仮面ライダーソーシャル 戦う歌姫達と爆死する少年 作:BF・顔芸の真ゲス
大勢の人が死んだあの事件から二ヶ月が経った。あの事件の被害者の多くがリハビリを終え、心に傷を負いながらも日常生活へと戻っている。俺、檜山幸助もその一人だ。
俺は他の被害者達程酷い怪我を負わなかったので、一週間かそこらで学校に復帰出来た。クラスメイト達は俺の生還を喜び、暖かく迎え入れてくれた。あんな事があっても変わらず俺と接してくれるクラスメイトに感謝し、俺はこの暖かい暮らしがいつまでも続くようにと願っていた。
ーーあるテレビ局が行なった、あの悪意ある報道があるまでは。
「……」
机の上に置かれた花の飾られた花瓶を退かし、席に着く。机の中に入っていた画鋲を取り出し、ケースに仕舞う。机には数えるのも面倒になるくらい罵詈雑言が落書きされているが、机自体は問題無く使えるのでどうでも良い。
ーークスクス
誰かの笑う声が聞こえる。確認はしていないが、恐らくクラスメイトの女子だろう。全く、毎日毎日ご苦労な事だ。
ーーガッ!
不意に後頭部に衝撃を感じ、頭が揺れる。辺りを見回すと、足元に硬式の野球ボールが転がっているのに気が付いた。
「おっしゃ当たりッ!」
「後頭部だから十点な。じゃあ次俺ー!」
「目を狙えよー、当たったら百点だからなー!」
そんな声が聞こえて来る。別段おかしな事では無い。教室で馬鹿な男子達が良くやる的当てゲームだ。普通のゲームと違う所と言えば、的が人間だという事くらいか。
ふと何処からか視線を感じたのでそちらに目を向けると、何か言いたげな顔でこちらを見る友人と目が合った。しかし友人は俺と目が合ったすぐ後に泣きそうな顔で俺から目を逸らした。正しい判断だ。その光景を誰かに見咎められたら、まず間違い無く自分も標的にされるだろうからな。
ここまで言えば誰でも理解出来ると思うが、俺は今イジメに遭っている。理由は簡単、俺が『生き残ったから』だそうだ。
事件から数週間が経った頃、とあるテレビ局がこんな報道をした。
ーー曰く、事件の死亡者の死因の三分の二はノイズによるものでは無いという事。
ーー曰く、その三分の二の人々の死は、逃げようとした人々に押され、蹴られ、踏みつけられた事が原因であるという事。
ーー曰く、つまりあの事件の生存者達は自分だけが生き残る為に他者の命を犠牲にした、許されざる殺人者の集団であるという事。
ーー民衆は激怒した。かの邪智暴虐な生存者達を必ずや取り除かなければならぬと。
そしてある日、義憤に駆られた民衆の一人が、生存者のリストをネット上にアップした。生存者の名前、容姿、住所に家族構成、あらゆるものが載っている、そんなリスト。
それがアップされたのが火種になり、人々は生存者狩りを始めた。
ーー民衆は声高に主張した。生存者達は罰せられるべき罪人であり、それを裁く自分達の行いは絶対的な『正義』なのだと。
生存者の家に石を投げ、壁のあらゆる所に罵詈雑言の書かれた紙を貼る。道を歩く生存者を取り囲み袋叩きにする。その他多くの暴力が行われた。民衆の手は生存者達の家族や友人にも及び、それを恐れた家族や友人までもが生存者狩りに加担する。肉体的、精神的、あらゆる暴力によって傷付けられ、絶望し自ら死を選ぶ生存者も多く生まれた。
そんな生存者達の不幸を、絶望を、死を見て、民衆は歓喜するのだ。
「ああ、やった。私達は悪を滅ぼしたのだ」と。
彼らにとって、生存者達への暴力は『制裁』なのだ。悪いのは生存者達であり、自分達は正しい行いをしている。罪人である生存者達には、日の当たる場所でのうのうと暮らす権利など存在しない。そう本気で考えているのだ。
そしてこの唾棄すべき風潮を、あろう事が報道陣までもが肯定した。連日生存者についての情報を流し、今日はどこどこの誰が民衆の制裁に遭ったなどと、嬉々として語るのだ。生存者を執拗に罵倒し、住所の映像を勝手に流し、更には生存者に懸賞金をかけて生存者狩りを促した。
彼らにとって今の風潮は美味いネタなのだ。ただ生存者を叩くだけで支持され、視聴率が取れる。被害に遭う生存者の気持ちなど知った事ではないのだ。
民度悪すぎだろ遊戯王以下かよ、とは俺の感想だ。確かにあの時他人を押し退けて逃げようとした人を見たのは事実だ。だが生き残った人間全てがそうでは無い。勘違いした正義感で他人を傷付けるのは、ただの屑だ。まあ、そう考えている人が全くいないから、俺は今イジメに遭っているのだが。因みに俺の家族は生存者狩りが始まった途端に俺を置いてどっかに行った。薄情な家族だと呆れはするが、別段愛情を注がれていた訳では無いのでどうでもいい。
「……チッ!」
