『サン・マロン無敵要塞』。
ガリア西部海岸に位置する海岸要塞都市のあだ名である。
もともと大きな軍事拠点であったここは、『ガリア王の思いつき』によって一気に膨れ上がり、軍事と軍需で栄える巨大な都市となった。
人口35万の大都市を強固な『固定化』を掛けられた三重の外壁で固め、さらに外側を星形外壁で囲み、最新式の大砲をずらりと配備。
門は3ヶ所しかないが『陸上機動装甲軍』の兵舎自体は外壁内に多数存在しており、主力である『キマイラ』に至っては
住民の約半数が陸か空の兵士であり、貴族、傭兵問わずでメイジの数は2000人ほど。
フィヨルドを利用した広大な港は湾内にも攻撃できるよう多数の砲を用意、そこに『空中機動要塞軍』の艦隊が停泊している。戦列艦70を含むフネ220隻が停泊している姿は壮観であり、一度でも目にすればガリアの強大な軍事力を誰もが痛感するだろう。
もっとも、現在は対異界軍へ対抗するため、防空線形成にほとんどが出払っており、ここには戦列艦10隻、支援艦20隻による一個艦隊のみが残っている。
大地に近い方に『陸上機動装甲軍』、海原に近い方に『空中機動要塞軍』と、住み分けがなされている。
正規兵2万、戦闘ガーゴイル5000、装甲キマイラ3000、『屑兵』2万。
以上がハルケギニア最強の巨大要塞の概要である。
そこは現在、ミリテス皇国による猛攻に曝されていた。
火竜山脈を越えた皇国軍『空中戦艦』10隻は、厳戒態勢のガリア防空線を無造作に食い破り、真っ直ぐに『サン・マロン』へ侵攻。
すぐさま航空戦力を展開し、総攻撃に移った。
空爆に重なる空爆と、砲撃に重なる砲撃に、さほど抵抗できず『固定化』が破れて外壁が爆散する。その爆散したところへ五隻の『空中戦艦』がそれぞれ突撃、無理やり艦を押入れ、地上部隊を流し込んでいく。
残りの『空中戦艦』がその重装甲に任せて突撃し、無理矢理都市部に着陸、大部隊を次々に降ろし橋頭堡を構築し、さらに航空部隊を出撃させ制空権確保に移っていく。
垂直カタパルトによって小隊ごと打ち上げられた隊長は、手早く編隊を組みながら通信を飛ばした。
「敵の主力は魔導兵を乗せたドラゴンかゴーレムだ!我々の兵器は敵を圧倒している!油断さえしなければ墜とされることはない!」
『『『『『了解!』』』』』
「征くぞ!私に続け!!」
隊長機であるブラックバーンにヘルダイバー5機の一個小隊がバーナーを吹かせ、空の戦場へ突入し、彼らに続かんと次々に飛行型鋼機の編隊が突入していく。
ヘルダイバーの緑と、時折ブラックバーンの赤が混じるミリテス皇国軍航空部隊に対し、無論のことガリア王国空中要塞軍も航空戦力を上げんとしていた。
待機戦力として臨戦状態であったガリア両用艦隊が次々と錨を上げる。
フネの甲板が開き、そこから火竜に跨った竜騎士たちが飛び立っていく。
内部のほとんどを大砲に割いた戦列艦からは翼持つ悪魔を模した飛行ガーゴイルが少数、支援艦である他のフネからは竜騎士とガーゴイルが山ほど吐き出されてくる。
それらは突撃陣形を取り皇国軍航空部隊へと向かっていく。
それに続きフネも帆を上げ翼を広げる。
そうして空へと上がらんとし――――結論から言えば、それは叶わなかった。
「ん?」
ある戦列艦、その見張り台に立っていた水兵がナニカを見つけた。
身を乗り出し、海の濃い蒼を透かそうと目を凝らす。
「なんだ……?」
それは眼下にある暗い海、その中に見える数多の影。
そしてそれらが灯す、『緑白色』の光。
水兵はすぐさま警告を下に向けて絶叫した。
「船長!下に!海中に何かが―――」
瞬間、海面が吹き飛び、何かが飛び出した。
飛び出した物体は空高く上昇し、彼らの乗るフネ目掛けて降ってくる。
ソレ―――海中より撃ち出された垂直発射ミサイルはフネの甲板をぶち抜き爆裂、丸ごと木端微塵に変えた。
突如戦列艦が吹き飛び、その船体の欠片をまき散らすという異常事態に、艦隊の水兵たちが皆茫然としていた。
だが彼らの驚きなど完全に無視し、事態は急速に動いていく。
先ほどと同じく海面を次々とミサイルが突き破り、未だ上昇段階の艦隊に着弾していく。
『空中機動要塞軍』後詰の一個艦隊30隻は、砲弾一発すら撃つことなく全滅した。
爆発で死ねなかった水兵たちは、空高くに吹っ飛ばされ、海面へ叩き付けられ動くこともままならないまま水底に沈んでいく。
(何が、起きたんだ……なにが…)
彼らが消えゆく意識の中、海の中で最期に見たのは―――海底を進軍する鋼鉄の一団。
そして、その後ろから迫る巨大な”影”だった。
海の中から突き出された大砲の群れが、フネが停留していた港を破壊していく。
土塁を積み上げ、巨石で美しく整備されていた港は無残に破壊され、崩れていった。
その崩壊部を、『海の中から』登り始める存在があった。
「『ウォーカー1』より各機へ、玄関が開いたぞ、突入だ!」
崩れた土塁と石を踏み砕き、巨砲を携えた鋼鉄の巨人たちが上陸していく。
右腕には機関砲の代わりに尖った槍のような突起が装着されており、両脇へ突き出るスクリューのついたパックを背負っている。と、それが中央から割れ左右に落ちた。
水中対応型鋼機『コロッサスS―5型』
朱雀首都魔導院を後背より奇襲するために開発されていたこの鋼機。さらには航行能力引き上げのための追加パック。
その目的は、オリエンスの常識外にある海中からの奇襲上陸!
