皇国の守護銃   作:キノコ飼育委員

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明けましておめでとうございます!!(白目)


『狂気』

 『サン・マロン』は海岸線に沿って構成されており、その関係から南北に楕円を描くように長くなっており、陸側は円周に沿うように5本の突角要塞が突き出している。

 『ミリテス皇国』は位置の関係上南側から攻め込むこととなり、北側への攻撃が手薄になる。

 それゆえに旗艦司令部は『ノア・コマンド』投入による早期制圧を決定。

 

 バヨネット大尉に出撃を命じた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 一本の柱のような物体が『空中戦艦』より打ち上げられた。

 

 その物体は、空の彼方へ上がっていき、やがて軌道を山なりへ変更し―――『サン・マロン無敵要塞』の北部突端内部に突き刺さった。

 

 驚いたのは着弾地点にいた人々だ。

 

 いきなり上から降ってきた謎の物体。

 動揺するなと言うのは無理だ。

 

 兵士たちが恐る恐る集まってくる。

 

 と、その柱の中ほどがバコッと外れ――――――

 

「イッテェ……首の骨が折れたぞ」

 

 中から男がひとり、現れた。

 

「まぁ215本も骨があるんだ、1本くらいいいか」

 

 そう言いながら、男は、白い軽装鎧(?)に箱を背負い、虎を模した兜を付けたソイツは、

 

「あー、俺は『ミリテス皇国』総督府付特殊部隊『ノア・コマンド』がひとり、バヨネット。階級は大尉だ。お前ら『ガリア王国』の兵士に告げる」

 

 腰から二本のアックス(何故か背中の箱と繋がっている)を抜いて、

 

「降伏しろ。痛い目を見る前にな」

 

 そう、のたまった。

 

「……」

 

 そこにいた全員が、あんぐりと口を開け、呆然とした面持ちで互いの顔を見合う。

 今耳にしたのは幻聴ではないのか?言葉に出さずとも皆同じ気持ちだった。

 

「……ク…」

 

 やがて誰もが少しづつ表情を歪めていき、

 

「プフ……ブッフクッ!」

 

 ひとりが耐え切れずに噴き出したのをきっかけに、一気に破裂した。

 

「ブッハハハハハ!!」

「アハハハハッハハハハ!!」

「「「「ハハハハハハハ!!」」」」

 

 すぐに周囲は爆笑の渦になった。

 やがて腹を押さえたまま、その場にいた小隊長が不敵に笑ったままのバヨネットに声をかける。

 

「わかったわかった。お前は最高のピエロだよ!とりあえず降りてこい、痛い目を見る前にな」

 

 僅かに声に険を滲ませる小隊長、だがバヨネットは嗤ったままだ。

 

「ククッ、その反応は『降伏しない』ととるが?」

 

「フン……おい」

 

 狂人には付き合いきれんと、小隊長は近くの部下に顎をしゃくった。

 槍を持った兵士が二人ばかり進み出て、バヨネットを引きずりおろしに近づいていく。

 

 それを見てバヨネットは、背中から二本の両刃斧を抜いた。

 

「あっコイツ!」

「おい抵抗するな!」

 

 二人の兵士は槍を構え、じりじりと近づく方針に切り替える。

 周囲は面白がっているのか、手を出す様子はない。

 

「馬鹿が、脅してる暇があるならさっさとかかってくればいいものを……『ブリューナクシステム』起動」

 

 その様子を鼻で笑うと、バヨネットは己の『ノア装備』を起動した。

 手に握る斧、それがグルグルと回転を始める。

 撹拌機のように高速で回転する斧に、一瞬バチッとスパークが走った。

 いや、一瞬だったスパークはすぐに周囲に走り回るほどの雷光に成長していく。

 

「雷?!ライトニングボルトか!?」

 

 ここに来てようやく兵士たちは、男を明確な“敵”と断定した。

 

 しかしそれでも、彼らには油断があった。

 この時点での彼らにとってのバヨネットは、あくまで『強力な風メイジ(?)』であり、正体が不明にせよ所詮無謀な突撃を挑んできた愚か者だったのだ。

 

 その認識の甘さを、責めることは出来ないだろう。

 いったい誰が想像する?