俺が何の反応も示さないのが癇に障ったのか、俺で的当てゲームをしていた男子の一人が舌打ちをする。そしてゆっくりとこちらに歩いて来て、俺の腹を思い切り蹴って俺を床に叩きつけた。
「悪い悪い、足が滑っちまったわ!」
全く悪いと思っていないであろう表情でそう言った男子を無視し、椅子に座りなおす。
「何とか言えよ人殺し!」
その態度が更に男子の怒りを誘ったらしく、今度は顔を殴られる。
「ここはテメェみたいな屑が来ていい場所じゃねぇんだよカスが!人殺しは人殺しらしく刑務所にでも入ってやがれ!!」
「……」
「何とか言えって……言ってんだろうがぁ!」
襟を掴まれ、顔を何度も殴られる。口を切ったのか、少し血が垂れて来たが、そんなことお構い無しに顔を殴ってくる。二十発かそこら殴られた辺りで、男子は全く反応しない俺に飽きたのか何事も無かったかのようにさっまで話していたクラスメイトの所に戻って談笑をしていた。
「あ、あの……檜山君、大丈夫?」
服についた埃を払いながら立ち上がると、心配そうな顔をした黒髪の少女ーー立花の親友である小日向がハンカチを差しだしながら俺にそう話しかけた。
「……平気だ。それより、あまり俺に話しかけない方が良いんじゃないか。お前までイジメに巻き込まれるぞ」
ハンカチをそのまま突っ返し、俺は小日向にそう言った。助けようとしてくれるのは嬉しいが、それが原因で小日向が傷付く事になるのはもっと嫌だ。
「確かにイジメられるのは怖いよ。でも見て見ぬふりをするのはもっと嫌なの。これは私にとっても、他人事じゃないから……」
そう言って小日向は教室の隅の席で暗い表情を浮かべる少女、立花の方を悲しそうな顔で見た。
ウチのクラスで生存者狩りに遭ったのは俺だけじゃない、あの日あの事件で死にかけた立花も標的にされたのだ。
辛いリハビリを終え、やっと学校に通えるようになった立花を待っていたのは、クラスメイトからの陰湿なイジメだった。机に落書きをされ、教科書類をズタズタに破かれ、悪口を言われ、暴力を振るわれる。あのライブに立花を誘った小日向は、その事でずっと苦しんでいる。
立花への悪意は、立花の家族にも及んだ。連日家に石を投げ込まれ、悪口を書いた紙を家に貼られた。学校の外にも、立花の安息の地は無かったのだ。
そして悲劇は起こった。毎日のように続く人々の暴力に耐えきれなくなった立花の父親が立花とその家族を残して逃げ出したのだ。信頼していた父親に裏切られた立花は心に深い傷を負い、以前のような明るさは影に隠れ常に暗い表情を浮かべるようになってしまった。
無論俺も小日向も立花を助けるため出来る限りの手は尽くした。でもやはりたった二人でやれる事などたかが知れている。俺や小日向に出来るのは、立花の心が死なないように支えてやる事だけだ。
「……なら、立花を助ける事だけに専念しろ。俺の事なんて放っておけ」
「そんな事出来ないよ。檜山君は響を助けてくれた。だから私は響の友達として、檜山君にお礼をしたいの。響が檜山君を友達だって思ってるように、私にとっても檜山君は大切な友達だから」
俺の目を真っ直ぐ見つめ、小日向は俺にそう言った。小日向は意思が堅い。一度言った事は絶対に曲げない心の強さを持っている。そんな小日向に此処まで言われると、流石に拒絶しにくい。
「……分かった分かった。何かあったら相談するようにするよ」
「絶対だからね?」
「はいはい、相談しますよ」
「よろしい!」
それだけ言って小日向は満足そうに笑顔を浮かべ自分の席に戻って行く。その姿を睨み付けるクラスメイト達を見つめながら、俺はホームルームが始まるまでどうやって立花を救うかを考え続けていた。
「……なあ、ちょっと良いか?」
昼休み、それまで俺に話しかけようとしなかった友人に声をかけられた。まさか話しかけられるとは思っていなかった俺は、思わず友人の顔を二度見した。
「……何の用だ?」
「お昼、久しぶりに一緒に食べないか?」
「……良いのか?」
「おう。屋上で食べようぜ」
「……分かった」
どういうきっかけがあって友人が俺を誘おうと考えたのかは分からないが、誘って貰えたのは素直に嬉しいので誘いに応じる事にする。
「それじゃあ、俺は購買でパン買って来るから、先に屋上で待っててくれ」
「分かった」
用意していた弁当を持って、屋上へと向かう。教室を出る時にクラスメイト達がやけにすんなり出してくれたのは少々気になったが、まあ良しとした。
「……遅くね?」
昼休み開始から二十分、屋上で友人を待っていた俺は思わずそう呟いた。
「パン買ってくるだけならとっくに来てる筈だが、まさか嵌められたか?」
