分厚い雲に覆われた空で、一機の航空機がドラゴンに囲まれていた。
四角い箱型の船体に二門のキャノン、両翼の先端にはロケットポッド、船底に四連機関銃を備えた中型艦載艇。
開いた後部ハッチからは皇国兵達が銃を撃ちまくる。
「くそぉ!! 旋回速度は向こうが上だ!!」
「泣き言言ってる暇があったら速度をあげろ! 追い付かれるぞ!!」
「クソッ! 当たりさえすれば!!」
機体の武装の制御を行う兵が叫ぶ。
そう、一般兵の装備に比べ中型艦載艇の武装はドラゴンに有効だった。ロケット弾はドラゴンの身体を抉り、四連装機関銃は翼をズタズタにした。
しかし追いつけない。
いや、速度の面では此方が若干勝るが、旋回性能、いわゆる格闘性能はドラゴンの方が上だった。
故に追い、追われ、いつの間にか部隊と分断されてしまった。
突然船体が大きく揺れ、船内がシェイクされる。
「うわあぁあ!!」
「取りつかれた!?」
メキメキと機体のあちこちから軋むような音が響く。
「ふ、振り落とせ!!」
「駄目だ! 機体の制御がきかない!! こちら04航空機、ドラゴンに取りつかれた!」
『(ザッ……)こちら司令部、近くに向かえる航空機はない……すまない』
「……了解。通信を終え『(ザッ……)いや待て! 援軍が来た!』!!」
この知らせに希望を取り戻すパイロット。
次いで割り込んできた通信。
『(ザッ……)04航空機、ハッチを閉めて衝撃に備えろ』
「は?」
『(ザッ……)繰り返す、ハッチを閉めて衝撃に備えろ!!』
「は、ハッ!! お前ら聞こえただろ! ハッチを「もう閉めた!」よし!」
大慌てで後ろに向かって指示を出し、前を向いたとき、真紅の瞳がコックピットを、こちらを覗き込んでいた。
「ッ!!!」
喉が干上がり声が出ない。
(あ、死ぬ)
そう、パイロットは自然に悟った。
しかし、その視界の端、ドラゴンの顔の向こうで何かが光った。
チカッと光ったそれは、瞬く間に迫り――――――
ヒィドグシャン!!!
空気の切り裂かれる音が一瞬、衝突する音が一瞬、何かが潰れる音が一瞬、そして凄まじい衝撃に艦載艇が揺れる!!
いや揺れと言うより回転だ。縦向きに一回転半し、慌てて機体を制御する。
ドラゴンは既に居らず代わりに強化ガラスが血塗れだった。
「な、な、な?!」
茫然自失となっているコックピットの前に一機の飛行型鋼機が来る。
補助翼のついた腕、鳥のような三爪の武骨な両手足、四角く出っ張った肩、背中に折り畳みの機械翼を広げ、左手に二連ドラム缶マガジン式20mm機関砲を備えた、白緑の発光が各部から発せられる、頭部が円柱状の胴と一体化した機体。
その名もヘルダイバーである。
『(ザッ……)04航空機、聞こえるか、無事か?!』
「は、……ハッ!! 救出感謝であります!!」
『よし、あとは我々に任せ後退しろ』
「りょ、了解! あの……先程助けてくれたのは」
『カトル准将、“白雷”が来たのだ、この戦いは勝利したも同然だ!!』
そう通信を切り、ヘルダイバーはまたドラゴンを殺しに飛んだ。
防衛戦は、掃討へと移っていった。
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何とか、間に合ったか。
変形の時間も惜しかったから体当たりしたが、よく考えたらかなり危ないことをした気がする。
Pフィールドが無ければこちらもクラッシュしていたか……?
機体を包んでいる、この鈍く銀に輝く膜。
対蒼龍用に開発された対物理障壁。
プロテス・フィールド。
滅びしヴァイルの地の鉄巨人、朱雀兵の魔法、玄武の鎧を参考に造られたこの装備、来るべき『創世計画』の一ピース。
こんな形でお披露目とはな。
ならば、コレの威力も試すか。
紅いドラゴンが固まっているところに戦闘機が突っ込み変形、鋼機としての姿に変わる。
戦闘機のように横に真っ直ぐな翼とそれに一体化した前後に長い胴体。
鳥のような金色の三爪を持つ両手足と頭部。
機体カラーは雪のように冷たく雷光のように鋭い白。
カトル准将専用鋼機ガブリエル。
その左手には二連ドラム缶マガジン式22mm機関砲――――――ではなく二連ドラム缶マガジン式28mmバルカン砲。
突っ込んだ群れの一頭がガブリエルにファイアブレスを吐きつける!
が、
『遅いな!』
横に回避し半円を描くように瞬時にドラゴンの後ろに廻り込み、
『雉も鳴かずば撃たれまいに』
バルカン砲が唸りドラゴンを食い荒らす!
「ギャ■アガア■アアバ!!!」
あっという間にドラゴンからただの挽き肉に変わった残骸は、地へと墜ちていった。
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オリエンスには数多の、人間の力を遥かに、圧倒的に越えるモンスターがいる。
海を渡る小山のような巨大亀アダマンタイマイ、地を駆ける巨大獣ベヒーモス、森に潜む巨大植物モルボル、雪原の強靭な雪男ゴウセツ、そして空を翔るヒリュウ。
それらに対抗するには17mm口径ではまるで足りなかった。
ならばどうするか。
それに対する返答は、
『高機動、重装甲、大火力、圧倒的数の暴力と最高品質の兵士の連携』
である。
そしてガブリエルは、カトル准将は、その全てを揃えた軍人だ。
『104部隊は左から回り込め! 105部隊! 頭を押さえろ!! 十字砲火を掛けるのだ!! 106部隊は援護にまわれ! 決して止まるなよ!!』
数百機ものヘルダイバーが空を飛び、ドラゴン達を狩ってまわる。
時速481キロもの高速はドラゴンを余裕で上回っており、更に旋回性能も同等以上。
加えて20mm機関砲はあっさりとその鱗を引き裂き、肩部ミサイルは肉を爆散させる。
その中でもカトル准将の機体は縦横無尽に飛び回り次々にドラゴンを葬る
『そこだッ!!』
斜め上から流星のように蹴りをドラゴンに放ちその首をへし折る。
散々にかき回し一旦距離をとる。
『准将! 敵が退いていきます!』
『深追いはするな、こちらも消耗している。それに、これが蒼龍軍の攻撃ならまだ亀すら出てないのだ。こちらも一度引いて補給する!!』
『ハッ!! 各部隊後退せよ!!』
波が引くように後退し、ドーム内部に帰還していく。
それらを眺めながら、
(それにしても暑いな……冷却装置が働いてないのか? オーバーヒートを起こす前に帰還を……!?)
カトル准将はあり得ない光景を見た。
いや、そもそもおかしかったのだ。
襲撃に気を取られ過ぎていたのだが、それにしたってもう少し早く気づくべきだった。
まず今は夜のはず、しかし分厚い黒雲に覆われているとはいえ辺りは夜とは言えぬほど明るい。
次に雪が降っていない。
白虎の地は万年寒く、雪が降り積もる。
だが降っていない。
それはそうだろう。
何故なら、カトルの目に映るその山は、
ドームの真後ろにあるその山は、
明らかな火山だったのだから。
バヨネット大尉「俺たちの」
ハンマ中尉「出番が」
マズル少佐「……なかった」