 

 このたったひとりの男が、まさに一軍にも匹敵する力を持っているなど。

 

 男が立っていた柱、再びその一部が外れ、中から黒いモノが溢れ出た。

 

 黒いモノ、それは砂のようにサラサラとしたモノであり、太陽の光を帯びてキラキラと光っていた。

 もしこの砂の近くに誰かいたならば、噎せるほどの鉄臭に気づいただろう。

 

 とにかく黒い砂、粗い『鉄屑』の砂は、溢れて地面へと落ち――――――

 

 落ち――――

 

 落ち――

 

 落ち―

 

 落ちない。

 

 まるで水差しから垂らされ、板を伝うように宙を『流れて』いく。

 

「な、なんだぁ?!」

 

 流れた鉄屑はバヨネットの周囲をぐるぐると飛び回り、真っ黒な砂嵐となっていく。

 

「ど、どうしますか隊長!()ちますか?!」

 

「……よし攻撃だ!弓兵、殺せ!」

 

 そっと控えていた弓兵たちが一斉に矢を放ち、バヨネットが何かをするまえに針ネズミに変えようとした。

 

 だが、もはや遅かった。

 

 その決断は出会い頭にしておくべきだったのだ。

 

 風を切り裂いて突き進んだ矢の群れは、全て見えざる手に捕まり進路を変え、鉄の砂嵐の一部となった。

 

 いや、それだけではない。

 

「な、なんだ!?」

 

 小隊長の腰に差していた剣がカタカタと震え、勝手に抜け始める。

 慌てて剣の柄を抑えるが、それでも抑えきれずに刀身が露わになっていく。

 その時小隊長は気づいた。

 剣だけではない。

 自分の全身が引っ張られているのだ。

 無数の不可視の腕に掴まれたかのように、体のあちこちが引き寄せられているのだ!

 

 それは既に自分だけではない。

 その場にいる兵士たち全員が、地面にふんばらねばもはや立つことも出来ない状態になってしまっている。

 

 そしてついに―――

 

「う、う、うわぁああああああ!!」

 

 限界が来た。

 

 バヨネットに最も近づいていた槍の兵士がふわりと浮きあがり、宙を飛んで鉄の嵐に―――いや。

 

 周囲の鉄を吸収し、見通せないほどの密度にまで肥大した、回転する『球体』に飲み込まれた。

 

「ギャアアアア!!アガッ!ゴゲェアアアア!!」

 

 兵士の悲痛な断末魔とともに、周囲に肉片と血飛沫が飛び散る。

 同時にボキボキと骨の折れ、砕けていくおぞましい音も。

 『球体』を形成する鉄屑に肌を削られ、不可視の力に全身を捻じ切られていく!

 

 その力は留まることなく増幅されていき、兵士を、剣を、城壁上の大砲までも引っ張り巻き込み膨れ上がっていく!!

 

「ハハハハハハハ!!久々の全力全開だ、派手にやるかァ!!」

 

 紫電が奔り瞬く黒色の『球体』。

 それがゆっくりと侵攻を開始した。

 

 行く手を堅牢な石壁が阻もうと、『球体』内部から射出された要塞砲そのもの(・・・・)がぶつけられ粉砕されていく。

 そしてその奥にいた兵士を次々と見えざる手で捕え、飲み込んで肉片を吐き出す。

 弓を射かければ矢を喰われ、大砲を撃ち込めば弾を喰われ、唯一の頼みである魔法は高速で回転する『球体』表面に散らされる始末。

 そして近づけば何もできずに喰い散らされる。

 

 その姿はまるで鉄を喰らう怪物。

 