クラスで一番仲の良い友人だが、それ故に今の状況ではイジメに加担せざるを得ない時もあるだろう。そう納得し、教室へ戻ろうとドアに手を掛けた時、俺はある事実に気がついた。
「……鍵が開かない」
どうやらあちら側から鍵を掛けられたらしい。参ったな、そろそろ昼休みも後半だ。屋上は昼休み以外では解放されていないので、下手したら明日の昼休みまでここに閉じ込められる事になる。開けた屋上で『閉じ込められる』というのもおかしな話だが。
「どうしたものか…………ん?」
不意にポケットから軽快な音楽が響き、中に入れてあった携帯電話が小刻みに震える。
「……あいつからか」
どうやら、その件の友人からの電話らしい。
「何だドタキャン野郎。わざわざ電話かけてくるくらいなら直接こっちに来いや。そんで鍵開けろ」
『……悪いけど、もう暫くは其処にいて貰う。お前に戻って来られたら何もかも台無しだからな』
感情を押し殺したような冷たい声で友人から返事が返ってくる。長い付き合いだが、こんな声の友人は初めてだ。
「台無し?一体何がだ」
『……立花へのトドメだ』
「……は?」
今、この友人は何を言った?
『立花にトドメを刺す。あいつを徹底的にイジメ抜いて、あいつの心を完膚なきまでにぶっ壊す』
「……おい、待て」
『クラス全員による暴行、暴言、その他諸々の攻撃……あまり気は進まないが、立花の女性としての尊厳を踏み躙る事も考えている。つまりは性的暴行だな。当然立花の心は深く傷つく。良くて不登校からの自主退学、最悪の場合廃人になる可能性もあるな』
「待てよ……!」
吐き気がする程に悍ましい事を淡々と語る友人。理解出来ない、理解したくない。
『当然立花の親友である小日向は俺達を止めようとするだろうな。可哀想だがその時は小日向も標的に入れるのも視野に入れないといけない。小日向も立花同様に壊さないといけないだろうな』
「待てって言ってんだろうがッ!!」
『……何だ』
「何だじゃねえよ!テメェ自分が何を言っているのか分かってんのか!?」
立花と小日向を壊す、そんな事を作業でもするように淡々と話す友人の思考を理解出来ない。そんな事、正気の沙汰ではない。
『当然、理解しているさ。クラスメイト二人を壊す、それがやって良い筈がないという事も当然理解している。だが俺にはそれをしなければならない理由がある』
「脅されてるのか!ならとっとと鍵を開けて脅してる奴の名前を言え!そいつをぶっ飛ばしてやる!」
『別に脅されてこんな事をする訳じゃない。これは俺自身で考えてやる事だ』
「じゃあ何でだ!?何でお前はこんな事を平気で出来るんだよ!!」
『お前の為だよ、幸助』
「……俺の、為?」
感情の感じなかった友人の声に、その言葉を口にした時だけは何かが込められているのを感じた。
『この学校にいるあの事件の生存者はお前と立花だけ。ここで立花に皆の悪意を集中させれば、お前へのイジメだって幾分かマシになる筈だ。皆ひとしきり立花を痛めつければ満足するだろうからな』
「ざけんな!立花や小日向の犠牲の上に勝ち取った平穏なんか貰って、俺が喜ぶ訳ねぇだろ!今からだって十分間に合う!先生か誰かに言って皆を止めーー」
『じゃあお前はこのままで良いのかよ!!』
友人の激情の篭った怒鳴り声に、思わず息を呑む。
『お前が毎日皆にイジメられてるのを、俺がどんな気持ちで見ていたか、お前に分かるか!?俺がライブのチケットを渡した所為でお前が死に掛けて!?世間から迫害されてんのを見るのがどんだけ辛いと思ってるんだ!?』
「……ッ!」
『辛いんだよ……!俺の所為でお前が傷付いて!家族に捨てられて一人ぼっちになって!学校でもイジメられてるのが、辛いんだよ!』
それは、あの事件の後初めてまともに会話する友人の、心からの懺悔だった。
『だから俺はお前を助ける!例えその為に立花や小日向が壊れる事になっても、絶対に!これがお前の為に俺に出来る唯一の償いなんだ!』
それだけ言って、友人は通話を切った。
「……ッの馬鹿!」
ドアノブを思い切り捻る。鍵が掛かったドアはガチャガチャと音を立てるだけで、一向に開く気配が無い。
「強行突破しかないか!」
ドアを思い切り蹴り上げる。鉄製のドアが凄い音を立ててへこんだが、ぶち破る事は出来なかった。
「クソッ!」
足の痛みを我慢して何度も蹴り続ける。へこませる所まではいくのだが、そこから先にどうしても進まない。
「だったら!」
助走をつけ、勢いに乗って思い切り飛び蹴りをする。一際派手な音を立てドアは吹き飛び、校内への道が開かれる。
「……間に合えよッ!」
吹き飛ばしたドアに目もくれず、俺は立花達の下へ走り出した。
ーー生きるのを諦めるなッ!
