凛音「どうも、この作品の主人公の一人、先導凛音です」
志音「どうも、この作品のもう一人の主人公、響志音です」
政実「本編からはこの作品の前書きと後書きを今作品の主人公′sと一緒に行っていきます」
凛音「……まあ、作者の別作品でもやっている事ではあるんだがな」
政実「まあ、確かにそうだね。さて……それじゃあ前書きはここまでにして、そろそろ始めていこうか」
凛音「ああ」
志音「うん」
政実・凛音・志音「それでは、第1話をどうぞ」
その日、俺──
……ふう、やはり夏だから暑いな。俺はまだ大丈夫だが、コイツらは大丈夫なのか……?
その事が気になった俺は、両隣を歩いている幼馴染み達に話し掛けた。
「……今日はそこそこ暑いみたいだが、お前達は大丈夫か?」
「うんっ! 私はバッチリ大丈夫だよ、凛音!」
「ふふ、私も心配ありませんわよ? 凛音さん」
「……そうか。それなら良いが、もし本当に危なくなった時はすぐに言ってくれ」
「うん、分かった!」
「承知致しました」
幼馴染みの元気な返事、そして上品さが漂う静かな返事の二つを聞いた後、俺は静かに頷いたが、それでも二人が心配な事は変わらなかった。
……この季節は熱中症なんかが一番恐ろしいからな。俺ならまだ良いが、コイツらの体はコイツらだけの物でもないし、何よりもコイツらにはその辛さを味わって欲しくはない。となると……やはり、適当に時間を見てどこか喫茶店にでも入った方が良さそうだな。
そんな事を考え、どこか涼しそうな場所が無いか探していたその時、市役所の掲示板に貼られている一枚のチラシが目に入ってきた。
……ん、あれは確か……。
その場に静かに立ち止まりながらチラシに視線を向けていると、その俺の様子に疑問を抱いた様子で幼馴染みの一人が不思議そうな声で話し掛けてきた。
「……あれ、どうかしたの? 凛音」
「何か、真剣に見ていたようですが……?」
「……ああ、アレを見ていただけだ」
そう言いながら俺がさっき見ていた物を指さすと、幼馴染み達はそれをまじまじと見始め、それが何かが分かると少し驚いた様子を見せた。
「あれって……私達の……」
「……ふふ、どうやらそうみたいですわね。ですが……まさか、このような場所で見る事になるとは思いませんでしたわ」
「……俺はそうでもないと思うけどな」
俺は幼馴染み達の視線の先にある『東奏学園器楽部』のコンサートのチラシを見ながら静かに言った。この幼馴染み達は東奏学園という学校の生徒で、この反応が示す通りそこの器楽部に所属している。コイツらが所属している器楽部は、設立からまだ歴史も浅いという話だが、定期的な演奏会なども催している他、所属メンバーの中には学生でありながらプロとして活躍している奴や小さい頃から様々なコンサートで賞を取っている奴もいるらしく、その事から『東奏学園器楽部』の名は他校にも広く知られている。
……演奏会、か。もしかしたらだが、
件のチラシを見ながら昔一度だけ知り合い、約束を交わしあった奴の事を思い出していると、幼馴染みの一人──
「あーあ……凛音も私達と同じ学校だったら、今頃器楽部がもっと楽しかったと思うのになぁ……」
「……そんな事を今更言ってもしょうがないだろ。それに、今の器楽部でも楽しい事に変わりが無いのなら、今のままで楽しむ方が良いに決まっていると思うぞ?」
「むぅ……それはそうなんだけど……」
ソイツが少し不満そうな声を上げると、もう一人の幼馴染み──
「でも、凛音さん。気持ちだけなら貴方も同じ、そうですわよね? 」
「……まあ、そうだが」
「……ほ、ほんと!?」
「……一応は、な。俺は今の学校で『わざと』楽器を扱う部活動に入っていないから、『アレ』を弾く機会は音楽室に誰もいない時か家で一人で弾く時、後はお前達がいる時くらいしかない。だから、部活道という形で他の奴と共に演奏をする事には少しだけ興味がある。まあ、器楽部の部長兼指揮者があの
……正直、本当ならこれくらいの機会でも充分と言えば充分ではあるんだが、翼達の話を聞いている内に、部活道という形なら他の奴と合奏をするのも面白そうだと思うようになってきたからな。今は『東奏学園』に編入するつもりは無いが、考えの一つくらいには入れてみても良いのかもしれないな。
翼や陽菜と一緒に合奏をする様子を想像して、その楽しそうな感じから思わず口元を綻ばせていたその時、翼が少し不思議そうな様子で話し掛けてきた。
「……ねえ、凛音。いつも思うんだけど、何でピアノを皆のいる前で弾かなくなったの? 凛音のピアノ、スゴくキレイな音だから私としてはもっと色んな人に聴いてもらいたいのに……」
「それは私も同感ですが……凛音さんには凛音さんなりの理由がお有りなんですよね?」
「ああ……と言っても、ピアノを弾く理由が変わった、ただそれだけなんだけどな」
「弾く理由が……変わった?」
「ああ。今までの俺のようにただコンクールで入賞をするためや上手くなるために弾くんじゃなく、聴かせたい相手の為だけに弾く。それが今のピアノを弾く理由だ」
その言葉に俺が少しだけ気恥ずかしさを覚えていると、翼も少し気恥ずかしそうな様子を見せた。
「き、聴かせたい相手の為って……それって……もしかして……?」
「……ふふっ、そう言われると何だか照れますわね……」
「陽菜……その表情や言葉、全然照れてるようには見えないが?」
「ふふ、実は……かなり照れてるんですのよ?
