アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
392プロダクションビルから、離れているようでそこまでの距離でも無い郊外に、その古い建物はある
築16年、4階建て。水道こそ各部屋にあるものの、ガスは一階にしか存在しないという片手落ちの設計がされた、一つの寮。392プロダクションが買い上げたその場は、名を
簡易シャワーこそ流石にと2年前に各部屋を改装して取り付けたものの風呂はガスが一階のみ通っている為それなりの広さのものを皆で共用。銭湯風に夜の3時間ほど湯を用意しておくのでその時間に入る形式。台所も当然一階のみなので、ご飯も全員分が出来る人間によるローテーション式
「ほほー。わたくしに何か御用なのでしょうー?」
ナガセPから急に告げられたクイズ番組出演オファーの前日夜。明日の主役と何時もより少しだけ豪華な晩御飯(担当:高垣楓)の席で、二宮飛鳥は向かいの席に座った少女から、そう声をかけられた
「良く分かったね」
「共に歩むものたちの声、わたくしの耳には小さくとも届くものなのでしょー。特に、闇に足を踏み出そうというその時には」
「闇に!?」
「あのかたの如き言の葉の繰り方を真似れば……共に歩むあいどるの不安ならば、分からないわけが無い。なのでして」
「分からないんだ、プロデューサーが」
少しして箸を置き、飛鳥は言葉を絞り出した
「ほー、それは
「実際に行動した二宮飛鳥と、ボク自身の乖離……
プロデューサーと出会ってから、たまにボクがボクである事を疑うようになってしまった。可笑しいだろう?」
自嘲気味に声を笑わせながら、言葉を続ける
「実にナンセンス、だとしても不安は拭えないものなのさ」
「ほー。では、あのかたの最奥、それを理解したいということでしてー?」
「ダー。アーニャも、知りたいです」
和装の少女の横で、ちょっとずつ今日のデザート(プロデューサーが営業先の果物屋で貰ってきたという柚子のシャーベット)をスプーンで掬って口に入れていた銀髪の少女が、そう会話に割り込んだ
「ほほー、あのかたは大人気ですなぁ」
「……聞いておいて茶化すのは良くないんじゃないのかい?」
「おや、申し訳ありませぬー。そのような心は、無かったのでしてー」
「一つ、よろしいですかー?」
「ダー」
「それが、キミが応えてくれる条件なら、是非もないさ」
仕方ないと、飛鳥は頷き……
「それでは、話をしましょー」
けれどもその言葉は、突如響き渡った警告音に遮られた
幾つかあるアラート。そのうち、たまに鳴り響くそれには覚えがあった
一番良く起こる危険。欠けた月の破片が重力に牽かれて地上へと落下する現象……即ちコンペイトウのもの
誰かが、一階に備え付けたTV(寄贈:ナガセ・カムイ)のチャンネルを回し、何時もの報道番組に合わせる。画面の中では、アナウンサーらしき人が、今回のコンペイトウの大きさ等を真面目に報道している。その顔はあまり明るくない。淡々とした報道を心掛けるべき仕事にしては珍しい話に、飛鳥が少し興味を持っていると、重要情報が入った
『い、今しがた観測機関から来た情報によると、今回のコンペイトウの等級はメロン、め、メロン級との事です』
つっかえながら、アナウンサーはそう告げた。その顔が青い
「ちょっと!何でカワイイボクの晴れ舞台が漸く来るって時に、こんな危機が起こるんですかぁっ!」
報道を受け、自棄になったかのように桃色の髪の少女が叫ぶ
メロン級。コンペイトウはその大きさによって果物の名前で等級が区別されている。メロンといえば最大級の大きさだと、詳しく習っていなくても飛鳥にも分かる
「甘美なる、破滅の果実……」
