仮面ライダーソーシャル 戦う歌姫達と爆死する少年   作:BF・顔芸の真ゲス

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撃・槍・覚・醒

「もう響!流石に食べ過ぎだよ!?」

 

「もっきゅもっきゅ……まだいける、いけるよ未来!」

 

「……何だコレ?」

 

頰をリスのように膨らませながらお好み焼きを頬張る立花を遠い目で見ながら、俺は今までの事を振り返っていた。

 

 

 

あのライブから二年が経ち、世間の生存者への風当たりも大分マシになった。あの一件以来学校で立花に手を出す奴も居なくなって、学校に立花の居場所が出来た。立花も本来の明るい性格を取り戻して、大分マシな環境を作る事が出来たと思う。

 

因みに俺はというと、学校を退学する事になった。立花を助ける為とはいえ、流石に俺はやり過ぎたらしい。俺を刺したクラスメイトと一緒に学校を追い出された。立花や小日向はその事をまだ気にしているようだが、俺としては二課の支援のお陰で生活は出来るので大して気にしてない。

 

そんな感じで中卒になった俺は現在二課で風鳴翼や門矢士と共にノイズの討伐をしている。生活費は二課が負担してくれるし、結構いい額の給料も出るので個人的には今の生活の方が良いと思っている。

 

 

 

そんな感じで今俺はあの一件以来親しくなった立花や小日向と共に、『ふらわー』という店で食事をとっている。

 

「もっきゅもっきゅ……あ、幸助君!そのお好み焼き食べないの?食べないなら私にちょうだい!」

 

「響!食い意地張り過ぎ!」

 

「悪いが渡せない。俺も腹が減ってるからな」

 

「……幸助君もなんだかんだ言って響並に食べてるよね。もう五皿目だよ?」

 

「……仕方ないだろ、腹が減るんだから」

 

苦笑いする小日向にそう返す。何故かは知らないが、ちょっと前から急に沢山食べるようになった。特に肉を食べたくなる衝動が強く、栄養バランスの偏りを無くすのが大変だ。

 

「うーん、男の子だからかな?でもちゃんとバランス良く食べなきゃダメだよ?響みたいに太っちゃう」

 

「あああぁぁぁ!?何でバラしちゃうの未来ー!?誰にも言わないでって言ったのにー!?」

 

「太ったのは響の自業自得でしょ?」

 

「いいもん!これから運動して痩せるから平気だもん!」

 

「ふふっ」

 

「……ふっ」

 

「あー!今笑ったね!私を笑ったね二人共ー!?」

 

若干涙目になりながらそう言った立花の姿に、俺と小日向は思わずクスリと笑う。そしてそれを見た立花が更に騒ぎ出し、ふらわーの中が一気に騒がしくなる。

 

「……それはそれとして、俺には立花はそんなに太ってるようには見えないんだが。一体どの辺が太ったんだ?」

 

「えっとね、お腹と、ほっぺとーー」

 

「言わなくていいから!?」

 

くすくすと笑う小日向と、顔を真っ赤にして小日向を止める立花。こんな光景を取り戻せただけでも、退学になるくらいの価値はあったんじゃないかと俺は思う。

 

「……別に少し太ったくらいで気にする事は無いだろう。ガリガリに痩せた人より、少し太ってるくらいの人の方が健康的で俺は良いと思うぞ」

 

「フォローになってないからね幸助君!?もう怒った!絶対ダイエットして二人を見返してやるんだから!」

 

「そういえば最近バイトで結構な額の収入が入ってな、少し良いトコの焼き肉屋にでも行こうと思うんだが……」

 

『行きたいっ!』

 

ダイエットするという意思をあっさり翻して、立花が目を輝かせる。そして小日向、お前もか。

 

「……前言撤回が早いな立花。というか小日向、お前は止める側だと思ってたんだが」

 

「焼き肉食べたいっ!」

 

「……お前も結構食い意地張ってるのな、小日向」

 

「あっ!?いや、その……焼き肉なんてそう滅多に食べる物でもないし、良いトコって聞いたから美味しいんだろうなぁって……」

 

「お肉食べたいっ!」

 

顔を赤くしながらもじもじとする小日向と、恥じらいというものを何処かへと置いてきてしまったらしい立花。鏡合わせのように対照的な二人だが、だからこそ二人は親友になれたのかもしれない。

 