何せ、凛音さんからそんな告白のような言葉を突然言われてしまったものですから……♪」
「こ、告白って……!? ひ、陽菜ちゃん、いきなり何言ってるの……!?」
陽菜のその言葉に動揺しつつも、翼が頬を軽く染めながら嬉しさと恥ずかしさの入り混じった視線を俺に向けてくると、その様子に俺は少しだけドキリとした。
う……陽菜の奴、後で覚えておけよ……。
そんな事を思いつつ、俺はその気持ちを隠しながら平然とした態度を装って翼に声を掛けた。
「落ち着け、翼。さっきの俺の言葉には、陽菜の言うような意味は籠もっていないぞ?」
「あ……そ、そうだよね。あはは……陽菜ちゃんが突然変な事を言うからビックリしちゃったよ……」
「……まったくだ」
翼の安心と残念さが入り混じった表情に気付かぬフリをしつつ、俺は翼の言葉に同意をした。
正直な事を言えば、陽菜が言ったような気持ちが俺に無いわけではないし、先程の翼の表情などから翼が俺に好意を抱いてくれているのはとても嬉しい。だが、翼にそういった感情があったとしても、今の俺にはそれに応える事など一切出来はしない。
……いや、俺には応える資格など無いと言った方が正しいのかもしれないな。聴かせたい相手の為、とは言ったが、取り方次第ではコンクールなどの重圧から逃げ出したとも取れなくはないからな……。
この何とも言えない空気の中、陽菜がふと何かを思い出したように声を上げた。
「あ、そういえば……凛音さんは、このコンサートの日は予定などはありますか?」
「この日か……いや、特には無いな」
「でしたら、私達の演奏を聴きにいらっしゃいませんか?凛音さんほどではありませんが、私達も日々精進はしておりますので、聞き苦しいという事は無いと思いますよ?」
「……お前達の演奏が聞き苦しいという事は無いと思うが……まあ、たまには良いか」
そこで一度言葉を切り、俺は翼達の顔を真正面から見据えた後、静かに言葉を続けた。
「これもせっかくの機会だ、そのお前達の演奏をしっかりと聴かせてもらうとするか」
「凛音……! うん! 私達、精いっぱい頑張るね!」
「ああ、頑張れよ、翼。もちろん、陽菜もな」
「ええ、もちろんですわ」
翼達のやる気に満ちた目、そしてその返事を聞いた瞬間、俺は件の演奏会は絶対に成功すると確信した。翼達はポテンシャル自体がそもそも高い。それに加えてこのやる気さえあれば、最高の演奏を聴かせてくれるはずだ。
そして、この二人に対して、俺が出来る事は──。
「……さて、それなら二人への応援の意味も込めて、今から喫茶店にでも行くか。もちろん、俺の奢りでな」
「え……そ、そんな悪いよ……」
「そうですわ、私達の分は私達が……」
俺の言葉に翼達が申し訳なさそうに言うが、俺はそれを手で制しながら言葉を返した。
「いいや、今回は奢られてもらおう。あくまでも、今回はお前達への応援の意味を込めているからな。それに、お前達にはこれまで幾つもの借りもある、だから今回はその分も含めていると思ってくれ」
「凛音……」
「凛音さん……」
翼と陽菜は申し訳なさそうな表情のままで顔を見合わせたが、すぐに微笑みながらコクンと同時に頷き、再び俺の方へと視線を向けた。
「それじゃあ……今回はそうさせてもらうね、凛音」
「ああ、そうしてくれ。……さて、それじゃあ早速行くとするか」
「うんっ!」
「はい」
翼と陽菜はニッコリと笑いながら、とても楽しそうな調子で返事をした。
……やはり、翼達の笑顔を見ているだけでとても安心する。だからこそ、翼達の笑顔が失われたその時は、全力を以て取り戻すことにしよう。
かつて……翼達に
心の中で静かに決意を固めた後、俺は翼達と共に再び東奏の街の中を歩き始めた。
演奏会当日、俺は会場の客席に座りながら、開演時間を静かに待ちつつ、客席をチラリと見回した。客席には、老若男女様々な人達がおり、中には俺のような学生らしき奴の姿もあった。
珍し……いや、別に珍しくはないか。俺のように東奏学園の器楽部に知り合いがいる奴だったり、他の学校で吹奏楽部や器楽部に入っていたりする奴の可能性もあるからな。
学生らしき人物についてそんな結論を出した後、俺は舞台の方へと視線を向けた。舞台には器楽部のメンバー達が演奏する中でも大きめの楽器が、次々と運び込まれており、それを見ながら俺は以前翼達から聞いた話を思い出していた。
……そういえば、器楽部にはハープや和太鼓などの奏者もいるんだったか……。そして、そんな一風変わったオーケストラによるハーモニーがこれから披露されるわけだが……果たしてどんな物になるのかな……?
