仮面ライダーソーシャル 戦う歌姫達と爆死する少年   作:BF・顔芸の真ゲス

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初陣と絶唱と砕ける心

「っぐ……!」

 

爆発に巻き込まれた実験室。瓦礫の下敷きになっていた弦十郎は、何とか自分の上に降って来た瓦礫を退かして出て来た。

 

「お、無事だったか」

 

瓦礫から這い出て来た弦十郎にそんな声を掛け、マゼンタ色の戦士、【仮面ライダーディケイド】に変身した士は弦十郎へと手を差し出す。

 

「門矢君か……!他の皆は……?」

 

「助けられる奴は全員助けた。爆発で即死した奴なんかは流石に無理だったがな」

 

差し出された手を取りながらそんな事を聞いた弦十郎に、士は淡々と報告をする。

 

「そうか……っ!?鎧は、ネフシュタンの鎧はどうなったんだ!?」

 

「盗られた。俺達が爆発に巻き込まれたすぐ後にな。俺も追いかけたんだが、思わぬ邪魔が入って見失った。……海東の奴、次会ったらぶっ飛ばしてやる」

 

弦十郎に聞こえないくらいの大きさで何事かを呟く士。しかし当の弦十郎はそれに意識を割く余裕が無いくらいに焦っていた。

 

「やられた!部下をみすみす死なせただけで無く、ネフシュタンの鎧までも奪われる事になるとは……!全ては俺の責任だ……!」

 

血が滴る程に強く拳を握り締め、自分への憤りを強くする弦十郎に、士は溜息を吐く。

 

「今回の件、俺達は万全の準備をしていた。外的要因さえなければ失敗する事も無かった筈だ。アンタが責任を感じる必要は無いだろう。それより、今の状況を何とかするのが先だ。翼から通信が来た。どうやら会場にノイズが出現したらしいぞ」

 

「何だとォ!?」

 

「今は奏と翼が応戦しているが、数が多くてキリがないらしい。加えて奏は時限式、長くは持たないだろうな」

 

「くっ……!士君、職員の避難は俺がやる!君は翼達の救援に向かってくれ!」

 

「そうしたいのは山々なんだけどな。どうやらこちらにもお客さんが来たらしい」

 

そう言って士崩れた部屋の天井を指差す。其処には無数のノイズがぎゅうぎゅう詰めになって弦十郎達に襲いかかろうとしている姿があった。

 

「こんな時に……!」

 

「団体様ご来店、だな。……下がってろオッサン、すぐにカタをつけてやる!」

 

ライドブッカーを右手に持ち、士はノイズの大群へと向かっていった。

 

 

 

「ライド、プレイヤー……!?」

 

変化した自分の姿に、俺は絶望した。

 

ライドプレイヤーとは、仮面ライダーエグゼイドに登場した量産型ライダーだ。誰でも変身する事が出来、人の身では対抗する事の出来ないバグスターにも対抗する事が出来る。そう言われれば聞こえは良いが、実際はそれ以上のデメリットの塊だ。

 

まずライドプレイヤーは、変身した時点でバグスターウイルスに感染し、【ゲーム病】を発症する。よって変身者は自分がゲーム病により消滅するまでに感染元のバグスターを倒さなければならない。

 

だがこのライドプレイヤー、物凄く弱い。天才ゲーマーである西馬ニコの変身するライドプレイヤーは例外ではあるが、それ以外のライドプレイヤーの性能はかなり低い。名無しの雑魚バグスターにすら苦戦するレベルで、ましてや名有りのバグスターを倒す事なんて不可能に等しい。

 

つまりライドプレイヤーは、一般人が怪物を倒す為に存在しない。その逆、怪物が一般人を蹂躙するという目的で存在しているのだ。

 

そんな物を、俺は引き当ててしまったのだ。多くの人が命の危険に晒され、それを助ける為に強い力が必要な今、この時に。

 

「ざけんな……!こんな時まで爆死すんじゃねぇよ!!ーーがっ!?」

 

不意に全身に焼けるような鋭い痛みが走り、耐えきれずに膝をつく。呼吸が荒くなり、酷い目眩がする。ふと自分の右手を見ると、不快なノイズ音と共に右手が半透明になっていた。