「……まあ良い。お前らが喜んでくれるなら俺はそれで十分だからな」

 

「おー!さっすが幸助君!やっさしー!」

 

「でも本当に良いの?そんな所に私達も連れて行って。お金は大丈夫なの?」

 

「問題無い。さっきも言ったが、バイトの収入がたんまり有るからな、会計が十万を超えても余裕で払えるくらいの金はある」

 

「……幸助君、そのバイト危ないやつなんじゃないの?」

 

「……ぎくり」

 

じとっとした目でそう聞いてくる小日向に思わずそんな言葉が出る。小日向は色々と鋭いので、上手く誤魔化さなければ。

 

「……別に。危なくなんてない。ただ他のバイトよりちょっとばかり大変で、ちょっとばかり給料が良いだけだ」

 

「それ絶対やばいやつじゃん!?だから危ない事しちゃ嫌だっていつも言ってるでしょ!」

 

「響の言う通りだよ!幸助君無茶ばかりやっていっつも怪我してる!もっと自分の事を大事にしてよ!」

 

「ぜ、善処する」

 

『善処じゃ駄目!』

 

「……もっと自分を大事にします、ハイ」

 

叱られてしまった、ホント誤魔化すのが下手だな俺。何故かは分からないが、この二人にだけは逆らえない。この二人は絶対に言う事を聞かなきゃいけないと思わせるような迫力を持っているのだ。

 

「……そういえば小日向に立花、高校はどうだ?」

 

これ以上追及されるのを防ぐ為、二人の高校生活について話題をシフトする。二人はリディアン音楽院とかいう場所に進学した。毎日そこでの生活を日記のようにした文章でメールしてくるが、友達なんかも出来て楽しい学校生活を送れているらしいが、何故そこに入ったかは俺も詳しくは知らない。

 

「そりゃあもう楽しく毎日を過ごせてるよ!あーでも、先生に叱られたりする事が多いかなぁ」

 

「それは響の自業自得でしょ。猫を助けて遅刻したり、同じクラスの子に教科書貸しちゃったり」

 

「し、仕方ないじゃん!あの猫は木から降りれなくって困ってたんだし、教科書は未来が見せてくれたからノー問題だったし!」

 

いやマジで何やってんだよ立花。クラスメイトに教科書貸すバカがどこに居る。

 

「人助けは私の趣味なの!こればっかりは仕方ないよ!」

 

「響のそれは度を越してるって言ってるの!私聞いたんだからね!猫を助ける為に木に登って、木から落っこちて背中を打ったって!」

 

「うぐぅ!?い、いや確かに背中を打ったけど!後で保健室に行ったら大丈夫だって言ってくれたから平気へっちゃらだよ!」

 

「立花、小日向の言う通り度を越し過ぎだ。人助けをするのは結構だが、それで怪我をしては元も子もない」

 

「……それ、幸助君が言う?」

 

「私達を助けて大怪我したの、忘れてないんだからね」

 

「……ですよね」

 

ハイ、そうですよね。人助けで現在進行形で無茶と怪我を重ねまくってる俺が言えた事じゃないですよね。

 

「それとさぁ、幸助君はいつになったら私達の事名前で呼んでくれるの?」

 

「……名前で呼ぶ必要、有るか?」

 

「有るよ!名字じゃなんか他人行儀だもん!」

 

そういうものなのだろうか。前世でも今世でも、他人を名前で呼んだ事が無いのでよく分からない。別に名字で呼んでも良いのでは無いか?

 

「……その内な」

 

「約束だからね?」

 

「私と響の事、いつかちゃんと名前で呼んでよ?」

 

「……ああ、約束だ」

 

その日がいつになるかは分からないが、一応二人に約束しておく。その返事を聞いて満足したのか、二人は再びお好み焼きを食べ始めた。

 

「……ご馳走様、バイトがあるからそろそろ帰る。代金は置いておくから、それを使ってくれ」

 

そう言って俺は席を立ち、三人分の代金を机に置く。俺も響もかなりの枚数を食った為支払いはそれなりの額になっているが、俺にとっては余裕で払える額だ。

 

「いやいやいや!?それは流石に悪いよ幸助君!自分達の分くらいは自分達で払うって!」

 

「気にするな立花、今日は俺がお前らを呼んだんだ。支払いは俺がやるのが当然だ」

 

