皇国の守護銃   作:キノコ飼育委員

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『狼煙』

 その日、ガリア南方にある、『鉄の山』に非常に近い街で、キース小隊長は、外壁の上を見回っていた。

 

 彼は、いや彼に限らず、『あの』戦いに参加していた者の士気はすこぶる低い。

 夜中に飛び起き朝まであの日の出来事に怯える日々。

 誰もが夜の見張りに就く時は城壁に隠れるように踞り、恐々と外を、あの『山』を見張る。

 それでもあの爆発の音が耳の奥から響いてきて狂いそうになる。

 

 あるメイジが率いる部隊など、危険を承知で全員に『スリープクラウド』をかけ無理矢理休息を取っている。

 だが眠りの中にまで『奴ら』が追って来て悪夢に魘されている。

 

 無意識に顎に手をやる。ザラザラとした無精髭の感触。

 もう随分と鏡を見ていない。

 最近しきりに休むよう言われるのだから、どんな顔をしているのかは想像がつくが。

 

 だが今は休むより体を動かし何かに没頭していたい。

 そうしなければ、自分も例に漏れず狂ってしまいそうだったから。

 

 その時だ。

 濁ったキースの目に、『それ』が映ったのは。

 

「あれは……?」

 

 『それ』は、彼方から砂塵を巻き上げながら近づく『群れ』。

 そして空にポツポツと見え始めたいくつもの『影』。

 

 『それら』が何なのか、思い至った彼は悲鳴のような声で絶叫した。

 

「敵襲ーー!!」

 

 彼が叫ぶと同時、空の彼方がチカッと光る。

 

 次の瞬間、彼の意識は一時途絶える。

 

 

 

「ぐ……ぅ…?」

 

 キースは全身に走り回る鋭い痛みに意識を取り戻した。

 耳がキンキンと鳴り、頭が痛い。ついでに口の中に鉄錆びた味がする。

 どのくらい意識が飛んでいたのか、そう長くはないはずだ。

 何故意識が飛んだのか。それはおそらく『これ』が原因だろう。

 

「くそ……なんてことだ…!」

 

 自分が立っていた外壁、その一部が“消えている”。

 正確には大きく抉れてクレーターとなっている。

 頼りない防壁だとは思っていたが、本当に一撃もたないとは。

 見ればここだけでなく他の場所も吹き飛ばされ、外壁は欠けた櫛のようになっている。

 そして振り返れば、そちらも消し飛んでおり、キースは自分が外壁の上に取り残されたことを知る。

 

 だがここまで派手に攻撃されたのだ、もう既に襲撃の知らせが飛びすぐにでも援軍が飛んでくるだろう。

 問題はその援軍が来ても勝てる見込みがないことだが。

 いや、外壁がこうなってしまってはもう籠城戦にもなりはしない。

 市街地戦覚悟でバリケードを作っているだろうか。

 ……それとも逃げ出しているか。

 

 ……いや、逃げられないだろう。

 どこへ逃げるというのだ。

 

 あんな大軍を相手に。

 

 地平線から地面を染め上げるように、土埃と『箱』のようなものが迫ってくる。

 まるで津波だ、数えるのも馬鹿馬鹿しい。

 空にも何隻ものフネが並び静々と近づいてくる。

 

 その大軍の一部が別れこの町に向かってくる。さらに奇妙な形の小さなフネが何隻も。

 だがほとんどはそのまま進軍を続けるらしく、速度を緩めることなく走り続けているのが見える。

 

 ともかく隠れなくては。

 そう考えたキースは、どうにか降りられないかと崩れた外壁を調べるが、手ひどく崩れており降りられそうにない。

 進退窮まった彼はその場に伏せ、外壁上の壁に身を寄せた。

 

 そうこうすると、あの『箱』がちょうどキースの隠れている外壁に近づき、崩壊部のクレーターを通って街の中に侵入していく。

 その『箱』の中からあの、銃で武装した兵士たちがどんどん降りてくる。

 兵士たちは周囲に散り、吹き飛んで動かなくなったキースの仲間の息を確認している。

 ……たった今、とどめを刺された仲間がいたことに、キースはショックを受けた。

 

