騎士王生存ルート後の世界、凛と士郎が付き合い、時計塔に留学したイフ世界。
そこに、ぐだ子の世界が繋がるとすればーー
そんな、物語。
聖杯戦争と言う儀式があった。
7騎の英霊がしのぎを削り、命をかけて戦う、願いを叶えるための大儀式。
実は呪われ、汚れてしまっていた、願望を叶える儀式。
かつての自分、かつての我が王。
私はーーー僕は。
あの時あの人の隣に立った自分に、拳をくれてやりたい。
あんな、見窄らしくも情けない自分に誇らしい人生観を見せてくれた、我が生涯の友にして王に、いつの日か胸を張って礼を言う為に…
そして今、私は教壇に立つ身となっている。
なんの因果か?
人に教えを説くほど自分が出来た人間では無いことなど先刻承知している。
だが。
縁あってこうした立場にいるのだからこそおいそれと投げだせもせず。
いつしか私の開く講義を受けた者達は、何故だかこの無能な私に会いに来るようになった。
いつ死ぬとも知れぬ魔術師の世界。
そんな場所に身を置きながら、何故だか陽だまりのような場所がここにはあった。
それはーー冬木の聖杯戦争を生き延びた彼女らがいたからかもしれない。
いつも穏やかな、日本人特有の…良い意味での[[rb:無表情の中の微笑 > アルカイックスマイル]]を振りまく少年ーー衛宮士郎。
それをどこか不安気に見守る癖に、結局のところ照れ隠しにしては随分と激しい実力行使に訴える、遠坂凛。
時折彼等を迎えに現れる男装の麗人、セイバー…アルトリア。
これは望外の出来事であったのだろう。
聖杯戦争の参加者が二人も五体満足に生き延びて、かつ、サーヴァントの一人と契約を保ったまま、生活を共にしているなどと。
事情を聞いた時はさすがの私もその場にひっくり返る所だった。
まあ、魔術師ならば誰しもそうなるし、何より、私は彼らが妬ましい。
彼の王は、消えてしまって久しいと言うのに。
何故、などと考える自分が嫌だ。
「ふ、こんな事を考えていると知られたらアイツ、何て言うだろうな…また貴様は馬鹿な事を考えよって、なーんて言いかねないな、デコピン付きで、さ…」
苦笑いしながら一人、昔の口調に戻ったのも気づかず時計塔の学び舎の庭先を歩きながら呟いていると、ふと一人の人影が眼に映る。
「ロードエルメロイⅡ世さん、で間違いないよな?」
レザージャケットにモスグリーンのシャツとジーパンと言う現代風の衣装を纏ってはいたが、何処か違和感を感じるその佇まい、雰囲気。
コレは、そうーーあのセイバーや、アイツと同じ…
「失礼、貴方は…
「アーチャー、ロビンフッド。」
あっさりと真名を明かす青年。
「アーチャーか…やはりサーヴァント、それもロビンフッドとはまた…てっきり、ロビンフッドと言えばもっと彫りの深い顔で刈り込みでも入ったマッチョな人だと思っていたよ。」
「本当に失礼だなおい、何処の情報だよそれ?」
「いや、すまないなちょっとしたジョークだよ…しかし、冬木の大聖杯は最早存在しない…私が手ずから解体したからな…にもかかわらず存在する君は…何者だ?」
警戒してし過ぎることは無い、例え目の前のアーチャーが瞬きする間に自分を殺せるとわかっていても、だ。
「そう身構えなさんな、あんたを害しようってんじゃないんだからよ。」
「全くだ、
突然、背後から響く、声。
懐かしくも腹立たしい、腹の底まで染み入るこの、声は。
「ライ…ダー…?」
いつしか、私/僕 は。
肩をいからせて震えていた。
視界の隅に橙色の髪の少女が走りよって来たのを見ながら、情けなくも、嬉しくて。
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気配などまるでなかった。
