皇国の守護銃   作:キノコ飼育委員

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三人揃って狂気の沙汰

ガリア王国王都リュティス。

 

その最深部である玉座の間に、四人の影があった。

 

ひとつはこの国の王であるジョゼフ、玉座で小さな人形を片手で弄びつつ、ふんぞり返っている。

 

ひとつはクラヴィル大将、背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐに立っている。

 

ひとつはグルカ大将、彼も真っ直ぐに立っているのだが、クラヴィル大将とは違い妙に“だるい”感じが伝わってくる。

 

最後のひとつは、並び立つ二人から少し離れたところに佇むドクトル・ファウスト、闇のようなローブが、時折ぐねりと蠢く。

 

 

ジョゼフが口を開く。

 

「将軍、異界の者共に送った『討伐軍』はどうなった?」

 

その問いにグルカ大将は、すらすらと、事も無げに告げた。

 

「は、南部へ送り込んだ『討伐軍』二万、ことごとく壊滅いたしました!指揮を執られていたルーベル侯爵は行方不明、現場の証言より、討ち死にしたものかと。また、わずかに生き延びた兵が侯爵領に撤退、救援を求めております」

 

『大敗北しました』と。

 

それは、耳を疑うような内容だ。

 

自国内部に現れた『賊』を倒せなかった上に、二万の軍がほぼ皆殺しなどという大失態。

 

普通は首が飛ぶ。

 

それを思い、グルカ大将の隣にいたクラヴィル大将は青ざめた。

 

だがそれに対し、ガリア王ジョゼフは、

 

「……っは!!はははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

笑った。

 

けたけたけたと、ただ笑い続けた。

 

その哄笑は、まるで真っ暗な洞穴に響くかのように、玉座の間で反響した。

 

「はははははははははははははははは……」

 

壊れたレコードのような哄笑がふっと止まる。

 

そして楽しそうにグルカ大将に質問した。

 

「それで?伝説の異界軍は、どうやってこちらの軍を壊滅させたのだ?」

 

「ハッ!異界軍は強力な火砲を有した戦艦、さらに一兵卒にいたるまで連射性を格段に高めた銃により武装しており、そのうえで我々の十数倍の兵力でもってこちらを踏み潰しました」

 

「銃……?連射性が高いというのはどれほどのものだ?」

 

「引き金を引いている間は弾が出続けます」

 

「……フハッ!!何だそれは!?もはやメイジではないか!!ハハハハハハ!!しかも全員がそれで武装?!さらに即応兵力で我々を上回った?!ははははははははは!!!」

 

玉座の上でげらげら腹を抱えて笑うジョゼフ。

 

「グルカ将軍!グルカ将軍!新しいキマイラはドウだっタ?役に立ったのカナ?かナカな?」

 

「戦線一枚も突破できずにことごとく撃破された。指揮系統の乱れもあっただろうが……」

 

「アッハハハハハ!!スゴイ!すごいネそれ!!最高だヨ!!」

 

しばらく二人分のバカ笑いが玉座の間にこだまする。

 

「ハハハハ……ひぃー、ひぃー、苦しいぞハハハ……ん、どうしたクラヴィル将軍?顔色が悪いようだが?」

 

見ればクラヴィル大将は、蒼白になって震えていた。

 

それでも、ゴクリと唾を飲み込むと、彼は自らが為すべきことを行う。

 

「……陛下、我ら空中移動要塞軍に、防空線を敷くよう命じてくだされ」

 

「む、確かにそれは必要だな。グルカ将軍、連中の『天蓋』の位置は?」

 

「ハ、『サン・マロン』より南東へ、『火竜山脈』の向こう側です」

 

「ほう、ガリア最大の軍事拠点のお隣さんか。途方もない規模の『天蓋』だそうだが、どれほどか?」

 

「『火竜山脈』のふもと近くから海近辺まで届くとのことです」

 

「ふむふむデカいなぁ……とりあえずは風竜の監視用警戒網だけでいい。迎撃戦力は温存したいからな。挑むなら……長期戦がいいな。ここまで簡単に負けたということは、我々と敵の『戦法』が致命的に相性が悪いということなのだろう。とにかく情報が欲しい。もう2、3戦どっかでやりたいものだ」

 

「っ……!」

 

ポツリと呟かれた言葉に、ビクリと肩を震わせたクラヴィル大将。

 

それを見たジョゼフは、穏やかな笑みを顔に貼りつけて言った。

 

