アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
「ユキ」
現れた少女に向けて、ヨウタは笑いかけた
それで、飛鳥にも理解できる。おそらくは、彼女はヨウタの家族なのだろう、と
「プロデューサー、ひょっとしてコナかけたのかい?」
「かけたさ。当たり前だろう?」
イタズラっぽく、ナガセPは笑ってその言葉を肯定した。悪びれる事もなく
「ボクが言うことじゃないけれども、手を伸ばしすぎると、零れるものもあるものさ、プロデューサー」
「溢しはしない。自分の手の届く範囲は知っているつもりだ、飛鳥」
「あっ、カムイ……さん」
ナガセPを見て、僅かに銀髪の少女が固まる
無理もない、と飛鳥は感じた。恐らくは、まだ返事を決めてない段階。アイドルにならないともなるとも言っていない現状で、スカウトしにきた当人と会えば、やはり気まずいだろう
けれども、ナガセPはそれを気にせずに話を進める
「柊結希さん。焦らなくて良い
私は、単純に此方の用事で訪ねただけの事。返事を聞きに来た訳じゃないさ。寧ろ」
ちらり、とナガセPはヨウタを見る
「此方の事を知らずに、というのも悪かった。ヨウタに渡したチケットで、此方を……392のアイドル達を見てくれ。そして、決めてくれ。自分の道を」
「道はしっかりと決めるもの、わたし、覚えた!」
ナガセPに応じるように頷いた少女……ユキの胸元で、キラリと青い石のペンダントが揺れた
「……綺麗な石だね」
会話の糸口として、飛鳥はそう口にする。それ以外に、入り込む言葉が思い付かなかったから
「?あげないよ、これはわたしのだから」
「いや、ボクは……」
「ユキが初めてあった時からずっと身に付けてるんです。運命の石とか呼んでました」
余程大切なものなのか、右手できゅっと握りこむユキに代わり、兄らしきヨウタがそう教えてくれる
「運命の石……」
「……不思議な力を感じるものではあるさ」
私にも、詳しくは解らないけれども、とナガセPが言葉を続ける
「カムイさん、解りそうな事は」
「それこそ、鋼龍戦隊にでも話を付けて、研究所で調べてもらったりしなければ難しいだろう
とはいえ、ユキ君はそれを望まない、そうじゃないか?」
「はい。きっと」
ヨウタが、ナガセPの言葉に頷く
「そう言えば、プロデューサー」
ふと、思い返した言葉に引っ掛かるものがあり、飛鳥はナガセPの袖を引く
「初めて会った時からって、彼等は兄妹じゃないのかい?」
「わたし?分かんない」
飛鳥の言葉に、ユキは首を傾げる
「記憶喪失らしい。半年前以前の事は何も分からず、この家に保護されてる」
「成る程ね。……確かにあの石は重要だ」
納得するように、飛鳥は頷く
記憶喪失前から身に付けていたかもしれないもの。それは、記憶を呼び覚ます鍵になりうるものだから
その瞬間、飛鳥の耳に爆発音が響き渡った
「なになに?地震?」
「明らかに違うだろうが!」
二人のヒイラギ達の言葉は、何処か遠く
夕方に入り始めた街に、影が落ちる
その影の主は、4機の同一の姿の巨体
黒いボディ、各所には赤が見え、下半身は蜂か何かのようであり足は無く。特徴的な巨大な両の腕は、鋏のような銀色のクロー。背中には、紫のエネルギーを撒き散らすブースターがある
飛鳥が見たことの無い機体。いや、他ならば見たことがあるのかというとそうでもないのだが
「パーソナルトルーパーじゃない。これが、話に聞く百邪なのか?」
「……デスト、ルーク?」
飛鳥の横で、立ち尽くしていたナガセPが、呆然とそう言った
「知っているのかい、プロデューサー」
「名前だけだ」
ナガセPが、手を差し出す
「逃げるぞ、飛鳥、ヨウタ、ユキ」
「逃げるって、何処へ」
「シェルター以外にあるのか?」
「けど、まだあれが何なのかも」
言いかけたヨウタの言葉が終わる前に、黒い巨体の左腕から一条のビームが迸る
それは、街並みの中佇む家に当たると爆発、一つの家を焼き払った
明らかな敵対行動。少なくとも、地球連邦軍の新兵器実験等では有り得ない事は確定する
「……この反応は」
何者かの声が聞こえた気がした
「……ヨウタ。状況が変わった。家に地下は?」
「あるけど……」
「そこに避難する。良いか?」
「いや、良いけど」
「ならば、善は急げだ」
ナガセPの僅かに震える手が、飛鳥の手を引いた
「やまないね、爆発音」
地下に避難させて貰ってから数分後。ユキがぽつりと呟く
周囲から、あの黒い機体が離れていった感じはない。街を焼き払うビームの爆発音は、今も近くで続いていた
「大丈夫だ、ユキ
きっと俺達は助かる。連邦軍が来てくれるさ」
そう義妹を励ますヨウタの言葉も、やはり震えている。少なくとも、確信している感じはない
「ほら、その石も無くさないようにちゃんと持ってろ。大切なものなんだろう」
ヨウタの手が、ユキのペンダントに触れる
「プロデューサー、これからどうするんだい」
そんな中、飛鳥は一人奥歯を噛み締めるナガセPに言葉を掛けた
「……武……う……え、居……れば」
「プロデューサー?」
「いや、悪い。このまま連邦軍が来るのを待つ。それしかない
地下に避難したのも時間稼ぎだ。少なくとも、あのままシェルターまで行くよりは隠れやすい」
「そんな受け身な……うわっ!」
突然の大きな揺れに、飛鳥は体勢を崩しかけ、ナガセPの震える手に抱き止められる
「せめて、PTさえあれば……力さえ、俺にあれば……」
その声は、震えていた。何時ものプロデューサーが使う私でなく、俺という不思議な一人称も含めて、何処か遠くにナガセPを感じる
「こんな時、父さんがいてくれれば……きっと……」
ヨウタの呟きに、一層ナガセPの手に、力が籠った
「プロデューサー。ボク達は単なる一般人さ。ヒーローなんかでありはしない」
「……今はそうだ、でも」
「……けど」
飛鳥の言葉に返すように、男達はそう呟き
「けど、それでも守りたい……
例え父さんみたいになれなくても」
「……ヨウタ?」
ナガセPが何かに気が付いたかのように、ふとその名前を呟く
「俺の目に映る人くらいは、俺自身の手で……!」
その瞬間、ビームが床を突き破り地下まで降り注ぎ
「君の意志、私に届いた」
光と共に、そんな言葉が聞こえてきた
「!?この声は……」
「わたしの石から、聞こえてくる……?」
「……そうか。お前だったのか……」
ナガセPが、光に包まれるヒイラギの二人を見ながら、頷く
「今ある運命を切り開くというならば、私の名を呼べ!」
再度石から聞こえる、重く、威厳のある声
「私の名は……!」
おいてけぼりの飛鳥の横で、二人の男の声が混ざりあい、響いた
「「ファルセイバァァァァァァッ!」」