そしてそれを支援するはこの戦艦。
海中から浮上してくる巨大な影。海面が盛り上がり、水しぶきとともに割れるとその姿が露わになる。
黒光りする葉巻型の船体に、流線型の艦橋。
後部には海中を進むためのスクリューを備え、上部には垂直発射ミサイルを数多く備えている。
さらに――――。
海中より姿を現した戦艦はそのまま前進し、フネの残骸が未だ漂う港にその船首を乗り上げる。
葉巻型の船首が上下に開き、内部より通常の『コロッサス』を含む揚陸部隊が出撃していく。
さらに上部のハッチが開き、垂直カタパルトから『ヘルダイバー』部隊が射出された。
それが計三隻、港に乗り上げている。
海岸からも続々と『コロッサスS型』が上陸していき、見る間に港側は皇国の軍勢に埋め尽くされ、制圧されていった。
これこそが、皇国のノーチラス級強襲揚陸潜水戦艦を基軸とした奇襲計画『カンピーニ』の完成形である。
なお、長いので普段は略称の潜水艦と呼ばれている。
さて、視点を変えて都市部に着陸した『空中戦艦』艦橋。
そこは出撃した制圧部隊の指揮所となっており、次々と入る情報を士官たちが処理している。
「ここからは速度が全てだ、速やかに全てのポイントを制圧しろ!」
「地上部隊の展開完了、各部隊予定の進行ルートに侵攻開始」
「第二部隊が敵と接触!戦闘に入ります!」
「同じく第四、第五部隊会敵!」
「航空部隊から入電、敵ドラゴン部隊、および飛行型ゴーレム部隊を発見!掃討に入ります!」
「『ヘカトンケイル』に情報を収集!全部隊に反映しろ!各隊の連携を崩すな!」
「第一部隊が会敵!第三部隊もです!」
「第二、第四、第五部隊前進再開!損害は軽微、作戦続行に支障なし!」
「予備兵力の配置完了、いつでもいけます!」
「『カンピーニ』艦隊より入電!『奇襲ニ成功セリ』、繰り返す『奇襲ニ成功セリ』とのこと!」
矢継ぎ早に入電と応答が繰り返され、止まることなく更新される情報の荒波の中で彼らは戦う。
と次の瞬間警報が鳴り、一人の通信手が艦長へ叫んだ。
「艦長!敵ドラゴン部隊接近、真上から来ます!」
「高射砲出せ!迎撃急げ!」
『空中戦艦』の上部甲板に高射砲が幾つかせり出し、上空から迫る竜騎士たちに砲弾を浴びせていく。
しかしその弾幕は広大な空を閉めきるにはあまりに狭く、迫り来る竜は小さい。
僅かに撃ち墜とされた者は出たが、続々と甲板に取りついていく。
計21騎もの火竜に着艦を許した代償は、高角砲の破壊であった。
強固な合金に守られた戦艦に風、水系統の魔法は効果が薄いと知ってか、使われたのは爆裂する火球『ボルケーノカノン』。
燃え盛る魔力の榴弾が着弾、高射砲が吹き飛ぶ。
竜騎士が槍を掲げて叫んだ。
「取りついたぞ!」
『だから?』
雷光がドラゴンもろとも竜騎士を引き裂いた。
焦げ臭い細切れの肉片と化した彼らが飛び散っていく。
「な、なんだ?!」
竜騎士たちが、ドラゴンたちが、突然現れた闖入者に目を向けた。
いつの間にか、甲板に開いていた穴から大型の魔獣が姿を現していたのだ。
いや、果たして魔獣だろうか?
四足の獣のようであり、しかし何故か人間のようなイメージを抱く。
全身には体毛がなく、代わりに曲線を描く白い金属光沢があり、そこから鎧を纏ったガーゴイルにも思えた。
背には細長い四角い箱、指先は鋼鉄の爪。顔は、猫、だろうか?
そのちぐはぐなイメージは、彼らにあのおぞましい『
『運の悪い奴ら』
その奇怪な存在が口を、冷淡な女の声で口を利いた。
「な、なんだあの獣は?!」
「怯むでない!敵だ、討ち取れィ!!」
出の早い光の矢が飛び、獣を襲うが、獣はそれを走り抜けるように躱して迫ってくる。
覇者たる火竜に不用心に近寄る愚者を焼き尽くさんと、火竜は炎のブレスで迎え撃つ。
鎧を溶かし骨まで焼き尽くす火炎の奔流が放たれ、マズルを一瞬で飲み込んだ。
だが炎はマズルの『
だがそんなこと、意気揚々とブレスを吐くドラゴンには気づくことはできなかったし、竜騎士もそれで確殺として視線を逸らしてしまった。
ゆえに、彼らは炎の中から飛び出したマズルの――――『リュンクス』の体当たりをまともに受けた。
「ぐぉあ!?」
「ギャオオン!!?」
その体当たりは火竜の巨体が吹っ飛ぶほどのものであり、彼らは『空中戦艦』の上から弾き出され落ちていく。
だがそれを見ることなくマズルは攻撃を続行、背中のレールガン『グングナール』をアサルトモードにし、周囲の竜騎士を次々と撃ち抜いていく。それも彼らの間を駆け抜けながらだ。
短い充電だが、しかしもともと対召喚獣を目的として開発された『グングナール』は、異世界のドラゴンの鱗を容易く撃ち抜き、竜騎士たちの鎧を引き裂いていく。
「クッ!『ライトニングクラウドォ』!!」
『ガルルァ!!』
竜騎士の手にした槍が、槍の形をした杖が雷撃を放つ。空間を紫電が走り抜け、マズルを狙った。
だが、その瞬間マズルの身体がぶれるように消え、紫電は虚しく通り過ぎる。
「なにッ!?」
いや、正確には見失っただけだ。現にマズル、『リュンクス』の白銀のボディは獲物に向け疾駆している。
飛び掛かる勢いそのままに竜騎士の首を猫パンチでへし折りつつレールガンを回頭、連射モードで飛び立とうとしたドラゴンから撃ち落としていく。
いつの間にかその白い装甲には新たに紫の膜が重ねられ、機械の猛獣『リュンクス』は暴虐の限りを尽くしていく。