 

「ゲーム病の症状がもう……!変身解除するまでは大丈夫の筈だろうが……!」

 

『そりゃあ此処はテレビの中じゃなくて現実だし。少しくらい仕様が変わっててもおかしくないだろう?変身中は大丈夫なんて、そんな都合のいい話がある訳無いだろう?さあさあ、初めての戦闘だ!初っ端からゲームオーバーなんて白ける展開だけはやめてくれよ!』

 

「他人事だと思って……!おおォォォォッ!!」

 

現在進行系で病魔に蝕まれている身体を無理矢理起こし、観客達に襲いかかろうとするノイズ達に突っ込んでいく。

 

「くたばれバケモノがッ!!」

 

ノイズの真正面を捉え、思い切り蹴りを放つ。そのままの勢いで右の正拳突き、返しで左の裏拳。いつかライダーとして戦う為に鍛えてきた身体全てを使い、目の前のノイズを殲滅しようと攻撃を重ねる。

 

しかし当のノイズは俺の攻撃に一切堪えた様子は無く、俺をスルリと通り抜けて後ろにいた観客に襲い掛かる。

 

「ッ!?おい待て!お前の相手は俺だ!そいつを襲うんじゃねぇ!?」

 

無論ノイズに俺の言葉が届くはずも無く、そのまま直進したノイズは親子連れの観客に飛び掛かり、その両方を悲鳴を上げる暇も与えずに炭化させた。

 

「ーーッ!?テメェェェッ!!」

 

瞬時に激情に駆られた俺はそのノイズを蹴り殺そうと飛び掛ったが、親子を殺したノイズはまるでその役目を終えたかのように自らも静かに炭化した。

 

「ーー!クッッッソがァァァァ!!」

 

守る事の出来なかった命の仇を討つ事すら出来ない自分の無力さに全身が焼き尽くされるような怒りを感じる。

 

「クソッ!クソックソックソッ!!何で、何で倒せないんだよ!何で、何でぇぇぇぇぇぇ!!」

 

怒りをぶつけるように襲い掛かるノイズを滅多打ちにするが、それでもノイズは死なない。その事実が更に俺の心で燃え滾る怒りを熱くする。

 

「ッ!?やめっーー」

 

俺を相手にするだけ時間の無駄使いと判断したのか、全てのノイズが俺を避けて観客達に襲い掛かる。

 

「いやっ、いやぁぁぁぁ……ぁ」

 

「助け、助けて!あ、ああぁぁぁ……」

 

「やめろォォォォォォォォ!?」

 

観客に襲い掛かるノイズを殴り、蹴り、突き飛ばす。それでもノイズは進むのをやめず、ただ黙々と観客を殺していく。一つ、また一つと、俺の目の前で命が消えていく。どれだけ手を伸ばして、足掻いても、誰一人として俺の手は掴めない。炭化した『人だった物』しか、掴むことが出来ない。

 

「うわあああぁぁぁ!お父さん!お母さぁぁぁぁん!」

 

「……っ!君!俺に掴まるんだ、早く!」

 

逃げ遅れた男の子の手を掴み、此方に手繰り寄せ抱き締める。

 

「良かった……!無事で良かった……!」

 

「うっ……!うぅぅ……!お父さんが、真っ黒な砂になっちゃって!?うっ、うっ……!お、お母さんも!」

 

「もう大丈夫だ!俺が絶対君を助けるから!だからもう泣かないでくれ!」

 

「なら何でお父さん達を助けてくれなかったんだよ!僕だけじゃなくて、なんでお父さん達も助けてくれなかったんだ!」

 

「ッ!……あ、ぁ」

 

「何で助けてくれなかったんだよ!?何で、何で、何で何で何で!?……ぁ」

 

「………………ぇ?」

 

男の子の胸に、ノイズが突き刺さっていた。綺麗に俺を避けて、少年だけに突き刺さっていた。

 

「なんで……なんで……」

 

「…………ぁ」

 

男の子の身体が胸を中心にどんどんと黒くなり、炭素となって崩れていく。俺が胸に刺さったノイズを抜いてもその侵食は続きーー

 

「おと…さ……お……さ……」

 

