仮面ライダーソーシャル 戦う歌姫達と爆死する少年 作:BF・顔芸の真ゲス
「っ、また爆死だよチクショー!」
表示されたいつも通りのガチャ結果に、近所迷惑を気にせず俺は叫んだ。
どうも、ガチャ死で転生したマヌケです。前世の名前は忘れてしまったが、今は『檜山 幸助』という名前で生活している。幸助とかいういかにも幸がありそうな名前をしているが、名前の割にガチャ運に幸は無い。『名は体を表す』という言葉があった気がするが、ならば俺の一体どの辺に幸が有るのかと神に問いただしたい。そんな幸と縁遠い生活を送る俺は新しい人生を問題無くエンジョイし、現在は中学生をやっている。前世が高校生だったので、精神的には足して大体三十代だな。
さて、話が少し脱線したので本題に戻ろう。どうやら俺が転生したのはバトル物の世界らしい。というのも、この世界にはある怪物がいるのだ。
認定特異災害『ノイズ』
突如として世界各国に出現するようになったその怪物は、あらゆる兵器による攻撃が通用せず、人間が接触すれば身体が炭化して即死するという恐ろしい性質を持っている。しかもこの怪物は人間だけを狙って襲いかかる性質を持っているときた。まさしく意思を持った災害、人類の敵と呼ぶに相応しい存在である。
因みにそのノイズだが、外見は割と可愛らしい。その恐ろしい性質さえ無ければ、遊園地のマスコットをやっていそうな姿をしている。
(にしても中々にハードな世界に転生しちまったな、俺)
まず間違いなくノイズが俺の倒すべき敵なのだろう。だがそのノイズに俺の貰った特典であるライダーの力が通用するのかまだ分かっていない。恐らくは通じる筈だが、殴りかかってそのまま死にましたなんて事になったら悲惨過ぎる。
「そろそろ届いて欲しいんだがな、ベルト。……お?」
不意にやっていたソシャゲの画面が消え、軽快な音楽と共に振動する。どうやら誰かが電話を掛けてきたらしい。名前を見ると、こちらの世界で出来た俺の友人の名前があった。
「もしもし、何か用か?」
『あー幸助?お前ライブとか好きか?』
「別に好きでも嫌いでも無いが、それがどうかしたか?」
『いや、俺が大好きなボーカルユニットのライブが今度あってな。俺もチケット買ったりして楽しみに待ってたんだが、丁度その日にどうしても外せない用事が出来ちまってな』
そう話す友人の声は暗く、本当に残念で仕方ないという気持ちが電話越しでもこっちに伝わってくる。
「そりゃ運が悪かったな」
『でも折角手に入れたチケットが無駄になるのは嫌だから、興味があるならお前に代わりに行って貰おうと思ってな』
「俺に?」
『おう、折角苦労して手に入れたチケットだからな。ネットに売りに出すんじゃなく、誰かに見に行って欲しいんだよ。良いか?』
そう言って友人は申し訳無さそうに俺に頼んできた。正直な話、ライブなんて前世も含めて一度も行った事ないので少し興味がある。
「そういう事なら断る理由は無えよ。因みにそのボーカルユニットっつーのはどんな名前なんだ?」
『ああ、言ってなかったな。【ツヴァイウイング】って名前なんだけど、知らないか?結構有名なユニットなんだけどさ』
ツヴァイウイング……何と無く聞いた事がある気がする。俺はそこまで音楽を聞いたりしないのであまり音楽の世界については詳しく無いのだが、その名前に聞き覚えがあるって事は、友人の言う通り結構有名なユニットなんだろう。
「まあ、名前だけなら聞いた事がある」
『そうか。ならこれを機にお前も彼女達の歌を聴いて見てくれ。お前ならきっと気に入ってくれるだろうからさ。それじゃあまた明日学校で。チケットはそん時渡すわ』
「おう、また明日な」
そう言って通話を終了し、中断していたソシャゲを再開する前にツヴァイウイングについて少し調べてみる。
「天羽奏と風鳴翼の二人で結成されたユニット……へえ、この曲ツヴァイウイングのだったのか。成る程成る程」