そしてとうとう最後の一騎になってしまった竜騎士は、愛竜に尾でちょうちゃくするように素早く指示。火竜もそれに答え、その身体からは考えられないような速度で旋回、丸太のような尾がしなってマズルに迫った。
そしてマズルはこれを竜騎士へ飛び掛かるようにして躱し―――
「見切ったァ!『ライトニングクラウドォォ』!!」
旋回に合わせてマズルの方を向いていた竜騎士が突撃槍を、己が軍杖を向けた。
その突撃槍の穂先を伸ばすかのような雷撃は、宙で身動き取れぬ獣へ一直線に突き刺さった、かに見えた。
だがそれは、その紫に染まった毛皮に千々に散らされてしまう。
まるでガラスの槍が砕けるような光景を、竜騎士は呆けたように見ていた。
『無駄』
竜騎士はそのままザクロのように鎧ごと踏み潰され、愛騎は背に主人の血を浴びることになった。
だが幸いにもドラゴンはそれを理解する間もなく絶命した。背に乗った『リュンクス』の全身から目も眩むような電撃が放たれたからだ。
もはや動く者のいなくなった『空中戦艦』屋上で、マズルが『ニャァ゛アゴ』と一鳴きすれば甲板が開いて軍用クァール、軍人クァールの部隊が上がってくる。ついでに人間の兵士も。
『みゃ!』
先頭の一匹が尻尾で敬礼すれば、マズルは彼らを見渡し告げた。
『|にゃあ、うみゃあぁ(作戦は、完璧を以てのみ是とする)』
『『『『ニャ!!』』』』
『うにゃぁお(では行け、狩りをはじめろ)』
その号令に従い、皇国軍総督府付特殊部隊『オセロット』は、『空中戦艦』屋上より飛び降り、周辺の建物の屋根に着地。
敵前線後方への浸透作戦を開始した。
人間の兵士?その辺に突っ立ってます。
街の裏路地や屋根の上に軽やかな足音が連なる。
足音が屋根の上から地面へと落下し、敵の背後に廻り銃声と悲鳴を奏で上げた。
それを行うは、
この部隊は皇国軍の中でも異色の存在として広く認知されている。
強襲猫、狙撃猫、騎乗猫、指揮猫の四種で構成されており、市街、山岳において真価を発揮する。
強襲猫は読んで字のごとく、『軍用クァール』に防刃ベストを着せ、対人対モンスター訓練をマズルとその一族を教官にして叩き込んだ兵種である。
人間やモンスターへのより効率的な狩り――多対一攻撃であり、繰り出されるであろう攻撃の躱し方であり、急所の位置を伝授された彼らは、恐ろしいほどの練度で敵を狩る。
さらには事前の個体選別と効率的育成、調教により肉体は通常のレッサークァールよりも大型である。
ここで人間を騎乗させられるほどの大型個体を騎乗猫としてさらに選抜、強化兵も随伴させることで戦力の増幅もはかっている。
といっても戦闘開始と同時に強化兵は降り、騎乗猫は強襲に加わるのだが。
次に狙撃猫とは、背中に狙撃銃を装備し、強襲猫を支援する兵種である。
彼らが装備する小銃は、背中を傷つけぬよう銃剣が外されて銃身のみとなっており、顎に装着したスイッチによって撃発する簡単な装置を装備している。
ただし照準システムはマズルの『リュンクス』に使用されているものの量産型であり、彼らの目に付けられたバイザーによって照準を合わせ後方からの正確な援護が可能だ。
ただ、人間より優れた身体能力を持つ獣に銃を持たせ後方支援させるのはあまり理に適っているとは言えない。
……ただしそれは、獣が『犬』だった場合だ。
特に街中のような起伏と足場に富んだ場所では人間では考えられない場所からの襲撃が可能だ。
その能力を活かし、狙撃猫は狙撃を生業とする者にとって最高の場所である高所を取り続ける。
そしてその全てを統率するのが、赤いベレー帽を被った指揮猫である。
指揮猫とは人間と同じ知能と知性を持った、『猫から進化した猫に見えるナニカ』である。
シド・オールスタインをもってして『もはや山猫ではない』と言わしめたほどの存在、それがマズルの暮らしていた群れの猫たちであり、マズルによって率いられる『軍人クァール』たちなのである。
彼らは『軍用クァール』とは別に『軍人クァール』として区別され、彼らの活躍を直接見た者達は彼らを決して獣とは見ないという。
今も彼らはひっそりと敵の部隊―――槍を手にした軽装歩兵の一団を眼下に、ひそかに包囲を完了させていた。
送られてきた情報によれば別の群れとの合流に急ぐ部隊。ここはかなり敵地深く。つまり―――
(警戒は散漫、格好の獲物だ)
ニィと牙を剥いて指揮猫は笑みを浮かべ、次いで吠えた。
屋根に潜んでいた猫たちが、咥えた爆弾を下に落としていく。
落下したいくつもの有線式収束破片手榴弾が一団の中に消え、点火装置を猫が肉球で押し込む。
盛大に炸裂した収束破片手榴弾は十全にその威力を発揮、その破片を一団の中でばら撒き、多数の人間を死傷させ、重傷を負わせる。
その炸裂音を合図に強襲猫が路地裏から飛び出し、未だ混乱の渦中にあった兵士たちに襲い掛かった。
一人につき2~3匹でかかり、転倒させ、武器を抑え、喉笛を噛み千切る。
狙撃猫があちこちから銃撃を続行、敵の混乱を加速させながら仕留めていき――――
さほど時間をかけることなく歩兵の一団を殲滅、彼らは速やかに移動を開始する。
地上の猫たちは一斉に周囲の壁にある僅かな突起―――窓の淵や壁の溝―――に爪をかけ、ほぼ垂直の壁を登りきって屋上に復帰。
そのまま味方部隊の支援に移るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばしの時間が経過して、視点は再びマズルの元に移る。