あの時、私を救ってくれた奏さんは私にそう言っていた。
ーーテメェを見捨てて自分だけ助かるくらいなら、俺は死んだ方がマシだ!
動けない私を必死に守ってくれた茶色い人は、私にそう言ってくれた。
二人が居なければ、私は生きて居なかった。私の命は、二人に救われたんだ。
でも、最近はこう考えるようにもなった。
ーー本当に私は生きていて良かったのかな?
ーー私なんかよりも生きるべき人が、沢山いたんじゃないのかな?
ーー私は、死んだ方が良かったんじゃないのかな?
「……あ?気絶してたのかよ。よっえー、何でお前みたいなのが生き残ったんだよ人殺し」
「……ぁ」
髪の毛を掴まれて、無理矢理起こされる。どうやら私は気絶していたらしい。
「何だその目?助けて欲しいってか?助ける訳ねぇだろ人殺しが!」
「……ぁっ!」
顔を思い切り殴られて、床に叩きつけられる。周りのクラスメイト達はそんな私の姿を見てクスクスと笑う。
「見てよあの姿、きったなーい!」
「随分と人殺しらしい格好になったよね」
「あんなのがなんでのうのうと生きてるんだろうね?」
違う、私は人殺しなんかじゃない。そう叫ぼうとしたが、声が出ない。私を殴ったのとは別のクラスメイトが、私の首を絞めているから。
「痛いか?苦しいか?あそこで死んだ人達はな、皆同じような思いをしながら死んだんだよ。お前ら生存者に殺されてな!」
「……ぁ!」
「響!響!やめてよ、響に酷い事しないでよ!?」
「酷い事?何言ってんだよ小日向。酷いのは人殺しのこいつだろ?俺達は悪い奴を懲らしめてるだけだ。制裁だよ制裁!」
「響が何をしたって言うの!?響だって被害者だよ!?なのに何でこんな酷い事が出来るの!?」
「生きてる事だよ!他の奴らが死んだのに、自分だけのうのうと生き残ってる!それが罪なんだ!こいつは、生きてちゃいけない奴なんだよ!」
「……ッ!?」
はっきりと私に向けられた拒絶の言葉に、心がズタズタにされているように痛くなる。ずっと何処かで考えていた事を、誰かに面と向かって言われた事が、とても辛い。檜山君も、こんな思いをいつもしているのかな?