あの存在感の塊の様な、そもそも隠れて歩く事など何より嫌いで、霊体化するのすら面倒がっていた、コイツが。
貌の無い王。
ロビンフッドが持つ宝具の一つで、アサシン並みの気配遮断に加えて完璧な光学迷彩機能まで備えた破格の性能をもつ魔術礼装。
それを使ってここまで来たと言うのだから驚きだ。
「嬢ちゃん…あ、いや今のマスターがなあ、どうしてもとうるさく言うもんだからな、仕方無しにな。」
パツパツのハーフジーンズに、アドミラブル大戦略Ⅶの文字と世界地図、戦車のシルエットが入ったTシャツ姿の征服王、イスカンダル。
はたから見たら完全な不審者だ。
て言うかこいつ…またあのシャツなのかよ。
変わらない、馬鹿だ、大馬鹿だ。
「おまえは目立ちすぎなんだよ…そこのマスター…ええと…」
「あ、私は九重、
「ああ、朔弥さんが言うのももっともだ。」
「前言撤回だ、小僧、貴様頭だけは輪をかけて硬くなりおったな…。」
「なんだと?この馬鹿がっ、貴様は自分の存在感をまず自覚して振るまえと言うんだ、目立つは暑苦しいはこの場にそぐわない事この上無いだろうが!?」
思わず荒げた声に、遠巻きにしていた生徒達がひそひそと囁くのが聞こえてきた。
やだ、あれってエルメロイ先生?やっぱりハグレの変わり者とか、実は先代エルメロイの研究を丸パクリしたとか本当かな?、とか。
なんなのあの人達、魔術師には見えないけどー
などと。
「っ、……っく!」
「ああ、とりあえず場所変えましょうか、[[rb:孔明 >こうめい ]]先生?」
その呼び方に、違和感を感じながらも何処か受け入れて、頷く自分に不思議に思って、いる暇すら無かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朔弥の提案にのり、急ぎ場所を変えた我々は時計塔を離れた隠れ家的なカフェに来ている。
改めてみれば朔弥と言う少女、白い見慣れない制服?に身を包んでいるがかなりの美少女だ。
東洋系は若く見えると言うから実際には20を過ぎているかもしれないが…ハイスクール、下手をしたらジュニアハイスクールと言っても通じる顔立ちだ。
…その驚異的な胸囲だけは大人を主張していたが。
「さて、我々が今こうしているのはひとえに、孔明先生…あ、いえロードエルメロイⅡ世、貴方に礼をしに来たんです。」
少女、朔弥がそう切り出してきたが私はまるで覚えが無い。
むしろ、本人を前に言うのは業腹だから言わないが、イスカンダルに再会させてくれて、礼を言いたいのは此方だと言うのに。
「はて…君達に礼を言われるような事をした覚えはないのだがな…?」
「ま、そりゃそうだ…俺たちが本来礼を言いたいのは…あんたであってあんたじゃない、今のあんたを見たがったのはイスカンダルの旦那だけだからな。」
ロビンフッドの言葉にイスカンダルがニヤリと笑いかけてくる。
なんだよ、バカ。
「なんだと?」
「あはは、いきなりすぎですよね…まあ、できるだけ説明はしますけど…」
「しなくて良いんじゃないか?だってこ奴には関わりがないし、未来を知ってもこ奴がそうなる保証も、こ奴自身の為にもならなかろ、あの冬木のアインツベルンがそうだった様に。」
「そうだね、その方が良いだろう…それに…騎士王とその他二人が気づいた様だよ、敏感な事だね。」
スウ、と背後に現れた男は紅いマントに顔を布で覆い隠したあからさまに怪しい姿だった。
「…っ!?」
「アサシン、それ本当?」
「嘘を吐いてどうするんだい、早いところ用事を済ませて帰ろうじゃないか、マスター。」
これで三人目…なんだ、この少女は一体何者だ?
聖杯も無しに三体のサーヴァントを従えるだと?