「ん?あぁ、もちろん無駄に兵を減らす気はないぞクラヴィル将軍。これでも私はこの国の王だ、国家安寧のため、最大限努力するさ。とにかく警戒網を作ってくれ。一刻も早くだ。ほら、下がっていいぞ」

 

「……はっ!!必ずやご満足いただける結果をご覧にいれます!!」

 

そう言うと、クラヴィル将軍は玉座の間より退出した。

 

 

 

そして、部屋の空気がガラリと変わった。

 

先ほどまでは確かに『この世』であったのに、突如として瘴気漂う『魔界』に変じたかのようだ。

 

ならば、玉座に座るこの狂人が魔王だろうか。

 

「ふーむ、さてグルカ将軍。『渡り人』であるお前に聞きたい。この『敵』は、お前の祖国だったりするのかな?」

 

この問いにグルカ将軍は、口調を無礼でない程度に崩して答える。

 

それは傭兵らしい、妙にへりくだったような、それでいて小バカにするようなものだった。

 

「いえいえ、『遠見の水晶』から部下に中継させた映像を見ましたがね?ちょーっと違う世界の軍隊みたいです。名乗った国名も、あんな原始的な機動兵器も、俺の世界にはありません。ウチんとこはもっとデカくて物騒で強ェーです。それこそ戦争が変わっちまうくらいに」

 

「『メタルギア』……だったか?便利な力だ。平民がゴーレムを動かせるのだからな。しかし『ミリテス皇国』か……昔、大嫌いだった歴史の授業で聞いたような?ふーむ、もう少しまじめに勉強すべきだったな」

 

顎髭を撫でつつ、物思いに耽るジョゼフ。

 

「異世界の連中を、どうして歴史の授業で習うんですかい?」

 

「ん、確かゲルマニアの……ふん、まあいい。とにかくだ、意見が聞きたい。勝てるか?」

 

しかしどうでもいいと遡る記憶を切り落とし、ジョゼフはグルカに向き直って問うた。

 

グルカも現段階での情報をもとに脳内でシュミレーションを行う。

 

「……映像で確認した限りでは、はっきりしません。キマイラの機動力、数、運用次第では何とか……といったところです。しかし闇雲に突撃でははっきり言って負けます。高度な連携、高火力の戦艦、戦場全体への砲撃……戦術的には第一次、第二次大戦レベル。兵器の質もそのあたりですが……」

 

「中世レベルの我々では勝てん……か?」

 

「はい。メイジの数、純粋な能力のばらつき、特権意識による連携の弊害などなど、劣っている部分が多過ぎます。そして純粋に『質』の差です」

 

「『質』、か」

 

「個々の『兵士の質』はこちらが上でしょう。銃の普及した世界では剣や槍、弓に対する術は学びません。遠距離から射殺するからです。ゆえに完全な白兵戦は脆い。さらに強力なメイジは、『ちゃんと兵士として』運用できれば彼らを上回る。ですがそこに『連携の質』と『武装の質』を加味すると、一気にこちらが劣ります。戦場の西から東に一瞬で情報が行き渡り、高威力の弾丸を部隊規模で運用する。重装歩兵の『ファランクス』?騎馬隊の『騎乗突撃』?ただのカカシですな、話にならない。そして何よりも劣ってるのは」

 

「まだあるのか……」

 

少々うんざりした様子を見せるジョゼフに、彼は遠慮なく続ける。

 

「ええ、『兵器の質』です。我々が派遣したフネ、旧型とはいえ沈めるのにそれなりに苦労するものを、連中は開戦と同時に遠距離からの砲撃で即撃沈しました。そこからこちらの陣地に一方的に延々と砲撃砲撃さらに砲撃。そこへ地上部隊で突撃敢行、数の差で塵殺。典型的な近代戦争術です。教科書に乗せたいくらいですよまったく」

 

そう言って、肩をすくませながらニヤつくグルカ。

 

「ふむふむふむ。で?ドクター自慢のキマイラは通じるかな?」

 

「微妙ですな。あれは私の世界にはない兵器ですから。ま、今回全く役に立ってませんでしたがね」

 

顔をしかめるグルカだったが、そこにファウストが割って入った。

 

「すトーっぷ!あんなオアソビで僕のキマイラを測っちやイヤンやん!だよグルカ将軍!正規軍のキマイラなラ対抗は可能サ!」

 

グネグネとローブを蠢かせながら言い張るファウストに対し、グルカは懐疑的な目を向ける。

 

「装甲キマイラか?生憎俺は科学派のファッキンファンタジー主義者でな。連中の砲弾に耐えられるか結構疑ってるぜ」

 