ほんの少し調べるだけだったが、思った以上に長く調べてしまった。その後思いの外彼女達に興味が湧いたのでツヴァイウイングのCDを幾つか買って聴いてみたが、中々に良い曲だった。
そんなこんなで時間はあっと言う間に過ぎ、やって来ましたライブ当日。事前にチケットを渡して来た友人から『早めに行くように』と言われたので、公演より二時間くらい早く来たのだが、それでもライブ会場は大勢の人で溢れていた。
「うっわすげえ人だなオイ。一体何人居るんだ?」
数えるのも馬鹿らしいくらい大勢の人で溢れ返っているライブ会場。席に着いた俺は公演までやる事も特には無いので、最近始めたソシャゲのガチャを引く事にする。
「……爆死か。まあいつもの事だな」
「へえ、檜山君っていつも爆発してるの?」
「いや、爆死って言っても本当に爆発してる訳じゃ……ってうおぉ!?」
「うわぁっ!?」
急に話しかけられて思わず大声を上げる。相手の方も俺が出した声に驚いたのか、同じように大声を出していた。
「……って、なんだお前か立花」
「何だじゃないよ檜山君!?いきなり大声を出したりしたから私びっくりしちゃったよ!」
俺に向かってそう言って怒る少女『立花響』は、俺のクラスメイトだ。あまり話した事は無かったが、明るくて活発な生徒だったと記憶している。
「いきなり話しかけてきたそっちが悪い。先に一言声をかけるなりなんなりしてくれ」
「そりゃいきなり話しかけた私も悪かったけどさぁ、あんなに驚かなくても良いでしょ。ちょっと傷ついたよ私」
「勝手に傷ついてろ。それにしても意外だな立花、お前一人か?小日向は居ないのか?」
「……その私がいつも未来とセットって認識どうかと思うんだけど」
「事実だろうが」
こいつは基本的にいつも友人の『小日向未来』と一緒に行動している。小日向は陸上部に所属していて、かなり足が速い。一回あいつが走っている所を見たが、超速かった。
「まあそうだけどさー。最初はここにも未来と一緒に来る筈だったんだけど、未来が来れなくなっちゃってさ。あーあ、私呪われてるのかなぁ?」
「ハッ、そんくらいで呪われてるとか片腹痛いわ。俺の方が絶対呪われてるね。生まれてから今の今まで一回もガチャで良いの出た事無いもん」
ほんとどういう事だよ畜生。命賭けなきゃ激レアすら出ないのか俺は。マジでクソだわ俺の運。
「あはは……ほら、人生はガチャだけじゃないからさ!いつかきっと良い事あるよ!多分!」
「憐れむな!余計惨めになるわ!?」
「ご、ごめん!でも意外だな私。檜山君ってこういうライブとかに興味あるんだ」
これ以上この話題で話をするのは気まずいと判断したのか立花は慌てた様子で話題を変える。ああ、気を遣われてしまった。超恥ずかしい、死にたい。
「予定が合わなくて行けなくなった友達がチケットを渡してきただけだ。まあ、ライブってのがどんな感じなのか興味があったってのは事実だけどな」
「そうなんだ、私とおんなじだね。私も未来に誘われたから来ただけで、ツヴァイウイング自体よく知らなくてさ。でも良かったよぉ、未来も居ないし一人で見なきゃいけないのかなーって思ってたから。やっぱり知り合いが居るだけで大分違うよね!」
「知り合いって……俺お前と話した事なんて殆ど無いと思うんだが」
「そうだっけ?だったら今からお喋りしようよ!ライブが始まるまでまだ結構時間があるし!檜山君の好きな食べ物って何?私はごはんアンドごはん!趣味は?私はねーー」
俺の返事も聞かずにマシンガントークを始める立花。すげえ元気だなオイ。このノリに小日向はいつも付き合ってるのか。苦労してそうだな小日向は。頭の中で小日向についての情報を更新しながら、ライブが始まるまでの間俺は立花のマシンガントークに付き合ってやった。
同時刻、幸助や響達が開演を待つライブ会場の舞台裏。そこで一人の少女が俯いて暗い表情をしていた。
「…………はぁ」
その少女『風鳴翼』は、これから始まるライブへの重圧に思わず溜息を吐きながらじっと床を見つめていた。