「…………?」
ふと、周りの人とは少し違う感じの視線を感じた。何となくそっちに目を向けると、じっと私を見つめている人と目が合った。
「……ッ!」
その人は私と目が合った途端にとても悲しそうな表情をして、さっと私から目を逸らした。あの人は誰だったっけ?確か、檜山君といつも一緒にいたーー
「よそ見してんじゃねぇぞ人殺し!」
「……あッ!?」
「響!?」
よそ見していた私のお腹に容赦無く蹴りが浴びせられる。痛い、でも、まだ耐えられる。
「……へいき、へっちゃら。大丈夫だよ、未来」
「ひびきぃ……!」
泣きそうな顔をしている未来をそう言って励ます。まだ大丈夫、まだ私は耐えられる。未来が居てくれるから、これくらいへっちゃらだ。
「はっ、人殺しの癖に一丁前に友達ごっこかよ。なら二人仲良くイジメてやるよ!」
「きゃっ!?」
「未来ッ!?」
そう言ってクラスメイトの一人が未来を突き飛ばして、未来の上に跨った。
「人殺しを庇うお前も共犯者だ小日向。なら、当然お前にも罰は必要だよなぁ?」
「やめてッ!?未来にだけは手を出さないで!?」
「やめるわけないだろ?何でお前みたいな人殺しの言う事を聞かなきゃいけないんだよ?」
駄目だ、未来だけは駄目だ。私の陽だまり、私の親友。未来だけは、傷付いちゃ駄目なんだ。
「やめてよ……!私はどうなっても良いから……未来にだけは酷い事しないでよ……!」
「響……私は、大丈夫。大丈夫、だから……!」
「おーおー立派だなぁ小日向。その強がりがいつまで持つか楽しみだ、な!」
「ひっ!?」
未来の着ていた制服が無理矢理脱がされ、その下に着ていた下着が露わになる。
「よーく見とけよ人殺し。お前の目の前で小日向を滅茶苦茶に甚振ってやる!これはお前の所為だ!お前が招いた結果なんだよ!」
「嫌!?やめてッ!?未来にそんな事しないで!?悪いのは私なんでしょ!私はどんな目に遭っても良い!?だから未来だけは!?」
「安心しろよ人殺し。小日向の次はお前だ。裸にひん剝いて、小日向と同じ目に遭わせてやるよ!」
「それじゃまだ足りないよ!こいつには、もっと酷い目に遭って貰わないと!」
「じゃあさじゃあさ!裸に引ん剝いた後、彫刻刀で文字を彫ってあげようよ!『私は人殺しです』ってさ!」
「良いねそれ!やろうやろう!」
ゲームをやる時みたいな口調で、皆は笑いながらそんな事を言う。
どうして?どうして皆こんな酷い事が出来るの?私達は今まで仲良く遊んだり、お喋りしたりしてたのに。何で皆変わっちゃったの?
(私の、所為なの……?)
皆に酷い事されるのも、その所為で未来が傷付くのも、お父さんが出て行ったのも、皆私の所為なの?私が悪いの?
(私は、生きてちゃいけなかったの……?)
「ほら、彫刻刀を持って来てやったぞ人殺し。今からお前の身体にお前の罪をしっかり刻んでやる。お前が生きてる限りずっと残り続ける傷だ。これからはそれを見て自分の行いを懺悔し続けるんだな!」
制服を脱がされ、馬乗りにされる。私をニヤニヤと笑っているクラスメイトの目を通して、私は私の姿を見た。
(ははは……ひっどい顔)
顔中傷だらけの痣だらけ。額から流れる血にべっとりと貼りついた、ボサボサの髪。濁った目は、少し前に撮った自分の写真とは大違い。まるで別人みたいだ。
(確かに、こんな私なんかが生き残るのは間違ってるかも)
こんな事になるなら、あの時死んでしまった方が良かったのかもしれない。そうすれば、お父さん達や未来に迷惑を掛けずに済んだかもしれない。
そんな事を考えながら、私は自分の身体に迫る彫刻刀の刃をぼんやりと眺めていた。
「響ッ!?」
「それじゃあ始めだ!まず一画目ーーゴハァッ!?」
「ゲハッ!?」
いきなり現れた誰かの手が、私に馬乗りになっていたクラスメイトを殴り飛ばした。その手は次に未来に跨っていたクラスメイトも殴り飛ばし、誰かが私と未来を庇うようにクラスメイト達の前に立ちはだかった。
「……すまない、遅れた」
駆けつけて来た誰かーー檜山君はそれだけ私達に言って、物凄く怖い顔でクラスメイト達を睨みつけていた。
「檜山、君?」
いきなり現れた俺に、小日向が驚いたような声を上げる。チラリと二人に目を向ける。二人共衣服が乱れてはいるが危惧していたような事はされていないようだ。どうやら俺は間に合ったらしい。ただ立花の方は酷い傷を負っている為、一刻も早く治療したいところだ。
「ッ……!何でテメェが此処に居るんだよ!?屋上に閉じ込めた筈だろうが!?」
「無論、ドアをぶち破って来た。だが、今ので確信した。お前達、俺に邪魔をさせない為に屋上に閉じ込めたな?」