 『ノア・コマンド』の本領発揮、大規模破壊の時間である。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 『ミリテス皇国』が『サン・マロン』攻略にかかり1時間が経過した。

 陸側からの要塞部突入、海側からの奇襲、空からの都市部襲撃。

 圧倒的な火力と物量に任せての攻略は、ガリア側の想定する防衛構想を大きく覆していた。

 本来この要塞は、堅牢な突角要塞で敵を止め、港に擁した大艦隊を出撃させ、敵を一切寄せ付けることのない防衛を基本としていた。

 だが皇国は、一気に『サン・マロン』内部に着陸し兵力を流し込んだ。

 さらに艦隊は出航する前に撃沈、突角要塞にも兵力を入れ、内外から『サン・マロン』を攻めたのだ。

 古来より敵に侵入された要塞は脆い。

 

 戦闘は『陸上機動装甲軍』の本部がある、突角要塞中央砦にまで迫っていた。

 城門付近は特別強固な『固定化』が掛かっているのか、現在の所対人ロケット弾にも耐えている。

 土メイジたちが突貫で作り上げた、隆起した土と『錬金』された家具などを組み合わせたバリケードの影にもガリア兵たちは籠り、突破を図る皇国兵に白兵戦を仕掛ける。

 

 幾重にも重なる銃声、空から降り注ぐ矢の風切り音、ロケット弾が着弾する爆裂音、城壁から撃ち下ろされる魔法攻撃。

 互いの兵士たちが戦意のままに吠え、倒れた者が断末魔を上げ、命令が怒号となって飛び交う。

 

 だがそんな喧騒の中ですら、その音が、その地響きがはっきりと耳を打つ。

 城壁で指揮を振るうメイジが半狂乱で叫んだ。

 

「アレを近づけるなァ!大砲でも魔法でもいい!アレを潰すんだ!!」

 

 地響きは収まることなくますます重く大きくなり、どんどん近づいてくる。

 

 その発生源は、鋼鉄の巨人の群れ。

 5機が矢じりの陣形で突っ込んでくる。

 

 重装甲型陸戦鋼機『コロッサス』、その胴体部に追加の装甲板を取り付け、防御力を桁外れにチューンしたカスタム機。

 両腕はクローのみだが代わりに腕に大型のシールドを取りつけ、それをボクサーのように構えて走ってくる。

 召喚獣に向かって数を頼みに突撃し、敵前線を抉じ開けるための吶喊仕様、『アイアンフィスト』だ。

 

 先頭を走る隊長機が部下へと檄を飛ばした。

 

「『ストレート1より小隊各機へ、敵の攻撃はこちらの装甲を貫通しない。気にせず突っ込め』」

『ストレート2了解』

『ストレート3了解』

『ストレート4了解』

『ストレート5了解』

 

「さぁて、敵さんも必死なところ悪いが……」

 

 隊長は操縦桿を握り締め、前へと押し倒す。

 機体がそれに応え、さらに速度を上げて走る!

 

 そこへ城門から向けられた大砲が幾度となく着弾し、火炎弾や氷塊、雷光が襲い掛かるが、全て装甲が受け止め跳ね返し小揺るぎもしない。

 『屑兵』たちが死をかえりみない攻撃を行えど、時速20キロで吶喊する重量100トン超えの鉄塊を止められるはずがない。

 

 そうするうちに『アイアンフィスト』は城門へ辿り着き―――――

 

「こいつでノックアウトだ!!」

 

 その腕を、シールドを城門に叩きつけ、仕込まれていたパイルバンカーをぶち込んだ。

 機体自体の運動エネルギーと、炸薬によって加速した鋼の破城鎚が城門へ深々と突き刺さり、それを陸上鋼機の馬力で抉る。

 部下たちも次々に隊長機の後ろからパイルを打ち込み、抉り、クローで以て剥がしていく。

 

 その間ガリアの兵たちが何もしなかったわけではない。

 城門の上、至近距離から魔法を叩き込もうとしていたのだ。

 