そんな事を考えながら待っていたその時、開演を報せる低いブザーの音が会場に響き渡り、東奏の制服を着た一人の女子学生──草薙百花部長がマイクを持ちながら舞台へと現れた。そして、百花部長がとても落ち着いた様子で挨拶などをしている内に、翼達を含めた器楽部のメンバー達が次々と舞台へと現れ、それぞれの楽器を演奏する準備を始めた。
さて、翼と陽菜は……。
百花部長の言葉を聞きつつ翼達の様子を窺うと、翼は少し緊張した面持ちで、そして陽菜はいつものような上品な笑みを浮かべながら演奏の時を待っていた。
……まあ、アイツらなら問題ないだろうな。
翼達の様子を見ながらそう考えていた時──。
「……それでは、私達の演奏をお楽しみ下さい」
百花部長がニコッと微笑みながら言葉を締め括り、俺達へ向かって一礼をした後、手に持っていたタクトを構えつつ器楽部メンバーの方へと体を向けた。そして、そのタクトが振り下ろされたその瞬間、俺は体全体が稲妻に貫かれたような衝撃を受けた。
「……これが、コイツら……東奏学園の器楽部の音、か……!」
和洋様々な楽器達が奏でるメロディーは、互いにぶつかり合うことなどは一切なく、時にはそれぞれの音を高め合い、また時には混ざり合うことでまた新たなハーモニーへと変化し、俺達観客はまるで『魔法』に掛かったかのように、一切視線を逸らすことが出来なかった。
……そう、これはまさに──。
「『魔法の音』だな……」
ふとポツリと呟いていたその言葉は、俺の中で眠っていた音楽への情熱の炎を徐々に強くしていった。
……もし、この中に混じり、俺もこのような音を奏でる事が出来たとしたら、それはなんと素晴らしい事だろう……!
およそ、いつもの俺ならばあり得ない思いを抱きつつ、俺は東奏学園器楽部の演奏の世界へと意識を静かに沈めていった。
「……さて、この後はどうするかな……」
演奏会後、観客達がバラバラと帰って行く中、俺は会場の外でこの後の事について一人で考えを巡らせていた。翼達には演奏会の打ち上げがあるらしく共に帰る事は出来ない上、俺自身には特に用事もないため、何をしたら良いものかまったく見当がつかなかった。
「……仕方ない。ここはさっさと帰って、ピアノの調律でも──」
その時、後ろから突然声が聞こえてきた。
「えっと……ちょっと良いかな?」
「ん……?」
不思議に思いながら振り向くと、そこにいたのは開演前に客席を見回していた時に見つけた学生らしき奴だった。ソイツは、整髪料などを使った様子の無い黒いストレートヘアにカジュアルな服装だった、とこの言葉だけで判断するならば、いかにも女子人気のありそうな好青年をイメージするだろう。
しかし、ソイツが発している穏やかそうなオーラと少し頼りなさげにもに見える優しそうな顔付きのせいか、カッコいい系というよりはいわゆるカワイイ系と周囲から評されているであろう事が明らかだった。因みに学生らしき、と表現したのはソイツの雰囲気や見た目が同じ年齢のように思えたからであるため、実際に学生なのかまでは定かでは無い。
……さて、それはさておき……一体俺に何の用なんだ?
