皇国の守護銃   作:キノコ飼育委員

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お待たせしました。

新章のはじまりはじまり。


大量破壊兵器の国
狂人の一声


火竜山脈。

 

ハルケギニア大陸を横断する大山脈。

 

その山肌すれすれを高速で飛行する一団……否、追われる一匹と追う一個小隊。

 

「……ッ……」

 

前を行くは蒼の竜。その背には大きな杖を持つ蒼い髪の少女。

 

『撃て! 絶対に逃がすな!!』

 

追うは機械の翼、ヘルダイバー六機の一個小隊。

 

『死ねぇ!!』

 

先頭にいたヘルダイバーの腕に備えられた機関砲が火を吹き、弾丸を吐き出す。

 

しかし蒼い竜は寸前でそれをかわし、さらに前へ前へと翼を動かす。

 

背に乗る少女が何事かを呟きながら杖を一振りすると、氷の矢が数十本出現し、追撃者たちを襲う。

 

が、追撃者たちはこれを躱すか更なる弾幕で撃ち落としていく。

 

山脈を越え、高速低空飛行で飛び続ける。

 

そして竜が山頂を越え、ある地点を通過した瞬間、先頭にいた隊長機が止まる。

 

『チィッ! 追撃止め! 帰還する!』

 

『しかしッ!?』

 

『構わん、帰還だ!』

 

『ハ、ハッ!』

 

蒼の竜は既に彼方だ。

 

機翼を翻して追撃部隊は帰還を開始する。

 

……その帰路で、隊長機は秘匿回線を使用して暗号通信を送った

 

「『こちら“錆”、青い鳥は巣に帰った。繰り返す、青い鳥は巣に帰った』」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

シド・オールスタイン執務室。

 

「ファザー、青い鳥は無事に帰ったそうです」

 

トリガーの報告を聞き、シドは手を後ろ手に組みながら、窓から空を見上げた。

 

「そうか……行ったのか」

 

「ファザー、何をたそがれてるんですか? うまくいけばこれからもの凄く忙しくなるのですよ」

 

「やらせてくれよ……」

 

トリガーの冷静な声にシドは苦笑しながら振り返る。

 

「周辺への入植状況はどうなっている?」

 

「耕作機械を貸し出しておりますので農耕は順調、指示通り、小規模にとどめてあります」

 

「“錆”の浸食状況は?」

 

「既に各国に浸食を開始、あと五日以内には体制を整えるでしょう」

 

手元の資料を見ながら答えるトリガーに、シドはひとつ頷いた。

 

「戦争……か。フン、不毛だな。ようやく平和と発展の時代が来るかと思えば、再び激動の時代とは……」

 

「平和な交渉は可能では? 貨幣価値を比べたところ経済力はこちらが上の可能性が出てきました」

 

トリガーの出した提案に、シドは答えず、逆に質問した。

 

「トリガーよ、国同士の交渉で最も大切なことは何だと思う?」

 

「……軍事力、でしょうか」

 

「いや、もっと根本的なことだ」

 

「では経済力」

 

「それも一面に過ぎん」

 

「……なんでしょう?」

 

「それはな……“立場”だ」

 

力強くシドは断言した。

 

「国同士の交渉はな、究極の対人関係なのだ。例えば学校のクラスならケンカが強い奴に金を持ってる奴、虐げられる奴に借金ある奴。全く信用されてない奴や腫れ物に触るような扱いの奴。様々な人間がいるだろう」

 

「でだ、そこに転校生が来た。誰もがこの転校生に興味を持つだろう。そしてコイツが、いったいクラスのどの辺りの立場になるのか、遠巻きに観察してくるだろう」

 

「ゆえに最初が肝心なのだ。最初が、な」

 

そしてシドは、獰猛に笑い、告げた。

 

「魔法のないこの国が、魔法なんぞを至上のものと勘違いしている連中に、現実を教えてやるための最初がな」

 

