私立亜瑠缶中学校。
略してアル中なんて不名誉な呼び名で呼ばれているものの、由緒正しい進学校。
その3年A組の教室で、進路希望が取られていた。
男性教師が教壇に立ち、生徒達に配るべきプリントを持っている。
「これから進路希望調査の紙を配る。が、その前にひとつだけ確認をしておきたい。・・・ヒーロー科以外を希望する者は手をあげろ!」
シン、と静まり返った教室で手を上げる者は一人もいなかった。
教師はふぅ、とため息をひとつつき、
「だよね~!」
と軽い調子でいう。
同時に生徒達から笑い声があがり、皆自分達の個性を発動させた。
腕が伸びる者、目から光を出すもの、首がビックリ箱の用にバネで飛び出すものなど種々様々な個性が発動される。
「じゃあ、一応志望校を書いて提出だけしてもらうからプリント配るぞー。と、そういえば紅魔は雄英志望で先に提出していたな。」
教師がこぼした発言で、クラスの視線が窓際に座っている少女に集中した。
赤い瞳に黒い髪の少女は、澄ました顔をしているが、仲の良い者なら若干ドヤ顔をしていることがわかっただろう。
男子がからかうように言う。
「紅魔が雄英~?無理に決まってんじゃん!」
「何を言いますか!余裕ですよ、余裕!模試もA判定!紅魔族随一のヒーローとなる予定の者のこの私が落ちるはずがないのです!」
憤慨したように言い返す少女・・・紅魔 恵に対し、どこか白けた様子で男子は囃し立てる。
「だってよぉ紅魔お前、"無個性"だろ?勉強できるだけじゃ雄英に受かる訳ねえじゃん!」
無個性。
超人社会とも言われる昨今、圧倒的少数派となってしまっている人々。
そう、紅魔 恵は同級生達には無個性だと思われていた。
「何度も言っているでしょう!私の個性は強力すぎる禁じられた力!そう易々と使用する事はできないのです!」
「また始まったぞ!これだから頭のおかしい奴等は!」
「頭のおかしい!おまけに奴等と言いましたね!私の一族に文句があるなら聞こうじゃないか!」
紅魔族と呼ばれる彼女の一族は、少々特殊な文化を持っている。
かつて個性が出現したばかりの頃、ちょっと頭のおかしい、否、ちょっと発想が痛い、いやいや、発想の尖った者達が集まりできた集団。
そのリーダーであった者の苗字が紅魔だったため、彼らは紅魔族を名乗った。
彼らの気質は強いて言うならば研究者のそれに近い。
個性はある程度その血筋に引っ張られる。
ならば、相性の良い個性、強い個性を持った者で結婚すれば、より強い個性を持った子供が産まれるのでは?という思想のもと、強力な個性を持った者達が集まった一族。
彼らと同じ発想をした者が溢れ、一時期"個性婚"と言われる行為が社会問題になったが、彼らは自分達から嬉々としてそれを行った。
その根底にある発想が、"よりかっこいい個性を作る"である。
何代にも渡って繰り返された個性婚によって、紅魔の者達にはある特徴が出た。
瞳が赤い事。
身体能力が普通の人より高い事。
体が頑強な事。
感性が特殊な事。
強力な個性持ちが多い事。
などがあげられる。
また、その特殊な感性故か、彼らは本名とは別に通し名を一つ与えられている。
そんな特殊な彼ら。
あまり世間一般には知られていないが、地元の周辺住民からは奇人変人の集まりとしてちょっと有名であった。
「いいでしょう!卒業も近づき、もはやこの力を隠す理由も薄れてきました。そこまで言うならお見せいたしましょう!」
ガタリと椅子を蹴り飛ばすように立ち上がると、マントを払うように手を振り(もちろん中学校の制服を着ているので意味はない)
「わが名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、個性"爆裂"を操りし者!我が力を今こそ解放してあいたぁ!?」
堂々と名乗りをあげ個性を発動しようとしたところで、男性教師に頭をたたかれた。
「紅魔。一応授業中だ。」
「・・・失礼しました。」
なお、このクラスの担任をしているこの男性教師は、めぐみんが個性を発動しようとした事に本気で冷や汗が流れていたことを明記しておく。
同級生には無個性だと思われている彼女だが、実際そんなことはない。
彼女の言っている事に何一つ嘘はないのだ。
彼女は本当に個性"爆裂"を持っているし、本当に強力すぎて使えないのである。
担任である彼は、資料でしっかりとその事を把握していた。
そも、強力な個性というのは多々ある。
人に向けて放つと、簡単に人を殺めかねない個性というのはかなり多いのだ。
しかし、その中でも彼女の"爆裂"は群を抜いて危険な個性だ。
めぐみんが初めて個性が発現した時、紅魔族の私有地の山で放たれた彼女の"爆裂"は、山を抉り、木々を消し飛ばし、土砂災害を引き起こし、周囲の河川は流れが変わり、余りの爆焔に地下水が蒸発して霧となり、上昇気流が発生して雨が降った。
その大災害にヒーローが集まり、救助作業が行われたほどだ。
幸いにも、巻き込まれたのは紅魔族の人間だけであり、彼らは例外なく強力な個性を持っているため、軽症者のみで人的被害は大したことはなかった。
むしろ、
「めぐみんが遂に覚醒した!」
とか
「あれはまさか伝説の・・・!」
「知っているのか!」