「でも流石に悪いよ!幸助君一人暮らしで大変なんだし、私と響の分まで払ってもらうのは……」

 

「気にするなって言ってるだろ小日向。人の好意は素直に受け取れ。じゃあな二人共、また今度」

 

「あっ、ちょっ、幸助君!?」

 

二人の制止を聞かなかった事にして、俺は店を出た。

 

 

 

ーー幸助が『ふらわー』を出た少し後

 

響達の居る商店街から離れた場所にある山間地帯は、文字通りの修羅場と化していた。

 

「チィ!駄目だ、全く効果がねぇ!」

 

「隊長!A班の隊員三名がノイズの攻撃により炭化!」

 

「C班から三人カバーに当たれ!何としてもこいつらを此処から先に行かせるな!」

 

飛び交う弾丸、響き渡る絶叫、風に舞う炭素物質。現在この場所では、人とノイズによる熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

ノイズに対抗するのは特異災害対策機動部一課、対ノイズの為に武装した戦士達だ。彼らは銃器を用い、絶えずノイズに弾幕を浴びせている。対するノイズはその攻撃を意にも介さず進行を続け、立ち塞がる一課の隊員達を炭素へと変えていく。

 

どちらが勝っているかは一目瞭然、戦闘はノイズ側の完全勝利に終わるかと思われた。

 

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

「変身!」

 

【カメンライド・ディケイド!】

 

「大変身!」

 

【キャラガチャ!】

 

 

 

そんな三つの声が、戦場に響くまでは。

 

「……っ!来たかッ!」

 

「隊長!これって……!」

 

「全部隊に撤退命令!ここからは二課の仕事だ!」

 

「了解!」

 

隊長の指示を受け、各隊は徐々に後退する。そして一課が後退してノイズ以外が居なくなった戦場に、二つの光が舞い降りた。

 

「風鳴翼、参るッ!」

 

青きシンフォギア『天羽々斬』を纏う少女、風鳴翼。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけッ!」

 

マゼンタカラーのバーコード戦士『仮面ライダーディケイド』、門矢士。

 

そしてーー

 

「我が魂は特異災害機動部二課と共にあーーぶげぇ!?」

 

何事かを大声で叫びながら真っ逆さまに落下し、地面に直撃した銅色のライダー『仮面ライダーケタロス』、の姿に変化した檜山幸助の姿があった。

 

「いっつつ……長過ぎて全部言えなかった」

 

「檜山、巫山戯ているならノイズよりも先に貴方を斬るわよ?」

 

「勘弁してくれ翼。俺はまだ死にたくない」

 

身体の土を払いながら起き上がった幸助を刀を構えながら冷ややかな目で睨みつける翼と、それを身震いしながら必死に止める幸助。コントをしているかのようなその姿は、一課の不安を煽るには十分だった。

 

「た、隊長、大丈夫なんですかアレ!?なんか仲間割れしかけてるんですけど!?」

 

「大丈夫……だと思いたい」

 

「隊長ォ!?」

 

『翼!それに幸助君も!巫山戯るなら本部に戻ってからにしてくれ!まずは一課と連携を取って様子見をーー』

 

「必要ありません。私達二人だけで十分です」

 

「おい何ナチュラルに俺を省いてるんだ翼」

 

「戦う前から醜態を晒すような人を戦力に数える気は無いわ。それに貴方同じライダーでも門矢さん程安定して強くないし」

 

「悪かったな運頼みなライダーで!言っとくが今回のケタロスは星2だ!前のたい焼き名人アルティメットフォームの時みたいな事にはならないからな!」

 

「そう、あまり期待しないでおくわ」

 

「人をおちょくってるとぶっ飛ばすぞ!」

 

本部から話しかけてくる弦十郎を無視して、二人は言い争いを続ける。因みに幸助が翼を名前で呼んでいる事に深い理由は無い。単に弦十郎と名字が被っているからというだけだ。

 

『だからそういうのは本部でやれと言ってるだろうが!士君、その馬鹿共の面倒を頼んだぞ!」

 

「分かった。おいお前ら!喧嘩するのは勝手だがノイズを倒してからにしろ!」

 

「こうなったら仕方ない、どちらがノイズを多く倒したかで勝負だ!」

 

「良いわよ。本来戦場にこういった勝負事を持ち込むのは御法度だけど、一度貴方と競い合ってみたかったの!」

 