納得したのか、トリガーはニコリと微笑み、

 

「“最初の希望”でも撃ち込みますか?」

 

エグイ提案をした。

 

「……あー、アレだ。転校生がいきなりカッター振り回したら友達出来んだろ?」

 

「ははは、それもそうですね」

 

結構、いやかなり子供の育て方をアレしすぎたかもと、シドはじんわり後悔した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ガリア王国王都リュテイス。

 

その中心部にある王城。

 

その中枢部にある玉座の間。

 

そこでタバサは臣下の礼をとっていた。

 

その男を前にして。

 

精悍な美貌と逞しい肉体の持ち主であり、王族の証である青い髪と髭を持つその男。

 

ガリア王ジョゼフ一世。

 

別名『無能王』と呼ばれる男であり、タバサの父を殺し、母を壊した男だ。

 

ジョゼフが玉座から問うた。

 

「それで? 他に情報は?」

 

ガリア王国の王女であるイザベラの命を受け火竜山脈に向かったタバサだったが、事態はすでに『王女の嫌がらせ』の域を大きく逸脱していた。

 

正体不明のナニカ(・・・)が火竜山脈の向こう側に出現したのだ。

 

これを最初に報告したのはイザベラ王女のお遊びにも使われる『北花壇騎士団』。

 

『タバサを山から下りさせない』という、何とも馬鹿馬鹿しい命令のためにタバサを追跡していた彼らは、彼女と同じく砲声を聞き、火竜山脈を登ったのだ。徒歩と魔法で。

 

隠密行動ゆえに時間はかかったが、それでも向こう側で見た光景は凄まじいものだった……想像を、絶するものだった。

 

空に浮かぶ見たこともない形状の艦隊。

 

山肌に穿たれたいくつもの穴。

 

おびただしい数の死体、それも信じ難いことに火竜山脈の王者である火竜のだ。

 

そして何よりも自らの目を疑わせたのは、艦隊が帰っていく、遠近感が狂うほど巨大な鉄の山。

 

この報告を大急ぎで送った時、ガリア上層部は一笑に伏した。

 

しかしその後続々と様々なところから同じ報告が上げられ、ついに重い腰を上げて調査部隊を送った。

 

そして逃げてきたタバサとばったり出くわす。

 

明らかにわけのわからないモノに追いかけられていたタバサを彼らは拘束、本国に連れ帰ったのだ。

 

タバサはその男を前にして、さらに”人形”のように感情を排して問いに答えた。

 

「火竜山脈で囚われた後、私はあの鉄の山に連れて行かれた。あの中は全て空洞になっている。巨大な天蓋と言ってもいい。そして鉄の天蓋に守られて国が存在していた。見たことのない文明を持つ国だった」

 

「“国”、と言ったな。つまりあれはひとつの国家だと?」

 

「そう、彼らは、別の世界からこの世界に召喚されてきた存在」

 

「ゲルマニア騎士のように、か? ククク……伝説の再来だな。だが、ふん……つまりそいつらは、我が国の一部を不当に占拠している訳だ。おもしろい」

 

ジョゼフはその場に控えていた男、ガリア王国両用艦隊総司令官、クラヴィル将軍に命じた。

 

「クラヴィル将軍、軍を送り我が国を土足で汚す賊徒どもを討ち滅ぼしてこい。指揮者は……知らん、好きに決めろ」

 

この、あっさりと決められた開戦宣言にクラヴィルは仰天し諫言しようとした。

 

「は、し、しかし陛下。もし仮にその国が、ゲルマニア騎士のように」

 

だがそれがいけなかった。

 

「貴様、臆病風に吹かれて我が命が聞けぬか……首が要らんとみえる」

 

クラヴィルの言を遮りギロリと睨みつけてくるジョゼフ王は、先ほどと打って変わって憤怒の形相を浮かべて激怒していた。

 

