仮面ライダーソーシャル 戦う歌姫達と爆死する少年 作:BF・顔芸の真ゲス
「くそっ、またハズレだ!」
スマホに表示されるガチャ結界を見ながら、俺はそう毒づいた。
「あー、当たんねえ。コレ本当に最高レアの割合3パーセントか?累計100回は回してんのに全然出ねえんだけど」
自分の運の無さというものがつくづく恨めしい。周りの友人はポンポンレアキャラを当てては俺に自慢してくると言うのに、対する俺が自慢出来る事と言えば呪いの一種と言ってもおかしくないくらいのガチャ運の悪さくらい。出る人はとことん出るのに出ない人はとことん出ない、ガチャってのはマジで闇で沼だわ。こんだけ当たらないのにムキになって回しちゃうんだもん。
「石は残り……丁度10連一回分か。よーし、最後の運試しだ。頼むから何か出てくれよ〜!この際最高レアじゃなくても良いからさ〜!」
ボックスを少し整理した後、ガチャ画面に移動する。すぐには引かず、祈るように手を合わせガチャの神様にお願いしてから10連のボタンを押す。
「来い、来い、来い、来い!」
少々のロード時間の後、ガチャがスタートする。演出はスキップしない。何となく飛ばさない方が当たりそうな気がするからだ。まあ良いのが当たった事なんて一度たりとも無いのだが。
「……っ!」
演出が終わり、1回目のガチャ結果が表示される。ハズレ、まあいつもの事だ。気を取り直して2回目、これもハズレだ。
「…………」
3回目、ハズレ。
4回目、ハズレ。
うん、いつもの事なんだが、そろそろ何か出ても良いんじゃないかな?
「…………」
5回目、ハズレ。
6回目、ハズレ。
段々と顔から表情が失われていくのが分かる。苦労して貯めた10回分の石が無残に消えていく時の喪失感と虚しさは、何度経験しても辛いものだ。
「…………」
7回目、ハズレ。
8回目、ハズレ。
9回目、ハズレ。
ここまで来たらもう悟る。ああ、今回も爆死なんだなと。また石を貯める作業をやらなければなと心中で血の涙を流しながら10回目の演出を眺めていると、不意に演出に変化が訪れる。
「……っ!」
間違い無い、確定演出だ。このソシャゲを始めて以来初の演出に、気分がハイになるのを感じる。
(何だ、何が来る!?激レアか!?超激レアか!?ああクソ、レアの演出以外見た事ないから分からねえ!?)
我ながら物凄く悲しい事を言っているなと自嘲しながら、ガチャの結果が現れるのを今か今かと待ち続ける。心臓の鼓動がヤバイ、呼吸がおかしなくらい乱れている。たった数秒の演出が一時間、二時間のように感じる。だがそんな極度の緊張状態の中、ついにその時が訪れる。
「……来たっ!」
キャラが表示され、画面に神々しい演出が発生する。この時点で飛び上がりたいくらい嬉しいのだが、その衝動を必死に押さえつける。まだだ、まだレア度の表示が出ていない。それを確認するまではまだーー
「ーーっぐ!?」
不意に心臓を握り潰されたかのような痛みが走り、視界が歪む。身体がガクガクと震え、言う事を聞かなくなる。
(な、んだよコレ……!?)
自分の身体に何が起こったのかを知る時間すら無く、視界が暗くなっていく。ただの直感、それでも俺は分かった。
ーー俺は、死ぬのだと。
(マジかよ、ざけんな……!まだ俺は、俺は……!)
ーーガチャ結果確認出来て無いんだぞ!?