そんな掠れた声と共に、男の子は完全に炭素となって死んだ。俺に残されたのは、男の子だった炭素の塊だけ。

 

「…………あ、ぁ」

 

ただ一人掴む事が出来た男の子さえも炭素に変わってしまった時、俺はようやく理解した。

 

「あ、ああ、あああぁぁぁ…………あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

ーーライダーの『紛い物』である俺には、何一つとして守れる物なんて無いという事を。

 

 

 

「だぁぁぁぁ!!数が多過ぎんぞ!?いくら倒してもキリがねぇ!?」

 

「駄目、まだノイズが出現し続けてる!?このままじゃまずいよ奏!?」

 

自分達に群がるノイズを消し飛ばしながら、ツヴァイウイングの二人は焦っていた。

 

二人はライブで来ていた衣装とは違った衣装を身に纏っており、その手には少女が持つにはあまりに似つかわしく無い物を持っていた。

 

奏はその手に持った大きな槍、『ガングニール』を使いノイズを穿ち、薙ぎ払っていく。対する翼は鋭き剣、『天羽々斬』を構え、向かってくるノイズを一匹残らず両断していく。

 

これこそが彼女達の持つ力『シンフォギア』。聖遺物の破片より作られた、歌によって力を解き放つ、ノイズに対抗出来る人類の希望である。

 

「クソッ!士のアニキはまだ来ないのか!?」

 

「司令達の所にもノイズが出てて、こっちに来るのは難しいって!」

 

「マジか!?もうどうすりゃ良いんだよ!?……ん?おい翼!何かいるぞ!?」

 

そう言って奏は会場の一点、ノイズが群がっている箇所を指差した。

 

「あああぁぁぁぁ!!」

 

そこには自暴自棄になって我武者羅に戦うライドプレイヤー、幸助の姿があった。

 

「何あれ……!?ノイズに対抗出来ているって事は、アレもシンフォギアなの……!?」

 

「クリボーだ!クリボーだアレ!?凄えよ翼!クリボーがいるぞ!?」

 

「クリッ……何それ?」

 

「前教えただろ!あの有名なゲームの……ってこんな事言ってる場合じゃねえ!?アイツ囲まれてるぞ!翼、助けに行くぞ!」

 

「うん!」

 

ノイズに対抗出来るあの茶色の戦士の事は分からない。それでも、やるべき事は分かっていた。ノイズを倒し、人々を守る。その意思を自らの武器に込めて、二人は幸助の下へと駆け出した。

 

 

 

殴る、ひたすら殴る。一発で死ななければ二発。二発で死ななければ三発。それでも足りなければさらに殴る。目の前のノイズが炭化して死ぬまで、俺は殴るのをやめない。沢山の人が目の前で死んで理解した。俺には誰も守れない。死にたくないと願う俺には、命を懸けて戦う事すら出来ない。俺は彼らのようなヒーローには、【仮面ライダー】にはなれない。

 

(だから……俺は!)

 

殺し尽くす。眼に映るノイズ全てを殺し尽くして、誰もノイズに襲われないようにしてみせる。

 

「死ぃねえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

渾身の蹴りが決まり、目の前のノイズの胴が弾け飛び炭化していく。

 

(ノイズが炭化して死ぬまで大体三十発……!一体殺すだけでこんなに時間がかかるのかよ!ならーー)

 

二体目のノイズに接近し、一体目と同じ様に反撃の隙を与えずにラッシュで畳み掛ける。今度は大振りの攻撃をラッシュから省き、出来るだけ動作が小さい攻撃を重ねて手数を増やす。一体殺すのにかける攻撃数は増えるが、殺すまでにかかる時間を多少は減らせる。

 

「どぉらあぁぁぁぁ!!」

 

四十発くらい打ち込んだ辺りでノイズが炭化し息絶える。ノイズの完全消滅を確認して、三体目に入る。今度もさっきの攻撃から無駄を省き、より効率よく殺せるように常に頭を働かせる。

 

「ーーグッ!?」

 

別のノイズからの攻撃がもろに直撃し、身体が大きく吹き飛ばされる。体勢を崩した俺に向かってノイズの大群が押し寄せて来る。

 

「不味いっ!?」

 