俺が居たら小日向と立花に手を出せないから。だからこいつらは友人を利用して俺を閉じ込めたのだ。
「こっちからも質問良いか?ーー二人に、何をするつもりだった?」
「ヒッ!?」
俺の殺気に当てられたのか、目の前の男子はそんな声を出しながらジリジリと後ろに下がっていく。勿論それは二人を囲んでいた奴らも例外では無く、徐々に俺や立花達から距離を取っていく。ただ一人、友人だけはその殺気を真っ直ぐに受け止めていた。
「二人の服を脱がせて何をするつもりだった?その手に持った彫刻刀で何をするつもりだった?ーー答えろ」
「お、俺は悪くねぇぞ!?そいつらが悪いんだ!?そいつらは人殺しと、そいつを庇う共犯者だ!お、俺はそんな犯罪者共に罰を与えようとしただけだ!?」
「俺は何をするつもりだったのかと聞いている。誰もお前の下らない言い訳なんぞに興味は無い」
「ヒィィ!?」
自分達の行動を正当化しようとする下らない言い訳なんて要らない。そんな物は今まで散々聞いて来た。
「大体、立花達を犯罪者と呼ぶならお前達の方が犯罪者だろうが。立花への暴力、二人に対する性的暴行未遂、これらは立派な犯罪だ。立花達を裁くと宣う前に、自分達を裁いた方が良いんじゃないか?」
「何だとッ!?」
「調子にのんなよ人殺し!」
俺の挑発に乗った奴が二人俺に向かって来る。あんな挑発に乗るのか、単純な奴らだな。
「馬鹿かお前ら」
「ガッ!?」
「グゲッ!?」
一人目の拳を避けて顔面にカウンターを叩き込み、二人目の攻撃を防ぐ盾にする。怯んだ二人目に向かって盾にした一人目を蹴り飛ばし、倒れた二人を上から思い切り踏み付ける。
「こんな狭い教室内で二人がかりで攻撃して来たって動きにくいだけだろうが。もう少し考えて立ち回れよ」
「テメェ!」
二人ぶっ倒した事で怒りが頂点に達したのか、男勢が総出で俺に向かって襲って来る。その癖俺の言葉はしっかりと聞いていたらしく、一人一人攻撃のタイミングが少しずつズレている。
「……ふっ!」
「ごげぇッ!?」
回し蹴りで最初にやって来た奴の顔面を蹴り砕く。そのまま足を大きく振って蹴り飛ばし、後続にぶつける。
「……はっ!」
「ぎゅぐぇ!?」
無事だった後続に接近し、顔面に思い切りストレートをかます。意識が飛んだ後続の頭を掴み、壁に叩きつける。
「死ねぇ!」
「ーーッ!」
「檜山君!?」
背後に迫っていた奴に椅子で思い切り頭を殴られる。小日向の悲鳴と共に視界が揺れ、一瞬身体がよろける。
「ははははは!ざまぁ見ろ人殺ーーしぃ!?」
「ーーぁあ!!」
瞬時に態勢を立て直し、かかと落としで相手の頭を椅子ごと蹴り砕く。
「……!」
かかと落としを叩き込んだ奴が倒れる前にそいつを蹴り飛ばし、次の奴に攻撃する為の道を作る。目の前でクラスメイトが倒れて動揺しているその顔面にアッパーを叩き込み意識を奪い、次の奴に投げつける。
(対人用に用意していた戦闘スタイル……まさか初めての相手がクラスメイトだとは思わなかったな)
本当に、あらゆる意味で俺は仮面ライダーと呼ばれるのに相応しくない。本来守るべき存在の筈の人間に、躊躇いもなく手を出せるのだから。
(……いや、本当にこいつらを守る価値があるのか?人の生を呪い、死を望む。そんな奴らを生かしておく価値が、一体あるのだろうか?)
襲い来るクラスメイト達を捌きながらそんな事を考える。こいつらは立花を傷付け、小日向にさえも手を出した。こいつらは立派な『悪』だ。
(……今後立花達が同じ目に遭わないよう、此処で全員殺しておくべきなのではないか?)
そんな事を考え、瞬時にその考えを振り払う。それこそが『悪』だ。殺していい人間などただの一人だって居やしない。誰かの生死を他人が決めるなど、有ってはならない事だ。
(……こんな考え方しか出来ない俺も、こいつらの同類だ)
そう自嘲したその時、不意に脇腹に熱を感じた。
「ーーッ!?」
脇腹に目を向ける。其処には刃渡り十センチ程のナイフが突き刺さっており、そこから自分の足元にポタポタと血が滴り落ちているのが見えた。
「檜山君ッ!?」
「いやあぁぁぁぁ!?」
「幸助ッ!?」
「お、おいヤベェって!?」
「これは流石に不味いんじゃ……!?」
「は、ははは……やってやった、やってやったぞ!ざまぁ見ろよ人殺し!お前が悪いんだからな、人殺しの癖にのうのうと生きてるお前がわるいんだからな!ひゃはははははははははははははッ!!」
小日向が俺を呼ぶ声、立花の悲鳴、友人の悲痛な叫び、クラスメイト達の慌てたような声、俺を刺したクラスメイトの狂ったような笑い声。それら全てが、何処か遠くから聞こえてくるような感じがする。まるで、今自分が見ている物全てが夢であるように。