 だが――――

 

「遅いぜぇぇええええ!!」

「一番槍いただきだァアア!!」

「ィイヤッハァ!!」

 

 城門に取りついた『アイアンフィスト』、その機体を駆け登り、城門上のガリア兵士たちのもとに辿り着いた存在がいたのだ。

 

 そいつらは近場にいる兵士を手当たり次第に殺していき、瞬く間にその場を制圧。

 そしてあろうことか、味方を待たずに城門の内側へ飛び降りていった。

 

 飛び込んだそいつらは数にして僅か50名ほど。

 対しガリアは防衛拠点だけあっていくらでも兵士がおり、メイジもいる。

 普通に考えて無謀としか言えない突撃だった。

 

 ――――――だが、彼らは嗤った。

 

 戦場の中へ、地獄の中へ、死線の内側へ突っ込むことに歓喜した。

 

 その姿は強化兵のようで、しかし見ようによっては番外者にも思える。

 だが明らかに強化兵よりも重武装、そして番外者よりも軽装甲。

 腰には軍刀、腕には機関銃、手にしているのは突撃銃。

 

 何より、強化兵と違って狂っており、番外者より正気であった。

 

 彼らの兵科は『強化兵弐型』。

 その部隊名を『ワータイガー』といった。

 

 

 『ノア・コマンド』。

 

 それは、皇国が誇る英雄たち。

 

 召喚獣を叩きのめし、同じく朱雀の英雄である『朱の魔神』と互角に渡り合い、一度前線に出れば戦局を覆す。

 さらにはそれぞれが並外れたカリスマを持ち、周囲の兵士の士気向上に貢献する。

 それは決して最新兵装にて強化されているというだけのことではなく、『ノア・コマンド』それぞれが幼少期より徹底した士官教育と精鋭訓練を受けており、生身でも突出した戦闘力を誇っていることにある。

 これは、『英雄』と戦っている、それを実感させることで、前線兵士達を鼓舞し、奮い立たせるためでもある。

 

 だが『ノア・コマンド』には、もうひとつ、大きな目的があった。

 

 ――――『技術の蓄積』である。

 

 意味不明な『最新技術』は難解な『既存技術』となり、より低コストで、より高効率な『量産品』となって軍全体へ反映される。

 それこそが、皇国の持つ本当の強み。

 

 魔法の才能?魔力の量?年齢?

 操獣の技能?モンスターの質?ドラゴンとわかり合う心?

 剣の腕?身体に取り込めるクリスタルパワーの量?御大層な鎧?

 

 一切必要なし。

 

 その量産品を『装備さえ』すれば、『誰でも』『一定以上の』『戦力に』変貌する。

 『強化服弐型』とは、いや『強化兵弐型』とは、そういった『技術の蓄積』によって造られた『存在』だ。

 

 誰よりも先頭を駆ける隊長が、野太刀を引き抜き大音声で吠えた。

 

「さぁ戦争だ!戦闘だ闘争だ殺し合いだ!!突っ込め前線猫どもォ!!」

 

 そのまま片手で振り下ろされた野太刀、それを剣で受けた兵士がそのまま両断された。

 強化された膂力によって繰り出された剛剣が、兵士を鎧も骨もなく断ち切ったのだ。

 

 怯むことなくその隙を突いた兵士が斬りかかろうとするが、腹に銃撃を受けて吹き飛んだ。

 野太刀を持つ手とは逆の腕、そこに取り付けられた機関銃が火を噴いたのだ。

 

 そして隊長は止まらない。

 哄笑を上げ敵の隊列へ自ら突っ込んでいく。

 

 もちろん、それへ続くように部下たちも飛び込み、手当たり次第に殺戮を繰り広げた。

 

「脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い!脆いぞ貴様らァ!!」

「ひぃははっ♪ザコだらけ!!」

「遅い遅い遅い!!欠伸が出るなァ!!」

 