「……俺に何か用か?」
話し掛けてきた理由を訊くために話し掛けると、ソイツは少し困ったような表情を浮かべながら答えた。
「あ……いや、用っていうか……さっき君から『調律』っていう言葉が聞こえたから……もしかしたら僕と同じような人かなと思って……」
「お前と同じ……というと?」
「あ、実は僕……『
「『調律師』……その名の通り、楽器の音を調節し、奏者の音に寄りそうという、あの調律師か?」
「うん、そうだよ。それで……部活動の顧問の先生に勧められて今回の演奏会に来てみたんだけど……!」
その瞬間、ソイツの顔はまるで太陽のようにパアッと明るくなった。
「とっても感動したよ! 僕は何か楽器をやってるわけじゃないから、評論家の人みたいな事は言えないけどさ。何というか……音がまるで鳥が大空へ羽ばたいていくかのように高く高く上がっていくように思えたし、聞いている内にどんどんその音色の世界に引き込まれていって……まるで──」
「『魔法』に掛かったかのようだった、か?」
「そう、まさにそれだよ! そっか……という事は君も同じように感じてたんだね!」
「ああ、まあな。それにしても……さっきは評論家みたいな事は言えないと言っていた割には、中々それらしい事を言えているじゃないか」
「あはは……そう、かな?」
「ああ。だが、それだけお前が音楽が好きなんだという事、そして音楽を大事に思っている事は、しっかりと伝わってきた。まだまだ未熟な俺が言える事でも無いかもしれないが、そんなお前ならきっと、良い調律師になれる事だろう」
「そ、そんな事……でも、ありがとう。君がそう言ってくれた事で、僕も少しだけ自信が付いたよ」
「……そうか」
ソイツの嬉しそうな笑みを見ながら同じように笑っていたその時、ふとソイツの笑みが約束を交わしあったアイツの笑みが重なったような気がした。
……そういえば、雰囲気なんかもアイツと似ている気がするが、まあ同じような雰囲気の奴がいてもおかしくはないか。
ソイツを見ながらそんな事を考えていると、ソイツは何故か少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら静かに頭を下げた。
「それと……さっきはゴメン」
「……ゴメンって、俺はお前から謝られる事なんてしてないと思うが?」
「あ、うん……実はさっき、君から話し掛けてくれた時、君の表情からちょっと冷たく怖い人なのかと思っちゃったから、それを謝ろうと思って……」
「……なるほど、そういう事か」
ソイツの言葉を聞き、俺は静かに納得した。俺は昔から目つきが鋭く、話し方も多少固く、ぶっきらぼうになりがちなため、それに慣れていない奴からは今のコイツのように冷たい奴として見られることが多かった。もっとも、俺自身は他人に大して興味を持っていないため、冷たいという印象もあながち間違いではないし、俺としてはこの事に関して特に困ってはいなかった。しかし、翼達はそうは思わないらしく、自分達以外と接する時には出来る限り柔らかい態度を取るように、と日頃から言われていたりする。
……正直な事を言えばかなり億劫だが、アイツらの言葉を無視する事は出来ないからな。
俺は小さく一度息をついた後、言葉を続けた。
「その事に関しては、昔からよく言われているから、謝る必要も無ければ、別に気にする必要は無い。俺からすれば、またか程度の事だからな」
「あ……そうなんだね」
「ああ。だから、これ以上は気にするな」
「うん、分かった。それじゃあ、そうさせてもらうね」
ソイツはニコッと微笑みながら静かにそう答えたが、すぐに何かを思い出したような表情を浮かべると言葉を続けた。
「そういえば……自己紹介がまだだったよね、僕は
「俺か? 俺は先導凛音だ」
「先導君だね。よろしくね、先導君」
「ああ。だが、君付けもいらないし、別に名前の方で呼んでも構わないぞ、響」
「……うん、分かった。後、僕の事も志音って呼んで欲しいかな」
「……分かった」
「うん。それじゃあ改めてよろしくね、凛音」
「……ああ、こちらこそよろしく頼むな、志音」
穏やかに微笑む志音を見ながら、俺はクスリと笑った。
響志音、か……何故かは分からないが、コイツとはとても長い 付き合いになりそうだな……
そんな確信にも予感を覚えていたその時、志音が何かを思いついたように声を上げた。
「あ、そうだ……!ねえ、凛音。これも何かの縁だし、連絡先を交換しない?」
「連絡先か……確かにお前の言う通り、これも何かの縁だからな、そうするのも良いかもしれないな。それに何故だかお前とは、長い付き合いになりそうな気がするんだ」
「あ、実は僕もそんな気がしてたんだ。……ふふっ、何だか僕達って色々と気が合うみたいだね」
「そうだな。さて……それじゃあ早速やるか」
「うん!」
そして、俺は志音と連絡先の交換をした。
……そういえば、翼達や父さん達を除けば、同じ部活の連中と交換したのが最後だったな。
携帯の画面を見つつ、そんな事をボンヤリと考えていると、同じように携帯の画面を見ていた志音が何かに気付いたように声を上げた。
「……あ、そろそろ行かないと……」
「何か予定でもあるのか?」
「あ、うん。これから父さん達と出掛ける予定があってね」
「そうか。なら、早く行った方が良い。親御さんに限らず、人を待たせるのはあまり良くないからな」
「ふふ、そうだね。……それじゃあまたね、凛音」
「ああ」
俺が静かに返事をすると、志音はとても明るい笑顔を浮かべながら走って行った。
「……響志音、か。翼やアイツ以来だな、こんな風にこれからも仲良くしていきたいなんていう気持ちを抱くのは……」
志音が走って行く様子を眺めながらクスリと笑った後、俺は新たな出会いに嬉しさを覚えながら家へと向かって歩いていった。
その日の夜、俺はピアノが置かれている防音室で、翼達と今日の演奏会のことについて電話で話をした後、今度は志音と電話で話をしていた。翼達とは今日の演奏会の感想などについて話し、志音とはそれ以外にもお互いの事などについて話していたが、志音の話し方や雰囲気も手伝ってか久しぶりに翼達以外の奴との話が楽しいと感じていた。
……翼達とはいつもこんな風に話をしているが、まさかその相手が増えようとは昨日までまったく思ってもいなかったな。
そんな事をボンヤリと考えている内に志音との話も終わり、携帯から聞こえていた低いバイブレーションの音も静まった事で、俺の呼吸や心音以外に音を発する物は無くなった。
……せっかくだ、寝る前に一度だけ弾くか。
短い息を一度だけついた後、俺は目の前のピアノの鍵盤に両手の指を置き、静かに指に力を加えた。その瞬間、高低様々な音が一度に鳴ったが、その音の重なりは不思議とキレイに混ざり合い、まるで『幻想』という言葉を音へと変換したかのようにも思えた。
……さて、奏でるとするか、新たな出会いという音色の重なりを祝した一曲を。
そして、俺はピアノが奏でる旋律の世界へと意識を集中させながら一曲弾き終えた後、ピアノを軽く掃除してから自分の部屋へと戻り、演奏会で聴いた『魔法の音』の事を思い出しながら眠りについた。
『……汝よ、聞こえるか……』
静寂の中、誰かが俺に話し掛けてくる声が聞こえ、俺はゆっくりと目を開けると、そこは自分の部屋じゃなく、暗闇以外には何も無いただ広いだけの空間だった。
ん……何だ、ここは一体どこなんだ……?