「だから人の話を……ああもう!だからガキの世話は嫌いなんだ!」

 

士の制止を聞く前に、二人はノイズに向かって駆け出す。その光景を見た士も二人を止めるのを諦め、二人同様ノイズへと攻撃を開始する。

 

「先駆けの功は私が貰う!」

 

翼が勢い良く飛び上がり、ノイズに向かって剣を振り下ろす。斬撃は衝撃波となってノイズを斬り裂き、次の、そのまた次のノイズまでも両断していく。更に地上に着地した翼は逆立ちしながら回転し、脚部の刃によって周囲のノイズを細切れにしていく。

 

「【蒼の一閃】に【逆羅刹】……ほんと無双ゲーのキャラじみた技構成してるよなあいつ。それじゃあ俺も!クロックアップ!」

 

【clock up!】

 

クロックアップによって一時的に周囲よりも早く行動する事が可能となった幸助は、ケタロスの武装であるゼクトクナイガンを振り回し、近くのノイズを片っ端から切り裂いていく。

 

【clock over】

 

クロックアップが修了した瞬間、近くのノイズが次々と炭化して消滅する。

 

「高速移動!?それは反則でしょう!?」

 

「テメェの無双技の方が反則的だっつーの!テメェがその技一発撃つだけで俺の攻撃何十回ぶんのノイズが倒せると思ってんだよ!」

 

「どっちが反則でも良いから大人しく戦ってくれよ……」

 

言い合いを続けながらも二人はノイズを殲滅していく。二人の様子を見た士も溜息を吐きながらノイズを蹴散らしていき、僅か数分でノイズを残すところ大物一体という所までノイズを追い詰めた。

 

「さてさてさーて!ノイズも残すところ最後の一体となってしまったが、トドメはどうする?俺としては、締めは俺が決めたいんだが」

 

「私が決めるわ。先駆けも大将首も、どちらも防人である私が頂く!」

 

「おいお前ら!そんな事で張り合ってる場合じゃーー」

 

「そうか、お前も締め譲れないか」

 

「ええ、貴方もそうなのよね?」

 

大型のノイズを前にして再び口論を始めようとする二人を叱りつけようとした士だが、二人がニヤリと笑ったのを見て諦める。駄目だこりゃ、こっちの話をまるで聞いてないぞあいつら。

 

「だったら!」

 

「やる事は一つ!」

 

二人はノイズに接近し、勢い良く飛び上がった。直後翼の持っていた刀が変形し、巨大な剣へと姿を変える。翼はその剣を押し出すような形で剣を蹴りつけ、剣と共にノイズへと向かっていく。人剣一体となって放つその技、【天の逆鱗】はノイズに寸分違わず狙いをつけて放たれた。

 

一方の幸助もまた必殺技を使う。ゼクトクナイガンにエネルギーを収束させ、全てを乗せた渾身の一撃を放つ。

 

【rider beat!】

 

『同時攻撃だあぁぁぁぁ!!』

 

二人の攻撃はコンマ一秒違わず同時にノイズに命中し、哀れノイズは原形を残さず爆発四散した。その場に残ったのはノイズを殲滅した三人の戦士と、その姿を呆然と眺める一課の隊員達だけだった。

 

戦闘終了、人類の勝利だ。

 

「ふう、終わった終わった」

 

「そうね。そして勝負も決まったわ。最後を飾ったのは私の剣、つまり私の勝ちね」

 

「あ?何言ってんだよ。完全に同時だったろうが」

 

「威力的には私の【天の逆鱗】の方が圧倒的に上、ならトドメは私が決めたと言っても過言では無いわ」

 

「はぁ?何を言ってんですかね翼さん。俺のライダービートだって結構威力高かったですー!寧ろ俺の勝ちまでありえますー!」

 

「だからお前らそういうのは本部でやれってさっきから言ってるだろうが!」

 

変身を解除し、ただの学生となった翼とただの中退アルバイターとなった幸助。二人は互いに自分の勝利を譲らず言い争い、それを士が半分本気でキレながら怒鳴りつける。そんな光景を、一課の隊員達はなんとも言えないような表情で見つめていた。

 

「ホントにノイズを全部倒しちゃいましたね、彼ら」

 

「あれがノイズに対する我が国唯一の対抗手段、『シンフォギア』と『仮面ライダー』……凄まじいな」

 

「まだ子供じゃないですか。俺達だってあれを使っていたら……」

 

