ミューズの頑張り物語   作:月日星夜(木端妖精)

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第一話 女神の覚醒

 

目覚めた時、私は遠き(くに)の人の二十余年の記憶を見た。

私は私の胸に刻まれた使命を知った。私のやるべき事を生まれながらにして得たのだ。

 

今ここに記そう、私の私による私のための物語を。

 

 

 

 

 牧歌的な村に生まれた私に特別な力はこれといってなかった。

 ただ、今とは違う性別、違う価値観、違う景色を見る目を持っていた誰かの記憶があるだけだった。

 

 腕は伸びない。剣も振れない。足は燃えない。放った物の的中率は2割。

 子供であるが故に色気はなく、大きな過去が潜んでいる訳でもなく、サイボーグでもない。

 歴史を辿る探求心さえ持ち合わせていないし、船も無ければ航海の知識もない。ただ人一倍、ひつじと戯れるのだけは上手かった。

 ……私の目的を果たすためにはなんの役にも立たない取柄だった。

 

 

 

(おれ)には夢がある!!」

 

 小高い丘の上、ひつじ達に囲まれながら天を指さし、両親に語ったこと、幾星雲。

 星空の海に浮かぶ、黄色くて丸い、限りない大地。

 あそこに私の求めるものがある。

 だから私はそこへ行く。

 

 ……笑われた。何を馬鹿な事を。おかしな子ね。

 そう言って両親に家へ連れ戻されて、暖かいご飯を一緒に食べさせられて、一緒の布団で眠らされてしまうと……この生活も悪くないのではないかと思えてしまって困る。

 

 それではだめなのだ。

 私はゴッドを仲間にして、海賊になるのだ。

 

 さすがに海賊と口にするとお父さんもお母さんも少し悲しそうにしてしまうので、声には出さない。

 だが私は、いずれ世に名を轟かす大海賊になるつもりだった。

 私の中の誰かもそれを望んでいる。今生では顔も見た事のないゴッドを心の奥底から求めている。

 

 むふん。

 布団の中で、私は決意を新たにした。

 明日こそ我が悲願、達成させる。

 

 

 ……それはちょっと、無理だった。

 

 

 

 

 幾月か時が過ぎた。

 ようやく私の身長も大人の膝の頭を超えてお腹辺りまで到達。立派な成人の仲間入りだ。

 今日も元気に雑用をこなしつつ、秘密兵器の制作に奔走する。

 

 木組みと僅かな鉄を含んだ、私謹製の工作物。その名もタル大砲。

 私が体を丸めればすっぽり収まるそこへ頭を突っ込んで調子を確かめれば、ツンと鼻をつく木板の香り。

 むむー、風情がある。

 

「さあ行こう、タル大砲! "限りなき大地(フェアリーヴァース)"へ!!」

 

 ひっそりくすねた火薬を用い、導火線に点火、いそいそと砲弾になる私。

 タルは爆散した。

 お母さんにすごい勢いで怒られた。

 もういい、今日はふて寝する。

 

 

 

 

 とかなんとかやっているうちに、ニュース・クーが時代の変化を告げていく。

 見よこの手配書の数々。凶悪犯罪者たちが雁首揃えて私を誘う。

 おう、お前もはやく海にこい。大暴れしようぜ!!

 

 夢中になって見つめまくった手配書の中には、当然いずれ好敵手になるかっこいい奴もいた。

 3000万の首。海賊王になる男。

 たぶんその内、戦う事になると思うので、今日も私は功夫(くんふー)をつむ。

 うーん、拳がめっちゃ痛い。だめだ、今日はもう寝よう。

 

 

 

 

 試作大タル大砲36号が毎度の如く汚い花火になったその日、我が村落に海賊がやってきた。

 空気がぴりぴりとする。みんな警戒している。

 慌ただしい大人達の様子に不安がる子供へ村長が言い聞かせた。

 なあに、ここはきゃつらにとっても大事な中継点、穏便にしとりゃ何も起こりやせんよ。

 

 ほっと息を吐いて安堵し、遊びに走り回る子供達。

 しかし私は嫌な予感しかしなかった。

 俗に言うフラグというやつ。

 

