アイドルマスターOG CINDERELLA XENOGLOSSIA 作:雨在新人
アナスタシアー始まりの前に
「ドーブラエ ウートラ!おはようございます、アスカ」
二宮飛鳥が、ナガセPとお出掛けしたその翌日、まだ朝靄が消えきっていない頃
アナスタシアは、事務所までやって来た飛鳥にそう声を掛けた
「ああ、お早う、アーニャ。早いね」
雰囲気の似た蘭子とは異なり、あまり表情を変えず、けれども微かに微笑んで、飛鳥も挨拶を返す
「皆様、おはよう御座いますですわ」
その飛鳥の後ろから、アナスタシアの知らない金髪の少女が顔を出した
「あら?」
少女も、アナスタシアを知らないのだろう。小首を傾げている
「プロデューサーが、今日は居ないと言っていたアイドルの方ですわね」
けれども、納得がいったのか、少女はアナスタシアの目を見て、そう言った
アナスタシアも、それで理解する。またナガセPが新しいアイドルをスカウトしてきたのだ、と
「ラズリシーチェ プリスターヴィッツア、はじめまして」
ならば、飛鳥達のようにアナスタシアの後輩に当たる。なので、まずは自己紹介から、とアナスタシアは口を開く
「ロシア語……ですの?わたくし、ロシア語はちょっと」
「気にすることは無いよ、アーニャは日本語でも分かってくれる」
初対面にはちょっと、と思うも、飛鳥がフォローを入れてくれたので、そのままアナスタシアは自己紹介を続ける
「ミニャ ザウート、私の名前は……アナスタシア。アーニャ、って呼んで、ください」
「アナスタシアさん、ですのね。宜しくですわ、アーニャさん
わたくしは櫻井桃華。今日から本格的にこの392プロダクションにお世話になることになった新米アイドルですの」
その12歳くらいだろう少女……櫻井桃華は、綺麗な所作で御辞儀をする。ふわりと、その柔らかな金髪が揺れた
「サクライ……アーニャ、サクライの香水、使ってます」
「ええ。その櫻井ですわ。とはいっても、アイドルとしての櫻井桃華はまだ新米、かしこまらなくてもよろしくてよ」
「それにしても、早いね、アーニャ」
挨拶が一段落ついた頃、そう飛鳥が語りかけてくる
ふと、事務所二階の時計を見ると、朝の8時を過ぎたところ
「プロデューサーから届いた集合のメールには、9時とありましたわ
それでは、飛鳥さん。わたくしは書類を提出しなければなりませんので、一度失礼しますわ」
しっかりした少女は手さげの鞄と共に部屋を出ていき、部屋にはアナスタシアと飛鳥だけが残される
「アスカこそ、早いです」
だから、話を続けるために、アナスタシアもそう返す
なんだかんだ勤勉な幸子が来るのが集合の20分前。遅れそうになりながら堀裕子が来るのが1分前。この392プロダクションの集合事情はこんなものだ。集合1時間も前に二人居るというのは、どこか可笑しい
「ボクは、少しね……」
そう告げる飛鳥は、いつもより歯切れが悪い
「プロデューサーと、おでかけした、聞きました」
「そのことさ。覚えていないんだ、全然ね
プロデューサーとゲームセンターに行って、その後骨董品店に行ったのは覚えている。けれども、あの後何があったのか、ボクはそれを覚えていない」
「大変、です」
「気が付いた時、そこは既に夜闇に支配された世界。ボクはこの事務所のソファーに寝かされていた。さすがに遅いからということで、プロデューサーの車で送って貰ったけど」
「やっぱり、気になった……ですか?」
「そういうことさ、アーニャ。だから、プロデューサーから話を聞きたくて、ね
アーニャは?」
「アーニャ、聞きました。アスカがプロデューサーと遊びに行ったって」
「我が友よ!その魂は未だ闇に……(飛鳥ちゃん、無事!?)」
「蘭子!?」
突如として、部屋に飛び込んできたのは、黒いフリルの服を身に付けた少女だった