とか自分達の思うかっこいいやりとりをするのに夢中で誰一人救助活動を開始しようとしない圧倒的民族性を救助に来たヒーローに見せ付ける形となった。
まあ、実際は巻き込まれた者の中で自力脱出が難しそうな者が居ない事を瞬時に把握していたがための余裕だったのだが。
なお、この時にまさか自分の個性の反動でめぐみんが気絶しているとは誰も気づいておらず、不足の事態に備えてめぐみんのすぐ横で構えていた父ひょいざぶろー(本名 紅魔評三郎)が爆風で吹き飛ばされて同じく気絶していた事にも誰も気づいていなかった。
人知れず当主とその娘がまっさきに生き埋めになりかけていたが、このかっこいい雰囲気を出す千載一遇のチャンスに夢中になっていた一族の者達は一切気づかなかったのである。
強力な個性を、自分の欲望とかっこいい演出に躊躇なく全振りする。
彼らの基本行動である。
閑話休題。
とまあそんなふざけた威力の個性であるため、絶対に安易に使用することのないよう、とあるヒーローに口を酸っぱくして言い含められているめぐみん。
そのヒーローには命を救われた事もあり、めぐみんは人前で個性を使う事はほぼない。
しかして、彼女達紅魔族はプライドが高い。
めぐみんも例外ではなく、自身または紅魔族を貶める発言は地雷であり、文字通り大爆発を伴う危険性があった。
以前の被害を知る担任が慌てて止めに入るのも納得である。
そんな一波乱が有ったものの、その日の授業は恙無く終了し、帰り道。
めぐみんは一人で帰路についていた。
彼女はその突飛な人間性からクラス随一のボッチであり、友達は居ない。
帰り道は大体一人だ。
大体というのは例外的に某ヒーローが空から降ってくることがあるためだ。
「私が!」
そして今日はその例外の日のようだ。
「パトロールがてらに来た!」
「またですか、オールマイト。存外No1ヒーローも暇のようですね。」
そう。
某ヒーローとはNo1ヒーローオールマイトその人である。
平和の象徴とも言われる彼は定期的にめぐみんの前に現れる。
「HAHAHA、暇ではないさ!これでもスケジュールの間を縫って様子を見に来てるんだぜ!」
めぐみんがオールマイトと知り合ったのは11年前。
めぐみんが始めて個性を発動させた時だ。
未曾有の大爆発に文字通り飛んで来たオールマイトに救助されたのである。
あまりの威力にめぐみんの個性はそうそう使うことができない。
その事情を知る少ない人間の一人であり、万が一“爆裂”が暴走してしまった時に対応できる人物ということで、彼は時折めぐみんの前に現れる。
「そんな事より聞いたぞ紅魔少女!個性を使おうとしたらしいね!?先生から泣きの入った電話が来たよ!」
「前から何度も言っているはずです。基本は使いませんが、紅魔族と私をコケにされた時はその限りではないと。貶められるくらいならば迷わず“爆裂”させてやりますよ。」
「君の個性直撃したら私でも死にかねないからね?」
「安心してください。この私の個性にかかれば塵一つ残さず消し飛ばせるので証拠は残りません。」
「んー!
元来の保護者及び周りの大人がちょっとアレな紅魔族に囲まれているめぐみん。
そんな彼女にとって、周囲にいる人間で一般的な常識を持っている数少ない大人がオールマイトだった。
素っ気ない態度を取っているものの、助け出された恩は感じているし、ヒーローを目指すきっかけになっている部分も大きい。
一応尊敬しているのだ。
「で、オールマイト。今日は家に寄って行くんですか?こめっこがオールマイトの手土産に会いたがってましたよ。」
こめっこというのはめぐみんの妹で、本名は紅魔
こめっこはもちろん通し名だ。
「手土産のみかい!?いや、今日はちょっと君に伝えたい事があってね。それに最近ちょっと忙しくてね!本当に時間があまりないのさ。」
「そうなんですか?No1ヒーローが忙しいとは穏やかじゃないですね。」
No1ヒーローであるオールマイトが忙しいという事は、それだけ仕事が多いということで、仕事とはすなわち犯罪への対応である。
めぐみんの眉間に思わずシワが寄った。
「あー、いや。仕事ではなくてね。実は近々拠点を移すのさ。これはオフレコでお願いしたいんだが、雄英の教師をする事になってね。今までほど様子を見にこれないと思うんだ。」
「ほう。これは凄い事を聞いてしまいました。テレビ局に情報提供したらいくら貰えますかね?」
「それは本当にやめてほしいかな!?」
本気で慌てているオールマイトを見て、ふっとめぐみんが笑いをこぼす。
「安心してください。いくら私でも恩人を売り飛ばすような真似はしません。額にもよりますが。」
「信じていいんだよね!?」
「それにむしろ、会う機会が増える気もしますからね。」
「どういう意味だい?」
首をかしげるオールマイトに対して、めぐみんはぐっと胸を張る。
「私も来年から雄英に行くつもりですからね!私の個性にかかれば筆記試験だろうと実技試験だろうと諸共に爆裂させてみせましょう!」
新しい職場が早々にクレーターになってしまわないか、早速不安になって来たオールマイトであった。
誤字ありましたら随時修正します。
ちなみにこの時点では、まだオールマイトと出久は出会っていません。
次回から原作に多少触れていきます。
入学は少々お待ちください。
次回:めぐみんと継承者