ぽつりと、項垂れて飛鳥の親友が力なく呟く。例えもっと小さな欠片でも、迎撃出来なければ大きな被害を産む。アメリカの巨大農場にイチゴ級が落下して、数km単位で吹き飛んだというのが、数ヵ月前のテレビで報道されていた。メロン級なんてものがもしも迎撃出来ずに落ちたら、それこそ日本中が壊滅するかもしれない
暫くの沈黙
耐えきれず、誰かが不安を口にしようとして……
ぶおおおおおおおおおおおお、と。すっとんきょうな音が、静まり返った一階に響き渡った
『……臆するな、皆』
「と、いうことなのでしてー」
何処からか無かったはずの法螺貝を抱えて、和装の少女がそう告げた
突然の事に意識がそれ、少女……依田芳乃に皆の視線が集中する
その前には、視線を集めるように携帯が立てられていた。その画面の中に見えるのは、真っ暗な何処かに居るナガセPの顔。不安はなく、此方を……というか恐らくは液晶画面を見据えている。TV電話という奴であろう
「「「プロデューサー!?」」」
『だから、臆する必要はない。心配はないさ
皆は……私が護ろうと奔走する必要すら、恐らくはない
全く、何で不必要に不安を煽っているんだろうな、あの報道は』
「瞳持つ者よ。そなたの魔眼は、未来を読むのか(プロデューサーさん、どうして分かるの?)」
『……蘭子、飛鳥、皆
分かるだろう。この世界には……この国には』
「『彼等が居る』」
「ほら、来まして」
報道画面の右上辺りに表示されていた望遠カメラを、何かが横切った
「……龍と、虎……?」
『「必神火帝、天魔降伏、龍虎合体」』
和装の少女と、ナガセPの言葉が重なる
『あ、あれは一体……
カメラさん、あの光を』
アナウンサーも何かに気が付いたのかそう告げ、右上のカメラが横切った何かに寄る
夜空に輝く"合体"の文字を背に、一つになった青龍と白虎の姿を、望遠カメラが映し出した
『「無敵青龍、龍虎王」』
二人がその言葉を紡ぐ中、札から一本の剣を精製した青き龍は天から墜ちる星目掛けて飛翔を開始する
「……プロデューサー、君なのかい?」
『いや?単にこのカメラでは音声が拾えないからアテレコしているだけさ』
「あの方もわたくしも、四神とは関係ありませぬよー、よいですかー」
「聞いてみただけさ。ボクだって、あの龍の担い手の名前くらいは知っているさ、キミでないことも」
そんな茶番の間にも、龍虎王は蒼い龍の翼をほぼ羽ばたかせずに落ちてくる隕石に迫る
カメラのピントが、双方を捉えた
飛鳥の脳内の資料(バーニングPTに載っているもの)によると、龍虎王の全長は49.9mもあったはず。だというのに、カメラに全貌が収まったコンペイトウは、少なくとも直径にしてその倍はある、直径100m級の隕石であった
「ちょっ、大きっ……」
『……幸子、大丈夫だ。ボクの晴れ舞台が潰れるなんてそんな世界の損失が起きるわけ無いと笑い飛ばせ』
龍王が、その手で印を組む
「龍王炎符水」
『マグマ・ヴァサール』
その眼前から東洋竜のごとき炎が迸り、隕石を締め付けて減速させる
だが、止まらない。それだけで止める必要はない
「『龍王破山剣』・逆鱗断」
龍王は更に飛翔。遂に隕石と交差すると、手にしていた巨大な剣を減速した隕石へと叩き付ける
エネルギーが剣から迸り、隕石に無数の細かいヒビが産まれる
『……芳乃、あれは単なる破山剣だ』
「そうなのですかー?」
『逆鱗断なら、砕けていたとは思う。ただ、破片が大きすぎて危険だ』
ナガセPの良く分からない会話のうちにも、事態は進んでいく
『「順逆転身」』
龍王がその腹に取り込んでいた白虎を解放。即座に飛び出した白虎は
「虎爪回転圏」
『ヴァリアブル・ドリル』
そのまま白い虎王は右腕を回転、マグマの竜に縛られてこそいるが今も落ち続ける隕石を掘削し、その内部へと姿を消す
一拍遅れて、破山剣によって付いた無数のヒビに合わせ、隕石は粉々に爆散。中から再び転身した青龍がその偉容を現す
『……ほら、心配は無かっただろう?
飛鳥、幸子、藍子。明日は早いぞ』
それだけ言って、通話は切れた