皇国の守護銃   作:キノコ飼育委員

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調査部隊・南

澄み渡る青空を静かに進む巨大な飛行物体があった。

 

機動ドーム周辺の調査のために出撃した計8隻の空中戦艦の一隻である。

 

シュリアン少佐が艦長を勤めるこの艦は、機動ドームより南、火山とは逆を目指して進んでいた。

 

 

その戦艦奥深くに完全格納してあるここ管制室では、暗い闇の中計器類の光のみが士官達の顔を照らす。

 

もともとは上部艦橋と下部艦橋にて対地、対空指揮を個別、連携して執るという方式だったが、シド元帥がその方式を改め、上部艦橋と下部艦橋にて集められた情報をもとに、重装甲に守られた内部にて全体の指揮を執ることになったのだ。

 

「シュリアン少佐! 右舷前方に集落と思わしき建造物群を発見しました!」

 

「映像に出せ」

 

軽い電子音が鳴り、管制室の前方の画面に外の様子が映る。

 

一目見た時の第一印象は、良く言って『牧歌的』、悪く言って『ド田舎』。

 

石と木造の建造物群と、三角に尖った屋根の白い建物。牧草地や畑のような物も見える。

 

これが『牧歌的』。

 

『ド田舎』と思った部分は街灯や娯楽施設らしき物が無く、さらに集落自体の規模の小ささだ。

 

皇国のように機械化はされていないようだ。

 

雰囲気的には忌まわしき魔法文明の『朱雀』に近いが、それにしては『玄武』のような石造りの家が多い。

 

畑と集落の規模の差から恐らく農村だろうか。

 

どこを見ても元の世界のようにはっきりとした国の特徴(『朱雀』なら赤レンガ、『蒼龍』なら空の上)が見られない。

 

 

 

ただひとつ、『異常』にして軍人にとっては『見慣れた』点は――――――

 

 

「これは……戦闘か?」

 

その集落が、不吉な黒煙を上げていたことだ。

 

凄まじく体格のいい、ほぼ裸の蛮族が村を破壊しているのだ。

 

村人達は白塗りの、屋根に十字の飾りがついた建物に立て籠っていた。

 

入り口には家財道具などで簡易的なバリケードが作られており、鍬や棒に投石、煮たった油に一部は猟師だろうか、弓などで屋根から攻撃を加えていた。

 

しかし蛮族には全く通用していないようで、バリケードが徐々に崩されている。

 

いや、そもそもその蛮族達は人間だろうか?

 

いや、人間ではない。

 

成人男性より体格が大きく、しかし腹は突き出ており、ムキムキの四肢が妙にアンバランスだ。

 

裸と言っても腰巻きはあるらしい。武器は片手に握ったこん棒。ただしこん棒はその体格に合わせてかなりデカイ。

 

だがそんなものは玄武騎士で見慣れている。

むしろ剣に鎧に盾を装備してる分玄武騎士の方が厄介だろう。

 

しかし、管制室の者は目を向いて驚愕していた。

 

何故なら、頭が、ブタ(・・)だったから。

 

しかも、撲殺された人間の死体を喰っている。

 

このまま行けば立て籠る人々も同じ運命を辿るだろう。

 

「少佐! 非戦闘員と思われる村民が未確認生命体により攻撃されています!」

 

「モンスターの駆逐を進言します!!」

 

いきり立つ若い尉官達に、シュリアン少佐は厳しい眼を向ける。

 

「我々の任務は『ドーム』周辺の調査だ。皇国民でもない人間を助ける義理はない。それにこの世界の支配種族が人間であるとは限らんのだぞ」

 

それに管制室の者ははっとした。

 

そう、ここは異世界だ。

 

人間が世界を支配してるとは限らないのだ。

 

もしかしたら、(考えたくはないが)このブタどもが世界の覇者かもしれないのだ。

 

それを攻撃するというのはつまり、この世界との全面戦争のきっかけになることを意味する。

 

とても一軍人に決められることではない。

 

 

「「「…………」」」

 

静まり返る管制室。

 

頭では理解できても心情的に、例え他国の者だろうとモンスターに喰われるのを放っておくのは忍びないのだ、戦う力を持つ軍人として。

もちろん、命令が下れば女子供にも容赦はしない。

だが“だからこそ”、という感情がある。

 

そしてシュリアン少佐は続けた。

 

「もしそんな世界なら……間違いなく遠からず戦争になるな」

 

当然の帰結だと言う風に。

 

「は?」

 

「考えてもみろ、我々とて人間だ。つまり奴等にとっては餌だ。ならばどちらかが滅ぶまで戦うしかない。ならば今のうちに敵の戦力を把握しておくのは間違っていない。村民からこの世界の事情も聞けるやもしれん」

 

「で、では……」

 