 すぐに肉に剣を突き立てる音がしなくなり、敵の隊長らしき男が街の瓦礫を見ながら何事かを言っている。

 どうやらあの滑るように動く『箱』は、ある程度平坦な場所しか動けないらしい。

 そして最初の砲撃で外壁や建物が派手に崩れ、通れなくなったようだ。

 どうやら僅かだが連中は墓穴を掘ったらしい。

 

 と、一際大きい『箱』が外壁の残骸前で止まった。

 兵士を吐き出した『箱』よりも大きいそれは、屋根の部分が二つに開き、壁が外側へ倒れて中身を晒した。

 

「あれは……あのゴーレム!」

 

 あの戦いでこちらの戦力を散々に喰らい尽くした鋼鉄の化け物、それが二体も。

 同じような『箱』が別の場所で停車しているのも見えるため、恐らくもっといるのだろう。

 

 ゴーレムの目に光が宿り、低い唸りとともに立ち上がる。

 

 一歩ごとに地響きを鳴らし、開いた『箱』から降りて街の中へ進んでいく。

 何をする気か見ていると、その左腕の大砲を瓦礫に向けて発射した。

 耳が破けそうな轟音と目を焼く光、肌に感じる熱い風。

 次の瞬間には瓦礫は細かな破片となり、彼らが容易に進めるようになっていた。

 

「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー」

 

 知らず、キースの呼吸は荒くなっていた。

 動悸が激しくなり目眩がする。

 這ったままずるずると下がり、ごろりと仰向けになる。

 

(勝てるわけがない……!)

 

 外壁の上から見る空は、広く、青かった。美しかった。

 

 キースはこの後何度も何度もその砲声を聞くことになる。

 徐々に遠ざかっていく砲声に安堵しながら。

 時折聞こえる悲鳴に、耳を塞ぎながら。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 『創世』計画。

 

 それは軍艦、装甲車の大編隊による機動軍を派遣し一気呵成に攻め滅ぼす、シド・オールスタイン最後の計画。

 

 『フィニスの時』とクリスタルの加護の喪失、それによる未曾有の混乱を纏め上げ、同じく混乱している敵地を完全に制圧、占領するこの計画は、残念ながら『転移』によって破綻したが、それでも結局やることは変わらない。

 

 ガリア王国南部を掌握するために、『ドーム』より二個軍40万が出撃、電撃戦を開始した。

 

 『空中戦艦』より遠距離から砲撃が飛ぶ。

 三連装45センチ砲の埒外な威力が驚異的精度で飛来する。

 『固定化』のかかった堅牢な石壁が、ただの一撃で木っ端微塵にされ、どころかクレーターに変わる。

 設置されていたバリスタも大砲も使われることなく消し飛び、そこにいた兵士は言わずもがな。

 生き延びた人間も着弾の衝撃と爆発音、そして目の前の光景の現実感の無さからショックで呆然としている。

 

 そこへ猛スピードで装甲車輌の群れが突っ込みクレーターを飛び越え外壁の中に停車、中にいた兵士を後部扉からざらざら吐き出す。

 この街には要塞の役割は無いため、外壁の中はすぐに街だ。

 そのため、爆発の余波で崩れた周囲の建物が邪魔になり車輌はそれ以上進めない。

 と、ここで遅れて大型の輸送車輌が到着。

 『コロッサス』二機を発進させ、瓦礫を吹っ飛ばして無理矢理街内部へ進行する。

 街の外には空中戦艦より降下した、砲型ニムロッドによる砲兵中隊が展開し、街内部へ援護砲撃を行う。

 

 事前に得ていた情報より、街の大きさに合った規模の部隊を展開、本隊は止まることなく進行を続け、外壁を突破した皇国軍は、コロッサスと装甲車を盾に前進、街の中枢制圧に動いた。

 対し街の駐屯軍(という名の先の会戦の残党と街の自警団の混成部隊)は崩壊した外壁を放棄、町の中心部に後退していく。

 足止めとして、この町にも僅かに配備されていた亜人と奴隷による『屑兵』15体を、街の主通りから突撃させる

 死んだ目で走る人間10体と、暴れる喜びに叫ぶオーク5体が迫ってくる。

 