 建物の壁を猫のように四足で駆け上がり、高所から銃撃、かと思えば刀片手に近接戦闘、と見せかけて銃撃、いややっぱり殴打。

 変幻自在に襲い掛かる強化兵弐型部隊は、連携も何もなく各個に突撃し暴力をばら撒く。

 敵の攻撃を防ぎ、躱し、反撃してさらに殺す。

 そして響き渡るは狂った哄笑。

 その異常な、常軌を逸した異界の兵士たちに、ガリアの兵士たちは気圧されてしまっていた。

 

 壊乱しそうな隊を指揮するガリアの部隊長は、自ら剣を振るって必死に指示を下す。

 

「ひるむな!押し包んで―――」

「どうなるってんだよォあぁ?!」

 

 どこからか目前に現れた異界の兵士、その刀を部隊長は己の剣で見事受け流し、

 

「痺れろッ!!」

 

 武器を伝ってきた電流に跳ねるように痙攣した。

 身体に残った痺れ、それが取れる前に彼の首は落ちた。

 

「はっはっはひヒャーアハハハハ!!アガァ!?」

 

 敵を殺し、返り血を浴びてさらに嗤う強化兵弐型、しかしその体が火球に包まれ火達磨となった。

 

「遅くなった!」

 

 それをやったのはガリアのメイジであり、この場に急行した援軍であった。

 新たにメイジと重装騎士による援軍が到着し、オークやトロール、さらにメイジの『屑兵』が集結。

 

 無謀な蛮勇を振りかざした兵士たちは次々と囲まれ、串刺しにされ、切り刻まれた。

 

「今のうちに門の前に陣を敷く!『屑兵』を前面に!弓兵は後ろで矢をつがえよ!!」

 

 大音声で発された命令に、周囲の混乱は急速に収まっていき、彼らは何とか体勢を立て直していく。

 だが時間はないも同然だった。

 幾つも杭を打ち込まれ、毟り取られた城門は既に跡形もなく、内側の鉄格子にとりついた異界のゴーレムがそれを捩じ切っている。

 城門はすぐにでも破られんとしていた。

 

「ここを突破されれば我らに後はない!者共!一歩も引くな!!」

 

「「「「オオオオオオォォォォォォ!!!!」」」」

 

 奇跡的なことに兵士たちは、この絶望的状況においてまだ士気を保っていた。

 

 彼らは不退転の決意を持って門を睨みつけ、皆ここで討ち果てることを覚悟していた。

 

 そう、彼らの決戦はこれから始まろうとしていたのだ。

 

 

 

 ―――――――目を離すべきではなかった。

 

 いや、火達磨ではなく、首を取るべきだったのだ。

 身体を切り刻むのではなく、頭を潰すべきだったのだ。

 

 何の話かだって?

 

 たった今、ガリア兵たちの後ろで立ち上がった狂戦士どもの話。

 

「ガハァ!!?」

 

 先ほど火達磨にされたはずの兵士が、指揮を行っていたメイジの背中に野太刀を突き立てる。

 壁をよじ登り、三角跳びの要領でここまで跳んできたのだ。

 強化服弐型によるサポートがあるとはいえ、この身体能力は既に『異常』の域であった。

 

「おいおい、おいおいおいおいおい!!なんだなんだ?!あの程度で殺したと思っていたのか!?」

「ヒャハハハハ!!そいつは油断が過ぎるなァ!!」

「まぁ何だァ授業料は命でいいぜボウヤたちィアハハハハ!!」

 

 串刺しにされ、切り刻まれ、火達磨にされ、心臓を破壊された狂戦士たちが、何事もなかったように立ち上がり後ろから襲い掛かる。

 装備の破損や汚れ、煤けたコゲがなければ、本当にあれが幻覚であったかのように錯覚するだろう。

 いや、さすがに千切れた腕までは治っていないが、しかし既に血は止まっていた。

 

「さァア!地獄にようこそ!!」

 