 案の定、親が目を離した隙にどこかの小僧がやらかした。

 足にぶつかったとかそんな話を聞いた気がするが、まさかそれだけでグランドラインの海賊が大暴れはしないだろう。

 たぶんもっと機嫌を損ねる事をしてしまったのだ。

 

 剣を取り、雄たけびを上げ、物も人も構わず蹴り飛ばし斬りつけ破壊していく海賊達。

 ここで黙って見ている私ではない。

 これは時代のうねりが私へ与えた試練。そしてきっかけなのだろう。

 

 一も二もなく飛び出した。海賊どもを屠るため、私は私の道を往く。

 聞け荒くれものども、ここからは私のステージだ。

 

「あ? なんだこのガキ――」

「ゴムゴムの!」

 

 愉快そうに笑っていたひょうきんな男へ飛び掛かって行ったり。

 

「一刀流……居合」

「ん? お!?」

 

 拾った剣を使ってみたり。

 

仔牛肉(ヴォー)ショットォ!!」

「ば、そこは!? オ゛ゥ゛ッ゛!!」

 

 急所に当たった! してみたり。

 

 走り回っては見敵必殺、鍛え上げた体技が火を噴くぜ。

 うーん、海賊道ここに極まる。

 

 しかしぶたれた頬が痛い。

 斬られた腹も痛い。

 頭の中がガンガンする。

 

 もうだめだ、今日はふて寝しよう。

 

「ったく、使えねぇ野郎共が。よく"偉大なる航路(グランドライン)"でやってこられたな」

 

 おっと、そうもいかないみたい。敵首領のお出ましだ。

 ならばここが見せ所よな。いつか見た手配書の、なんと言ったかスキンヘッドマン。

 細身のカットラスぎらつかせ、この私へと襲い掛かってきた!

 

 よしきた、名を上げるチャンス。

 その首貰い受ける!

 

「「鉄塊」!」

「なにぃッ!?」

 

 

 

 

「……酷い有り様だ」

 

 革命軍と呼ばれる者達がその村へ降り立った時、そこはすでに死地と化していた。

 建ち並ぶ家から火の手が上がり、黒煙が空を覆う。無念の亡骸がどこにでも転がっていて、どこか遠くで動物たちの悲し気な鳴き声がしていた。

 

 彼らがここに来たのは偶然だった。

 とはいえ、誰もがよく使う航路。物資の補給に贔屓していた島。

 そこに火の手があれば思わず上陸もしてしまうというもの。

 

 死屍累々。

 男は目を細め、手袋に覆われた手でなんとなしに肩を叩いた。灰の欠片が地面に落ちる。

 ふと、何かの紙束が散らばっているのを見つけた。

 

「誰か! 生きている者はいないか!」

 

 崩れた家屋を眺めていた男の傍で、男の部下が声を響かせる。

 この村は彼の生まれ故郷。血の繋がった者もいたはずだ。

 冷静を装っていながら強張った喉は声を震わせ、それが聞く者の胸をも震わせた。

 そしてそれに返すように、複数の馬鹿笑いが聞こえてきた。

 

「…………」

 

 男は背に備えた鉄のパイプへ手をかけた。

 握ったまま目配せをすれば、傍にいた数人の部下達がそれぞれ頷いて、次には全員走り出していた。

 村の中心近く。そこだけ損傷の少ない酒場。鉄の臭いと静けさが充満した村に野蛮な声が響く。

 

 先行した部下の一人が扉を蹴破り、飛び込んでいく。

 一瞬騒音が消え、怒号と悲鳴で混然としだした。

 男が後に続いて酒場へ踏み込めば、ちょうど頭領と思われる海賊がカウンターを粉砕して壁に激突していたところだった。

 

 男は先ほど拾った手配書に目をやり、その男の名前と脅威度を知った。

 懸賞金3000万。刺し銀。……取るに足らない相手だ。

 男とその部下は新世界でも強者の部類に入る、ゆえに過剰戦力。

 

「な、なんだてめぇらあ!!」

 

 宴に乱入した無粋な者へ、刺し銀がカットラスを向けて誰何する。

 応えに差し出されたのは、竜の爪を象った男の手だった。

 