「……シド様に許可を求める。回線を急ぎ本国に繋げ!」

 

「ハッ!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「許可する」

 

『さらに敵の戦力分析にもつながり……は?』

 

「許可すると言った。速やかにモンスターを駆逐し村民を救助、情報を収集せよ。なおモンスターは一匹も逃がすな。可能ならば生け捕りにし連れてこい」

 

『ハッ! 了解しました!!』

 

通信が切れ、つい笑いがこぼれた。

 

「……フ、オークが世界の支配層?」

 

その可能性は限りなく低い。

 

何故なら……

 

「平行世界の中には獣人が支配する世界は確かにあったが……蛮族の治める世界は無かったぞ」

 

そう、俺の前世はゲームで言うとスパロボみたいな世界だ。

 

大量の魔法~機械文明が混ざって混沌としてるが。

 

で、その世界には獣の支配する世界はなかった。

 

いずれの世界もその世界で最も高度な文明を有する種族が支配していた。

 

聞けばオークたちの装備は腰布、こん棒。

 

世界を支配するには文明が足りんな。

 

それに……

 

「仮にそんな蛮族が支配する世界だったとしたら、シュリアン少佐の言ではないが確かに戦争は避けられんだろう……大義名分が手に入って万々歳だがな」

 

皇国は、農業国家ではない。

 

侵略国家だ。

 

領土は痩せ細っており、限界まで耕作機械を発達させても無駄、ゆえに他国で細かく略奪を繰り返してきた歴史を持つ。

 

完全に自給していたものといえばウォッカくらいだ。

 

「侵略せねば成り立たん……少なくとも、この世界での地盤を固めるまでは、な」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「これより本艦は戦闘に入る。目的はモンスターの駆逐、並びに村民の保護! 総員、第一種戦闘配置につけ!!」

 

「了解! 『(ヴィーッ! ヴィーッ!)総員第一種戦闘配置!! 繰り返す! 総員ただちに第一種戦闘配置!!』」

 

「ヴァンダム少尉、出ろ」

 

「ハッ! ヴァンダム小隊、出撃します!!」

 

指示を受け管制室から飛び出していく強化兵、ヴァンダム少尉。

 

「念のためだ、エルネスト少尉にも出撃用意をさせろ」

 

「了解、『管制室より第四格納庫へ、エルネスト小隊はリフトにて待機してください』」

 

そこまで指示を出した後、シュリアン少佐は傍らで直立不動のままである兵士を見る。

 

「……バヨネット大尉、正確な敵の戦力把握の為、お前は待機してもらうぞ」

 

「ハッ!」

 

背中に二本の電斧を装備した『ノア・コマンド』が一人、バヨネット大尉だ。

 

 

『(ザッ……)ヴァンダム隊出撃用意完了! いつでもいけます!!』

 

「よし、リフトを降ろせ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「クソッ!! どうしてオークがこんなに!」

 

「知るかよ! お貴族様の取り零しだろ!」

 

「ちくしょうちくしょう!!!!」

 

破れかぶれに扉を押さえる青年達。

 

村の中心に建てられた教会、そこにこの村の人々は避難していた。

 

家財道具を積み上げ、破壊されそうになる扉をみんなで塞ぐ。

 

さらに崩れそうになるのを必死で村の自警団達と一緒に牧師は押さえる。

 

だが向こうから殴り付けてくる力は強い。

 

幾度となく扉が揺れ、少し欠けた扉から外が、襲撃者の顔が見える。

 

ブタだ。

 

飛ばないがもちろんただのブタなどではない。

 

オーク鬼。

 

ハルケギニア大陸では非常にポピュラーな、人の脅威となる亜人である。

 

魔法は使えず知能も低いが、代わりに大きな体格と強い力、強靭な生命力と繁殖力からかなり危険な生物だ。

一体にすら訓練された兵士5人がかりでやっとという怪物が、今、群れで村を襲っていた。

 

 

 

屋根からも攻撃を加えているが、加熱油や矢以外はほぼ意味がない。

 

このままいけば数によって教会ごと潰され、オークどもの腹の中に収まることになるだろう。

 

扉を押さえながら牧師は後ろを見る。

 

肩を寄せ合い、ひとかたまりになっている非力な女子供、老人達。

 

母親は己の下に子を隠そうとし、子は母にしっかりと捕まっている。

 

老人達はもはや諦め、神への祈りを始めている。

 

嗚呼始祖ブリミルよ、神は祈る信徒を救わないのか。

 

信徒にあるまじきことまで考えてしまう。

 

ふいに、外からの音が止んだ。

 

と同時に教会の中が暗くなる。

 

「……?」

 

何事かと思えば、

 

「な、なんだありゃ!!」

 

屋根に出ていた猟師のヘインが叫ぶ声がする。

 

