アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
『ちぃっ!』
眼前に迫る紅の巨人
外見としては量産型ゲシュペンストMk-Ⅲ、或いはアルトアイゼン・リーゼとも呼ばれるそれに近いだろうその首を、背後より飛来した
カメラ類を喪ったその機体は、各所の傷からスパークを放ち爆散
けれども、それで終わりではない。周囲の空間を取り込み、まるで粘土から人形を組み上げるように、ぐにゃりと曲がった空間が、傷の無い巨人の姿を吐き出して元に戻る
『そうだ、それで良い……
そのまま、まるで
追撃は無し。がら空きの巨人の背にであれば攻撃を捻じ込む事は苦も無いが、今やっているのは相手を殺す為の動きではない為に見逃す
『ちょっ、カムイさん!?持つんですかこれ!』
『持たせる、それだけの話さ
さあ、良いぞ、食らいついて来い』
『色々とギリギリなんだけど!』
『それでも、だヨウタ
彼等……というか彼女等、だな。とりあえずNGsが来るまで、郊外で奴等を倒し続ける。そうでなければ、奴等は人を襲う』
周囲に見える三機の化け物を前に、そうナガセ・カムイは吐き捨てた
アインスト・イデア。コンペイトウと共に現れるようになった、今までのありとあらゆる敵と合致せぬ特性を持った脅威。その生体的な外見から、便宜上アインストの近似種ではないか、と付けられた識別名こそがアインスト・イデア。正体は未だ謎だが、その外見は基本的には地球連邦軍でも採用されているPTに準ずる。例えば、かつて街を襲ったのはタイプ・ゲシュペンスト。今眼前に居るのは、その派生であるタイプ・アルトアイゼン、そして、かつて現れた巨大で凶悪な力を持つものは、タイプ・SRXというように。基本武装等も同様に、良く似たPTの、最も一般的な武装と同等のものを備える
だが、彼等には彼等たる特徴がある。一つは、その胸部に、クリスタルが生えている事。赤青黄の三色が複雑にいりくんだ、不思議なクリスタル。性質は似ているようだが、黄色が混じっている事などからミルトカイル石という訳ではないらしく、正体は不明
第二に、その周囲及び関節部が、黒く蠢く、生体部品となっている点
そして3つめに……その胸元から、共通して黒いビームを放ってくるという点。そのビームは、決して殺傷力は高くない。生身の人間ですら、即死しない程だ。だが、撃たれた者は……狂う。どんな者であろうとも、狂気に飲まれ、二度と帰ってはこれない。その者達の魂は、狂乱して憎悪を撒き散らした果てに自己崩壊し、まつろわぬ霊達の列に加わってしまうのだ
そして、クリスタルは破壊出来ない。それが、アインスト・イデアを最悪の敵足らしめている
特定のものを除き、何を叩き込もうが、クリスタルには傷一つ付くことはない。ナガセP自体が試したことは無いが、恐らくは……あのインフィニティ・シリンダーやアカシックバスターといった因果操作、そして天上天下一撃必殺砲や縮退砲といった超破壊兵器すらも耐えるだろう。実際に、彼の記憶の中には……奥義・光刃閃、斬艦刀『一閃・星薙の太刀』、龍王破山剣・逆鱗断、玄天衝天砲・刃之型の波状攻撃による集中砲火を受けてもびくともしなかったクリスタルの姿がこびりついている。あの時は、未調整の次元断で何処か遠い宇宙へ放逐して勝ったことにしたのだったか
……だが
そんな彼等にも、欠点……いや、弱点と呼べるものが存在する
それが、システムSONG。Soul-Over-Number-Generateシステム。多少強引だが、そうこじつけた名前の機構。魂を震わせる特殊な波動を放つ歌をもって、クリスタルを浄化する特異なシステムである。それを受けたアインスト・イデアは、まるで祓われる悪霊かの如くに空気に溶け消えてゆく。まつろわぬ霊達も、何処かへ辿り着くのか姿を消す
それらの事から、彼等は負念の塊では無いのか等と言われもするが、確認は取れていない
……まあ、良いのだ、とカムイ・ナガセは考察を打ち切る
やるべき事はたったひとつ。人を襲うならば、攻撃の手をやすめず、人の居る市街地から彼等を引き剥がして対応できる者の到着を待つ
『それにしても、本当に来るんですか?』
それから、約15分。誰も、来なかった
『来る……はずだ』
『何、やってるんですか!』
15分の対多戦闘で息を切らしながら問い掛けるヨウタに、ナガセ・カムイは涼しげに、少なくともそう聞こえるように答えた
『大会の収録自体は既に終わっているはずだ
さては……勝利者インタビュー辺りにでも捕まったか』
『そんなの、アリかよ!』
『こんな時に』
『彼女等の本業はアイドルだ。その仕事は、戦場じゃない。私達が自力のみで勝てないから、その力を持つ彼女等を戦わせなければならないに過ぎない
文句を言うのは筋違いというもの
とはいえ、出来ればエネルギーが切れる前に来て欲しいものということには、同意するよ、ヨウタ!』
エネルギー切れのフォトン・ライフルSを最後の役目として投擲。それは此方を狙い放たれたタイプ・アルトアイゼン肩のスクエア・クレイモアと至近距離で接触、爆発して姿を隠す
『飛ばせ閃光、TP-ソードガイスト!』
紡ぐ言葉は適当。とりあえず、意識を特定の行動を取るのだと集中させられれば良い
両の腰にマウントした非実体剣ーロシュセイバーを起動し、念動力でもって煙の中の巨体へと発射。その腹を貫き一度撃破して時間を稼ぐ
その間にもファング・スラッシャーを飛ばし、背後から急襲を狙う二機目を牽制
『っと、ヨウタ、持つか?』
『なん……とか……』
返ってくる声には、覇気がない
無理もない話である。誘き寄せるまでに20分、それから釘付けにする為に15分ほど。味方より多い、不死身で疲れ知らずの敵相手に何の補給も無く30分。訓練を越えていない最近まで単なる一般人だった人間には酷な話だ。集中なんぞとっくの昔に切れて被弾していても可笑しくはない。ファルセイバー自体の動力は良く分からないエネルギーであり、短期的には兎も角、本格的なエネルギー切れとは無縁ではあるが、パイロットはそうではないのだから
『……来た!』
ヨウタの言葉と同時、コンソールが一つの機体信号を捉える
『いや、これは……』
けれども、それはナガセ・カムイにとっては既知であり、待っていたものではなかった
『何故この機体が此処に』
コンソール上に表示された型式番号ーワンオフ機である為識別番号も兼ねるそれは
YAM-007-1AXS。機体名、アステリオンAXS
かつてナガセ・カムイが完成させ、されども致命的な欠陥故に封印し一之瀬志希に預けたはずの機体であった
更には……
『二宮飛鳥、戦闘を開始する』
『飛鳥ちゃん、コールサインとか……』
聞こえてくるのは、とても聞き覚えのある二つの声
『飛鳥……藍子……
バカか、来るな、帰れ』
ナガセ・カムイが今度こそ護るべき、二人のアイドルの声であった