 狂った戦争の権化が、ガリアの勇士諸君へ襲い掛かった。

 

 

 彼らの兵科は表向き『強化兵弐型』、現在使われている部隊名は『ワータイガー』。

 しかしこの部隊はかつて、別の名で呼ばれていた。

 

 その名は―――――『Secret Engineering Experimentation Detachment(秘匿工学実験特派部隊)』

 

 略称『SEED』。

 

 一般兵は知ることのない、『存在していなかった』部隊である。

 

 

「死ねぃ!!」

 

 片手に握った太刀を降り下ろし、また一人敵を殺す。

 

 敵がゆっくりと繰り出す槍をかわし、手にした刀で首を一閃。

 噴き出した血飛沫を顔で受けながら走る。

 

 立ちふさがる男、そいつの持つ杖先に炎の塊がゆっくりと創られていく。

 それが完成する前に左腕をそいつに向け、腕に仕込まれた機関銃を撃ちこむ。

 本来受けるはずの強烈な反動は、わずかに感じる程度。

 

 背中のロケットが起動、前方めがけて吹っ飛ぶ。その衝撃に全身が軋む音がした。痛みはない。

 その先に倒れ込むように四足で着地し、跳ねるように目の前の敵に飛びかかり、押し倒してそのまま―――

 

「ガウ!!」

 

 喉笛に喰らいついた。

 ブヅリと頸動脈を噛み千切り、狂戦士は咆哮した。

 

「なんだ! 何なんだこいつらァ?!」

「ひ、ひるむな!槍を揃えろォ!!」

 

「ハハハ面白ェナァ!!朱雀はプロテス邪魔で噛み殺せなかったんだよナァ!!」

「キヒヒ殺し放題ってか!!」

「に゛ゃぁお゛!!ハハハハハ!!」

「なに?マズル様とヤリたい?!殺されるぞお前!!」

「エキサイト翻訳してんじゃねぇよ!」

 

 狂笑を浮かべ、地獄で踊る悪鬼ども。

 それと相対しなければならないまとも(・・・)なガリア兵たちは、何というか『哀れ』としか言葉が出ない。

 彼らが戦っているのは既に護国の戦場ではない。

 ここはもう、狂戦士の狩場なのだ。

 

 と、そこに新たな獣の叫びが混じった。

 

「コロスゥ゛……ヒヒ…!」

「敵、敵……敵はドコだァ…?」

 

「ヴァァアアアアアアアアアア!!」

「コロスコロスコロスコロスコロスコロ」

 

 見れば、破壊された城門から我先に突撃してくる一団がある。

 

 それを見た狂戦士たちは一様にニタリと嗤った。

 

「おっとご同類のお出ましだぜ」

「ひひひ、哀れだねぇ涙が出る!」

 

 その一団は、重厚な鎧と、鉄板のよう肉切り包丁を手にした、『番外者』の部隊。

 改造された巨体と武器で『屑兵』のオークどもと正面から殺し合っている。

 

 そしてもうひとつ、その一団には普通くらいの背丈の兵士が混じっていた。

 

 『その兵士』たちは他の皇国兵と違う姿をしていた。

 いや、まったく違う姿をしていた。

 

 全員が真っ白なフードを目深にかぶったような軽装で、手には剣や槍、槌や手斧、さらには弓といった、原始的なモノばかり。

 しかもその眼に理性は欠片もなく、目の前の存在への害意のみで動いていた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「シネシネシネシネシネシネシネシ」

 

 だがその力は凄まじいの一言だ。

 『その兵士』は『番外者』とは違い、驚異的な速度でガリア兵たちに迫り、その一刀はフルアーマーの重装騎士を馬ごと真っ二つに切り捨てている。

 さらには拳で『屑兵』のメイジを(文字通りの意味で)破壊し、細切れの肉塊にして殺している。

 そして相手の攻撃をするすると躱し、ランアンドキルのスタイルで戦っている。

 