謎の空間に対してそんな感想を抱いていると、『……どうやら、無事に聞こえているようだな』
とさっきも聞こえてきた謎の声の主は安堵したように声を上げ、再び穏やかな声で俺へと話し掛けてきた。
『汝よ。汝に一つ、頼みがある』
『頼み……それは一体何だ?』
『……なに、汝にとっては大したことではない。
ただ……我にお前の旋律を聴かせて欲しいのだ』
『俺の……旋律、だと?』
『……ああ。今の私にとって、それが必要なのだ』
『……そうか。だが……その旋律を奏でるには、ピアノなどの楽器が必要なのでは無いのか……?』
『……いや、私に必要なのは、汝の心の旋律だ』
『心の……旋律……?』
『そうだ。……さあ、汝の奥底にある、友垣や思い人などへの様々な想いの旋律をしかと私に聞かせてくれ……』
友垣や思い人……何もかもが突然すぎるため、何が何だか分からないが、とりあえずやるとするか……。
俺は瞬時に翼達や父さん達、そして志音の事を思い浮かべ、それぞれへの想いが音色へと変わっていくイメージを浮かべた。その瞬間、周囲にあった暗闇がサーッと消えていき、いつの間にか周囲が白い光に包まれていた。
……これは……?
『……なるほど、これが汝の心の、想いの旋律か……。感謝するぞ、先導凛音。このように心地良い旋律を聴かせてくれたことを、な』
『お気に召したようで何よりだ。……ん? 待て、何故お前は俺の名前を知っている?』
『……なに、大したことではない。汝……いや、お前の想いの旋律をこの身に宿した事で、お前の名などを知った。ただ、それだけの事だからな』
『……やはり、何が何だか分からないが……?』
『……今はそれで良い。今は、な』
『……わかった。では、そういう事にしておこう』
『ああ。……せっかくだ、しっかりとした礼は後々するが、その前払いだけは今の内にしておくとしよう』
すると、目の前にとても澄んだ紫色の石が填まったペンダントのような物が突如現れた。
『……これは?』
『これは……簡単に言うなれば、守りの
そして、そう遠くない未来にお前の身を守ってくれるだろう』
『……そうか。では、ここはありがたくもらっておくことにしよう』
『ああ、そうするが良い。……さて、そろそろ夜明けの時のようだな。ではな、凛音。我が眼前にある全てが終わりを告げた時、また会うとしよう』
『……ああ、じゃあな』
謎の声にそう答えた瞬間、意識がどこかへ急に引き戻されていった。
「……ん……」
目を開けた瞬間、俺の視界に入ってきたのは、いつもの俺の部屋の光景だった。
……さっきのは、夢か……?
夢にしては意識がハッキリとしていたため、俺はベッドの上で小さく首を傾げていた。しかし、何度考えてもまったく答えが見つからないため、その内に俺は考える事を止めた。
……謎の声は、全てが終わりを告げた時、また会いに来ると言っていた。なら、その時を大人しく待っていた方が良さそうだな。
夢の中の出来事についてそう結論付けた後、俺はいつも通りの日常を過ごすべく、ベッドから出ようとしたその時、俺の首に何かが掛かっている事に気付いた。見てみるとそれは、夢の中で受け取った守りの呪いが掛かったペンダントだった。ペンダントは、夢の中と同様に静かに佇むだけでなく、仄かな温かさを発していた。
……そういえば、そう遠くない未来に俺の事を守ってくれると言っていたな。ならば、このペンダントは一応付けたままにしておくか。
ペンダントを指で一度弾いた後、俺は弾いた事で発せられた小さくも澄んだ音とペンダントから感じる仄かな温かみを楽しみつつ、今度こそベッドから体を出し、そのまま部屋を出て行った。しかし、あの夢を見た事が何を示すのか、そしてそう遠くない未来にとある出来事に巻き込まれる事になるとは、この時の俺はまだ知る由も無かった。
演奏会の日から数ヶ月が経ち、あの『魔法の音』に魅せられた事で、卒業後の進路を東奏学園への編入に定めようとしていた頃、俺がいつものように翼達を東奏学園まで迎えに行こうとしたその時、仲良く話しながら校門の前で立っている翼と陽菜の姿を見つけた。
……妙だな、何故翼達がここにいるんだ?