「なぁに暗い顔してんだよ翼ぁ!」
「わっ!?……もう、脅かさないでよ奏」
いきなり後ろからくっついて来たオレンジ色の髪の少女、自分の相棒である『天羽奏』に抗議の視線と言葉を送る。それを送られた当の本人はそれを意にも解さず、にこりと笑いながら翼へと話しかける。
「もうちょい肩の力抜けよ。そんなガッチガチに緊張してたら、歌えるもんも歌えなくなっちまうぜ?」
「で、でも、こんなに大きな会場で、あんなに沢山の人達の前で歌うのなんて初めてで……」
不安気な表情を浮かべてそう言った翼に奏はクスリと笑って、翼の額を軽く小突いた。
「ていっ」
「あうっ!?」
「翼は真面目が過ぎるんだよ。そんなんじゃいつかポッキリ折れちゃうぞ?」
「奏……」
「いつも通り歌えばいいのさ。いつも通りやれば、きっと上手くいく。アタシらは二人で一つのツヴァイウイングさ。二人なら何だって出来るよ」
「……そうだね」
奏の言葉に勇気を貰ったのか、明るい表情を浮かべる翼に奏は優しく微笑む。
「お、どうやら気合いは十分みたいだな!」
「いや、本番前に気合いが足りてなかったら不味いだろ」
「し、司令!それに門矢さんも!」
「お、弦十郎の旦那に士のアニキ!来てくれたのか!」
「まあな。あっちの方の準備ももう少しかかるから、お前達の方にも顔を出しておこうと思ってな」
「俺はこのオッサンに無理矢理連れてこられただけだ。まあ来たからにはちゃんと様子は見るがな。なんなら本番前に一枚撮ってやろうか?」
「遠慮しとくよ。アンタ写真撮るのヘタクソだからな!」
「あのな奏。俺が写真撮るのが下手な訳じゃない。世界が俺に合ってないだけだ」
「言い訳はみっともないだけだぜ?」
「っの餓鬼……!」
ニヤニヤと笑う奏に今にも掴みかかろうとするマゼンタのカメラを持つ男性『門矢士』を赤髪の筋肉質な男性『風鳴弦十郎』が笑いながら抑える。
「まあまあ、落ち着け士君。翼、それに奏。今回のライブには俺達人類の未来が懸かっている。だからーー」
「分かってるって。今回のライブがどんくらい重要かは、耳にタコが出来るくらい沢山聞いたからな。アタシらはいつも通り歌うだけさ」
「うむ、それが分かっていたら十分だ!じゃあ二人共、そろそろ俺と士君はあっちに戻る。ライブは任せたぞ」
「ま、頑張るんだな」
「任せとけ!」
「は、はい!」
最後に二人を応援する言葉を残し、弦十郎と士は去って行く。
「……時間だな。そんじゃ行くか翼!」
「うん。行こう奏!」
そう言って二人は沢山の人達の待つ舞台へと歩き出した。ライブを成功させる為、そして人類の未来の為に。
「……始まるみたいだな」
立花のマシンガントークが3週目に入り、そろそろ聞き流すのも限界になってきた頃、照明が消えて会場が真っ黒になり、それと同時に観客のテンションも上がって行く。
「わぁー!凄いよ檜山君!何か凄い!」
「まだ始まってすらいないだろうが……」
始まる前からはしゃぎ出す立花、なんだかんだ言って楽しめているようで何よりだ。
『待たせたな皆ー!ツヴァイウイング、ただいま参上だぁぁぁぁぁ!!』
『精一杯の歌を、皆に届ける!』
まさかの上から現れてステージに降り立ったツヴァイウイングの二人に会場全体から歓声が上がる。勿論響も例外ではなく、キャーキャー叫びながら売店で買っていたらしいサイリウムをぶんぶん振り回している。
『今日は最高のライブにしようなぁ!それじゃあ先ずは一曲目行くぞぉ!!』
その声と共に一曲目が始まる。観客も要所要所で合いの手を入れたり、サイリウムを振ったりしている。全ての観客が曲に合わせて同じ動きをする姿は、中々に壮大だった。
(……凄いな。会場そのものが一つの生き物みたいだ。観客全員が歌手と一体となって行う、これがライブなのか)
「キャー!凄い凄い!凄いよ檜山君!皆がツヴァイウイングの二人の曲で一つになってる!これがライブなんだね!すっごい楽しいよ!」
