シド・オールスタイン執務室。
そこでは今、急遽運び込まれた長机に豪勢な食事が並べられている。
そしてテーブルに着き、ひたすらサラダをもきゅもきゅする、蒼い髪の少女もいた。
同じくシドも対面に座って食事を行いつつ、彼はこれからのことを色々考えていた。
具体的には
(っべーな~どっかで絶対見たんだよ……何のキャラだっけ?)
であった。
そしてシドはことの起こりを回想する。
全ては、作戦開始からすぐのことだった。
・・・・・・・・
午前八時十九分 ドーム北部山脈調査団艦長シュミッツ中将は竜の巣を発見、可急的速やかにこれを殲滅せんと北西部・北東部・西部・東部の合わせて四つの調査団と合流、撃滅に向かった。
八時五十六分 火山山脈の岩肌に作られた何十という巣に対し空中戦艦より対地砲撃を開始。
この作戦の旗艦である北部調査艦改め壱番艦内部艦橋では、総責任者であるシュミッツ中将が指揮を執っていた。
「『(ヴィーッ!ヴィーッ!)これより本艦はドラゴンの巣を殲滅する!総員第一種戦闘配置!総員第一種戦闘配置!!』全ての航空部隊に出撃用意を取らせろ!各砲門開け、目標は竜の巣だ!砲撃後航空部隊を出撃させる!」
「了解、『全航空戦力に通達、戦闘開始後こちらの指示に従い発進、空中のドラゴンを撃滅せよ。繰り返す―――』」
「『前面砲座に通達、砲撃用意、目標、地上前方竜の巣、指示があるまで一時待機せよ』」
「弐番艦、参番艦より通信、『砲撃準備完了、貴艦ニ合ワセ砲撃ヲ開始ス』とのこと」
「同じく肆番艦、伍番艦より通信、『砲撃準備ヨシ、号令求ム』とのことです」
「ようし、では派手にいこうか! 主砲、
整然と並んだ五隻の空中戦艦が一斉に火を吹き砲弾の嵐を叩き込んだ!
あっという間に煙に包まれる竜の巣。
しかしすぐに土煙を破って激怒したドラゴンが飛び出していく。
さらにどこにいたのかという量の真紅のドラゴンが、朱い鱗の地を駆けるトカゲが集まってくる。
負けじとこちらもそれぞれの艦から兵士と弾薬を満載した航空機が二機ずつ垂直離陸し、さらに次々と飛行型鋼機ヘルダイバーが発進していく。
リフトが下ろされ大量の兵士、鋼機を吐き出す。
その間も砲撃は止まず、竜の巣を砲撃でもって耕していく。
もはや卵は全滅だろう。
竜の怒りはどれほどだろうか。
その内に航空機が山肌に接近、兵を降下させていく。
「行け行け行け行け行けェ!!!」
「ぐずぐずするな! 陣地を形成しろ!!」
まずはセオリー通りに突撃兵が真っ先に飛び降り辺りを警戒、次は工作部隊がバリケードを担いで飛び出しボルトを打ち込んで地面に固定していく。
「うるせぇ黙って撃ちまくってろ!!」
「来たぞ!」
盾を構えた突撃兵が示す方を見れば、真っ赤な鱗に覆われた人間大のトカゲが数頭走ってきていた。
「シャァアアアアアアアアアアアア!!!!」
そのまま突進する、この世界では『サラマンダー』と呼ばれる火蜥蜴。
「うぉラァアアアアア!!!!」
突撃兵も負けじと吠え、盾を構えて突進する。
サラマンダーの体当たりと突撃兵のタックルが正面からぶつかり――――――勢いに負けたのは突撃兵だった。
「ぐぁ!?」
「ゴハァッ!!?」
それはそうだ、盾がいくら頑丈でも動物の津波に押し勝てる訳がない。
次々と撥ね飛ばされ、踏み留まりかけた者も後続のサラマンダーにのし掛かられる。
「う、うぉおおおお!?!!?」
ガリガリと盾越しに感じる爪の存在に混乱のまま電撃斧を振り回す。
まったく力の入らない体勢で振られたそれがたまたまサラマンダーの身体に当たり、
「ギシュアアアアアアアアアアアアア!!!!??」
耳を切り裂くような悲鳴を上げさせ黒焦げにした。
もともとは当たれば行動を阻害する程度の電流だったこの斧、『こんなぬるい装備でどこと戦争する気だ?』とシドが改造、安全装置を引っこ抜き、かすれば痙攣まともに当たれば絶命間違いなしという凶悪化を施し、専用の装備をしなければ使用者も危ない代物へ変えられていた。