一流の血筋、遠坂の娘ですら戦闘なしで現界させるだけで精一杯だと聞いているが…この子の魔力容量はどうなってるんだ。
「ごめんね、先生…どうやら説明する暇はなさそうだから…訳がわからないかもしれないけど、お礼だけは言っておくね…あの時、貴方がああしてなければ私も、あの子も、今こうしていなかったかも知れない。」
「な、何を…君は本当に何を…、おい、ライダー?」
大事な時に、言いたい事は山ほどあるのに、出てこない。
ライダーの奴はこの後に及んでニヤニヤ笑いかけてくるだけ。
「ありがとう、そして…近い未来、もしも貴方が大きな何かに選ばれたとしたら、それを他人の力だなんて思ったりしないで…胸を張って挑んだら良いからね。」
「ああ、あの時の貴様は確かに誇らしかったぞ、今の貴様もだ、小僧。」
「ライダー、おま、何を…」
また、冷静さが何処かに飛んでいった。
まるで、あの聖杯戦争の最中に戻った様な気になっていた。
「多くの者を導き、戦場で死ぬ者を一人でも減らすべく貴様は努力したのだな。」
「い、いや…私は…僕はそんな大層なこと考えてなんかいない…自分が、情けなくて、お前と、貴方と…共に歩めなかった自分が嫌で、だから、だからせめて同じ悲しみを誰かに背負わせたくなかっただけなんだ…導くなんて、ガラじゃない…ないんだ。」
大きな、大人になり、背が伸び、少しは立派になったつもりの私/僕の頭をぐわし、と掴んで乱暴に撫でる手は。
変わらない。
貴方は、何も。
「出会いも、別れも…唐突過ぎるんだよ、貴方は!少しは私の気持ちを考えろ、バカが!」
思わず叫んだのはそんな言葉。
「すまんなあ…それに関しては本当にすまんと思っとるんだ…だが、貴様は確かに…どんな世界に生きていようともよ、ワシと出会い、過ごした貴様は…間違いなく我が友にして臣下だ…例え、我が姿が並び立つこと無くとも…貴様は語りつげ、心は幾たびの死を迎えるとしても貴様の隣で戦車を、戦馬を操ろうぞ、あの時、あのいけ好かないウルクの王に向かっていった時の様にな。」
「ライダー……」
「我が軍勢には貴様は居らぬが…我が心には貴様と言う『軍師』が確かにおるよ…胸を張れ、前を見よ、我が輩が言いたいのはそれだけだ。」
いつしか、頬には涙が伝っていた。
客が殆ど居なくて良かった、こんな顔…生徒には見せられんしな。
「ライダー、そろそろシフトするよ、このままいくと彼らと鉢合わせる。」
朔弥がそう話しかけると同時に彼らの姿が徐々に透け始め…まるでサーヴァントが消失する時の様に、光の粒子になって消えていく。
同時に記憶には靄がかかったようになり始め、この2時間ほどの記憶が曖昧になっていく。
光の粒子を見た店員がカウンター越しに目を見張り、驚くのが見えた。
「な、なんだこれは…ライダー…消えるな、記憶まで、持っていく気かよ、畜生!」
「…なんと、そうか…世界の強制力か…だが、気合で覚えとけ、坊主…いや、ウェイバー・ベルベット。」
「ライダー、ライダーッ、行くな、イスカンダル!」
思わず、ありもしない令呪に求める。
行くなと、消えるな、と。
「ふ、儂が認めた男が狼狽えるな、また…会えるさ、きっと、な。」
その言葉を最後に、光の粒子は消え、彼らも跡形も無く消えた。
カフェの店員もまた、訝しげに涙を流して立ち尽くす私を見るだけ。
今の光の粒子など見ていなかったかの様だ。
確かに私の記憶にも靄がかかって、マスターの少女の顔も、名前も曖昧だ。
だが。
彼の、彼の言葉と、その再会だけは…確かに私の胸に残っている。
ライダーの言うところの気合、が勝ったのかも知れない。
「全く、本当に、アイツ、最後にまた坊主は無いだろう…全く…結局、礼、言いそびれたじゃないかよ…言い逃げしやがって、全く。」
ダン!
とカフェの扉が開き、東洋系の少年と少女、それに男装姿の騎士王が飛び込んでくる。
「くっ、出遅れた!?」
「確かにサーヴァントの気配がした、はずなのですが…」
「ええっ、確かに強力な魔力の残滓が…って…エルメロイ先生、何でここに…?」
教え子、遠坂凛と衛宮士郎のハトが豆鉄砲喰らった様な顔に、私はつい、噴き出した。
「くっ、…アーハッハッハッ、な、なんだね二人ともその顔は!」
「せ、先生??」
「ウェイバー・ベルベット…貴方、どうしたのです?」
「ひ、ヒーッヒッヒ、これが笑わずにいられるかよ、ハーッハッハッ、く、苦し、ヒーッヒッヒ!」
泣き笑い、照れ隠しもありながら
私/僕は。
彼らに対しての妬みが吹き飛んでしまっているのを、否が応でも実感していた。
全く。
本当に、全く。
ーーーfin ?
ストックからちょいちょい投稿していく予定。
覇道シリーズはあと2パターンあります。