「相手がなんであろうと、加減はしない」

 

 その一言が引き金で――そして、幕引きだった。

 

 

 倒壊した家屋から抜け出した男は、部下達のちょっとした文句をスルーしつつ、青い空を見上げた。

 無常。

 こんなにも空は青いのに、地上はこのありさまだ。

 

「……ん」

 

 ほとんど生命の消え去ったこの村に、男は小さな命の灯を感じ取った。

 導かれるように足を運ぶ。戸惑う部下達もそれに続いた。

 

「……惨い」

 

 崩れかけた建造物に半ば融合するように立つ一本の、雄大な樹木。

 その根元。

 細身のカットラスによって幹に縫い付けられた少女を見つけて、男は思わず呟いた。

 

「緑の目……フロートさん所の子か」

「知ってる子か」

「いや……だが緑色の目をしてるのは、この村ではあの一家だけだった」

「そうか……」

 

 懐かしむような、しかし俯く部下から視線を外した男は、改めて少女を見た。

 やや癖のある金髪は編み込まれて背中へと垂れ、たしかに宝玉のような翡翠の瞳は今は虚空を眺めている。

 血だまりの上に縫い留められた小さな体からはまだなお血が流れ、濃い死の臭いを立ち(のぼ)らせていた。

 

 不意に、男は少女と目が合ってしまった。

 赤みを失った唇が震えている。何かを訴えようとしている。

 だがそれを聞く時間はない。聞く気もない。

 男は踵を返して船への道を戻りだした。

 

 部下へ、剣を引き抜くように、その子の命を繋ぐようにと告げて。

 

 

 

 

「一応、意識は戻ったけど」

「そうか」

 

 とある島。革命軍の拠点の一つ。

 古びたソファに背を沈めて軋ませ、足を組んで、頭の後ろに手を回した寛いだ姿勢で天井を見上げる男に、少女の介抱を頼まれていた女性が報告をした。

 

「なんか、ずっとゴッドがどうのってうなされてる」

 

 ゴーグル付きの帽子にオレンジ色の短い髪。コアラと言う名の女性は腰に手を当て、思案するように瞳を他所へ動かした。

 

「ゴートの聞き間違えじゃないか。ヤギ」

 

 癖っ毛の金髪。左目に疵痕のある男。

 ぼやくように返した彼の名はサボ。革命軍のNo.2で、人手不足に悩まされる若き参謀総長。

 

 違うと思うんだけどなあとなおも首を傾げるコアラは、誰かに呼ばれて部屋を出ていった。

 横目で見送ったサボは、目をつぶって気だるさの中に沈みながら、良かったじゃないか、と胸の内で呟いた。

 それは先ほど話に上った少女への祝福。

 意識が戻って良かったな。大事が無くて良かったな。

 取り留めもないような言葉は外には出ず、内側に沈んでいく。

 

 

 村を襲った海賊を捻り潰してから僅か二日。

 致命傷を負っていた少女は、的確な治療が施されたとはいえ、驚異的な回復力を見せて息を吹き返した。

 失われた命は数あれど、それを祝福しない訳にはいくまい。彼女の今後の人生を思うと、そうする事しかできなかった。

 

 彼女以外に生き残りはいない。

 

 その真実を告げるか告げまいか。あるいははっきり覚えていて、少女の心が壊れていく様を見守るか。

 どう転ぼうと、救ってしまった命だ。サボには彼女のその後に手を差し伸べる義務がある。

 

 ひとまずは……子供との接し方を思い出さなければなるまい。

 考えて見ると少々億劫になったサボは、瞬時に眠りに落ちた。

 だってファーストコンタクトとか色々面倒くさい。なので寝ようの精神なのであった。

 

 




TIPS
・ゴムゴムの
伸びない。

・一刀流 居合
居合ではないし、剣は重くてすぐ捨てた。

仔牛肉(ヴォー)ショットォ!!
けりっけりっとしょぼい連続キック。
金的狙いなのが容赦ない。

・鉄塊
生肉の強度。刺し銀さんは海軍的な響きにびびった。
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