(……何でこんなもん持ち歩いてるんだよ)
ザ・凶器と言えるような物を学校に持ち込んでいるクラスメイトに軽く戦慄を覚える。俺を刺したクラスメイトは未だに笑い続けており、こっちの事なんて意識の外にあるようだ。
(抜いたら痛いだろうな、コレ)
そんな事を考えながら、目の前で笑い続けるクラスメイトの腕を掴む。
「死んじまえ!死んじまえよぉ!ひゃっはははははははははは……は?」
「……おい、刺す場所間違えてるぞ」
そう言ってクラスメイトにナイフを握らせ、そのままゆっくりとナイフを脇腹から抜いていく。
「は……は?お前、何やってんの?」
「ッ……!」
脇腹の焼けるような痛みに耐えながらナイフをゆっくりと移動させ、刃先を自分の心臓の位置にちょんと当てる。
「俺を殺したいんだろう?なら、ちゃんと此処に刺さないと駄目だろ。脇腹なんて刺したって、俺はすぐには死なないぞ」
「は、はは、は?なに、言って……」
「刺してみろよ」
「は!?」
『……ッ!?』
「檜山君!?」
「何言ってるの!?」
「馬鹿かお前は!?」
クラスメイトや立花達の驚いたような声が聞こえる。それを無視し、目の前のクラスメイトをじっと見据える。
「腕をぐっと前に押せば、心臓にグサッと刺さって俺は死ぬぞ。ほら、早く刺せよ」
「あ、あ……!?」
「早くやれよ。お前は正しいんだろ?なら俺を殺したって誰もお前を責めないさ。俺が悪い人殺しだから、正義のヒーローのお前が俺を裁く。そうお前は今まで考えてたんだろ?どうした、早く俺を殺せよーー殺してみろよッ!!」
「ヒッ、ヒイィィィィッ!?」
「殺す気も無いなら……死ねなんて言葉軽々しく使うんじゃねえよッ!!」
「ぐへぇ!?」
完全に恐怖に支配されたクラスメイトの顔面を思い切り殴り飛ばし、ナイフを床に落として踏み砕く。そして遠くから俺を見つめていたクラスメイト達の方へ向き直り、血を吐き出しながら叫ぶ。
「テメェらもだ!傷付けられる覚悟も無い癖に他人を傷付けるなッ!立花がお前達に何をした!生き残った、ただそれだけの事で立花を傷付ける権利がお前達に有るのか!」
「ひっ……!?」
「何でこんな事が出来る!?何で誰も立花が、生存した人達が無事に帰って来た事を喜ばない!?お前達だって、立花と一緒に笑い合って、共に生きて来た筈なのにッ!?何でこんな残酷な仕打ちが出来るんだ!?」
ずっと心の中で感じて来た事を、全て吐き出す。血が流れ過ぎて意識が朦朧としてきても、俺は叫び続けた。
「何でだよ……何でなんだよ!?立花は、一刻も早くお前達とまた一緒に学校に通えるように、必死にリハビリをしていた!家族に心配をかけないようにと、痛みに必死に耐えながら頑張ってたんだ!なのにどうして……どうして立花を傷付けるんだよ!?」
立花はただ巻き込まれただけだ。誰も救えなかった、皆を殺してしまった俺とは違って、責められる謂れは無いはずなんだ。
「頼むから……!頼むから立花を受け入れてくれよッ!俺はどうなったって良いから……!立花だけは……また一緒に笑い合えるようにしてやってくれよッ!!」
それだけ言って、今度は立花の方に向き直る。涙を流す立花を抱き締め、言葉を伝える。
「立花、お前は生きてちゃいけない人間なんかじゃない。お前の家族も、小日向も、俺も、皆お前が生きていてくれて良かったと思ってる」
「……ぁ」
「だから立花、笑ってくれ。そんな顔は、お前には似合わない。馬鹿みたいにいつも笑顔でいる方が、お前らしくて良い」
「檜山、くん……!」
「……もう一度伝える。立花、生きていてくれてありがとう。お前が無事で、本当に良かった」
「……!ぅ、ぁ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それがトドメとなったのか、立花は大声を上げて泣き出した。今まで溜めていたものが全て吐き出しているようなその泣きっぷりに、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「はは、参ったな。泣かせるつもりは、無かったんだけれど、な……」
「檜山君!?」
視界がぼんやりと歪む。それに伴って身体から力が抜け、立花にどさりと身体を預ける形になる。どうやら身体が限界を迎えたらしい。この出血量、下手したら死ぬな。
「檜山君!しっかりして檜山君!」
「おい幸助!目を開けろ!」
小日向と友人の声が聞こえる。耳元で立花も何事か叫んでいるが、よく聞き取れなくなってきた。
(あークソ、流石にナイフはキツかったかぁ……)