そう疑問には思ったものの、翼達が喧嘩したという話などは聞いていないため、二人が共にいる事は別におかしくはない。そして、俺の学校の場所については、以前教えたことがあるため、これもおかしいことではない。では、何に対して疑問を抱いたのか。それは、現在時刻についてだ。本来であれば、まだ器楽部は活動時間中であり、たとえ器楽部の活動が今日は休みだったとしても、そういった時にはいつもその旨が書かれた連絡メールが送られてくるのだが、今日は一切受け取っていない。
……何だ、この嫌な予感は……?
この現状に何故か嫌な予感を覚えたため、俺はその事について考え始めようとした。しかしその時、何人かの制服を着た男子学生が校門に向かって歩いていくのがふと目に入ってきた。
アイツらはたしか……剣道部の連中だったか。しかし……剣道部はまだ活動時間中の筈だが……?
その事に疑問を抱いた後、俺は剣道部の連中の動きに注意を向けながら、校門に向かって歩き始めた。そして、剣道部の連中が校門の付近へ差し掛かり、心配が杞憂だったと感じ、胸を撫で下ろそうとしたその瞬間、翼達の姿に気がついた剣道部の連中は、少しニヤニヤとしながら翼達に話し掛け始めた。
突然話し掛けられた事で、翼達は少し驚いた様子を見せたものの、すぐに気を取り直した後、何事か答えてその場を立ち去ろうとした。ところが、剣道部の連中は翼達の行く手を阻むと、にやつきながら再び翼達へと話し掛け始めた。
……チッ、アイツら……翼達に何をしようというんだ……?
目の前で起きている出来事に、俺は静かにイラついた後、すぐに翼達の元へと走り出した。
そして、翼達と剣道部の奴の間に入り込んだ後、俺はソイツの面にガンを付けつつ声を掛けた。
「……おい、お前ら。コイツらに何か用か?」
「あ? 何だよ、てめぇは……?」
「お前達に名乗る名前など無い。痛い目に遭いたくなければ、さっさと剣道場へと戻った方が身のためだぞ?」
「は……? てめぇ、何ふざけた事言って……!」
ソイツがイラつきながら声を荒げたその時、その様子を見ていた他の剣道部員の顔が急にサーッと青ざめた。
……やれやれ、どうやらコイツらはあの場にいた奴らのようだな……。
ソイツらの様子に心の中でため息をついていると、俺の目の前にいた奴が他の奴らの様子に疑問の声を上げ始めた。
「……おいおい、どうしたんだよ、お前ら……?」
「……ヤベぇよ、コイツ……いや、この人は……!」
「ヤベぇって……一体何がだよ……?」
「お前……先輩達から話聞いてないのか!?先輩達が音楽室のピアノにイタズラを仕掛けようとしてたっていうあの話を……!」
「いや、聞いたけど……それが一体──」
その瞬間、ソイツは何かを思い出したような表情を浮かべた後、他の奴らと同様に顔がサーッと青ざめ始めた。
「ま、まさか……この人って……!」
「あ、ああ……! 先輩達から一本も取られずに全員を圧倒したっていう、あの音楽室の魔物──『
「う、嘘だろ……!」
声を震わせながら俺の顔をもう一度見ると、ソイツらは汚い悲鳴を上げながら一目散に校舎の方へと走り去っていった。
……やれやれ、今回ばかりはこの変な異名に感謝しないといけないな……
そんな事をボンヤリと考えた後、俺は翼達の方へと視線を移した。
「翼、陽菜。大丈夫だったか?」
「う、うん……大丈夫だよ、凛音」
「私も大丈夫ですわ、凛音さん」
「……そうか、なら良い」
翼達の答えを聞き、俺は心の中でこっそりと胸を撫で下ろしつつ言葉を続けた。
「……さて、今のような輩がまた現れる前に帰るぞ」
「う、うん」
「はい」
翼達の返事を聞いた後、俺は翼達と共に下校を始めた。そして、歩き始めてから数分後、突然翼が声を掛けてきた。
「……ねえ、凛音」
「……何だ?」
「さっきは助けてくれてありがとうね。いきなり話し掛けられた上、囲まれちゃったから……本当はちょっと怖かったんだ……」
「……当然だ。あんな奴らに囲まれて平気なのは、同じ男か男勝りな女子くらいなものだからな。それに──」
俺は翼達の方へと体を向けた後、静かに微笑みながら言葉を続けた。
「お前達を守るのが俺の役目だ。だから、今回の事は気に病むな」
「凛音……」
「凛音さん……」
「……まあ、あんな奴らが相手だったから、多少の殴り合いは覚悟していたが、何事も無く終われたのは幸運だったな」
「……そういえば、さっきの人達、凛音の事を何か凄そうな名前で呼んでたよね?」
「たしか……『冷酷なる旋律』でしたわね?」
「……ああ。大体の理由はさっきの奴らが言ってた通りだ。ある時、俺が音楽室のピアノを弾きに行ったら、ちょうどピアノにイタズラを仕掛けようとしている奴らを見つけてな。ソイツらを注意したら、注意を受けた事にイラついたソイツらから勝負を申し込まれ、その勝負に圧倒的な勝利を収めた結果、あんないかにも中学生が付けそうな異名がついたわけだ」
「そ、そうなんだ……」
「……まあ、俺としてはあまり良い気分ではないが、今回のように勝負をせずとも勝てる可能性が生まれるのは助かるし、これからも世話にはなりそうだがな」
「うふふ、凛音さんの正体に気付いた瞬間、脱兎の如く逃げていってしまいましたものね」
「ああ。後、お前達もあんな目に遭いたくなければ、出来る限り東奏学園で待ってるか、いつもの集合場所で待っておけ。自覚は無いかもしれないが、お前達の容姿は周囲の目を惹くんだからな」
「うん、分かった。これからはそうするよ」
「私も承知致しましたわ」
「ん」
翼達の答えに短く返事をした後、俺は本題に入ることにした。
「……ところで、お前達は何であんな時間に校門の辺りにいたんだ?今はまだ器楽部の活動時間の筈だが……?」
俺がそう訊いた瞬間、翼達の表情が瞬時に曇り、雰囲気もどことなく暗い物へと変わった。
翼……陽菜……?