「どっせぇぇぇぇいッ!!」

 

ノイズの大群が俺に襲いかかろうとした瞬間、俺の目の前を大きな槍が勢いよく通り過ぎ、俺の周りにいたノイズを一匹残らず消し飛ばした。

 

「んなッ!?」

 

「危なかったな!大丈夫か!怪我とかしてないか!」

 

「天羽奏!?」

 

俺を助けたのは、何とも珍妙な格好をした天羽奏だった。

 

その後ろからは刀を持った風鳴翼も同じような格好をして歌いながら走って来ている。何だこれは、まるで意味が分からんぞ。

 

「……何だその珍妙な格好は」

 

「いやお前に言われたかねぇよクリボー擬き!?」

 

「奏今は話をしてる場合じゃない!……えっと、貴方が誰かは分からないけど、貴方は私達や士さんみたいにノイズと戦えるのよね!なら今は私達に協力して!」

 

「言われなくても分かってる!寧ろ助かった!俺一人じゃ火力が足りなかった!」

 

何がどうなっているのかはさっぱり分からないが、二人味方が増えた事で多少冷静になれた。見た所コスプレ二人組の方が火力が高いみたいなので、ノイズが密集している所は二人に任せ、単独で動いているノイズに狙いを定めて動く。

 

「団体はそっちに任せたぞ!」

 

「おっしゃ任せろぉ!!」

 

「ちょ、奏!あまり先行しないで!?」

 

二人はノイズが特に多い方へ突っ込んで行く。俺が苦労して一体一体倒しているノイズを、いとも簡単に倒して行く姿を見ると凄い複雑な気持ちになる。しかしそんな感情は頭の片隅に置いて、目の前のノイズの相手に集中する。

 

「らぁッ!」

 

足払いをかけ体勢を崩し、隙だらけの顔面に蹴りを叩き込んでノイズを炭素へと変える。段々と要領がつかめて来たのか、最初の頃よりも楽にノイズを倒せるようになって来た。まだ時間がかかるのには変わりないが、それでも大きな進歩だ。

 

「……ん?あれは……!」

 

視界の隅に見えた瓦礫の山に見覚えのある姿を見つけたので、周りのノイズを吹き飛ばしながらそこへ向かう。

 

「うっ、うぅ……」

 

「立花ッ!」

 

そこには瓦礫に足を挟まれ、身動きが取れなくなっていた立花響の姿があった。

 

 

 

「おいおい……アイツ、ノイズ倒す度にどんどん動きが良くなってないか?」

 

ノイズを蹴散らしながら奏がクリボー擬きの方を見て驚いたようにそう呟く。

 

「戦いの中で成長してる……ってヤツか。まるで少年漫画のヒーローだなオイ」

 

「奏!ノイズの増援!」

 

「おいおいおい!?また増えたのかよッ!?」

 

さらなる増援に内心焦りを感じながら目の前のノイズを殲滅する。流石に多過ぎだ。体力自体はまだまだ余裕が有るが、自分は翼と違って時限式、長くは戦えない。

 

「クソがッ!何で今日はこんなに大量なんだよ!」

 

「ーー奏ッ!あそこ!」

 

「ーーやべえッ!?」

 

翼が指差した方向を見ると、夥しい数のノイズに囲まれたクリボー擬きの姿が目に入る。さらに悪い事に、近くには生存者らしき少女付きだ。

 

「翼ァ!此処任せたぞ!」

 

「えっ、ちょっ、奏!?」

 

この場のノイズを翼に任せ、あのクリボー擬きと少女の下へと全速力で向かう。

 

「間に合ってくれよッ……!」

 

手に持つ槍を強く握り締めて念じながら、奏は一直線に駆け抜けた。

 

 

 

「……不味いな」

 

立花を発見して安堵したのも束の間、大量のノイズに囲まれ絶対絶命のピンチに陥る。

 

『いやぁ、大変そうだねぇ』

 

(マジでヤバイから今話しかけんな神様。……キャラガチャは引き直せないのか?)