黒煙が立ち上り銃声と悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる街を見渡しながら、マズルは待機していた。
『ノア・コマンド』は即応可能な最強戦力だ。ゆえに、不測の事態になるまで極力前には出ないことになっている。
時折来る支援要請には『オセロット』の派遣と狙撃で対処しており、全体の作戦は極めて順調に進んでいた。
『姫、あれは降伏を申し出ているのでは?』
観測装備を纏った猫に言われ、マズルもそちらの方角へ視線をズームさせると、確かに白旗を振っている部隊がある。
さらにはその前面に皇国の部隊が展開しており、彼らに向けているようだ。
レールガンが一瞬でチャージされ白旗を撃ち抜きその周囲に電撃をブチ撒けた。
攻撃を受けたと考えた彼らから火炎弾が飛び、前面に展開していた皇国の部隊に着弾する。
もちろんすぐさま皇国軍も攻撃を再開する。
『ん、これで攻撃続行』
『さすが姫様。ですが独断が過ぎるのでは?』
『魔導士なんて生かしておいても碌なことにならない。彼もそう――』
―――言うはずだ。
そう続けようとしたマズルはしかし、“彼”が誰なのか思い出せないでいた。
ただ、ひどく悲しい思いを抱くということは、おそらく『ノア』の誰かなのだろう。
と、いきなり『空中戦艦』がぐわんぐわん揺れた。
マズルの下、つまり中から何かが叩いているような感じだ。
『雪色〜!』
『雪色雪色、僕の出番は?』
艦載艇が出撃するための上部ハッチが開き、中からのんきな咆哮が響きだす。
『オレ早く遊びたい!暇なの嫌ぁ!』
『ダメ?ちゃんと言うこと聞くよ?』
さらにぐわんぐわんと振動が下から伝わってくる。
と、それをたしなめる低いバリトンボイスが音に混ざる。
『……大きい牙、大きい爪、あまり雪色を困らせるな』
『こまらしてないもん』
『きいてるだけだもん』
たしなめられてなおこの反応。
“躾”が必要だと感じたマズルは―――
『大きい牙、大きい爪……黙れ』
他者を圧倒する強者の重圧が放たれ、中にいたものを威圧する。
それは、弱肉強食の中で生きる彼らだからこそ、絶対に逆らえないと思わせるほどの圧力となってのしかかる。
その余波を受けた周囲の猫の毛が逆立ち、人間も猫ほどでないにせよ何かを感じて皮膚を粟立たせた。
『ご、ごめんなさい……』
『ごめんなさい……』
途端、しゅんとした声でしおらしく謝ってくる二人に、マズルは小さく嘆息した。
彼らの無邪気さと、自分たちの冷静さ、そしてそれでなお彼らを狩場に引き出す身勝手さ。
すべて彼らに非のないことだ。だが、彼らの力が間違いなく必要だったからこそ連れてきたのだ。
ならば、狩場で無用な怪我をしないためにも威圧してでも統率を取っておく必要がある。
と、新たに命令が通信機から飛んできた。
かなりの規模の部隊が出現、侵攻部隊を阻んでおりこれを撃滅せよとのこと。
マズルは添付された情報と現在の侵攻状況を加味し、戦局を読む。
『ノア・コマンド』は強大な力だ。放たれれば戦局を覆せる。
だがそれはあくまで効果的に運用された場合だ。
例えばセフティーならば味方を率いての敵戦線突破。
自分ならば遠距離からの文字通り必殺の狙撃。
しかしバヨネットのように味方戦線を支援するような『間違った』運用をすれば大きな無駄を生む。
あれは私情を捨てきれなかったバヨネットの失態だと、報告を聞いたマズルは呆れたものだ。
自分のように遠中近すべてこなせるようなやつではなく、ハンマのように『大規模破壊』に向いた能力のくせにと。
ともかく、今回はその愚を犯させないために既に単騎で突入させた。
その結果が遠くに見える嵐だろう。
つくづく馬鹿げた光景だと、マズルはやはり呆れた。
しかしだ、奇妙な事態だ。
奇襲は成功、侵攻も完璧。敵部隊の撃破は順調。制圧に至っては最高以外の言葉が見つからない。
「でも足りない」
そう足りない。足りなさすぎる。
恐ろしいほどに足りてないのだ。
「嫌な予感……」
じっとりと感じる言い知れない不安。その正体がわかるまで自分が動くのは危険だ。
ならば手持ちの中で何が来ようがどうにでもできる最もふさわしい戦力を派遣するしかない。
すなわち、『山猫部隊』の最大戦力を向かわせるという決定だ。
『……大きい牙、大きい爪、出番』
『ほんと!?』
『やったぁ!』
通信機に向かって言えば、下から元気な咆哮が返ってくる。
『ちゃんとムラマサの言うことをよく聞いて。狩りは生きて帰るまでが狩りだからね』
『『はーい!』』
そう大気が震えるほど元気に返し、上部カタパルト口から窮屈そうに身を細めて出てきた。
一匹ずつ外に出て、地上に降りる。
最後に出てきた“ムラマサ”が、ようやく外に出られた嬉しさに鳴いた。
『じゃ、ムラマサ、あとお願い』
『わかった。……にしても、成長速度が違うってのは複雑な気分になるもんだ』
了解しつつ、かつて泥だらけになって遊んだ兄弟である“大きい牙”と“大きい爪”を見る。
体格も寿命も自分と違う彼らは、精神の成熟速度すら違う。
“ムラマサ”は既に大人で、“雪色”は最近ようやく大人に。
そして彼らは向こう二十年は子供のままだ。
それはマズルにもよく感じられた。
『仕方ない。母様もそうだったはず。私もそう感じたし』
『……種族は違っても、お前もこいつらも山猫だ。気にすることがアホなのだ。だから……ええい!面倒だ、文句言うヤツは身体にわからせろ!いいな雪色!』
そう言い捨て“ムラマサ”は飛び下り、軽やかに着地した。