さらにオークどもが耳障りに鳴く声が幾つもこだまする。

 

いや、よく聞けば何か低い、唸るような重低音が空から。

 

牧師は窓に駆け寄り空を見上げた。

 

「おぉ……神よ……!」

 

そこには、白亜の船が降臨していた。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

『これより戦闘に入る! 目的は未確認生命体、仮称【オーク】の殲滅! “鳥の巣”より掃討射撃、後に【ウォーリア】を中心とした二個装甲小隊にてこれを一体残らず殲滅する! いいか、一体も逃がすな!! なお今回は村民の救助も含まれるため、対地支援砲撃は行えない。以上!』

 

 

 

三方向を壁に囲まれた、上から見れば『コ』にみえるリフトが空に浮かぶ戦艦より降ろされる。

 

兵士を満載したそれはゆっくりと地に――――――降りない。

 

宙で止まってしまった。

 

いやそもそも地に降りる必要などない。

 

「撃ち方よぉーい……」

 

バシャンとリフトの四方の壁に薄く長い“覗き窓”が開き――――――

 

()ェええええ!!!」

 

鉛弾の雨が吐き出される!

 

赤熱した弾丸は光のシャワーとなりオーク達を穿つ。

 

「ブギッ!?」

 

「ブギャァ!!?」

 

「ギィイッ!!!」

 

短い悲鳴をあげてミンチになるオーク。

 

17ミリ口径は伊達ではない。

 

更に開戦直後に採用されたドラム式マガジンが驚異の装弾数を誇り連射性を高めている。

 

「落ち着いて狙え!」

「鳩撃ちだな」

「見ろよコイツら、銃弾からの逃げ方まるでなっちゃいねぇ」

 

対峙する皇国兵は余裕だ。

 

当然である。

 

昔は対地砲撃後一気に降下、整射しつつ陣地を確保し突撃が主体だった。

 

しかし今はこうして高所より周囲を掃射出来るようにリフトが改造され、安全に陣地を形成できるようになったのだ。

 

通称“鳥の巣”。

 

喚きながらオーク達は様々(バラバラ)な行動を取り始めた。

 

“鳥の巣”にこん棒を投げつけて弾かれるもの。

逃げるもの。

撃たれて呻くもの。

リフトの真下に逃げたもの

隠れるもの。

 

そんな彼らの末路を上から順に言えば、

撃たれた。

撃たれた。

撃たれた。

リフトの床がパカッと開いて撃たれた。

まだ生きてる。

 

そして、満を持してリフトが地に降りる。

 

先ず身体全体を隠す大盾を手にした、電撃を纏った機械手斧を持った兵士、皇国突撃兵が飛び出し辺りを警戒する。

 

さらに次々にライフルを手にした一般兵が降りていく。

 

そして最後に――――――

 

「ブタどもめ、鋼機の力を見せつけてくれる!」

 

ジャキッ、ジャキッと鋼鉄が大地を踏み締める音が辺りに響く。

 

長方形の胴体部に二足の鋼鉄の脚を持ち、前方にあるむき出しのコックピット、その前面装甲に牙のような三爪のクローが取り付けられたこの機体は、【ストライカー】シリーズの【ウォーリア】と呼ばれている。

 

皇国:朱雀方面国境要塞『ビッグブリッジ』における攻防で新型鋼機が次々に開発、投入され、既に旧式となってしまった【ストライカー】シリーズだが、これで長年皇国を守護してきたのだ。

 

古参の兵からの信頼は未だ厚い。

 

「「「「プギィイイ!!!」」」」

 

家屋に隠れていたオーク達が次々(バラバラ)に突撃してくる。

 

「むっ! ブタどもが来たぞ! 陣形を組め! 近づかせるな!!」

 

対し訓練の賜物か、あっという間に隊列を組んで斉射を開始する皇国兵。

 

更にその斉射を援護に突撃兵と【ウォーリア】がオークの群れに突っ込む。

 

陸戦鋼機【ウォーリア】の攻撃は至ってシンプルだ。

 

それは総重量500キロオーバーの機体から繰り出される体当たり(・・・・)

 

「そぉら!!!」

 

鋼鉄の獣が疾駆し、その突撃の勢いのまま鋼鉄の足が地を掴み機体を屈め砲弾のような勢いで体当たりを繰り出す!

 

このアナログとも言える攻撃が数多の朱雀兵を抹殺してきたのだ!

 

その凄まじい勢いは当然止められるようなものではなく、一番前にいたオークは最後尾まで吹き飛ぶ。

 

すでにその体は全身の骨が砕け動ける状態ではない。

 

「よぉし! 一匹残らず狩り尽くせ!!」

 

その後『駆除』は効率よく進み、十五分後には完了していた。

 

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