アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
「そなたー、また、新しくあいどるを迎えたのでして?」
「ああ。次に来るのは……二日後だな」
「ずいぶんと、あいどるも増えました。最初は、そなたと、わたくしと、ちひろさんと、あと二人でしたのに」
「……遂に、所属アイドルでサッカーチームを組める、か。感慨深いな」
「そなたの背中の翼は、皆を守れるほど大きいと良いのですがー」
「さあ、どうだろう。ただ、私の手が届いた。それだけは確か
……守ってみせるさ、絶対に」
「……やあ、奇遇だね、プロデューサー」
「ああ、御早う、飛鳥。今日は休みだろう?」
飛鳥の存在に気が付き、しっかりとプロデューサー……ナガセ・カムイが応える
「そうだね。今日は祝祭の日……ボクが此処でやるべき事は何もない」
「はて?でしたら、なにゆえ此処まで来たのでして?」
そんな飛鳥の答えに、ナガセPと言葉を交わしていた和装の少女……依田芳乃が、首を傾げた
16歳、飛鳥の二つ上だというけれども幼さのあるあどけない顔立ち。和装の事が多い事と、腰まであるサラサラとした茶髪と合わさって、日本人形のようにも思える少女。けれども、飛鳥は良く知っている
彼女は、この392プロダクションの初期から居る、先輩アイドルなのだと。そして、彼女こそが、彼が
「何をすべきかを探しに、さ。これで十分な答えかな、依田先輩」
「なるほどー」
得心がいったように、芳乃は頷く。けれども、その後に続く言葉は、飛鳥にとって意表を突かれる言葉だった
「つまりー、飛鳥さんは、プロデューサーを探しに来たのでして?」
「な、何でそうなる!」
図星である
「飛鳥さんがわざわざ此処まで会いに来るのは、プロデューサーだけなのでしてー
一人では淋しく、この好き日を共に過ごす者として」
「ボクだって、友達は……居るさ」
深く話せるのは、プロデューサーと蘭子だけ。他はまだ、そういうレベルじゃない。けれども、飛鳥は反論する
「しかしー、蘭子さんは、今日はお仕事」
「……それ、暗にボクには蘭子しか友達が居ないと言ってないかい?」
「飛鳥さんは、数少ない心を許した人と、深く繋がる人ではないのでして?
わたくしは、そういう有り様も飛鳥さんには合っていて、善き、と」
「ストップだ、芳乃、飛鳥。昼だというのに長くなる」
芳乃の言葉を、ナガセPが遮った
「午後は、久しぶりの休みだ。来るか、飛鳥?」
「君は、ボクに何をさせる気かな、プロデューサー?」
「こんな日に、私がやることなんて何時も決まっているだろう?たまには本格的にやらないと、体が
「……受けて立つよ。けど、ボクを前のボクと思わない事だよ、プロデューサー」
「……協力の事の方が多いけどな
芳乃は?」
ナガセPが、横に立つ少女に問う
「わたくしは、ああいうのは不得手、なのでして
本日は、そなたから貰ったおせんべで、ゆるりと」
そう告げて、おせんべおせんべと何時もより少し軽い足取りで392プロダクションの建物に入っていく芳乃を、飛鳥は見送った
「さあ、往こうか」
『私もジョーカーを切らせて貰おう……!』
その言葉が響くと共に、数発のチャフが、飛鳥の視界を埋めた
「くっ、プロデューサー」
直接的な攻撃ではない。飛鳥にだってこの先を回避すればまだ勝機はある。それが、どれだけ絶望的だとしても。だから、飛鳥は自身の機体……グルンガストのブースターを吹かし……
だが、その動きは阻まれる
『この距離……取ったぞ!』
吹き荒れる、鋼鉄の弾丸の嵐によって
チタン製のベアリング弾だ。後方から放たれた無数のそれがグルンガストを乱打し、動きを封じていた
『伊達や酔狂ではない』
スクエア・クレイモアの嵐を抜け、何とか迎え撃つ為に機体を捻ろうとする
飛鳥の視界に飛び込んできたのは、全速力で突貫してくる赤い弾丸だった
アルトアイゼン、突破力に全てを懸けた赤い
アルトアイゼンの圧倒的な推進力に押し負け、グルンガストの青い機体が押し出される。ヒートホーンを突き刺されたまま、ビルへと突っ込んで……
『残り全弾、持っていけ!』
赤い弾丸が肩口のハッチを解放。自身にも反動が来ることを構わず、再度ベアリング弾をばら蒔く
青いロボットの体が、ビルを崩して更に吹き飛ばされる
「ウィングガスト……」
『遅い!獲った!撃ち尽くせ、Mk-Ⅲ!』
退くために、飛鳥が取った行動は撤退。空飛ぶ鳥の姿に機体を変化させ、移動を目論む
だが、その変形すらも、未だ速度を緩めない赤い機体から放たれたネットによって阻まれた。更に、アルトアイゼン左手のマシンキャノンの弾丸が、変形しかけで露出した機構へと突き刺さる
『リボルビング・ステーク!』
完全に止まった動きを見逃さず、高速で接近した赤い弾丸は、右腕に取り付けられた最大の特徴……パイルバンカーを撃ち込む!