「ならお前はあの少女のような格好でノイズと戦えるか?歌いながら戦場を駆け抜ける事が出来るか?」

 

「……無理です、社会的に死んじゃいます」

 

「そういう事だ。彼女はそのような苦しみを背負って戦っているんだ。無論彼ら仮面ライダーも、何かしら重い物を背負っている筈。俺達も、彼女達に負けられないな」

 

「……ですね」

 

そんな翼達自身は気にもしていない事を考えながら、一課の隊員達は決意を新たにしていた。

 

 

 

私、立花響十五歳!趣味は人助けで、好きな食べ物はご飯&ご飯!彼氏居ない歴は年齢と同じだけど、大好きな親友が二人も居るのでノー問題!さて皆さん、そんな私が今何をしているかと言いますとねーー

 

「な、なんでこんな事になったのおぉぉぉ!?」

 

「いきなりどうしたのお姉ちゃん!?」

 

ーー可愛い女の子を連れてノイズの集団と命懸けの鬼ごっこをしています。ホントに、どうしてこんな事になっちゃったんだろうね……

 

時は十数分前に遡ります。『ふらわー』で未来と一緒に幸助君とご飯を食べたのが昨日の事。私は今日発売の翼さんのCDの特典付き初回限定盤を買いに行く為、放課後全速力で街に駆け出したのです。その甲斐あってCDを無事買う事が出来てホクホク顔で街を歩いていた私ですが、そこで周りの異変に気が付きます。

 

人が全くと言っていい程居なかったんです。まだ日も出てるこんな時間に、ただの一人も。通行人なんて居ない、チラリと見えたコンビニには店員すら居ない。

 

明らかな異常に私の本能がこの場から遠ざかる事を進言しますが時すでに遅し。私は見てしまいました。足元に、そして私の前に点々と存在する黒い塊、そしてそれを作り出した元凶であるーーノイズの姿を。

 

今更になってノイズ警報が周囲に響き渡りますが、既にこの場で生き残っているのは私だけとなっていました。普通の人ならすぐさま駆け出してシェルターに避難します。当然私も例外では無くシェルターへ避難しようとしたのですが私は聞いてしまいました、見てしまいました。必死になって母親を呼ぶ声を、涙を流す女の子の姿を。

 

そこからの事はあまりよく覚えていない。兎に角無我夢中で女の子の手を取って駆け出して、無我夢中でノイズから逃げ続けて今に至る。

 

見捨てればよかったって?あはは、多分この場に幸助君がいたら同じ事を言うと思います。自分が逃げるだけでも手一杯なのに、わざわざ荷物増やすとか何考えてんだー!とか、お人好しも大概にしろー!とか。そんな感じの事を言って私を叱るんだと思います。未来も無茶しないでって怒ると思います。でも嫌です。絶対見捨てません。

 

だって仕方ないじゃないですか、あんなに泣いてたんだから。怖くて足が震えていても、それでもお母さんに会うために必死になって歩こうとする。そんな女の子を平気で見捨てられるような人には、絶対になりたくないから。

 

だから私は助けるんだ。きっと幸助君や未来も、最後には私を止めるのをやめてやれやれって言いながら私を助けてくれると思う。二人もわかっているから。だってそれが私なのだから。人助けが趣味の、『立花響』って人間なんだから。

 

(……って格好つけた事を言ってはみたものの、ホントにどうしよう?)

 

夢中になって逃げていた所為で、気がつけばシェルターとは全く見当違いの工場地帯に来てしまった。女の子の体力も限界みたいだ。

 

(でも、前に進み続けるしかない!)

 

「乗って!」

 

「う、うん!」

 

女の子を背中に背負って、工場地帯を駆け抜ける。兎に角ノイズの居ない所へ、ノイズの居ない所へと我武者羅に突き進む。身体がそろそろ悲鳴を上げて来たけれど、これくらいどうって事はない。平気、へっちゃらだ。

 

走って走って走り抜けて、何かの施設の梯子を上って、そこで力尽きて地面に座り込む。恐らく同じくらい走る事は無いだろうというくらいの全力疾走で駆け抜けた為、息切れが激しい。脇腹が凄い痛い。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「ハァ、ハァ……平気、へっちゃらだよ!」

 

それでもこの子を不安にさせない為に、痛みを我慢して笑う。私は年上、お姉ちゃんだ。この子に心配をかける訳にはいかない。

 