それが命を救った。
「陣地作成完了!」
「突撃兵は別れろ! 援護射撃ィ!!」
バリケード設置の完了を知らせる怒号が響き、さらに命令が飛ぶ。
時間稼ぎに成功した突撃兵は一斉に左右に下がる。
気の立ったサラマンダー達は当然その突撃兵に追いすがり火を吐きかけたりするが、身を縮めて盾に隠れる突撃兵には届いていない。
それに苛立ったのかさらに追撃をかける。
すると必然的にバリケードの前に横っ腹を晒すことになり――――――
「撃てぇええええ!!」
皇国兵十数人による一斉射を喰らうはめになる。
バリケードを設置した工作部隊も突撃銃に持ち変え斉射に加わる。
「ギィイジャアバッ!!」
みるみるうちに蜂の巣にされ倒れていくサラマンダー。
「掃討完了ォ!」
一時的な簡易陣地で彼らは沸き立った。
「ふん、トカゲなど何十頭来ようが我々だけで十分よ!」
「たっ隊長! それフラグ……」
強化服を着た部隊長が笑うがそれを聞いて慌てる部下。
そこへさらに数十頭のサラマンダーが迫る。
「「「「…………」」」」
ジト目な部下、対し部隊長は、
「こちら第二降下部隊! 大規模な群れと交戦中! 火力支援を要請する!!」
清々しいほどあっという間に前言をぶん投げた。
『こちら02航空機、支援に向かう』
「よし! 突撃兵は内側に戻れ、盾を構えてバリケードを越えようとしたヤツを黒焦げにしろ! 残りは敵を近づかせるな! 撃ちまくれェ!!」
すぐさま現れた中型艦載艇が、ホバリングのまま空中からミサイルと機関銃の弾を雨のように浴びせる。
ミサイルは群れの中で爆発し、数匹まとめてサラマンダーを吹き飛ばした。
その個人装備と比べ桁違いな威力に士気が上がり、負けじと地上部隊も攻撃する。
しかし、
「くっ、やはり巣ともなると数が多い!」
マガジンを交換しながら隊長がぼやく。
サラマンダーの数は一向に減らず、まるで死ぬことを恐れぬかのように突っ込んでくる。
駆ける己のすぐ隣で爆発が起きようがまるで構わない。
その光景を、遥か彼方より見ていた者達がいた。
・・・・・・・・
戦闘区域の外、空中戦艦の上に、彼らはいた。
「随分と組織立った反攻だな」
「……野生の動きではないですね」
「指揮官? ……一班、指揮個体を索敵、射殺。二班、地上部隊の援護」
「「「ハッ!」」」
背中からかかる声に狙撃部隊員達は振り向くことなく了解する。
『例え背中に敵がいようとターゲットを狙撃する』
それがこの後方狙撃部隊『バジリスク』だ。
重すぎて普段は小型のソリに連結されて運ばれる巨大な狙撃銃『ザイトスの銃』。
ひとたび発射されれば4000メートルという超射程により、戦闘区域外から放たれた弾丸がコンテナだろうが朱雀の防御魔法だろうが、スコープ(瞳)に映った相手を問答無用にぶち抜いて即死させる怪銃。
ただその超射程から数丁で戦場全体をカバー出来るため、あまり量産はされていない。
そんな物を十人ほどの兵士が伏せ撃ちの体勢で構えていた。
そして彼らを率いるは『ノア・コマンド』がひとりマズル少佐。
だがそのマズル少佐は、いつもとかけ離れた姿をしていた。
いや、そもそも人間の姿ではない。
全身をしなやかに覆う獣の如き強化炭素装甲に、その上から各部を守る滑らかな装甲。
手足は完全に装甲に収納され、代わりに鋭いクローが空中戦艦の装甲を掴んでいる。
頭部全てを覆うヘルメットはより猛々しく白虎を模しており、その額にはセフティー准佐と同じく『スフィア・アイ』があった。
全身のカラーリングも白である。
背部には背中に沿うような形で白い五十センチくらいの長方形の箱のような物体。
その箱の先には、銃口。
鋼鉄の白虎が、そこにいた。
「……どこ?」
ぽつりと白虎、マズルは呟く。
彼女は今、己の特殊強化ヘルメットに映される視界に唸っていた。
(獣は大きな音が嫌い。混乱して騒ぐ。でも一心不乱に突撃してくる。……操者は誰?)