「むー、じゃあ僕の傑作集だけヤツラに突撃させルってのハ?ソの結果で決めよウヨ!」

 

「却下だ。連中、キマイラの死体は全部回収したらしい。メイジのもな。おそらくお前みたいにバラして調べる専門家がいる。弱点や武器が通じるかを調べられんのは困る。あのオモチャは比較的脆い方だったからな、あれを標準と思い込んでもらいたいもんだ」

 

「エー……じゃ僕ヒマ?しばらくヒマヒマー?」

 

ぐねぐねウネウネとローブの中身を不気味に蠢かせながら、ファウストは不満を漏らす。

 

「ヒマじゃねーよ。お前はあのエルフとクソアマと仲良く頑張ってこい。早急に開発中のモン形にして(俺ら)によこせ」

 

「ハーい、おっまかセーい。でもビダさんもシェーさんモ話合わないンダヨナー。頭固くテツマンない!」

 

一瞬元気にぴょんと手を上げたファウストだったが、すぐにガックリと肩を落として愚痴り始めた。情緒が激しい。

 

「こらこら、話を勝手に進めるな。それで、何か奴らの弱点とかは挙げられんのか?貴様の『世界』と似通ってはいるのだろう?」

 

この問いに、グルカはちょっと考えてから答えた。

 

「……ああいう軍隊の弱点はですね、物資をバカ食いするってとこです」

 

「おいおい、古今軍隊と言うのは大食らいだろう?それが弱点か?つまり弱点などないということか?」

 

顔をしかめながら笑うという器用な真似をしながらジョゼフが言うと、グルカはニヤリと笑いつつ答えた。

 

「いやいや……この時代と俺の時代だと、消費する物資が種類も量も違うんでさ。例えばガリアなら、飯に武器に矢に、弾薬、フネ、大砲、馬、幻獣、ドラゴン、そいつらの飯、寝床とまあ多種多様です」

 

「そうだな、それが俺たちには普通だ」

 

「しかしですね、剣や槍は歯こぼれしても人は殺せます。死んだ軍馬はその日の晩飯で、メイジは一日寝ればまた魔法が撃てる。矢は死体から引っこ抜くなりその辺の枝削るなりで代用できる。何でだと思います?」

 

この問いに、ジョゼフは少し考えて答えた。

 

「……原始的だから、か?フネや大砲や銃が例にでないのはそういうことか?」

 

その返答に、(たったこれだけでそこまで理解するとかマジ化けモンだよなこいつ…)と内心舌を巻きつつ、グルカは続ける。

 

「大正解です。火薬、弾丸、兵器の類いは『代えがききにくい』。特にああいった連射可能な銃というのは、高度な技術が使われた様々な部品の集合体です。構成する部品一個無くすだけで動かなくなることもある。そしてそういった武器や部品は磨耗が激しい。そして弾丸も同じく高度な物になり、専用の工場で造られたものでしか使えない。弾が切れた銃なんざただの鈍器でさ。そして奴らの兵器。こっちはより高度な技術の塊です。緻密なバランスで動いてる代物です。そしてフネに風石を積むように、ガーゴイルに土石を組み込むように、これらの兵器も何かしらのエネルギーで動きます。基本的にデカくて激しく動くモンほど莫大なエネルギーが必要になります」

 

「ふむふむふむ。しかしその辺りの補給能力も備えているのではないか?あの『天蓋』は。……いや、あの『天蓋』自体が大食らいなのか!」

 

「はい。あそこは存在するだけで常に大量のエネルギーを消費しています。おそらく遠からず枯れ果てます。内部の機構を動かすために優先してエネルギーをまわせば、兵器を動かせなくなります。銃や備え付けの砲ぐらいなら手動で動くかもしれませんが、軍隊の戦闘力はガタ落ちしますね」

 

「んー、チョット待って?それ奴らガ外にエネルギィを求めて攻めてくるかもッテことじゃナイ?」

 

「ところがどっこい。奴らのエネルギー資源はこの世界に存在しないんだよ。『石油』っつー燃える水なんだが、こっちはそれが各種精霊石に変わっちまってる。この世界のどこを探しても見つかりゃしねーのさ」

 

「ほーん。でもあれは君の『世界』とは違うッポいんでショ?『セキユ』をエネルギー源にしてるって断言デキルの?」

 

「……あ、無意識に共通点から『かなー?』って決めつけてたわ。スンマセン王様、さっきの無しで」

 

「おいおいおいおいおいおい、上げて落とすか貴様」

 

じとっとした目を向けてくるジョゼフ。

 