 

『無理だね。石があるなら別だけど、君のガチャ用の石はチュートリアルで君にあげた分で全部だからね』

 

どうやら俺はライドプレイヤーでこの局面を乗り切らなければならないらしい。つくづく自分のガチャ運の悪さが嫌になるな。

 

『案外いけるかもよ?度重なる死闘で経験値が溜まった君のライドプレイヤーは、レベル3のライダーと互角にやり合えるくらいのスペックまで成長している。ノイズってのはバグスターよりも経験値が美味しいみたいだね』

 

(ならせめて別のガシャットくらい用意してくれませんかねぇ?武器が欲しいんだよ武器が!)

 

『武器ならあるだろう?ライオトルーパーが使ってる奴によく似た武器がさ』

 

(あれ思ったより使い難いんだよ!小振りだから本当に近くまで行かないと当たんねえし!普通の銃と同じくらいの威力じゃ大した傷にならねえし!)

 

相手が人なら十分な武器になるのだろうが、ノイズ相手では中々有効打にならない。それなら普通に格闘で対処した方がやり易い。

 

「しっかし……どうしたもんかねぇ……!」

 

前方にノイズの大群、後方に身動きの取れない立花。無理矢理にでも前のノイズを潰しにかかる事は不可能では無いが、そうすれば立花を危険に晒してしまう。ならば立花を見捨てるか?論外だ。それをやる気ならそもそも俺は変身なんてせずに逃げてる。

 

「ーーあのっ!に、逃げて下さい!わ、私の事は良いですから、せめて貴方だけでも!」

 

状況の不利を悟ったのか、立花がそんな事を言ってくる。自分が逃げられないから、せめて俺だけでも逃がそうとしてくれているんだろう。だが、大人しく言う事を聞く気は毛頭無い。

 

「ざけんなッ!お前見捨てて自分だけ生き残るくらいなら死んだ方がマシだ!こんな奴らとっとと片付けてお前を助けてやるから諦めんじゃねぇッ!!」

 

「よく言ったァ!カッコイイぜお前!」

 

「ーー来たかッ!」

 

物凄いスピードで疾走して来た天羽奏が槍を振るい、俺の前方にいたノイズ達を消し飛ばした。

 

「そこの二人!怪我はねぇな!」

 

「えっ!?奏、さん!?」

 

「遅いぞ天羽奏。あと少し遅かったらやばかった」

 

「悪い悪い。だがアタシが来たからにゃもう大丈夫だ!反撃開始ってヤツだな。クリボー、アタシがノイズを相手する。お前はその子を守る事だけ考えてな!」

 

「ああ、任せたぞ!後クリボーじゃねぇ!」

 

正直あの数を相手にするのは辛かったので、あの大群の相手は天羽奏に任せて立花を守る事だけに専念する。天羽奏がノイズ達を蹴散らし、取り零した奴が此方に向かってくるのを俺が迎撃する。現状で取れる策としては一番良いものだろう。欲を言えば風鳴翼にも応援に来て欲しかったがあっちもあっちで忙しいだろうし無理は言えないだろう。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

飛びかかって来るノイズをキックで迎え撃ち爆散させ、続く二体目を掴んで反対側から迫るノイズに投げつける。バランスを崩した二体のノイズに上から蹴りを浴びせ、諸共に炭化させる。

 

「しゃあッ!怪我は無いか立花ァ!」

 

「う、うん!でも何で私の名前知って……」

 

「気にするな!今は無理だが、後で瓦礫を退けて助けてやるから、今は我慢してくれよ!」

 

そう立花に言って戦闘を続行。天羽奏も疲れが溜まっているのか、段々とノイズの討ち漏らしが多くなる。今はまだ二、三体で住んでいるが、これが十、二十となっていくと厳しいな。

 

「天羽奏の方もヤバイか……!」

 

天羽奏の方にチラリと視線を向けると、明らかに動きが悪くなっているのが分かる。

 

「ーーッ!」

 

突如として天羽奏の持つ槍が光を失い、全体に亀裂が入り始めた。

 

「ーー時間切れかッ!?クソッ!時限式は此処までだってのかよ!?」

 

焦った表情でそう叫ぶ天羽奏。勿論ノイズ達はその隙を見逃さず、一斉に天羽奏へと襲い掛かる。

 

「ーーッぐううぅぅ!?」

 