そんな自分でも頭おかしいと思う事を考えながら、俺の意識は闇に堕ちていった。
「……ここは?」
気がつけば、俺は自分の部屋ではないどこか真っ暗な場所に突っ立っていた。
「……何にも見えねえ」
周囲は見通せない暗い真っ暗な闇に覆われており、しっかりと注視しなければ自分の手すら見る事が出来ない。これが、死後の世界という奴なのだろうか。
「マジかよ、死後の世界って何もねえの?三途の川とか、天国とか地獄とかねえの?」
自分が読んでいた様々な本に書いてあったような死後の世界とは違う現状に、大いに戸惑う。ああでも、『デスノート』で言ってたな。死後の世界に天国も地獄も無いって。まさか本当にそうだとは思わなかった。
「マズイぞおい!?あの世に何も無いなら、どうやって生き返れば良いんだ!?死んだ父さんに眼魂貰って復活する事も、不真面目な三途の川の橋渡しにマッカ渡して生き返らせて貰う事も出来ないじゃないか!?」
マズイ、本当にマズイ。死後の世界を体験出来たのは中々に貴重な経験だとは思うが、まだ俺は体験で十分だ。まだ俺にはしたい事も、やり残した事も沢山有るんだ。
何よりーー
「まだ俺はガチャ結果を見てねえ!?」
それだ、それなのだ。多くのソシャゲに手を出して、それら全てで爆死してきた俺の人生で、始めた当たったレアキャラなんだ。せめてレア度の確認をしなければ、死んでも死に切れない。
「うおおおお!目覚めよ俺の隠された力ぁ!今こそ覚醒して俺を生き返らせて、ガチャ結果を見せてくれぇぇ!」
右腕を抑えて叫ぶ。よくあるラノベならここで何らかの力に覚醒して、死の淵から生還するパターンだ。俺にラノベ主人公の属性なんか毛ほども無いと自覚しているが、ワンチャン賭けてみる価値はある筈だ。
「うおおおお!目覚めよその魂ィィィィ!!」
「ーーねえ、そろそろ話しかけても良いかな?」
「……うん?」
俺以外誰もいない筈のこの場所で聞こえた、俺以外の誰かの声に振り向くと、如何にもなオーラを纏った少女が目の前に立っていた。
「やっとこっちを向いてくれた。はあ、ようやく仕事が始められるよ」
「……誰お前?」
ボーイッシュな口調で話す少女に、思わずそんな声をかける。
「うん、いきなり現れた私に驚くのは分かるよ。でももう少しちゃんとした声のかけ方ってもんがあるよね?」
「あー、悪い。初対面の相手に『お前』は無いわな。それで、あんた一体誰なんだ?見た感じ俺と同じ人間って訳じゃ無さそうだが。なんか神々しいオーラ出てるし」
「うん、『あんた』も別にちゃんとした呼び方じゃ無いけどね。まあそれはもう良いや。ご察しの通り私は人間じゃない。私は君達の言葉で言う『神様』ってヤツさ」
なんと、この少女は神様だったのか。人間離れした神々しさだったから神様か天使かなと思っていたが、まさか本当に神様なんてものがいるとは。
「あまり驚いていないようだね。やっぱりこんなナリじゃ神様だって思い難いかい?」
「……いや、死後の世界があるって分かった今、神様なんてものが居ても不思議じゃないなと思っただけだ。それよりあんた、さっき仕事がどうとか言ってたな。一体これから何をするんだ?」
「ふむ、飲み込みが早くて助かるよ。それじゃあ本題に入るね。ーー君、君は死んだ。君の身体は生命活動を停止し、精神はこの場所へと導かれた。君が死んだ時点で生前の君の名前は意味をなさなくなり、君自身の記憶からも君の名前は消えているだろう」
「……そうか」
自分が死んだ。分かっていた事ではあるが、他人の口から言われると中々に堪えるものがある。そして名前。それまで気にも留めていなかったが、確かに自分の名前が思い出せない。あれだけ慣れ親しんだ名前が、一文字も口から出てこないのだ。それは、それまでの自分という存在が綺麗サッパリ無くなった事を、嫌でも俺に教えてくれた。
「……死因は?」
「極度の緊張による心臓発作。凄いね。今まで万単位で人の死に方を見てきたけど、ガチャが原因で死んだ人間なんて君が始めてだよ」
「……マジかよ」
余りにも恥ずかし過ぎる死因に思わず頭を抱える。そんなしょうもない理由で死んだのか俺。メンタル豆腐かよ俺。
「まさかレアキャラが出た事によるショックで死ぬなんてね。そんなに好きなの?あのソシャゲ」
「……いや、好きって程じゃないな」
「え、そうなの?」
「おう。どっちかと言うと、ガチャを回すのが好きなんだと思う」
そう、別段あのソシャゲに思い入れがあった訳では無い。あのソシャゲに限らず、俺は色々なソシャゲに手を出してきたが、どれも極める所までいかず中途半端に進めていた。飽き性な俺には、一つのゲームを極限までやり込むという事が出来なかったのだ。
「ソシャゲそのものじゃなくて、それを進めてやれるガチャを回すのが好きでソシャゲやってるんだと思う。なんて言えば良いのか分からないけど、とにかくガチャを回す為に俺はソシャゲをしてたんだ」
「ふーん、成る程成る程。中々に面白い話を聞かせて貰ったよ。それで話は戻るんだけど……君、人生をやり直す気は無いかい?」
「やり直す?」
「新しい世界に生まれ変わって、新しい命として誕生するって事さ。所謂『転生』ってヤツだね」
「転生……」
転生、それについては知っている。ラノベなどでよくテーマにされるもので、俺自身転生もののラノベやネット小説を読んだ事がある。
「元の世界に生き返らせて貰うって事は出来ないのか?」
「駄目だね。君の身体は既に病院に搬送されて死亡が確認されているし、君自身ガチャが原因で死にかけたなんて恥ずかしい過去背負って生きていきたくは無いだろう?」
「うっ、それは……」
確かに嫌だ、と少しだけ思ってしまった。あっちに残してきてしまった家族や友達には本当に申し訳ない気持ちで一杯だが、ガチャ回して一度死んだという事実を記憶に刻んで生きるのはそれはそれで辛い。
「とにかく、君には別の世界で生まれ変わって新しい人生をエンジョイして貰う。それでここからが本題だ。君達人間が転生するにあたって、私達神様は君達に一つだけ贈り物をあげる事になっているんだ。特典ってヤツだね」
成る程、これはまたベタなやつが来たな。
「……それが必要になるような世界に送るのか?」
「いや、それはランダムだね。バリバリ戦闘物の世界に送られる人間も入れば、戦闘とは無縁な穏やかーな世界に送られる人間もいる。だから人によっては使い道無くて貰った特典が腐ったりもするね。そういうのも考えて君には特典を選んで貰いたい。さあ、君はどんな特典を望む?」
その問いにしばし目を閉じて黙考する。神様の話通りだとすれば、転生する世界は完全ランダム、どこぞのバトル漫画のような殺伐とした世界に送られる事もあれば、キャッキャウフフの恋愛物の世界に送られる事もあるらしい。それを踏まえて真剣に特典を考えなければならない。仮に恋愛物の世界でモテる為に恵まれた容姿を貰ったとしても、送られた世界がバトル系だったら速攻で死ぬ。かと言って俺最強!な力を手にしても、平和な世界じゃ使い所の無いクソ能力になってしまう。さて、どんな能力を貰えばいいのだろうか?