「そうかい、そりゃ良かったな」
「もう!そんな楽しくなさそうな顔してちゃ駄目!せっかくこんなに楽しいライブに来てるんだから、楽しそうな顔をしなきゃ損だよ!ほら、笑って笑って!」
そう言ってニコッと笑う立花に、思わず引きつったような笑みを浮かべる。違うんだ立花、別に楽しくない訳じゃない。単に周りのハイテンションに圧倒されてるだけなんだ。
「……楽しそうで何よりだ」
「うん!あー未来も来れれば良かったのになー!そしたら三人で楽しめたのに」
「小日向が居たら俺はお前とは一緒に見てないだろ」
「そんな事ないよ!未来が居てもきっと檜山君は一緒にライブを見てる。だって友達じゃん!」
「いつ友達になったよ……」
馬鹿みたいに明るい立花の言葉に呆れながらも、どこか嬉しく思っている俺が居る。そんな自分に内心驚きながら、俺達は初めてのライブに夢中になっていた。
「『ネフシュタン』、現状は安定しています」
「そうか、引き続き観測を頼む」
「了解!」
端末を操作する職員に指示を飛ばしながら、弦十郎はモニターを見つめる。そこには眩い光を放つ『鎧』が表示されていた。
「んー、今の所は順調ね」
「それでもいつ何が起きるか分からん。相手は『完全聖遺物』だ。用心の上に更に用心を重ねてもまだ足りないくらいだ」
モニターを眺めて微笑む白衣の女性、『櫻井了子』にそう返しながら、弦十郎はじっとモニターの奥の鎧を睨みつける。
「安心しろよ弦十郎のオッサン。万が一の時の為の俺だ。最悪の事態にはならないようにするさ」
右手に持った不思議な形をした『ベルト』を弦十郎に見せながら、士は弦十郎にそう言った。
「済まないな士君。本来なら部外者の君にこんな仕事をさせるべきでは無いのだろうが……」
「気にするな。アンタ達と同じで、俺にもこの世界でやるべき事が存在する。俺はそれを果たす為にアンタ達に協力協力している。利害の一致ってやつだ」
(とはいえ、俺自身何をすべきかもはっきり分かっていないんだがな。一体何処に居るんだ?『この世界の仮面ライダー』は)
自分が此処にいる意味を考えながら、士は左手に持った一枚のカードを眺める。本来名前や絵柄が書かれているであろうそのカードには、しかし何の名前も絵柄も存在しなかった。
「ーーッ!?フォニックゲイン急上昇!基準値を大きく上回りました!?それに伴いネフシュタンの鎧が起動、いいえ、『暴走』します!?」
「何ッ!?」
オペレーターの報告に弦十郎は目を見開き驚愕する。そしてそれと同時にモニターに表示された鎧が放つ光が強く、禍々しいものへと変わっていく。
「不味いっ、伏せろ!」
右手に持っていたベルトを腰に装着し、一枚のカードをベルトに挿入した士が周りの人間に叫ぶ。しかし士の呼びかけも虚しく、鎧から放たれた光はその場にいた人間達全てを包み込み、大爆発を起こした。
ライブも終盤に入り、観客のテンションも最高潮に高まった。隣の立花もその例外では無く、サイリウムをデタラメに振り回しながら言葉になってない声を上げていた。
「ーーッ!!ーーッ!!」
「もはや何語喋ってんのかも分からないなオイ」
まあ立花の気持ちも分かる。俺だって柄にもなく心が昂ぶっているのを感じる。今ならパーフェクトでノックアウトなレベル99ゲーマーにだって変身出来そうだ。
『まだまだ盛り上がって行くぞォォォォ!!』
天羽奏の掛け声に応えるように観客が歓声を上げる。天羽奏がその光景に心底嬉しそうな表情を浮かべ次の曲を歌おうとしたその瞬間ーーステージの一部が、大爆発を起こした。
「ーーッ!?」
突然の出来事に俺が、立花が、観客達が、そしてステージに立つツヴァイウイングの二人が凍りつく。その状態を打ち破ったのは、空を見上げて指を指した一人の観客の恐怖に支配されたような声だった。
「ノ、ノイズだあぁぁぁぁ!?」
その声に会場にいた誰もがその観客が示した方角を見た。そこには空を覆い尽くす程の数のノイズがこちらを狙っているという最悪の景色が広がっていた。