 それとぶつかることとなった制圧部隊の隊長は、部下にこれの迎撃を命じた。

 

「ダグラス!ファイン!片づけろ!」

 

 あの凄まじいしぶとさを持つ怪物相手にたった二人。

 普通なら正気を疑われかねない、むしろ捨て駒にしたのかと思われる采配。

 しかし命令を受けた二人は、

 

「了解!」

「任せてくださいよ!」

 

 意気軒昂に受諾した。

 ガシャガシャと重い足音を鳴らしながら二人が進み出る。

 彼らの自信の源は、装備している兵器にあった。

 

 彼らの見た目は一般兵の装いだが、手にしている武器は狂気の一言。

 17ミリの口径が六つ円形に並んだ、取り回しの容易な小さなガトリングガン。

 弾帯は背中のリュックサック型マガジンに繋がっており、その驚異的装弾数によって最大秒間100発の連射力を支えている。

 『強化兵』でもなければ扱えなかった重機関銃を、一般兵でも扱えるように反動吸収性を改良、銃身と弾倉を分離し取り回しを向上した。

 

 これぞビッグブリッジ防衛戦で猛威を振るった新たな兵科、『携行式多銃身機関銃兵(ミニガン・ソルジャー)』である。

 

「いくぜぇえ!」

 

 静かな駆動音で銃身が回転、大きな管楽器(スーザフォン)を思い切り吹いたかのような重低音が奏でられ、銃口からは音符の代わりに弾丸が流れ出る。

 その弾丸の激流に当たった『屑兵』は、文字通り木っ端微塵に消し飛んだ。

 

 極限の興奮下で痛みを知らずに暴れる?

 『強制(ギアス)』の魔法で死ぬまで戦う?

 

 では死ね。

 

 四肢の欠片も残さぬ暴力で死ね。

 

 たった二人で通り一つを制圧できる火力に、そんなものを開発し配備できる皇国への畏敬に、興奮覚めぬまま撃ちまくるダグラスは叫ぶ。

 

「ハッハァー!ミリテス皇国に栄光あれ!シド様万歳!シド・オールスタイン閣下万歳!!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 この街にいた貴族(メイジ)、その中でも最も位の高いこの男は、館で恐怖に震えていた。

 男は戦闘狂だった。

 戦うことは楽しく、殺すことは甘美なことだった。

 だが、そんな男は影も形もない。

 何故ならあの光景が、今も男の魂を捕えて放さないからだ。

 

 何もかもが消し飛んだあの光景。

 巻き上げられた土砂と味方の臓物、辛うじて死に損なった者たちの呻き、悲鳴。

 

 戦争?

 違う。

 

 あれは違う。

 あれは、ただの虐殺だ。

 屠殺場に家畜が送られ、順番に細切れにされ、焼かれていっただけだ!

 

 がりがりと男は爪を噛み、血走った眼で己の杖を握り締める。

 

 と、次の瞬間、凄まじい轟音と少しの衝撃が館を振るわせた。

 

「ヒッ!?何事だ!!」

 

 あまりにも聞き覚えのある爆音に慌てて窓に飛びつくと、もうもうと煙を上げる外壁部が目に入る。

 彼方にゴミのように小さく見える黒点は、恐らくあのフネに間違いないだろう。

 でなくば崩れていく外壁の惨状に説明がつかない。

 初めて見た『あの時』は何ら脅威に感じなかった。

 せいぜい『立派なフネ』程度の認識で、あの大砲はよほど運が悪くなければ当たらないとタカを括っていた。

 

「あんな距離から……!ふざけるなよ!!」

 

「フロイト様!敵です!」

 

「見ればわかる!!至急兵を外壁から引かせろ!狼煙を上げて付近の街に救援を頼め!!」

 

 飛び込んできた副官に怒鳴りつけるように命じるが、副官は

 

「フロイト様!降伏を!壁を崩されてはもはや籠城も……!」

 

 と進言してきた。

 あまりのことにうっかり男は『ブレイド』で副官を斬り殺しそうになったが、咄嗟に自重した。

 

「馬鹿者!生き残りの話を聞かなかったのか!!奴らは捕虜を取らん!目についた者は全て殺すのだぞ!!」

 