そんな呑気な事を考えながら、俺の目の前は真っ暗になった。
「……んがっ」
知らない天井だ。まあ天井なんぞ普段気にもしてないから知ってる天井と知らない天井の区別なんてつかないが。
「……生きてる」
身体に包帯が巻かれており、消毒液の匂いがあたりに漂っている。ここは病院か何かか?それにしては何か小汚い感じだが。窓の外は暗い。どうやら夜まで俺は意識を失っていたらしい。
「……ん?」
両手が異様に暖かい。ちらりと目を向けると、左右の手を小日向と立花が握りながら眠っていた。
「……何じゃこりゃ」
「お、起きたか」
そんな声と共に、部屋に白衣を来た医者らしき男が入って来る。マゼンタ色のカメラを首に掛けたその医者は、俺の側で眠る二人を見ながら俺に言った。
「そこの二人は見舞い客だ。お前が目を覚ますまで、ずっとお前の手を握っているんだとさ」
「……そうか。怪我はどんな感じだ?」
「治療は完璧だ。傷口はしっかり消毒したし、輸血も行なった。危なかったな、もう少し処置が遅れていたら死んでたぞお前」
「……やっぱりか」
どうやら三途の河一歩手前だったらしい。
「事情はそこの二人から聞いた。随分と無茶な事をしたようだな」
「……別に、それしか出来ないだけだ」
「そうか。……お前に一つ伝言を預かっている。お前の友人という奴からだ」
「……何だ」
「『悪かった』、だとさ」
「……馬鹿かアイツ」
謝る相手が違うだろうが。俺じゃなくて、立花と小日向に伝えるべきだろうに。
「……さて、そこの二人もまだ起きないようだし、本題に入るか」
「……本題?」
そう言って医者は俺の目をじっと見つめる。その力強い視線から目を逸らすのが事が出来なかった。
「やっと会えたな、この世界の仮面ライダー」
「……やはりアンタか、『門矢士』」
目の前の医者、門矢士は俺の方をじっと見ながら、一枚のカードを取り出した。それは彼の変身に使う、ディケイドのカードだった。
「初対面の筈の相手に名前を知られてるとは、俺も有名になったものだ。それとも、鳴滝の奴に聞いたのか?」
「……有名だからな、アンタの名前は」
流石に前世でアンタの番組見てましたとは言えないので、適当にはぐらかす。対する士もそれについては然程興味は無いらしく、それ以上は追求してこなかった。
「そうか、ならもうこの話はこれで終わりだ。俺の名前を何処で知ったかなんて、聞いても大した意味は無いしな」
「……それで、世界の破壊者様が俺に何の用だ?世間話をするような人間でも無いないだろうアンタは」
「それもそうだな。今回お前に会いに来たのは、お前を勧誘しに来たからだ」
「勧誘?旅の仲間になれと?」
「違う。俺は別にそれでも良いが、お前自身それは望まない筈だ」
当たり前だ。いつ終わるか分からないような旅について行く気は俺にはさらさら無い。
「今回の世界にはノイズと言う怪物がいる。俺の今回の世界での役割は、そのノイズと戦う組織と行動を共にする事だ」
「ノイズと戦う組織……あのツヴァイウイング達と何か関係が有るのか?」
脳裏にあの日の記憶が鮮明に蘇る。記憶の中の二人は、何やら珍妙な格好でノイズを殲滅していた。
「そうだ。風鳴翼、そして今は亡き天羽奏が所属する組織、『特異災害対策起動部二課』。短く省略して二課。其処に、お前に入って欲しい」
「……二課」
ノイズと戦う組織。ツヴァイウイングの二人がそんな組織に所属していた事に衝撃を覚える。
「お前があのライブで戦っていた事は翼から聞いた。奏が死んだ事で二課はノイズに対する大きな戦力を失った。今の二課には、新たな戦力が必要だ」
「それが俺、という訳か」
「そういう事だ。俺は現状では二課に力を貸しているが、いずれ別の世界に行く身だ。だからこの世界の仮面ライダーであるお前に、力を貸して欲しい」
「……俺に、力になれるのか?」
ライブでの一件を聞いたならば、俺があの時どうだったかも知っている筈だ。何一つ守れなかった、そんな俺でも力になれるというのだろうか。
「ああ、なれるさ。お前なら、いつかきっと『仮面ライダー』になれる。ライダーの先輩として保証してやる」
「……そうか」
こんな俺にここまで言ってくれるなら、俺はそれに応えるべきなのだろう。差し伸べられた手を取り、俺は士に向かってこう言った。
「分かった、俺も二課に入る。こんな俺でも、誰かを救えると言うなら、仮面ライダーになれると言うのなら、俺は命を懸けて戦う。平和の為に、そしてーー」
ーー確かに此処にある温もりを、守り抜く為に。
俺の手を握る二人の寝顔を見ながら、俺は決して忘れない誓いを立てた。