「ほんとスンマセン」

 

ぺこりと頭を下げるグルカを睨み、しかし次の瞬間一転して思考を切り替えるジョゼフ。

 

「……まいっか。現状さっぱりわからんことの方が多いのだ。まずはよく知ることから始めるとしよう。さしあたって先ずは戦争だ。軍を送るぞ」

 

「おや、やるんですかい?まぁやれってんなら行きますが、期待はしないで下さいよ?」

 

グルカが飄々と、だが好戦的な眼光で聞く。

 

が、ジョゼフはきょとんとした態度で

 

「んん?何を勘違いしている。なぜ我が愛すべき国民を戦場に送り込まねばならんのだ。私は無能だが、そんな愚か者ではないぞ。人の命はとても尊いものだ、大切に使わねば」

 

いけしゃあしゃあと告げる。

 

「んじゃドースルノー??」

 

首を傾げるファウスト、その問いに狂王は満面の笑みで答えた。

 

「肥え太らせた豚を送ろう。引っ越し祝いだ、喜んでくれるといいが……ふふふ、はっはっは、はーははははははははは!!!」

 




突然の登場人物紹介!!

ガリア王ジョゼフ

虚無なる狂王

原作的には中ボス扱いだったが、ヤバさから言うと実質ラスボス。

『無能王』というあだ名で呼ばれ、本人もそう思っているが、それは魔法の才能が無いだけであり、それ以外は全て天才的である。

今作では原作にはない強力な『腕』を二本備えているため、より巨大で強大な狂気の沙汰を果たそうとするだろう。

なお、作者はコイツの名前をつい最近まで「ジョセフ」と勘違いしていた。感想で教えてくれた方に感謝である。



グルカ大将

戦争の狂人

ガリア王の片腕であり、原作サイトやオリエンスとも違う世界から来た異世界人。

核が開発されず、代わりに二足歩行戦車が戦場を席巻した世界出身。
第一次、第二次世界大戦からも戦争は続き、辞書の『平和』の意味に『停戦期間』が加えられ、晴れて大二十次世界大戦が始まった頃にハルケギニアに放り出された。
恐らく身に付けていた大量の武器に反応したと思われるが、定かではない。
それらの武器のほとんどは使い果たした。残ってるのは刃物類のみだが、ククリさえあれば彼には十分すぎる。

故郷には帰りたいが、こんなにも熱く『たぎる』闘争を味わえるハルケギニアを愛してもいる。
ガリア王には忠誠心など欠片も抱いてはいない。ただの雇い主である。

ちなみに名前は偽名、故郷のことを忘れないためにそこからとった。



ドクトル・ファウスト

狂喜する魔人

ガリア王の片腕であり、オリエンスともハルケギニアとも違う世界から来た元・人間の現・魔人。

科学が発達せず、代わりに神秘が現存し、残忍な悪魔、無慈悲な天使、悪魔に魂を売った人間である魔人、天使に魂を捧げた人間である聖人、その両方に虐げられ搾取される人間で構成された世界。

彼は死んだ恋人を生き返らせるため、魂の一部を代償に魔人となった。
しかし生命の研究を進めるうちに『不可能』と判断、あっさりこれを放棄して人造生命の研究に移る。
なお、悪魔が彼から奪った魂の一部とは『愛』と『執着』である。

今では彼も立派な魔人。追加で売っ払った『倫理』と『道徳』で『好奇心』と『知識』を購入し、欲望赴くままに好き放題やっていたところをハルケギニアに放り出された。
ポケットのキマイラを封じたボール(通称ポケキマ)に反応した?詳細は例のごとく不明。

元の世界のことはどうでもいい、それよりこの世界のことを隅々まで調べたい。
ガリア王には忠誠心など欠片も抱いていない。ただの自分の研究のパトロンである。

ちなみに、『羞恥心』は値が下落していたため売れなかった。ローブを脱がされたら全裸だからグルカ将軍の脅しは結構怖かった模様。



クラヴィル大将。

普通の人

これといった特徴の無い、フッツーの人。

確かに最低限大将レベルの能力はある、無能ではない、臨機応変に命令もこなせる……だが普通である。

英傑と呼ばれるほどの名将!……ではない。
昼行灯と蔑まれるほどの凡将!……でもない。

猛将でも智将でもない、普通である。

某野望ゲームで言ったら全ステータス65で技能は『鼓舞』である。

普通である。

しかしガリア上層部が揃いも揃ってアレなため、比較して何故かすごくいい人に感じる。

そんな人。
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