アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
「それで、だ
何故あの場に飛び込んできたのか、その訳を私に話して貰おうか。飛鳥、藍子」
それから、約30分後
飛鳥と藍子は、392プロダクション地下3階……存在しないはずの、シェルターの更に地下深くで、正座させられていた。一応、さすがに女の子相手にそれはということなのか、足下にはしっかりと柔らかなマットレスが敷いてはある
「カムイさん、その程度で」
「ヨウタ、悪いがこれは私の問題だ。一歩間違えれば、二人とも死んでいたんだから、優しくする訳にもいかない」
「来てくれなければ死んでたかもしれないのは同じ」
「いや、面白そうだからインタビュー長引かせてNGsの出撃を止めたと志希が吐いた
単なる人災でしかなかった訳さ、あの長期戦は。手札の出し惜しみと、それに伴う君の力が無ければという煽り
……面白い人だからきっと生き残る、と信じられるのも困りもの、という話だろう」
後で絞める、と。青年は物騒に締めた
「そもそもプロデューサー、あれは……」
結局、今に至るまで何も分からなくて
だから、飛鳥はそう問い掛けた
「今見えているキミは、ボクのように演じたもの。そう思う事は、確かにあった。だからこそ、ボクはキミを共鳴者として認めた
あれが、隠していた真実だというのかい?」
「その通りだよ、飛鳥
……いや、違うかな」
自嘲的に、青年は笑う。どこか、空虚に。遠く届かぬ場所へ向けたように
「今度こそ、誰も喪わないために。二度と、希望の灯火を消させない為に。ならばこの手で護り育てよう。私の手は、どこまでも届くような大きなものではないのだから。せめてこの小さな掌の中に。その意志を汲んで下さったから、私は今芳乃様の手でプロデューサーをやれている
プロデューサーとしての神威流星。プロジェクトプロメテウスの一員だった神威流星。神の盾に選ばれながら、何も護れなかった情けないパイロット、ナガセ・カムイ。その全部が、偽りの無い私だ」
「……キミは、軍人なのかい」
「……小樽響導。君は、私の部屋にこっそり忍び込んだ際に、見たことがあるだろう、私の卒業校を。10代から30代の、PTに乗っても体が持つだろう世代を集めた、家族も家も何もかも喪い、他に行き場の無い者達の為の軍学校。私はそこの出さ。家も焼けて、お金も全部燃えて。保証してくれる行政は、もうロシアの片田舎にまで手が及んでいなくてね。だから、敵を撃破しスコアさえ出せば学費が免除される軍学校に行った。護りたい人も居たから、居心地は……良かったよ。卒業までに戦死しなかったのは、単に運だろうけどね
こんなのがプロデューサーとしてやれてるのも、高垣楓という絶対的なエースと、芳乃様のお陰という訳さ
すまなかった、飛鳥」
「何を、謝る必要があるんだい、プロデューサー」
「バーニングPTの事さ
複雑なコクーン式が得意なのも、強いのも当たり前、本気で命のやり取りをする為の訓練を受けてきた本職という訳だからね。それでハンデ無しでゲームをプレイするなんて、昔はプロリーグが二つあったらしい大人気スポーツ、野球のプロが草野球の試合で本気を出すようなもの。大人げないにも、程があった」
「……謝るのは、そこなのか」
「私は、私に嘘をついたことは無いさ
だから、大人げない行動だった以外に、謝る事はない」
「プロデューサーさんは、これからどうするんですか?」
しばらくして、飛鳥の横の少女がそう問い掛けた
飛鳥には、言葉を発する気力が無かった
「どうもしないよ
これまで通り、さ。いや、向こうには話を通して、ヨウタを雇う事にしたから少しは変わるか」
「どうも、しないんですか?」
「藍子
休みのあの日見ただろう白い巨人は私だ。だとして、この数日、私は何か変わったかい?」
「変わった所は無かったね」
「だろう、飛鳥
だから私は、これからも二足のわらじを履き続けるさ」
ふと、ナガセPはにわかに足を引く。目線を合わせるように、腰を落として飛鳥達に合わせる
「とはいえ、それは許してくれる人々が居てこそ。志希も西園寺様も芳乃様もいなければ、こんな事は無理だろう
とはいえ、ここまで知ってしまった以上、道は二つしかない
何もかも忘れて、生きていくか。それとも、私と同じく二足の……いや、学生、アイドル、そしてアイドルマスター、三足のわらじを履くか。二つに、ひとつ。私としては、忘れることを選んでくれた方が良いのだけれども、ね
飛鳥、藍子。どちらを選ぶ?」
片膝を付き、いつになく真剣な表情で、青年はそう問い掛けた
「ボクは」
迷うまでもない。ずっと、痛いヤツだと自覚しながら、それでもどこかズレた非日常を、飛鳥は生きようとしてきたのだから。それを理解してくれたような
少し前まで、飛鳥を膝の上に乗せていた彼は、どこまでも真剣で。大きな隠し事をしていたとか、仮面被っていたとか、不満はあるけれども、それは自分だって同じだろうと思える。だから、信頼は揺るがない
「やるよ、三足のわらじを、ね。痛いヤツの言葉が現実に起こる。けれども、それを知るものは少ない、悪くない状況だろう?」