滅多に見る事の無い幼馴染み達の様子に疑問を抱いていると、翼達はそのままの表情でその理由を話し始めた。だがその理由は、俺にとってまったく信じられないものだった。
「……演奏に身が入らない上、器楽部の部室に近寄れなくなった……?」
「うん……ある日から演奏しててもまったく楽しくなくなっちゃって……。そして段々楽器を見るのも辛くなって来ちゃったの……」
「そして、その異変は私達だけではなく、器楽部の部員全員へ及んでいます……」
「……そうだったのか」
部員全員がスランプ……いや、部室に近寄れなくなったとも言っているから、一概にスランプとは言えないか……。
「……本当は、凛音にもこの事を相談したかったんだけど、凛音って東奏学園の編入を考えてるんでしょ?」
「……ああ、まあな」
「……だから、その邪魔になりたくなったから、凛音には出来る限り話さないようにしようって、陽菜ちゃんと決めてたの」
「……もっとも、今こうして話してしまいました事で、その取り決めも意味が無くなってしまいましたけどね……」
「翼……陽菜……」
翼達は少しでも雰囲気を良くしようと微笑みを浮かべていたが、その微笑みは誰が見てもとても痛々しいものだった。
……器楽部に起きた原因不明の現象……。どうにかしてやりたいのはやまやまだが、ただの学生に過ぎない俺に一体何が出来るというんだ……?
翼達の力になりたくという思いは強かったものの、翼達の言う原因不明の現象に対して、正確な解答を出せずにいたその時、頭の中にある人物の顔が浮かんだ。
よし……ここは、アイツにも相談してみるか。
そう決心した後、俺はとりあえず翼達に声を掛けた。
「……とりあえず現状は理解した。器楽部が今そういった状況にあるならば、俺はお前達に演奏を強要するような真似などはしない。そのような事をしたところで、ますます状況がこじれてしまうだけだからな」
「うん……ありがとう、凛音」
「凛音さん、感謝致しますわ……」
「礼など別に良い。さて……帰るのが遅くなってもいけないし、さっさと帰るとしよう」
「うん」
「はい」
翼達の返事を聞いた後、俺はどんな風に相談をするかを考えながら、翼達と共に帰途についた。
その日の夜、俺は防音室にあるピアノの前に座りながらある奴に電話を掛けた。
……さて、アイツが暇なら良いが……。
そんな小さな心配をしつつ、携帯から聞こえてくるコール音に耳を澄ませていたその時──。
『……もしもし?』
電話の相手──志音の声が聞こえ、俺は安堵の息を漏らしながら志音に話し掛けた。
「志音、今暇だったか?」
『あ、うん。ちょっと調律についての参考書を読んでただけだから、大丈夫だよ』
「そうか、それなら良かった」
『……ところで、どうかしたの?』
「ああ、実はな……」
翼達から聞いた話を志音に話すと、志音はとても驚いた声を上げた。
『東奏学園の器楽部が今そんな事に……!?』
「ああ、器楽部に入っている幼馴染み達から直接聞いた話だから、間違いは無い」
『そっか……つまり、今の状況がどうにかならないと、もうあの『魔法の音』は聞けないっていう事だよね?』
「そういう事だ。……だが、この異変を解決するための答えがまったく思い付かないんだ……本当に情けないことに、な」
『凛音……』
電話越しに心配そうな志音の声が聞こえた後、俺は一度小さく息を吐いてから再び話し始めた。
「志音、お前に一つ訊きたいことがある」
『……奇遇だね、僕もだよ』
「……なら」
『うん、一緒に訊こうか。せーの──』
「『この異変を、共に解決する気は無いか?』」
俺の声と志音の声が重なり合った時、俺はその事に小さく笑いながら再び口を開いた。
「……やはりお前も同じ気持ちだったか」
『……ふふっ、もちろんだよ。僕はあの演奏を聴いて、『魔法の音』を支えたいと思ったからこそ、こうして東奏学園への編入を考えてるからね。凛音だってそうなんだよね?』
「もちろんだ。俺もあの『魔法の音』に魅せられた者の一人ではあるが、何よりもアイツらの笑顔──心からの笑顔を取り戻さなければならないからな」
『ふふっ、凛音は本当にその幼馴染み達が好きなんだね』
「……好き、か。それもあるかもしれないが、これは俺が俺自身に対して立てた誓いでもあるからな」
『……誓いか、なるほどね。まあ、とりあえず現状は僕も理解したよ。だから後は……』
「ああ、共に無事に東奏学園への編入を果たし、器楽部への入部も果たす事で、この異変についての解決へと動く、だな」