「私からアドバイスをするとすれば、自分の好きな物を選ぶ事だね。君、何か好きな物は無いのかい?」
「ガチャ」
「ガチャ以外でだよ。ガチャの特典って一体何さ?ほら、何か一つは有るだろう?自分がガチャ以外で熱中した何かがさ」
「熱中した、何か……」
神のアドバイスに従い、自分の熱中したものについて記憶から引き出していく。殆どがガチャを回しているものだったが、一つだけそれとは違う物が有った。
「……仮面ライダーだ」
そう、ガチャ以外で俺は仮面ライダーに熱中していた。毎週日曜のニチアサはきちんと録画して見ていたし、ビデオ屋から昔のライダーのDVDをちょくちょく借りて来て見ていた。変身ベルトとかもなんだかんだ結構な数集めていた気がする。
「……決めた。特典は仮面ライダーの変身ベルトと変身能力だ。二つになっているが、出来るか?」
「まあ、ベルト貰っても変身出来なきゃ意味無いからその二つはセットで良いよ。因みにどのライダー?」
「特に無い。転生する世界同様そっちで決めてくれ」
「そう。……じゃあ、変身するのは君のオリジナルでも良いかな?」
「オリジナル?」
「君オリジナルのベルトで変身した方が、君にしても嬉しいんじゃないかい?」
確かに、自分だけのオリジナルライダーというのも中々に心惹かれる物があるな。
「分かった、それで良い」
「よし、話は決まったね。ベルトは君にとって必要だと思った時に送るから、それまでは新しい人生を存分に満喫してくれ」
「分かった。……ありがとう」
「礼なんて要らないよ、これが私達神様の仕事だからね。それじゃあ出発の時だ。君が新しい人生をどのように生きていくか、楽しみに見させて貰うよ」
その言葉と共に俺の身体が光に包まれ、爪先から徐々に消滅していく。どうやらお別れの時間のようだ。自分の身長より少し低いくらいの神様の目を真っ直ぐ見つめ、感謝の念を込めて深く礼をする。神様はそれを見て少し照れ臭そうに笑い、更に言葉を続ける。
「自分の命を大切にするんだ。一度は失い、また新たに手に入れたその命を。……あ、そうそう。君の死因になったガチャ結果なんだけどさ」
「……どうだった?」
「『激レア』。残念、一歩及ばなかったね」
「……そうか」
どうやら俺の命と引き換えに引いたガチャは超激レアでは無かったらしい。残念に思う一方で、これはこれで俺らしいと思う自分がいた。
「行ってらっしゃい。君の人生が超激レアな物になる事を祈っているよ」
そんな神様のからかうような言葉を最後に、俺は一度目の人生を完全に終了した。
「……行ったね」
新しい人生を送る彼が消えた空間で、神は独り笑う。
「君に言ってなかった事があるんだけどさ、特典には必ずデメリットがあるんだ。特典頼りのチート無双なんて白ける展開にならない為にさ」
その笑顔は最高に美しく、最高に優しく、そして最高に醜悪な笑顔だった。
「とりわけ君の特典のデメリットは大きくてね。君はとても辛く苦しい目に遭うかもしれない」
自分が彼に用意した特典、そのデメリットを頭の中で考えながら神は独り言を続ける。
「でも私は別に君が嫌いだからこんな事をした訳じゃないんだよ?ただ、その方が『面白い』かなって思っただけなんだ」
そう言って神はその手に彼に与える特典を持った。その手の中には何らかのアプリが表示された白いスマートフォンと白いベルトがあった。
「さあ、人生ゲームの始まりだ。私を楽しませてくれよ?ちっぽけで弱ぁい人間さん?」