不器用な彼の優しさに雪色ことマズルは薄く笑う。
『わかった』
一方、それを見ていた若い一般兵。
「た、隊長殿!い、今のは何でありますか!?」
「ん?山猫《クァール》だが?」
「いえ!あれはどう見てもベヒ……」
「山猫だ」
「しかし……」
「山猫だ」
「……」
「あれは山猫だ。ここには山猫以外いないし君は山猫以外見ていない、いいな?」
徐々に持ち上がってくる銃口に、新参の彼は賢明な選択を選んだ。
「……は、ハッ!自分は山猫以外見ておりません!」
「うむ、よろしい。それにな、この部隊にある程度所属すればそんな些細なこと気にならなくなる。お猫様以外どうでもよくなるのだ」
そう言って隊長はうっとりと周囲に残った猫たちを見る。
その姿にぞっとする物を感じた彼は、別の方へ目を向ける。
「はぁ〜、この部隊配属されたら他には行けないってのは本当だな」
「すっっっげぇ癒される」
「俺もう山猫にモフられるだけの人生送りたい」
「俺、この戦争終わったら、クァール牧場に転属するんだ……」
……彼は、そっと空を見上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『サン・マロン』都市部を疾走する、メイジを隊長とする騎馬隊。
規模は50騎ほどの騎馬で、地の利と速度を活かして街中を駆け回っていた。
別働隊による陽動、斥候による位置把握で敵の位置を知り、常に敵の横っ腹をぶち抜くように仕掛けて何とか勝利をもぎ取っていた。
だがそれでも犠牲は大きかった。
始めは80騎余りだったがそこから30騎もやられたのだ。いや、むしろよく30騎に抑えたというべきか。
ここからだけでも彼らを率いる隊長の有能さがわかるというものだ。
「いったい、いったい何が……」
と、先頭にいた男のもとに小さな呻き声が届いた。
さっと辺りを見渡すと、僅かに身じろぎする者を発見する。
男は馬から降りその重傷の生存者を抱え起こすと、大きな声で呼び掛けた。
「おい!おいしっかりしろ!」
呼び掛けられた生存者はカッと目を見開き、凄まじい形相で男の口を塞ぐと押し殺した声で言った。
「だまれ……騒ぐな、やつが、やつが戻って……ッ!」
しかし生存者は何かに気づいたのか恐怖で顔を青くすると押し殺した声のまま必死の警告を行った。
「逃げろ、バケモノだ!俺を置いて逃げるんだ!」
生存者の必死の警告はしかし、騎馬隊の者たちを戸惑わせるだけに終わる。
その時だ、彼らの鼻を、非常に濃い獣臭がついたのは。
そして地面から足へと響く、だんだんと大きくなる振動。
何か、とてつもなく巨大な『何か』が、大地を踏み締めて近づいてくる感覚。
それはすぐそこの曲がり角の奥から届いてくる。
やがてその音の主が、ぬぅと顔を出し、こちらと目を合わせる。
……ただし、こちらはそのために目線を上げねばならなかった―――その巨大な化け物に対して。
最初に頭を
そこにいたのは大きさがそこらの建物ほどもある四つ足の獣。
捻れた二本の角が顔の前へと突き出ており、だらだらとねばつく唾液が口から零れている。その口は当然のように血で赤く染まっており、それを為したであろう牙は実に鋭く太い立派なもの。
これだけならば―――もちろん最悪には変わりないが―――巨大なモンスターというだけで終わりだった。
珍しい発想ではない、こちらもオークやトロール、オーガを『屑兵』として運用しているし、『キマイラ』だっている。
だが彼らの度肝を抜いたのはその巨大さもさることながら、それが『鎧を着ている』という点だった。
白銀に輝く分厚い装甲で手足はもちろん尻尾まで含む全身を隙間なく覆っている。露出しているのはせいぜい顔の一部だけで、それすら猫を模した兜で防御している。
さらに側面には銃を備えた四角い出っ張りが三つずつ突き出ており、先程からぐりぐりと獲物を求めるかのように不気味に蠢いている。
そして背には、絶対に目の前に立ちたくないと確信を抱かせるに足る、巨大な大砲を一門背負っていた。
もしその巨砲がひと度火を吹けば、相対する者は文字通り消し飛ぶことになるだろう。
まさに『鉄の山』、生きた要塞だ。
酷い冗談だった。冗談だと思いたくなる現実だった。
「……」
騎馬隊を指揮するメイジの隊長は、全速力での退避を命じようとし、それがあまりにも遅い判断だったと悟る。
ここは長い一本道。目の前には確実に馬より歩幅のある巨大なモンスターで、その背には巨砲。さぞ射程も長かろう。
隊長は静かに、周囲の部下たちに告げる。
「……総員、突撃用意」
「隊長!?」
「もはや逃げられん。ならば逃げぬ!ガリアが誇る無敵要塞の一員として、ここでこの化け物を葬る!総員、奴の目を狙え!目の奥の頭蓋を砕き、奴を倒す!ただし、一当てで倒せなければそのまま離脱せよ!殿は私が務める!」
隊長が断固とした口調で命じれば、長年ともに戦ってきた部下たちも直ちに応じた。
馬首を揃え槍を真っ直ぐに構える。
彼らは行くのだ、ガリア王国軍人としての誇りを胸に。
その不屈の闘志を槍に込め、彼らは今、高らかに突撃を――――
「とォつげ―――」
『ガア゛ア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オオォン!!!!』
鼓膜が破れそうな大咆哮。
大気を震わせ全身を打ち据え抜けていく絶対強者のプレッシャー。
一喝。
ただの一喝で戦意を挫かれた。