杭が、遂に完全に装甲を貫いて突き刺さる。そのまま、推進力をもってグルンガストを持ち上げ、ビームカートリッジを解放。二度の衝撃波が、モニターを揺らす
『これが、私なりの切り札だ……』
そんな声と、薬莢が落ちる音が聞こえる中
飛鳥は呆然と、You Loseと表示されたゲーム筐体……バーニング
「……酷くないかい?」
横のコクーン型の筐体……バーニングPTの特別仕様(何でも、可能な限り本物のPTのコクピットを再現しているらしい)から降りてくる人影を見るなり、飛鳥はそう愚痴った
「本気を出して欲しそうだったから、出した」
「確かにボクの言葉がそうだったのは認めよう。けれども、流石にアレは酷すぎる。まさか、一度も落とせないなんて……」
バーニングPT、1on1コスト制。それが飛鳥がやっていたアーケードゲームだ。登録された中から好きなロボットを選び、店内や遠くの人と1vs1で対決する、それがそのゲームの概要だ。コスト制というのは、バランス調整の一種。性能が大きく違うロボット間のバランスを取るために、何度まで倒されて良いかを変える手段である。最大コストは9000であり、これがゼロにならない限り、倒されても再出撃出来る。そしてロボットには其々倒された時にどれだけのコストを消費するかが決められているのだ。例えば飛鳥が使った機体……グルンガストはコスト3000で3回倒されたら終わりだし、ナガセPが使ったアルトアイゼンはコスト2300で4回倒されたら負けになる訳だ。当然ながら、その分基本的な性能はグルンガストの方が上なのだが……
「一度落としたじゃないか、飛鳥」
結果は惨敗そのもの。ナガセPにコスト6700を残されたまま、全コストを削り取られた
「プロデューサー、ボクにだってアレが、ボクが落とした訳じゃない事は分かっているよ」
肩を竦めて、飛鳥は告げた
そう。コスト6700。アルトアイゼン一機分の2300、確かに削ったのは確かなのだが
「余裕があったからリロード目的で落ちただけじゃないか」
当然、ロボットなのだから武器のエネルギーや弾数がリソースとして存在する。それが切れるとその武器は使えない。ゲームなので母艦に帰らずに回復する方法はあるのだが、時間が掛かるしスキも大きい。その点、倒されて再出撃した場合、全武装が完全な状態からになる
だからナガセPは、わざとエネルギーを切らせる為に大技を誘い、そのまま受けて落ちたのだ。大半使いきった武装をリロードする為に
つまり、完敗。飛鳥もある程度上手くなったと思っていたのだが、結果はどうしようもなかった
「反則だね。キミが禁止機体になるべきだよ」
自分をこの道に誘った相手へ、少しの不満を込めて、飛鳥は貼り紙を見ながらぼやいた
貼り紙の内容は、バーニングPTにおけるグランゾン使用禁止と弱体化調整を望む署名を集めているという、まあ、バランス崩壊キャラが居る場合たまにあるものだった
けれども、飛鳥は見たことがある。今の貼り紙が既に張られていた1週間前、パイロットが素人のグランゾンなんてあまり怖くないとグランゾンと渡り合っていたナガセPの姿を
「酷い言われようだ」
「……戦闘という非日常は、確かにボクの心に響いたさ
けど、キミは遠すぎるよ、プロデューサー」