『うん、そうだね。……それじゃあ、お互いに支え合いながら頑張っていこう、凛音』
「ああ、もちろんだ。ではな、志音」
『うん、それじゃあお休み』
「ああ、お休み」
そう言って志音との通話を終了させた後、俺は携帯を傍らに置き、目の前のピアノの鍵盤に両手の指を置いた。
さて……どのような音になるか……。
そして、指に静かに力を入れ、鍵盤をゆっくりと押した。すると、ピアノから聞こえてきたのは、迷いと哀しみ、そして憤りと失望を表すような儚く静かな音色だった。
……まあ、間違ってはいないな。
この音色が表しているのは、アイツらの心からの笑顔を今すぐに取り戻せない自分への憤りと失望、そしてどうしたら良いという迷いとそれが分からない事への哀しみのため、しっかりと俺の心の光景を映していると言えた。
……やはり、音というのはその時の感情を映し出すみたいだな。だが……俺の中にあるのはそれだけではない……!
俺は再び指をピアノの鍵盤に置き、迷うことなく鍵盤を叩いた。そしてその音を聞いた瞬間、俺は思わず小さく笑みを浮かべていた。
……やはり哀しみなどだけではなかったみたいだな。
ピアノから聞こえてきたのは、憤りと決意などが籠もったような力強くハッキリとした音だった。
……やはり、間違ってはいないみたいだな。
この音色が表しているのは、アイツらの笑顔を奪ったモノへの憤り、志音と共に『魔法の音』とアイツらの笑顔を取り戻そうという決意。先程の感情が無くなったわけではないが、俺自身の気持ちはしっかりと前を向いていた。
……必ず取り戻してみせる。何としても、な。
心の中で改めて決意を固めた後、俺は防音室を後にし、両親がいるリビングへと向かった。
そして、卒業後の進路を東奏学園への編入に決めた事を話すと、両親はまるで俺がそう言う事が分かっていたかのように快く了承してくれた上、応援の言葉を贈ってくれた。俺はその言葉にコクリと頷きながら静かに答えた後、自分の部屋へと戻った。心の中で鳴り響く決意の音色をしっかりと感じながら。
そしてその翌日から、俺は志音とよく連絡を取り合うようになり、下校後や休日に翼達からの誘いが無い時には、どこかへ集まるようになった。その理由はもちろん、東奏学園への編入試験に向けての勉強会、そして器楽部の異変についての相談事をするためだ。異変についての相談事をしている際、俺達は俺達がいくら考えたところで、解決策が見つかるとは思っていなかった。しかし、何もせずにただ待つのは性に合わなかったため、ひたすら勉強の合間合間に相談事をし続けた。そしてそうやって毎日を過ごしていた数ヶ月後の3月、俺達は無事に東奏学園の編入試験に合格し、この春から晴れて東奏学園生としての日常を歩めることになった。
……これで、目的の一つは達成したな。
そんな事を考えつつ、俺は合格発表を見ながら翼達に合格した事を伝えた。すると、翼達はそれをまるで自分の事のように喜び、合格祝いの場を近々設けてくれると言ってくれた。
……俺が東奏学園の編入試験を受ける事にした本当の理由は、まだ話せないけどな。
そう思いながら画面上に表示されている翼達の言葉に返事をし、携帯をポケットの中にしまった後、俺は隣に立っている志音に声を掛けた。
「志音、分かっているな?」
「うん、これは僕達の目的の一つに過ぎないし、ここからが始まりだからね」
「……その通りだ。志音、これからも共に支え合いながら目的の達成へ向けて頑張っていくぞ」
「うん!」
春の穏やかな陽気と桜の花弁が風で舞い踊る中、俺達は再び決意を固めながら固く握手を交わした。
政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
志音「今回の話はキャラクターの簡単な説明と原作におけるプロローグの前半部分って感じだったね」
凛音「そうだな。……そして、原作におけるプレイヤーの分身であるチューナーの設定は、この作品内ではあんな感じなんだな」
政実「うん。原作でも容姿とか雰囲気とかの表現はちょこちょこと出てるけど、具体的な表現はまだあまり出てきてないからね。凛音の言う通り、この作品内では作中の通りの容姿とかって事で進めていくよ」
凛音「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
凛音「ああ」
志音「うん」
政実・凛音・志音「それでは、また次回」