモニターに外を映し出す。392プロダクションからそこそこ離れた位置にある、一つの軍事基地。量産用テスト機であった最後の凶鳥が、その役目を終えて眠っていた地
「
その言葉と共に、凶鳥は空を舞った
用語解説