アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
二宮飛鳥は、初めての感覚に翻弄されていた
……出来る、と思っていたのだ
ナガセPは言っていた。バーニングPTは、筐体そのものがかなりPTのコクピットに近く設計されているのだ、と。実際、あのゲームでの成績から、PT乗りとして軍部にスカウトされ、優秀な結果を残している人間だって居るのだ、と。ほぼ完全にコクピットを再現したコクーン版でのプレイだってやったことはある。コクーン版を好んでプレイするナガセPに興味を持ってやってみただけの話で、あまり合わなかったが、プレイ自体は出来た
だから、だ。全国オンライン対戦ですら手も足も出ないに近い状況まで追い込まれているのを一度しか見たことがないプロデューサー程ではなくとも、飛鳥だって巨大ロボットくらい扱えるさ、と思っていたのだ
リオンシリーズはPTではなく
だが……今飛鳥に出来ることは、体勢を崩さない為に操縦管を押さえることだけであった
コクピットの揺れ、体に掛かる
それでも強がってみるが、それが意味の無い事だなんて、飛鳥自身が一番良く分かっていた
眼前のモニターに映るのは、二機の白い巨体。記憶に無いような、見たことがあるような騎士のような機体と、ナガセPの部屋に飾られていたのを借りてきた事がある自作プラモに酷似した白い凶鳥
ああ、確かにキミの言う通りのようだね、芳乃
一人ごちて、その巨人に向けて通信を行おうとして……
「きゃっ!」
機体が大きくぐらつき、後部座席に座った藍子が悲鳴をあげる
大丈夫かと声をかけることも、飛鳥には出来なかった
下手に口を開けば、舌を噛みそうで、何も言葉に出せない
それでも、と機体を動かそうとして……
猛然と弾丸のように迫り来る、紅の脅威に、身がすくんだ。アルトアイゼン・リーゼ、突撃に命を賭けたその鋼を避ける事など、咄嗟に出来る訳もなく……
『……帰れ、飛鳥』
けれども、その突貫は止められる。背後から伸ばされた鋼線……
エネルギーを最後の最後まで使い果たしたのか、切り裂いたリープ・スラッシャーは結合を解除、光を喪い、6枚の扇形のパーツとなって地面に転がる
「……プロデューサー!」
『いいから、下がれ』
更に飛鳥を狙う二機目へと大車輪の要領で背から引き抜いた刀を投擲、返す刀で左脇下まで振り下ろした右腕で更に腰を捻りながら背にマウントした鞘を掴み取り、振り上げて
『ドリルニー!って違うな』
鞘で折り取ったアルトアイゼンの角を、緑の光でもって右足膝にくくりつけ、膝蹴りでもって持ち主の腹に叩き込む
そんな戦況を飛鳥が半分呆然と見ていると機体は戦場を通り過ぎてしまい、慌てて旋回
けれどもバランスを崩し、コクピットは大きくぐらついた
『だから、帰れと』
何とか姿勢制御をした飛鳥に、無線を通してナガセPの声
「もう、敵はプロデューサーが倒したじゃないか」
『……そんな訳はない
だから、帰るんだ』
その声を無視して、ナガセPの口から真実を聞こうと、もう一度旋回をしようとして……
有り得ないものを見た
何事も無かったかのように、爆散した地点から、蘇っていた紅の機械の姿を
「どういう」
事だい、と続ける前に、コクピットを襲う大きな揺れにバランスを喪い
そのまま地面に突っ込む
「「きゃぁぁぁぁぁっ!」」
撃たれていたスクエア・クレイモアが羽根を掠めていたのだ、なんて冷静に被弾を分析する事なんて出来ず、二人してただ悲鳴をあげる
『だから帰れと……
飛鳥、ハッチを開け』
「……えっ?」
『いいから開くんだ』
言われるまま飛鳥は、地面に墜落し、それなりの距離をそう固くない大地を削りながら滑走し停止した飛行機……アステリオンAXSのコクピットハッチの開閉ボタンを押す
白い凶鳥から、翼が羽ばたく。パーソナルファイターと呼ばれるらしい、小型戦闘機型のコクピットブロックが分離、ポルターガイストのように
「飛鳥、席を空けてくれないか」
コクピットに、黒い流れ星が落ちようとしていた
「プロデューサーさん!?」
玄武剛弾!という叫びと共にその腕から竜巻のような何かが放たれ、空中で人間には普通はあり得ないはずの斜め下への落下とは逆方向への運動エネルギーを得てほぼ垂直落下へ、そのまま空中で体を捻り、言われるまま立ち上がった飛鳥の真後ろ、メインパイロット用のシートに、その流星は落ちる
ちょっと汗臭さを感じるスーツ姿の、飛鳥達を今日の収録の場まで送ってくれた時と変わらないナガセPの姿が、其処にあった
「ちょっと、プロデューサーさん!?大丈夫なんですか」
「問題ないさ、藍子
降下訓練はした」
「って、そうじゃなくて」
「友人の技の見よう見まねさ。あいつならもっとスマートにやるだろうけれども、組手のお陰で真似事なら出来る訳だな、これが」
お腹を叩く感覚に、立ったままの飛鳥はふと腰を折り、ナガセPの膝に乗せられる
「プロデューサー、この姿勢は……」
そのまま、纏めてシートベルトに抑えられた飛鳥の抗議は無視し、ナガセPはハッチを閉める
「……飛ぶぞ。私の警告を無視してここまで来たんだ、文句は言わないでおいてもらおう
地獄まで、付き合って貰う」
モニターに灯が戻る
けれど、墜落した鳥は即座には羽ばたきに戻れず、完全に蘇った三機のうち一体が、再び飛鳥達を捉え……
『セイバーナックル!』
横から、白い騎士に殴り飛ばされる
「ナイスアシスト、中々の筋だ」
「フレームは歪んでいるけれども、可変に干渉は無し。テスラ・ドライブは稼働率7割安定、SONG起動率08.7%
……全速だと機体バランスがぐちゃぐちゃになる程度か。飛べるな、AXS」
ナガセPの詞と共に、落ちた流星は一度
脳天にプロデューサーの顎が当たりそうだとか、汗臭さが近いとか、飛鳥があわあわしている間に、アステリオンAXSと名を付けられた星は、再び空を舞った