そう考え、カメラを切り替える。
「……視界変更、望遠」
声帯操作により背部のスコープから額の『スフィア・アイ』に視界が切り替わる。
それにより映される視界も広くなる。
拡大しながら戦場全体を見渡し、一際大きな深紅のドラゴンを見つける。
最前線で勇猛に力を奮い鋼機を相手に一歩も引かず。
既に何機かそのドラゴンに破壊されていた。
(……)
無言のままマズルは視界をスコープに変更、武装のモードを変える。
背にした箱の前方三十センチ程が真ん中から横向きに割れ、前へ延びるように『レール』を展開し『砲身』を成していく。
さらに弾丸が込められ、紫雷が砲身を走り廻る。
『風速、南南西より六.三メートル』
隣の観測手が伝えるまま射角を調整。
バチバチと淡雪色の銃身が咆哮を上げる。
『チャージLv2、発射用意完了』
拡大され己の目の前に来たドラゴンが焔を吐かんと息を吸い込み――――――一瞬止まる。
ガチリと、マズルは強く虚空に喰らいついた。
それに連動して背中の『レールガン』から電磁音と共に弾丸が発射され、目の前のドラゴンの胸から上を喰らった。
(……やっぱり)
しかしモンスターの群れは一向に組織だった反攻をやめない。
(当然……獣に"英雄"はいない。群れを率いるのは強い個体ではなく賢い個体)
「……倍率変更、下げ……止め」
再びマズルは戦場を見渡す。
相変わらず組織立った反抗を続けるモンスターの群れ。
高くて見えにくい場所にいる個体を優先して狙撃していくが、効果は見られない。
『なぁ……雪色』
そこに隣の観測手から声がかけられる。
『なに? 小さいの』
マズルは戦場を舐めるように見渡しながら聞く。
『風に変な臭いが紛れてる……地上からじゃないな』
『え……』
マズルは視線を前へ、空へ向ける。
「……サーモグラフィックモード」
『レールガン』に連結されたスコープが変更され、表示される視界が緑色に染まる。
そして、
『見つけた』
彼方に色の違うドットが見えた。
「倍率変更、上げ」
キリキリとズームしていけばそこには何かが羽ばたいていた。
スコープを元に戻せば、そこには分厚い雲。
しかしチラと雲の下へ吠えるように口が覗く。
そうまるで号令をかけるが如く。
無言でそこを狙撃する。
磁力により加速した弾丸が此彼の距離を一瞬で駆け抜け、局所的な血の雨を作る。
すると、今まで一心不乱に突撃していたモンスター達が逃げ惑い始めた。
『……できた。ありがとう小さいの』
『……その固いので甘えるな』
マズルは隣に座る彼のふわふわな胸に頬、ではなくヘルメットを擦り付けて甘えた。
その時、マズル少佐及び後方狙撃部隊の護衛をしていたヘルダイバーのパイロットは、隣に立つ同僚のヘルダイバーに通信を繋いだ。
「なぁ……」
『何だ?』
「何故マズル少佐は山猫にニャゴニャゴ話しかけてるんだ?」
『貴様知らんのか? マズル様は山猫達と会話が可能なのだぞ?』
「……嘘だろ?」
『私もそう思うが実際マズル様は山猫達を自在に指揮している。それに……この光景を見ればどうでもよくならないか?』
「あぁ……いい尻だ」
『性欲を持てあますな……』
彼らは、数頭の山猫達とにゃふにゃふし合うマズル少佐、その形のいい尻と充電ソケットの尻尾にニヨニヨしていた。
特S級機密文書
『【ノア・コマンド】レポート』
ノア・ナンバー14
氏名:マズル・オールスタイン
階級:少佐
所属:『Nationalistic Oneman Army』
特殊装備:『グングナール』『リュンクス』
幼少期にシド・オールスタインに引き取られ、言語と様々な戦闘知識を与えられる。
現場における即応指揮能力に非常に優れる。
その判断能力の高さから様々な部隊を任されており、後方狙撃部隊『バジリスク』、特殊部隊『マルク工作員』、山猫部隊、重装甲部隊など主に後方~陸上部隊などを指揮し、『ノア・コマンド』の現場指揮官を務めることもある。