「どうしたんだ、そんなに慌てて……」
「……ああ、この御霊を奪わぬ事、感謝してもしきれぬ……(飛鳥ちゃん、無事でよかった……)」
「うわっ、蘭子、そんなに……」
その少女……神崎蘭子は、そのまま飛鳥に飛び付くと、その体を抱き締める
その存在を、生存を、確認するように
「……だから、大丈夫だと送っただろう、蘭子」
その後ろから、寝癖の消えてない髪をそのままに、金髪の青年が蘭子の肩に手を置いた
「プロデューサー?これは……」
「……飛鳥、これだ」
そう言って、ナガセPは左手に抱えたタブレットの画面を飛鳥、そして何事かと近付いたアナスタシアへと向ける
そこに載っているのは、今日の朝のニュース。昨日の夕方に起こったという、この街での一つの事件……新種の化け物の出現に関するものだった。生物的な印象も受ける、胸にクリスタルが埋まったロボットの化け物の航空写真が、一面に載っている
「これは……」
「飛鳥、一つ聞く。携帯は見たか?」
目を閉じ、何かを思い出そうとする飛鳥に、ナガセPが問い掛ける
「見たさ。新着が無いかはね」
「そのせいだろうな。私も、2回ほど連絡を送った。当然ながら、蘭子も何度か送っただろう」
「ボクの携帯には何も」
蘭子に抱き着かれたまま、飛鳥がスマートフォンを取りだし、そして愕然とする
「……電波が、通ってない……」
その言葉に、ナガセPは苦笑する
「そんなことだと思った。ダウンロードした音楽を聴く分には、一部壊れていても問題はないから、気がつかないかも、と
けれども」
ちらり、とナガセPは抱き付いたままの蘭子を見る
「この化け物の精神波に当てられたのか気を失ったと聞いた蘭子からしてみれば、返事が無いのは恐怖でしかない
私は大丈夫だといっていたけれども、ひょっとしたら、もしかしたら。再発したのかもしれない。遅延式なのかもしれない。と」
「成程ね。確かに、ボクだってそんな状況なら不安になる」
状況を呑み込んだのか、飛鳥が、蘭子の背を軽く擦る
「心配掛けたね、蘭子」
「アーニャも、気になってた、です。これで、解決、ですね」
締めるように、アナスタシアはそう言った
「……プロデューサー、昨日の事は」
暫くして、蘭子が落ち着いた頃。飛鳥は、小さな櫛で髪を解き、寝癖を直したプロデューサーに言葉を投げ掛けた
「言った通りだ。あの化け物の精神波を受けて、飛鳥は気を失った。そのせいか、その直前の記憶が混濁してしまったんだろう」
「……それは、真実かい、プロデューサー」
「真実だ。実際、そういった影響を受けた人間は他にも居る」
そう言って、ナガセPはタブレットをスクロールする
確かに、その記事内には、ふと意識が遠くなった者達の言葉も記載されていた
「確かに、そうだね。けれども、そんな事が本当にあり得るのかい?」
「あり得るともさ、飛鳥」
ナガセPの視線が、一瞬飛鳥から外れた
「念動力は、連邦軍の特殊部隊では実用化されているものだよ。化け物が持っていても、何も可笑しいことはない」
「……確かにそうだね、プロデューサー。これ以上言っても、仕方はない事だね」
大人しく、飛鳥は引き下がる
けれども、アナスタシアの感じる空気は、何処と無く澱んでいて
「カワイイボク、登場です!」
「ドーブラエ ウートラ!おはようございます、サチコ」
時間は、思ったより経っていたのだろう。20分前に来る薄桃色の髪の少女、輿水幸子が雰囲気を変える風のように、部屋に入ってきた
「皆さん、今日は早いですね。そんなに長くボクと居たかったんですか?
まあ、ボクはカワイイですからね」
気が付くと、何処と無く澱んでいた空気は、何処にも無かった
櫻井家が香水事業に手を出してるのはオリジナル設定です。この先も、こういったオリジナル設定は多用されますが、ご了承下さい