訓練で抑え込まれていた軍馬たちの本能が思い出す。
騎士たちは世界が擁する絶対の法則を改めて魂に刻み込まれる。
すなわち、『弱肉強食』。
弱者は蹂躙され、強者が貪る。
そこに『散る者の誇り』など埃以下の価値もなく、強者の弄ぶ塵と化すのだと。
「う、ううぅ……」
ガタガタと身体が震え、鎧の金具がカチカチと音を鳴らす。それが全員揃ってのコーラスとなる。
ピタリと前を向いていた槍の穂先はふらふらと定まらない。
不幸中の幸いか、軍馬たちは眼前の怪物から目を逸らすことが出来ず、その威圧に飲まれたままだ。
もしそうでなければ、軍馬たちは主人を振り落とし、一目散に逃げていただろう。
ずしゃり、怪物が一歩踏み出し、牙を剥いて笑った。
笑ったのだ、その怪物は。
何も出来ぬ獲物を嘲笑ったのだ。
「と、突撃ィィイ!!」
一種の狂気すら滲ませた声で隊長は馬に鞭を入れ走らせる。
部下たちもまた悲鳴のようなときの声を上げ突撃した。
そうして彼らは、目の前の一匹と、後ろから忍び寄っていたもう一匹に挟まれ、一方的な蹂躙の末全滅した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ていっ!』
『しねっ!』
“大きい牙”と“大きい爪”は、その前足を振り下ろし、逃げるオークを踏み潰す。
断末魔を一瞬残し、オークは地面の染みに変わった。
『てりゃ!』
唸りを上げてスパイクの着いた尾が振るわれ、槍を構えて突進してきた騎馬隊を纏めて空高く打ち上げる。
『こいつら脆いよぅ。『ころさす』の方が噛みごたえある』
『でも逃げないの笑える!逃げるの追いかけるのも楽しい!』
そう言って逃げようとした兵士を倒し、ゆっくりと踏み潰す。
絞り出すような断末魔と弾ける血飛沫を笑いながら、“大きい爪”ははしゃいでいる。対し“大きい牙”は噛みごたえがないと不満そうだ。
そのベヒモ……ちょっと発育過剰な軍人クァール二匹は、まるで鎧を着込むかのように尾を含む全身が重厚な装甲板で覆われている。
その鎧は『番外者』と同質の金属が用いられ、生半可な攻撃は例え戦術兵器であろうと跳ね返す。
背には巨大な一門の大砲を背負っており、遠近に一切の隙はない。
彼らこそ、『オセロット』部隊最強戦力『リトルブラザーズ』である。
だが彼らは体は巨躯でも年齢は幼く、思考も拙い。
それゆえ、彼らを指揮する保護者が常に控えている。
『油断するな』
屋根の上から奇襲しようと魔法を唱えていたメイジたちが、真っ二つに両断される。
それを行った者の姿は……どこにもない。
ただ、一度だけ血を払うように光が振られ、すぐにまた消える。
彼の名は『ムラマサ』。
かつて『ノア』の一人の相棒を務めていた歴戦の戦士であり、名もその『ノア』からもらったものだ。
彼はその豊富な経験を活かし、『リトルブラザーズ』を教育しているのだ。
と、本部にいるマズルから通信が送られてきた。
『大きい牙、大きい爪、パワーをキャノンに』
『『いいですとも!』』
呼ばれた二人はその場に伏せ、己の持つ『何かよくわからないエネルギー』を背中の大砲に送る。
エネルギー(魔力に似てるし魔力だって言われるけどクァールが魔力持ってるわけないじゃないですかヤだなぁハハハ)を送り込まれた、『活力式曲射砲』が朱く発光し、砲口内に弾頭を形成していく。
エネルギーが充填された大砲は、砲身が赤黒く赤熱し、砲口からはまるで地獄の釜のように火の粉と焔が漏れだしている……魔力を用いて戦うような兵士も兵器も皇国には存在しない、いいね?
そうして発射体勢が整うと、情報統合システム『ヘカトンケイル』から送られてきた座標へ自動で大砲が回頭し――――――
『コメット!』
『コメット!』
巨大な砲声とともに、直径100センチはある隕石が発射された。
山なりの起動を描いて飛んだ二発の小型隕石は綺麗に敵の集結地点に着弾、何一つ残さず焼け爛れたクレーターに変えた。
『あたった〜?』
『あたった雪色?』
『ちゃんと当たった。あなたたちはいい子』
『やったやった!』
『めいちゅうだー!』
子供らしくころころと彼らは笑い、ぴょんぴょんその場で飛び跳ねる。
その度にズシンズシンと地面が振動し、地鳴りとなった。
さて、実はそこには彼らによる救援を受けた皇国兵の部隊の姿もあったのだ。
「「「「……」」」」
顎が落ちるようなその光景を見ていた彼ら。
さらにようやく我に返った隊長は、
「……どうみてもアレは山猫、そうだな?」
「「「「……ハッ!」」」」
精神の保護を優先した。
雪色呼び→マズル一族の直系か群れの山猫。現在は軍人クァールと分類されている。マズルは俺らが育てた(どやぁ
姫呼び→マズル一族の群れに後から加わった山猫。というか皇国の軍用クァールたち。人間にもなれる姫様スゲー!
マズル呼び→ノア・コマンド。家族で仲間で兄弟で姉妹。
ちなみに『リトルブラザーズ』の“大きい牙”“大きい爪”は人間にはそれぞれ『リトルキティ』、『リトルキッド』と呼ばれ大変かわいがられてます。毎年ムツゴロウ状態で死亡する飼育員が後を絶ちません。
なお、たまに爪と牙を研ぐために死刑囚を乗せたコロッサス(武装なし)が与えられます。
鉄骨が骨っこ代わり。
なお今回シーンを飛ばしております。
飛んだ部分は次回、『狂気』にて。
さてみなさんお待ちかね。
『人気投票結果発表!』
注意!
逃げろ!座談会だ!!
痛々しい作文が見たくない人はスクロールバーを活用してね!