その後の光景を表すとするならば、まさに地獄絵図という言葉こそが相応しいだろう。
「い、いやぁぁぁぁぁぁ!?」
「た、助けてくれ!?助けてくれぇぇぇ!?」
恐怖に支配され、逃げ惑う観客達。
「どけっ!どけってんだよ!?」
「足を掴むんじゃないわよ!死ぬのはアンタだけにしなさい!私は生きるのよ!」
他者を蹴落とし、突き飛ばし、踏み潰してでも自分だけ生き残ろうとする、醜い人間の本性。
「いやぁ!?死にたくない!?しにた、く、な……」
「た、すけ、て……く、れ……」
ノイズに襲われ、断末魔の叫びすら上げられずに炭化して消えていく、命。
「……っ」
さっきまで命だったものが黒い炭素となって辺り一面に広がる光景に、言葉が出ない。
「ーー立花ッ!?立花は何処に行った!?」
ハッと正気に戻って隣に居た筈の立花を探す。しかしあの五月蝿いくらいに元気だった少女の姿は何処にもない。逃げ惑う観客の波に流されてしまったのだろうか。
「逸れたか……!」
先程まで隣に居たんだ。まだ遠くには行っていない筈だ。そう思い立花を探す為に歩き出そうとしたその時、脳裏にに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『やぁやぁーー君。いや今は檜山幸助君だったかな』
(神様か……悪いが緊急事態だ、また今度にしてくれ!)
お気楽な調子で語り掛けてくる神様に頭の中で半ば怒鳴るような言い方で返す。それすらも愉快であるというように神様は楽しそうな声で言葉を続けた。
『つれないなぁ。折角君にプレゼントを届けに来たのに』
(……まさかっ!)
『そう、そのまさかさ。君の変身アイテム、持って来て上げたよ。喜びなよ、こんな大舞台でライダーデビュー出来るんだからさ』
今の現状を舞台か何かだとでも思っているような神様の言葉に腹が立って怒鳴りかけようとしたその時、自分が何かを持っている事に気付いた。
「これは……」
何の変哲も無い白いスマートフォンと、何の装飾も施されていない白いベルト。それはライダーの変身アイテムとしてはあまりにも飾り気の無い、異質な物だった。
『【ソーシャルフォン】と、【ソーシャルドライバー】。君の、【仮面ライダーソーシャル】の変身アイテムさ。どうだい、素敵だろう?』
「いやそんな事言ってる場合じゃ無いだろう!?今もノイズに人が殺されているんだ。早く助けないと!」
『はいはい、分かってる分かってる。それじゃあチュートリアルと行こうかな。ソーシャルフォンの電源を入れて、ホーム画面を開いてくれ』
「わ、分かった!」
言われた通りソーシャルフォンを操作し、ホーム画面を開く。操作法自体は普通のスマホと変わらないらしく、問題無くホームを開く事が出来た。
『次は画面が前に出るようにしてソーシャルフォンをソーシャルドライバーにセット!これで変身完了さ!』
「簡単過ぎないか!?」
あまりに簡単過ぎる説明に思わず突っ込みを入れる。あまりにも動作が無さ過ぎる。とはいえ時間に余裕がある訳では無いので神様の言う通りにソーシャルフォンをドライバーにセットする。
【log in!】
ドライバーから機械的な音声が流れ、俺の身体を白い光が包み込む。
『さあ、変身する時はあのセリフを言わなきゃ!ほらほらほらほら!』
「言われなくても分かってる!……変身!」
【OK!let's go!you are 仮面ライダー!】
俺を包みこんでいた光が収束し、俺を守る装甲へと変わっていく。頭の光が装甲へと変わったその瞬間、俺は変身が終了した事を理解した。
「これが、ソーシャル……!だけどこれは……」
変身した自分の姿を見て先ず確信したのは、『このライダーは先ず間違い無く強くは無いだろう』という事だった。
外見は真っ白になったライオトルーパー。武器らしき物は見当たらず、またそんな物は存在しない事を自分の直感が告げている。そんな俺の疑念を読んだのか、神様はケラケラと笑いながら俺の疑問に答える。