戦闘方法は前線から後方まで広く対応できるよう『ザイトスの銃』及び『ブリューナク』の技術を応用したアンチ・マテリアル・オールレンジ・ライフル『グングナール』を使用する。
はずであったが、マズル少佐本人の希望により特殊装甲強化駆動鎧『リュンクス』を開発、『グングナール』を装備し支給する。
『グングナール』は充電率を操作することにより近~遠距離全てに対応可能であり、『ブレード』、『アサルト』、『スナイプ』などのモードが存在する。
さらにリミッターを外せばC機関がショートする代わりにアダマンタイマイを貫通する威力の弾を発射可能。
『リュンクス』は……アレだよ、クライング・ウルフのミリテス版。
いや、一応『メカベヒーモス』っていう企画倒れの資料があってだな。
意図してああなった訳じゃねえんだ。
そもそもマズルが『二足じゃ戦いにくい』っつーから四足で戦えるように半分冗談で提案したら『鋼室』の同期がノリノリで参加してきてプロジェクト発足、いつの間にか予算も組まれて技術者も手配されてて、結果エロとグロを足して機能も効率も完璧なモンがあれよあれよという間に……。
いや確かに俺も手伝ったよ?
前世じゃメタルギアも好きだったし。
会長に退いてから金に明かせてBB部隊装備作ったよ?
秘書に"特別手当"で着てもらったさ。
でも今世でも作るとは……。
で、正確に原理とか記すと長くなるから大雑把に解説。
ようは未来知識の炭素繊維と『ヴァジュラ』の装甲と『レーヴァテイン』の飛行機能の簡易版を併用することで、装甲を厚くしたまま高機動戦闘を可能にしたって訳だ。
あぁそう、いつか書いたかもしれねえがもう一回書いとく。
『ノア・コマンド』ってのはようは皇国中の技術のハイブリッドであり、最新兵器の実験部隊でもあるわけだ。
基本ナンバーが後ろに行くほど技術も新しいのが支給されてる。
ちなみに、俺というファクターのおかげか、皇国の装備や鋼機の質は格段に上がってる。
閑話休題。
話を戻すがコイツの出来にマズル大喜び。
しかも『夢、叶った!』つって普段見せねぇ笑顔大盤振る舞い。
『鋼室』全員ノックアウト。
『おじさまって呼んでくれ』っつーバカどもを潰して試験すれば戦闘力がヤバいヤバい。
なにがって元々の天性の戦闘センスを余すことなく発揮して実験場がメチャクチャになった。
しかも『グングナール』リミッター解除の威力が上がって尻尾ソケットを空中戦艦に接続すればなんとバハムートを一撃必殺。
ついでに軽くいろんな追加装備も着けた。
つか単純な戦闘力ならその才能でハンマ超える。
いや元々の生身でマシンガンかわしながら接近戦に持ち込むほど、戦闘センスがよかったんだ。
朱の魔神のキルサイト攻撃も一発も貰わなかったし。
ただ不思議なのは、どうやって背負った状態から狙撃に成功してるのか、だな。
しかも山猫と話せるし。
……山猫部隊、なぁ。
アレもう山猫じゃねぇよ。
マズルがブリーダーやって鍛えた結果がアレとか……。
絶対アレ……いや、ここに書くことじゃねえか。
まぁ、山ん中で拾ったにしてはいい拾いモンだったよな。
はじめは獣だったしなぁ……。
昔の日記
最近ようやく"山猫の私"と"人間の私"の折り合いがついてきた。
この人間の言葉にも。
二本足で立つのはまだ慣れないけど。
私を呼び出してあのファザーという胡散臭いオッサンは、交渉を持ちかけてきた。
『お前とお前の群れを、傭兵として雇いたい』って。
……正直、私のことを人間にしたコイツをあまり好きにはなれない。
でも感謝も信頼もしている。
私を人間にしようとした、身勝手な優しさも、今なら理解できた。
あのままだったら私は、いずれ必ず山猫と人間の本能の差に飲まれて狂い死んでいただろう。
だからまぁ……十数回殺そうとしたことも、今なら悪かったと思える。
…………借りを返すぐらいは、してあげようかな。