 そうだ、あの会戦に参加していた者はほとんど帰ってきていない。

 あの砲火に曝され消し飛んだか、残党狩りで殺されたかだ。

 森の奥深くに身を潜め、小さなガーゴイルに追い立てられながらも生き延びた僅かな生還者がそう言ったのだ。

 『降伏した味方は皆殺しになった』と。

 

「で、では脱出を!」

 

「どこへ逃げるというのだ!!もはや斯くなる上は戦うしかないのだ!」

 

 そう言い、男は部下に建物周囲にバリケード代わりに家具を積み上げさせ、土メイジに錬金でそれを金属製のものへ変えさせた。

 と、そこへ奇妙な形をした小型のフネが、幻獣のような速さで軽快に接近し、街の空を旋回し始めた。

 

「……奴等の偵察か」

 

 忌々しく思えどフネも幻獣もないのでは打てる手がない。

 魔法で撃ち落とそうにもあの高さでは届かないだろう。

 男は苦々しく思いつつ、それを見逃すことしかできなかった。

 

 一方奇妙な形のフネ、『空中戦艦』より発進し、この街の制圧部隊を支援に来た『中型艦載艇』は街の内部の偵察を行っていた。

 後部ハッチを半分開き、双眼鏡で眼下を偵察する者が二人、底面機銃のカメラを見ている者もいる。

 と、双眼鏡で街の中心部の館を観察していた兵士が男を見つけ、それを指差した。

 

「おい!アイツ!?」

「ああ間違いねぇ!あの野郎だ!生きてやがったのか!」

 

 彼らは傍らの通信手に指示を下した。

 

「隊長に連絡を入れろ!ヴァンダム隊長の仇を発見したとな!!」 

 

 彼らの部隊の名は『ランドル装甲小隊』。

 

 原隊名、『ヴァンダム装甲小隊』。

 

 皇国転移後の初の調査で、指揮隊長を失った部隊である。

 

 

 それから数時間後、男は館の奥の部屋に隠れていた。

 驚異的な速度で侵攻してきた敵は、バリケードを木で出来た粗末な柵のように破壊し、建物内に突入してきた。

 防衛隊はゴーレムに蹴散らされ、建物の中に押し込まれた。

 どうやら敵はこの建物の制圧を目的としているようで、今のところあのゴーレムは砲撃を控えている。

 ……代わりに誰も通さぬとばかりに周囲を囲まれているのだが。

 

 しかし正門はとっくに突破され、建物中から銃声と悲鳴が聞こえる。

 そしてその音は徐々に男の隠れているこの部屋にも近づいてくる。

 彼自身の部下は、何故かこちらだけを執拗に攻撃してきた敵部隊があり、それによって傭兵も含めて全滅しており、この部屋にいるのは彼のみだ。

 

 外の廊下から大勢の人間が走ってくる音が聞こえ、男は肩から血を流しながら扉に杖を向ける。

 固定化をかけた強固な扉に衝撃が走り、次いで銃声が扉のすぐ外で連続した。

 『固いぞコレ!?』『ただの扉じゃねぇ!』といった罵声が聞こえ、男は扉が破られなかったことに僅かに安堵する。

 

 次の瞬間、扉が爆散した。

 

 粉々の木片と化した扉を踏みつけ、鋼鉄の足が体当たりの姿勢を元に戻す。

 『ストライカー』シリーズの体系を組む『ウォーリア』、その改修機体『バーサーカー』である。

 要塞内部や施設などの閉所において、『コロッサス』のような大型鋼機は侵入すらできない場合が多く、それによって被害が拡大することもあった。

 それゆえ、施設制圧が主となるであろうこの『創世』計画に合わせ、『ストライカー』シリーズ最後の型が用意されたのだ。

 主兵装は『ウォーリア』と同じ前面クローだが、それとは別に機体横両面にそれぞれ小型拡散砲が新たに設けられており、運動性能自体も『コロッサス』によって培われた技術によりグレードアップされている。

 これにより拡散砲から面制圧的に射撃を行いつつ吶喊、クローによる体当たりを行うという、中近距離対応の構成となった。

 なお、拡散砲の威力自体は『ストライカー』の砲より低いが、そもそも『クリスタル』の加護を失った人間を相手にするための物であるため、あまり問題視はされていない。

 