『うん、弱いよ。超弱い。スペック的には龍騎のブランク体や電王のプラットフォームにも負ける。一般人がちょい強くなったくらいの性能だね』
「んなっ!?」
『おっと慌てない慌てない。確かに今聞いた事だけじゃ詐欺だと思うだろう。確かにソーシャルは弱い。だがそれはあくまで通常形態のソーシャルの話だ。真価を発揮したソーシャルは、レジェンドライダー達に並び立つくらいの実力を持っているのさ!』
「なら早くそれの使い方を教えてくれ!?今現在も人が一杯殺されているんだ!いつまでもちんたらしてる暇は無いんだ!」
『やれやれ、せっかちだな君は。ソーシャルフォンをドライバーから外してホーム画面を見てみたまえ』
逸る気持ちを抑えながらソーシャルフォンをドライバーから取り外し、ホーム画面を見る。そこには聞いた事が無いアプリが一つだけ表示されていた。
「【仮面ライダー バトルレジェンズ】……。これがどうかしたのか?」
『そのアプリこそがソーシャルの真の力を発揮させる最重要アプリ!そのアプリ内のガチャで当たったライダーに、ソーシャルは姿を変えるのさ!』
「はあ!?ガ、ガチャ!?」
あまりにもこの場に相応しくない単語に驚愕する。
「ま、待ってくれ!?ガチャ!?何でそんな仕様になってるんだ!?」
『君ガチャ好きなんだろ?でもってライダーも好きなんだろ?ならいっその事二つを混ぜた感じのライダーにすれば喜ぶと思ってさ。どうだい?変身する度にガチャを回せるんだ。ガチャ好きな君にとって最高のライダーだろ?因みにレア度が高ければ高いほど変身したライダーは高性能になる。星が高い奴が強い、ソシャゲの不変の真理だね』
ふざけるなと叫びそうになるのを必死で止める。最高?そんな筈がない。戦闘の度にガチャに命運を左右されるとか酷すぎる。
『まあ物は試しで引いてみなよ。どのみちノイズに対抗するには、ガチャを回さなきゃいけないんだしさ』
「……排出されるライダーのレア度は?」
『星5から星1まで全部。因みにガチャはこれ一つだけ。フレポガチャとか石ガチャとか分けてないから』
「闇鍋過ぎるだろざけんな……!」
フレポと石で分けていないという事は、石ガチャで嫌という程見る星3すら引き当てるのが難しいという事。あまりにふざけた仕様に頭を抱えそうになるが、神様の言う通りガチャを引かなきゃノイズに勝てるかすら怪しい。
「……ああ良いよ!やってやるよ!俺の勝負時の激運舐めんじゃねえ!」
アプリを開き、ガチャメニューを開く。チュートリアルだという神様の言葉通り、アプリには最初からガチャを一回引けるだけのアイテムが集まっていた。
『ガチャを回して、ドライバーにセット!』
「はあぁぁぁぁ!大変身!」
【キャラガチャ!】
ガチャを回してドライバーにセットする。それと同時に俺を中心に光の柱が出現し、次々と色を変えていく。ガチャ演出のつもりか、どこまでもふざけた事をするなあの神。
(来てくれ……この状況を打破し、皆を救う為の力!)
やがて光の柱の色の変化が止まり、青い光が俺のベルトに収束していく。光に包まれたベルトは消滅し、代わりに俺の右手に何かが出現する。
「…………え?」
右手に出現した物を見て、凍りつく。それは俺が、取り返しのつかない結果を招いてしまったという事を示していたのだっあ。
「仮面ライダー、クロニクル……そんな、じゃあ俺が引いたのは……」
最悪の予想を後押しするかのように、どこからかドライバーの音声が聞こえてくる。
【good!星1!ノーマルレア!ライドプレイヤー!】
【エンター・ザ・ゲーム!ライディング・ジ・エンド!】
ベルトの代わりに現れたガシャットから無慈悲に流れる音声が、俺の大爆死を教えてくれた。
ふと、自分の姿を見る。そこには真っ白いライオトルーパー擬きの姿は無く、茶色いクリボー擬きの姿がある。
ーーどこからか、神様の笑い声が聞こえてくるような気がした。