 しかし何故か、時たま立ち止まっては『相手に掌を向ける』といった謎の隙を晒していた。

 

「こ、このォ!!」

 

 それを好機と見たガリアの勇敢な兵士が、手にした槍を深々と『その兵士』の胸に突き立てた。

 心臓を貫いたそれは明らかな致命傷、しかし『その兵士』は動じることなく反撃、ガリアの兵士を切り捨てた。

 そして『その兵士』は絶叫の如き咆哮を上げ、さらに暴れまわり、突然糸が切れたように倒れる。

 

 その死体はボロボロで、腕はあらぬ方向へ曲がっており、夥しい量の血を流していた。

 どう見ても、敵からの攻撃だけではなく、自らの攻撃による反動で負った負傷がいくつも存在している。

 

 『その兵士』、彼らもまた、『番外者』だ。

 

 『番外者』、彼らにかけられた洗脳は二つ。

 『命令への服従』と『敵の殲滅』。

 

 施された改造は無数。

 

 そして最早無用の存在。

 

 彼らの名は、『廃品部隊』である。

 

 

 狂気と狂気に挟まれた勇敢なガリアの兵士たちが皆殺しにされるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 凄惨な殺戮劇の末、『廃品部隊』は移動。

 要塞深部へ特攻していった。

 

 しかし『ワータイガー』はこれ以上の突出を司令部、『ノア14』マズル少佐の命により止められる。

 制圧した城門付近で待機、実質上の大休止を命じられていた。

 

「フン、また死に損なったか」

 

 『ワータイガー』部隊長ロイド中尉が、己の野太刀の血油をふき取り、丁寧に鞘に納める。

 不思議なことにその野太刀は、十数人もの人間を叩き斬り、それでいて曲がることなく輝いていた。

 

「仕方ありませんよロイド隊長」

「我々50名はほぼ不死身ですからね」

「いやまったく。もうここまで来ると笑えてきますな」

 

 先ほどまでの狂気が嘘のように、『ワータイガー』の面々は落ち着いた様子で休息をとっていた。

 無論、戦地なのだから警戒要員もきっちりいる。

 

「おい、俺の腕知らないか?そこの化け物にぶっ壊されて……あぁあった」

「ぶっ壊れた義手なんかどうすんだ?」

「リサイクルするんだ。新しく作れって言ったら今度こそ支援課に殺される」

「あぁ……あいつらこっちが死なねェからって最近遠慮がねェからな…」

「だからってまさかいきなり撃たれるとは思わなかった。しかもドアノッカーで」

「マジか……連中正気じゃねぇな」

 

「っべェよ、マジっべェよ……」

「どした?」「何かあったのか?」

「さっき腹思いっきり抉られたんだけどよ、そん時骨に当たったのか剣先が中で折れたらしくって……たぶん、腹ン中にソレ残ってる」

「あーそりゃ駄目だわもう駄目だわ。俺の親戚それで○○○もげたし」

「ええええええぇぇぇぇ!!?ちょ、ちょちょちょマジで?!俺の息子もげちまうの!?」

「バカ野郎もっペン裂いて取り出しゃいい話だろ」

「「それだ!!」」

 

 部下たちの和気藹々とした会話を聞きながら、ロイド隊長は傍らの副隊長のソンネン少尉に指示を与えた。

 

「ソンネン少尉、部隊をまとめておけ。すぐにでも移動するぞ。……おいソンネン!返事をしろ!…どうしたんだ?」

 

 しかしソンネン少尉は答えることなく、黙したままだ。

 

 と、ここでそれを見ていた部下たちが笑いかけてきた。

 

「ハハハ、隊長、駄目ですよ。ソンネン少尉はもう死んでます」

「首しかないんじゃ生きてませんよ」

「ソンネン少尉……いえ、これからはソンネン大尉でありますな。はっはっはっ!」

 