「け、決してそのようなことは! ただ私は」

「ならばその命、なにとぞ我が陸上機動装甲軍に」

 

何か言いかけた将軍をさらに遮り、その隣に座っていたもう一人の将軍、陸上機動装甲軍が総大将、グルカ将軍が立ち上がる。

 

「いいだろう、なに、万ほど兵を突っ込ませれば勝てるだろうさくふはははははは」

 

「……承知いたしました」

 

ケラケラと笑いながら、戦争をまるで遊戯のように話す王に、グルカ将軍はただ了承の意を告げた。

 

「クラヴィル、お前ももう下がれ。イザベラ、それに…あぁ、誰だったかな?まあいい、お前たちもだ。子供はもう寝る時間だろう?そっちはほら、明日も学校だ。今からたてば昼には着くだろう?」

 

そうジョゼフは告げるとしっしっと場にいる全員に手を振った。

 

イザベラは一言も話さず、ただ優雅に礼をして侍女とともに退出し、タバサも一礼して扉から出る。

 

空の将軍は正確に、陸の将軍はどこかわざとらしく敬礼し、退出した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「バカヤロウが」

 

退出して人の目がなくなると、すぐにグルカは振り返り、友人であるクラヴィルに吐き捨てる。

 

「す、すまん」

 

クラヴィルはすまなそうに、庇われたことへの感謝を送る。

 

「あんなキチに諫言なんざ無駄だっつの。だいたい、あいつに人一倍従順なお前が、何をやってんだよ」

 

「……もし本当に歴史の再来だったらと思うと、な。どうしても慎重にならざるをえんだろう」

 

「だぁーッ真面目だねえ。もっと力を抜けよ」

 

暗い表情の友人の背を張りながらグルカは呆れる。

 

二人は歩き出しながら今後のことを話し合う。

 

「それで、どうするのだ」

 

「決まってンだろ?」

 

グルカはこともなげに考えを述べた。

 

「平民と奴隷と亜人と傭兵とあの周辺の貴族で固めた、ハリボテの一万を突っ込ます」

 

「な!? 装甲兵はどうするのだ!?」

 

「精鋭は引っ込める。もし本当にそう(・・)だった場合取り返しがつかん。あぁそうそう、古いヤツでいいから人員輸送用の大型艦をいくつかまわしてくれ。帰ってこなくてもいいようなヤツをな。武装も最低限でいい」

 

「それは構わんが……負けると?」

 

「当然。相手は火竜山脈を制圧出来んだぜ? っと、俺はこっちだ」

 

隊舎に向かうグルカの背に、クラヴィルは声を投げる。

 

「……それで勝ったら、お前はどうなる? 負けてもだ!」

 

「勝ったら降格かねえ……だが負けてもどうもならんよ」

 

歩きながら、振り返ることなくグルカは答える。

 

「あの男は手足の失敗や成功はどうでもいい、だが反抗は許さん。お前も気をつけろ」

 

そして、誰にも聞こえぬ声でつぶやく。

 

「……そう、成否は欠片も気にしてねぇ。それが気味悪ぃ」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

人のいなくなった玉座の間、その玉座で佇むジョゼフ。

 

ガリア王国の国旗を眺めながら、何の音もしない空間に言葉を零す。

 

「…………さて、此度の戦どうなるか」

 

先程まで浮かべられていた笑みは無い。

 

「果たして俺は、どこかの国が、むごたらしく滅べば、その余りの非道さに泣くのだろうか?地獄のような戦争で、シャルルの愛したこの国が傾けば、悲しむのだろうか」

 

“狂っている”

 

口から零れたその言葉だけで、彼が狂っていると理解できる。

 

そしてその彼の瞳は、“人形”とさえ呼ばれるタバサよりも”虚ろ”で、”無”で、“虚無”であった。

 

 

 






ガリア王ってすごい書きやすくて楽しいです。

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