「それより、どうにかしてこの状況を……っ!?」

 

状況の打開など許さないとでも言うように、地上から這い上がって来たノイズ達が私達を取り囲む。側に居た女の子が小さく悲鳴を上げ、私にしがみつく。そんな女の子を抱き締めながら、私はノイズ達を睨みつけていた。

 

「お姉ちゃん……私達、死んじゃうの?」

 

「ーーッ!」

 

死ぬ。その言葉を聞いた瞬間、不意に二年前のあのライブ会場での出来事が頭に浮かんだ。そして、あの日私を助けてくれた二人のヒーローの事も。

 

「生きるのを諦めないでッ!」

 

思わず、私は女の子にそう言った。

 

ーー生きるのを諦めるなッ!

 

私を助けてくれたあの人は、力強い歌を口ずさんでいた。

 

ーーテメェを見捨てるくらいなら、死んだ方がマシだッ!

 

私を見捨てなかったあの人は、どんなに傷ついても私を守ろうとしてくれた。

 

ーー生きていてくれて、ありがとう……!

 

私を守ってくれたあの人は、私に生きる意味を思い出させてくれた。

 

私の命は三人の人に繋いで貰った命だ。だからこんな所で終わる訳にはいかない。いやーー

 

「ここで終わって……たまるかぁッ!!」

 

ーー良く言った、なら歌え!思いっきり歌うんだ!

 

何処からか、あの人の声が聞こえた気がした。同時に、聞いた事の無い歌が、頭の中に浮かんで来た。何処かから聞こえたあの人の声に導かれるように、私は脳裏に浮かんだ歌を口ずさんだ。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron…」

 

その歌を歌った瞬間、私の身体を光が包み込む。そして光が消えた時には、私の姿は変わっていた。オレンジを基調としたスーツに、腕に装着されたガントレット。頭には良くわからない機械が付いていて、まるでクラスメイトの一人がよく話題にするアニメの主人公みたいな姿になっている。

 

「え?え!?えええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

「高レベルフォニックゲイン反応感知!アウフヴァッヘン波形照合!パターン特定!ーーこれはッ!?パターン、完全に一致!ガングニールです!」

 

「ガングニールだとォ!?」

 

「なッ!?」

 

(グングニールじゃなくて、ガングニールって読むんだなアレ)

 

端末を操作しながら驚いたように叫ぶオペレーター、『友里あおい』の言葉に作戦室の面々は騒然とする。弦十郎は驚きのあまり椅子から立ち上がり、翼は目を見開いた。そして俺は、そんな至極どうでも良い事を考えていた。

 

「どういう事……!?だってあれは、奏の……!?」

 

「……考えるのは後だ。翼、現場に急行するぞ。付近にはノイズの反応もある。ガングニールの反応も気になるが、まずはノイズを片付けるのが先決だ」

 

「幸助君の言う通りだ。翼、幸助君と一緒に兎に角現場に急行してくれ!」

 

「……了解しました」

 

色々と凄まじい表情で翼は了承し、発進準備をする為に作戦室を飛び出した。そして俺も翼の後に続いて作戦室を飛び出す。

 

(天羽奏のシンフォギアと同じ反応……まさかな)

 

二年前、天羽奏のギアによって生死の境を彷徨った少女の事を考えながら俺は走る。

 

ーー何故だか分からないが、アイツが巻き込まれた。そんな予感を感じていた。

 

 

 

 




〜おまけ〜

『その後の幸助と翼』

「…………」
「……翼、色々と思う所が有るのは分かるが、今は運転に集中してくれ」
「分かってるわ。ちゃんと気を付けて運転してる」
「いやいやいや!?絶対集中してないだろ!?さっきから俺の身体がガードレールにガンガンぶつかって超痛えんだよ!?」
「我慢しなさい。それにしても驚いたわ。貴方、バイクにも変身出来るのね」
「偶々そういうライダーが当たっただけだっつの!今はその事を超後悔してるけどな!だから俺の事を考えて運転してくれ!」
「悪いけど急いでるの。更に飛ばしていくわよ」
「おい待て!?この状態で更に加速する気か!?お願いだからやめーー」
(ガングニール……あれは奏のギア。奏だけのギア!一体誰がアレを……)
(OMO)「ウワアアアァァァァァァァ!?」
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