その大ホールの入り口には、シンプルな白い看板に楷書体で『第一回人気投票結果発表会場』と書かれていた。
あなたは入り口の出席欄に署名し、その扉をくぐる。
中は存外広く、しかしそれを感じさせないほど人々で溢れ返っていた。
映画館や劇場のような深紅の座席が数多く並び、人々はその所属ごとにかたまって座っているようだ。
ある一画では、雪のように白い軍服を身に纏った一団が、銃で武装したSPに囲まれて陣取っている。
またある一画では、美しく上品な衣装で身を飾った貴族たちが座り、周囲は完全武装の騎士たちが固めている。
会場を満たす空気は一触即発とまではいかないものの、間違いなく不可視の圧力が荒れ狂っていた。
あなたはその光景を半ば予想していたのか、なんとも言えない顔でスルーすることにした。
ちょうど空いている席があり、そこに座る。
おっと、ほかの客も来たようだ。
手にポップコーンとジュースを抱え、あなたの前を「すまんが通してくれ」と言って通り、一席空けて座った。
と、ちょうど開演時間が来たのか、周囲が暗くなっていく。
そしてスポットライトが奇妙な、いや珍妙な存在をステージ上に照らし出す。
その姿を一言で表すならば、『キノコ頭の棒人間』だろう。
『大』の身体に『●』の頭を付けずに配管工のキノコを乗せたような珍妙な存在は、手にしたきらびやかなゴールデンマイクを振りかざして司会を行う。
『ぐーてんもるげーん!!どーもお集まりの皆々様!本日はこの痛々しい座談会によくもご出席くださいましたことを心より感謝いたします!』
『司会はワタクシ、キノコ飼育委員でお送りいたします!』
『ではさっそく結果発表に移りましょう!まずはハルケギニア編から!さぁ第三位!』
仰々しいドラムロールが鳴り響き、スポットライトが座席をあちらこちらと走っていく。
やがてその光がぴたりと、二点で止まった。
『ラ・ヴァリエール公爵家から深窓の令嬢、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ様!そしてタルブ村からシエスタ嬢が選ばれました!これはお二人の同一三位となりました!』
「あ、あら?どうして私が?」
「わ、わたしですか!?」
『ええお二人です!!カトレア様には“彼女の母性に心動かされないヤツは人間じゃねぇ!”との熱いメッセージが送られておりますよ!』
「え、そんな、そこまで大したことをしているわけではないのだけど……」
「ん~謙遜して照れる姿もお美しい!なるほど確かにこの姿に心動かなければ無いも同義です!……なお、シエスタ嬢には……ふむ?特にメッセーシはないそうです。直感的にあなただと思ったそうで」
「そ、そうですか……複雑です」
『それでは時間と行数が押してるのでさくさく行きましょう!お次は第二位の発表!』
またもドラムロールが鳴り、スポットライトが移動していく。
『第二位!おお!こちらも二人です!!それでは皆様拍手をお願いします、『マンティコア隊鋼鉄の規律』『烈風のカリン』でお馴染み、ラ・ヴァリエール公爵夫人!……あとギーシュ・ド・グラモンくん』
「あら、
『少ない登場シーンでもそのカリスマ性で見事二位を獲得されました!さすがですね!安定されています!』
「はっはっは!まぁ僕としては当然かな!」
『ハハ、調子乗んな。ではいよいよ栄えある第一位の発表です!』
三度目のドラムロールが響き、スポットライトがステージの一点に当てられた。
その光が照らし出すは、羽帽子と口髭が凛々しい長髪の美男子。
レイピアの軍杖を手にし、立派な黒のマントを羽織って真っ直ぐに立つ。
その姿は自信に満ちており、それはそれは立派なものだ。
そうとても、とても立派な―――遺影である。
『第一位!『閃光』のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド様でした〜って何でだよ?!」
キノコヘッドは手に持ったマイクを地面に叩きつけキーキー鳴き始めた。
あなたはその甲高い声に眉をひそめ、前の方に座っていたならば耳を塞ぎたくなっただろう。
「Why!?How!?What's the f〇ck!!何がどうしてこうなった!?なんか言ってみろよ原作主人公サマよぅ!」
バンッ!と点灯したスポットライトがハルケギニアの皆様の集まる席、ピンクブロンドの魔女を照らし出す。その隣にはもちろん、朱の竜騎士がいた。
魔女は皮肉気にキノコを嗤い、ニヤニヤとしている。
「何故と言われてもね。むしろ何故我々に人気が出ると?」
「二次創作でオリキャラがいるんだ。原作勢に人気が出るわけ無いだろ」
「じゃあ何でワルドなんだ!ワルド一回も出てないんだぞ一言もセリフ無いんだぞ!」
「「組織票が入ったから」」
「怒畜生!!」
しばらく正気とは思えない声でみっともなく叫びまわった後、キノコ野郎はマイクを再び手にした。
『……アレです。ワルドが大好きな人が真っ先に投票に来てくださったのが全ての運命を分けた感じですね。正直作者としては票はバラける予定でしたので、かなりビックリさせられました。二次創作で魔改造されたキャラというのはある意味原作とのギャップを含み好みが大きく分かれると考えていましたので。それでもまさか死人に票が集まるなんて予想外に過ぎました』
急に解説を挟んだキノコは、『もうやること終わったからゴールして打ち上げ行こうぜー』的な”ダルいオーラ”を全身から発して続ける。
「はい次ー、さくさく逝きましょうねー、はい次はミリテス皇国側の人気発表〜、一位は、シドね。わかりきってたことですね。はい次、総合賞もシド。はい終わり終わり〜お疲れー」
『ヒュー!これで休めるぜ今年の投稿はこれで最後かなー?』みたいな空気出しながら伸びをして歩き出すキノコ。
「撃て」
冷えた鉄のような命令が飛び、白の一団からありったけの鉛弾がキノコ野郎目掛けて浴びせられた。
細長い身体ではなく比較的狙いやすい頭部に狙いは集中、瞬く間に粉微塵となる。
「司会としての義務を放棄しないでいただけますか?」
硝煙を上げる拳銃を構えたまま、トリガーがにっこりと微笑んだ
「トリガー、俺は別に構わんぞ?そもそもあのキノコが仕掛けた出来レース臭かったこの人気投票、さほど興味が沸かん」
「ファザー、これはこちらの面子の問題です」
「本音は?」
「何か腹が立ったのでこれ幸いと撃ちました」
「素直でよろしい」
どこか抜けた会話を尻目に、ステージでは頭を粉微塵にされたキノコ野郎が再生していく。