天羽奏も槍で何とか攻撃を防ぐが、流石に厳しいのか槍が酷い音を立てながら壊れていく。そして遂に槍が砕け散り、その破片がそこかしこに飛び散る。その中の一つが向かう先に居るのはーー

 

「ーーッ!?避けろ立花ァァァァッ!?」

 

「ーーえっ?」

 

俺の叫びも虚しく、槍の破片は寸分違わず立花の方へと飛んでいき、立花の胸を貫いた。

 

「ーーぁ」

 

「立花ァァァァァァッ!?」

 

 

 

「立花ァァァァァァッ!?」

 

「ーーッ!?」

 

後ろから聞こえたクリボー擬きの叫び声に反応し、奏は瞬時にそちらに顔を向けた。其処には胸から夥しい量の血を流す少女と、その少女を抱き抱えて必死に起こそうとするクリボー擬きの姿があった。

 

「まさか……ガングニールの破片が!?」

 

自分の所為で少女が傷付いたと分かった瞬間、全身に凍り付くような寒気を感じた。

 

「ーーッ!!」

 

瞬時に相手していたノイズを蹴り飛ばし、少女達の所へ走って行く。

 

「邪魔だ退けぇ!!」

 

立ち塞がるノイズ達を殴り飛ばしながら、奏は少女達の下へと駆けつけた。

 

「応急処置は!」

 

「もうやった!それでも意識が戻らねえんだよ!このままじゃマジで立花が……!」

 

「んな事させるかよ!おい!しっかりしてくれ!生きるのを諦めるなッ!!」

 

その奏の言葉が届いたのか、目を閉じたまま動かなかった少女の瞳が僅かに開き、身体が微かに震えた。

 

「ーー!……良く、頑張ってくれたな」

 

死の淵から這い上がろうと頑張った少女の頭を軽く撫で、ノイズの大群に向き直る。数は依然増え続けており、翼もこのクリボー擬きも限界が近い、自分も時間切れでマトモに戦えない。

 

(やる事は、決まったな)

 

この状況を何とかするには、アレをやるしかない。そして恐らくそれは自分がやるべき事なのだろう。クリボー擬きと少女の方に振り返り、奏はクリボー擬きに笑顔で言葉を交わした。

 

「そういやさ、お前もアタシらのライブ見に来てくれたお客さんなんだよな?」

 

「確かにそうだが、今はそんな事言ってる場合じゃ……」

 

「まあ聞けよ。アタシら最後の曲歌ってなかったよな?」

 

「だからさっきから何を言ってるんだよ!?」

 

「アタシの最期の曲、聴いてってくれないか?」

 

「ーーッお前何を!?」

 

「奏!?まさかアレを!?」

 

奏の表情からタダならないものを感じたのか、クリボー擬きがマスクの下で強張ったような表情を浮かべる。それと同時に遠くでノイズの相手をしていた翼も、奏のやろうとしている事を察して悲鳴を上げる。

 

「観客は沢山いる。……まあ、その殆どがノイズってのはちょっと残念だけどな」

 

ノイズの大群に向き直り、深呼吸をする。恐らくこれが自分の最期の歌になるだろう。

 

「……一度、思いっきり歌ってみたかったんだよな」

 

何も考えず、頭を空っぽにして歌う。翼と一緒に歌うようになってから、ずっとやってみたいと思っていた事だ。こんな形で叶う事になるとは、流石に予想が付かなかったけれど。

 

「駄目よ奏!?歌っては駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「しっかり聴いてけよ。アタシのーー絶唱」

 

翼の制止を振り払い、奏は最期の歌を歌い始めた。

 

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenalーー」

 

……歌が、聴こえる。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzlーー」

 

……綺麗で、優しくて、それでいて何処か寂しそうな、そんな歌が。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenalーー」

 

……これが誰の歌なのかは私には分からない。それでも確かに私でも分かる事がある。

 

「Emustolronzen fine el zizzlーー」

 

……この歌は、大好きな誰かに伝える為に歌っているものなんだって。

 

 

 

天羽奏の最期の歌『絶唱』は、ライブ会場にいたノイズを一匹残らず消し飛ばした。百を超えるノイズの大群、その全てを。しかしそれは、決して軽くない代償を伴うものだった。