 扉をぶち破った『バーサーカー』の後ろからぞくぞくと『ランドル装甲小隊』が突入してくる。

 男を囲むように半円状に展開し、銃を向けてくる。

 

「おうおうこんなところで会えるなんてなぁ!嬉しいぜ貴族様よォ!」

 

 兵士たちの中から声がかかり、一人の兵士が姿を見せた。

 他の兵士よりも特徴的な鎧をつけており、男はその兵士を連中の隊長格と認識した。

 

 その瞬間、追い詰められた男の中で狂気染みた憎悪が燃え上がった。

 自分がこんな惨めな気持ちになっているのは、全てこの目の前の敵のせいであると本気で信じた。

 ゆえに後先全く考えず、道連れにするつもりで生涯最高の一撃を放った。

 

「しィ!死ねェエエエ!」

 

 それは何の偶然か、氷の槍だった。

 

 だが――――

 

「タコが……」

 

 すっと翳された手の平、そこに嵌められた装置が起動。

 紫の光が球体状の壁となって現れ、氷の槍を打ち消した。

 

「なぁ?!」

 

 あり得ない光景に男は動揺し、さらに頼みの綱であった魔法ですらこの未知の敵を倒せないと知り、憎悪が恐怖に反転した。

 その恐怖による震えで杖を取り落としてしまう。

 

 ランドル少尉は左腕の『小型魔法障壁発生装置』を切り、今度は右肩に取り付けられた小型機関銃を男へ向けた。

 隊員たちも己の小銃をそれぞれ構える。

 

「あの時お前に渡せなかったモノだ。遠慮はいらねぇたっぷり受け取れ!!」

 

 幾重にも銃声が重なり―――――やがて終わった。

 

 硝煙が部屋いっぱいに立ち上り、薬莢がそこら中に散らばっている。

 そんな中、強化兵弐型であるランドル少尉は、目の前の肉塊に銃口を向けたまま、微動だにしない。

 

 いや、

 

「ぅ、ぅぅうううう」

 

 僅かに震え、唸っている。

 

 震えは次第に痙攣のようになり、唸りは大きくなっていく。

 

「がぁああああああああああ!!!!」

 

 唸りが絶叫となった瞬間、彼は背の刀を引き抜き、肉塊に突き立てた。

 一度だけではない、何度も何度もだ。

 

「クソッタレ!クソッタレがぁ!!なんでだ!なんで消えねぇ(・・・・)!なんでテメェの記憶が消えねぇんだ!なんでテメェなんかを覚えてなくちゃいけねぇんだよチクショウ!!」

 

 白虎を模したヘルメットから、とめどなく雫がこぼれてくる。

 後ろで小銃を握り締める隊員たちも、鋼機の操縦桿を握るパイロットも、歯を噛みしめて泣いている。

 

「クソッ!クソッ!!糞がぁ!!殺してやる!奴らを殺してやる!!一匹残らず皆殺しだ!!根絶やしだ!往くぞォオオオオオ!!」

 

「「「「「オオオオオオォォォォ!!!!」」」」」

 

 肉塊を蹴り散らし、ランドル少尉は部隊に突撃と虐殺を命じる。

 部隊の者たちは皆それに同調し、狂乱した。

 

 誰もそのことに疑問を抱かぬまま。

 

 小隊全員が一様に憎悪に染まり、独断行動すら取らせる、その不自然さ。

 

 それを彼らは、いや、これを開発した者たちですら知ることはないのだった。

 

 皇国の、本当にごく一部を除いて。

 

 『ノア』計画、その最終形を知る極々少数を除いて。

 

 ただ、部屋に置いてあったランプ―――――――そこに小さく罅が走った。

 

 

 

 街は破壊の炎に包まれ、燃え盛って立ち昇る黒煙は、街の兵士たちが上げた狼煙と混じり合い空へと昇って行った。

 

 まもなく、同じような『狼煙』が南方全ての街で上がるのだった。




えー、作者の頭の中にある零式二次の帝都脱出編の話を読まれた方ならば、最後のシーンをヒントに強化兵弐型の正体が掴めるやもしれませんw

では次回、『山猫』でお会いしましょう。
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