 実に和やかな様子の部下たちを、ロイド中尉は怪訝な面持ちで見、そしてはたと思い出した。

 

「なに?……あぁそうか!記憶は消えないんだったな!はっはっはっ、うっかりしていた!」

 

 『死者の記憶はもう消えない』

 そのことを失念し、『覚えている=死んでいない』という過去の常識に縛られていたことに苦笑するロイド中尉。

 傍らに落ちていた首を拾い、離れた場所に倒れていた体の上に置いておく。

 

 

「はっはっ、ソンネン大尉か。抜かされてしまったな」

 

 そうやってひとしきり笑いに嗤った後、ロイドは誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 

 

「はっはっは、ハハ……ハ…………何故だ、どうしてもっと早く…」

 

 

 

 




読者の皆様を置いてけぼりにしていないかとても不安です。
ガリア側が脆すぎる?理由ありきだからご安心を。
でも基本皇国TUEEEだから悪しからず。

バヨネットの『ノア解説』はまだしません。
でもここ書いてるときずっと祟り神のテーマが流れてましたw

次話が『サンマロン』攻略の最後になります。
こっから巻いていきたいなぁ……


『アイアンフィスト』
言ってしまえば『突撃兵』の上位版。
無茶苦茶デカいシールドパイルバンカーを両手に、真っ直ぐ行ってぶん殴るといった戦闘を行う。
ゲーム的には
・前面と横の一部からの攻撃を無効
・その時後ろ付近にいる敵への攻撃も肩代わりする。かばう(ダイソン)
・『突撃兵』を超えて鬱陶しいのは死んでからのモーション。『やたらゆっくり倒れてからの一回立ち上がろうとするモーションをはさんでまた倒れる』。この間8秒くらい。ファントマ抜けなくて本当にイライラする。

『強化服弐型』
小型C機関の出力を効率化し、身体機能と反射神経をより強化、白兵戦に特化している。
武装は『肩』の機関銃、軍刀、手榴弾。防御モーションで前面のみの『魔法障壁』。
それと同じく、自動投与される『強化剤』も、少し成分が違う。
具体的には、より好戦的に、より凶暴になる。
なお、中毒性は発見されてない。まだ。
何故かは不明だが、この兵士が部隊にいると、他の一般兵も強化剤を打ったかのようになることがある。

ゲーム的に書くと
・ブレイクサイト、キルサイト以外こちらの攻撃を全て躱す。
・オートリジェネ(弱)
・HPが半分以下になると高確率で『怒り』状態の上位互換『バーサク』になる。
・同時に確率で周囲の兵士が全て『怒り』状態に。
・この時、10秒ごとに確率でプレイヤー側に『めまい』の状態異常発生。
・ただし、この時『怒り』になった敵は、『強化兵弐型』が死亡すると同時にキルサイト状態になる。


『SEED』
ミリテス皇国は『オリエンス』での大戦当初から、四肢損失などの大きな障害を負い、退役せざるをえなくなった兵士に4つの選択を提示していた。

ひとつは退役金もらって軍を去る。これはほぼなかった。
貧しいミリテス、障害を持って生きていけるほど、優しくはない。

次に後方の軍需工場で備品の義肢を貸し出してもらい、そこで働く。
これを選ぶのは3割と意外と少ない。というのも次の条件が中々いいからだ。

次は軍用の義肢を付けて前線復帰。
機械仕掛けの腕は中々に便利で、しかもそれを貸与ではなく授与されるのだ。
つまりなくなった身体をもう一度手にすることができるのだ。
これを6割が受ける。

では残りの1割は?
最後の、『死んででも敵を殺したい、何を捨ててでも朱雀を滅ぼしたい。スカスカになった記憶を、憎悪だけで埋め尽くせる修羅の者。それのみ募集。名誉も命もないが、力だけは保障しよう』を選択した。
地獄のような激戦区で全滅した部隊、その僅かな生き残りたち。
彼らがどこへ行ったのか、それを知る者はいない。
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