「バカめ……私は何度でも蘇る……!未完の作品だらけで死ねるものか!」
「しかし更新頻度はお察し(失笑」
「げっぼぉ!!」
こういう創作活動している人間が共通して絶対言われたくないセリフ第一位『進捗いかがですか』が無慈悲にキノコ野郎にヒット、黄緑の汁を口らしき場所から吐き出し、菌類は再び倒れた。
「許して……そこはホントにつつかないで……キノコはデリケートな生き物優しくオーケー?」
日々の忙しさにかまけて執筆の時間が取れず、焦りとアイデアだけが溜まるうちに自分らしい表現を忘れ、そのうち更新したくてもできなくなり、いずれはすべての人の記憶から忘れ去られ、連載と完結の中間の存在(未完)となり――――やがてキノコは、考えるのをやめた……という漠然とした不安がキノコの全身を見えないへビか蜘蛛の大群のように這い回る。
「Ofcourse Not」
しかし慰めはなく代わりに銃声が一発、聞こえたと思った瞬間まばゆい光がステージを消し飛ばす。
光が消えると、ステージは綺麗に球形に消滅していた。
「いい加減この茶番を締めてくれないか?私は暇じゃないんだ」
それをやったのはどうやらピンクの少女のようだ。
と、照明が一瞬すべて消え、再びついた時にはステージもキノコ野郎もきれいさっぱり元通りに。
「前の俺はまな板に消滅させられるような反逆者だったが、今度の俺は完璧で幸福な市民だぜ」
そうなることを予測していたのか、ルイズは肩をすくめて拳銃を懐にしまう。
「それで、ミリテス側の順位は?」
「この流れでもっかいやんの?あぁハイハイオーライ』
マイクを手にし、キノコは再び司会を再開した。
『えー、まず第三位から!』
恒例のドラムロールが始まり、スポットライトが走る。
やがて光は二点で止まった。
『またもダブルランクイン!ミリテス皇国『ノア・コマンド』切り込み隊長、ハンマ・オールスタイン中尉!そして皇国の乙型ノア、メガンテ女ことクンミ・トゥルーエ様!』
「アタシ?でも最初の方で出てからはあんまり活躍してないわよ?」
『えー頂いたメッセージによりますと、その登場のインパクトに惚れたそうです』
「ふーん。フフ、照れるね」
「おい、メガンテってなんだ?」
『異世界の言葉で自己犠牲って意味ですよ。えーと、メッセージは……「パパン」…だそうです』
「……私は何もしゃべらないぞ」
『何で顔真っ赤なんです?オーケー!もう聞きません!だから謎ミサイルはやめてください!』
一瞬で自分の周りを囲んだルシの紋章にキノコもたじたじである。
『やれやれジョークの通じない……では第二位を発表します!』
ドラムロール!そしてスポットライトが示す人物は!
『マジかよまたかよ驚いた!これもダブルランクインときたもんだ!『白雷』『完全帰還者』など、無数の仇名を持つ男、カトル・バシュタール准将!そして未だその力は未知数、『ノア・コマンド』総指揮官トリガー・オールスタイン大佐!』
「む?私か……しかし人気が出るような戦働きが出来ていただろうか?」
『HAHAHAそのジョーク最高っすね!えー戦闘の評価に加え、「暴走中のシドやアリアとのやり取りには笑いを禁じ得ない」とのことです。いわばギャップ票ですね。その上少将に昇進されました。おめでとうございます。対するトリガ-大佐は主にシド元帥との絡みや稀に見せるえぐさが評価されたようです』
「なるほど……しかしえぐい?あれほど人道に配慮していたのにですか?」
『ソーデスネ! で、一位はシドね。さっき言っちゃったし。あ、ドラムロール要る?』
「いらん」
『Oh,Cool……せっかくドラムロールの名前ググってきたのに。「ドラム ダダダ」なんてワードで苦労して検索して見つからないから諦めたその日の夜ふと寝る瞬間に思い出すという災難も被ったのに…』
「それで?そもそも総投票人数はいくらなんだ?」
「三人でした……無念」
orzと倒れるキノコ野郎。
「まぁ原因として考えられるのは
1,理由を書くのが面倒(書かなくてもいいとはいえ書いた方がいい空気を作ってしまった?)
2,↑から7人分も無理
3,活動報告にわざわざ投票に行くのはしんどい
4,そもそも好きなキャラがいない
5,こういったイベント自体が嫌い
でしょうか?」
「3〜5はもう仕方ないとして、何故7人分の投票を?普通は部門ごとにひとり一票でしょうに」
「んーとですね、まず私自身が『人気投票』というシステムにマッチポンプめいたイメージを持っているんですよね。例えば漫画の人気投票なら?そりゃ主人公が一位とりますよ。二位三位はヒロインか親友ですよ。何故ならそいつらが最も描かれ、イメージとして定着するからです」
「もちろん一概にそうだとは言えませんが、だいたいそんな感じです。今回はそれだと『困る』のです。なるべく明確に『誰に注目が集まっているか?または集まっていないのか?』が細かく知りたかった」
「そのための『右手』、そのための『フラジール』、そのための『人気投票』です。オリエンスサイドなら一位はシドだろう、だけど必要なのは二位三位は誰かだ。ハルケギニアサイドの一位はルイズかサイトだろうが、二位三位が誰になるか。純粋な人気投票は総合部門だけでした」
「……フタを開ければハルケギニアサイドは大判狂わせでしたがね!」
そういってキノコはその場で踊り狂った。なぜだ。
「しかし、いったい何故二位三位が知りたかったんだ?」
そんな狂態知らんとシドが問いかけると、キノコはピタッと止まり、こう答えた。
「ん?まぁぶっちゃけた話、誰を殺すかの判断要素として使いたかっただけなんですよね」
一瞬のざわめきの後、全員の視線が作者に集まる。
「私とサイトは原作主人公だからな、我々以外なら誰が死のうが気にはしないよ」
「さぁ、どうだろうねぇ?」
ルイズが言外に“我々を含めるな”と言えば、“面白くなるなら殺すのもアリ”と作者は笑う。
「我々の主要人物はファザー、ノア、カトル様、アリア嬢、フェイス大佐、カロン曹長……カロン曹長を除けばよほどのことがない限り討ち取られることはないはず」
「さぁ、どうだろうねぇ?」
トリガーが“話の筋を違えるような超展開はするなよ”と言えば、“面白ければそれもいいかも”と作者は笑う。
徐々に周囲が暗くなり、ステージでライトに照らされるキノコ野郎しか見えなくなる。
そのキノコ野郎は最後に、
「まぁアレですよ、私に言えることは一言だけ」
あなたを見て言った。
―――お た の し み に
「ラスボスなのに誰も構ってくれん。寂しいぞ!」
一方、ガリア王ジョゼフは、ポップコーンもさもさ食ってコーラ飲んでた。