 

「奏!?しっかりしてよ奏!?」

 

ーー天羽奏の、命という代償を。

 

「つ、ばさ……?そこに居るのか?真っ暗で、なーんにも見えねぇ……」

 

すぐ近くで奏を抱き抱えている翼を探すように、奏はふらふらと右手を宙で彷徨わせる。

 

「天羽奏ッ!」

 

天羽奏の側に近寄り、その手を風鳴翼の手に重ねてやる。天羽奏は少し驚いた顔をした後、弱々しい笑顔で言葉を紡いだ。

 

「お……?クリボーじゃん……。お前もそこにいるのか。あの女の子は、無事だったか……?」

 

「ああ……!お前のお陰だ!お前のお陰で、あいつは救われた!」

 

「そっか……良かった。死んでたりしたら……悔しくって化けてでてたかもしれないからな……」

 

「縁起でもない事言わないで!?死なないでよ奏!?奏がいなくなったら、私どうすれば良いのか分からないよ!?だから死なないで!?」

 

風鳴翼が泣き叫びながら天羽奏へと言葉をかける。何とかして助けたい、でも今の俺には何も出来ない。自分の無力さが、死ぬ程嫌になった。

 

「はは……翼は、弱虫で、泣き虫だなぁ……」

 

「弱虫でも良い!泣き虫でも構わない!だから一緒に居てよ!?私達は、二人で一人のツヴァイウイングでしょ!」

 

「……翼、お願いがあるんだ」

 

「なに!?何なの!?奏がして欲しい事なら、私はなんだってする!だから!」

 

「これからも、歌い続けてくれないか?アタシの分まで歌を歌って、世界中の人に笑顔を届けてくれないか……」

 

「……っ!かなでぇ……!」

 

その言葉を聞いて風鳴翼の顔が更に歪む。それが見えているのかは分からないが、天羽奏は優しく微笑んで風鳴翼の涙を拭った。

 

「はは、本当に泣き虫だ……。なあクリボー、お前にも頼みたい事があるんだけど、良いか?」

 

「……言ってみろ」

 

「アタシの代わりに、皆を守る為に戦ってくれないか?翼や士のアニキだけじゃ、不安でさ……」

 

「無理だ……!俺には何も守る事が出来ない……!」

 

「何言ってんだよ……。守ったじゃねぇか、あの子を」

 

「守ったのはお前だ!俺には何も出来なかった!ノイズの大群を倒す事も!観客を守る事も!目の前にいた立花を守る事も!何一つ出来なかった!出来なかったんだよ!?」

 

「出来るさ、お前なら。そうやって誰かの為に泣けるお前なら、いつかきっと誰かを守る事が出来る。士のアニキも言ってたよ。『守りたい誰かの為に戦う奴の事を、仮面ライダーって言うのさ』って。あの子を守ろうとしたお前は、立派な仮面ライダーさ」

 

「違う!違う違う違う!?俺は仮面ライダーなんかじゃない!?俺は只の紛い物だ!?仮面ライダーなんて名乗る資格は無いんだ!?」

 

「はは、ライダーを名乗るのに資格なんて要らないよ。それでもお前がライダーの資格が無いなんて言うならさ、これから成れば良いじゃん。皆を守る、正義の仮面ライダーにさ」

 

「……ッ俺は、おれはぁ……!」

 

涙が、止まらなかった。無力な自分が本当に憎い。俺に力があれば、俺が仮面ライダーだったなら、今まさに生命を終えようとしている天羽奏を救う事だって出来た筈だ。

 

全ては、弱かった俺が悪いんだ。俺の弱さが、観客達や天羽奏を殺したのだ。

 

「あぁ、超眠い……なあ二人共、知ってたか?思いっきり歌うと、 腹が減る、んだ、ぜ……」

 

その言葉を最後に天羽奏は目を閉じ、この世から消滅した。

 

「奏ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「……クッッッソがああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

この日、ツヴァイウイングのライブで起きたこの事件は、死者6,000人、重軽傷者3,000人超。ノイズによる事件で過去最悪の結果となった。そしてこの事件は、この国全ての人間の心に、等しく爪痕を残す事となる。

 

 

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