ミューズの頑張り物語   作:月日星夜(木端妖精)

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第十六話 ミルフィーユ王国

 

「"焼鉄鍋(ボアル・ア・フリール)スペクトル"!!」

「んん……!! 足癖の悪い娘さんだ……!」

 

 上空からの赤熱キックの乱打を浴びせても、顔色一つ変えずに覇気で黒く染めた刀で受け切った大将藤虎は、私が着地すると同時に刃を収めたままの鞘で打ちかかってきた。

 ──のを、咄嗟に足を掲げて防ぐ!

 

「ふぎぎっ!」

「むぅ……!!」

 

 ううっ、ビリビリくる! 覇気と覇気のぶつかり合いってのはいつなんどきもワクワクするけど、おんなじくらいひやひやする!

 

 ぶわっと広がる衝撃と風に振袖がはためき、結った髪がなびいた。

 汗ばんだ体に吹き付ける風は心地良いとも、また、彼の気迫が乗っていて身が引き締められる気もした。

 

 やっぱり大将の前に一人で来るんじゃなかったよ~! 助けて神様、逃げきれない~!

 

「"天女"さんは生け捕りのみでありやしたね……刀ァ抜かん事を詫びたいところだが」

「必要無い! ふんにっ!」

 

 武人気質というか義理堅いというか、海賊相手に詫びてくれるその気持ちは嬉しいけれど、逃げようとしている私としては突っぱねる以外にない。

 ババッと地面に両手をついて、大開脚、のち大回転! 手加減大いに結構、その甘さを存分に突かせてもらう事にする!

 "首肉(コリエ)シュート"! "もも肉(ジゴー)シュート"!! "腹肉(フランシェ)シュート"!!!

 ……むううー、防がないでちゃんと吹き飛んでよー!!

 

「……? どうしやした……何を騒いでるんです?」

「なんの話!?」

 

 ガギンゴギンと蹴りを鞘で防ぐ藤虎さんがふっと顔をあげるのに声を発せば、なるほどたしかに周りの海兵達がうわわっと騒めいている。仮面をつけている人もたばこ吸ってる人も、逆さまの世界の中で小さくない動揺を見せて立ち上がっていた。

 なになに、なんなんかあった……!?

 

「たたた、大将殿!! そ、その子っ!!」

「馬鹿! 言う必要ねぇだろ!!」

「いや、でも!」

「……? 何かあるんだったら、言ってもらわねぇと困ります……あっしは目が、見えねぇもんで……」

 

 ぐりぐり乱回転して蹴って蹴って蹴りまくっても、大将さんは僅かに後退(あとずさ)っていくだけでダメージらしいダメージはなく、というか見えてない癖に寸分違わず攻撃を防いでいる。

 ほんなら、これはどうだ!

 上下逆転。しゃがむ体勢に移行して、思いっきり体全体に力をこめる。

 

「そのっ、て、"天女"が──」

 

「────ええ??」

「"仔牛肉(ヴォー)ショット"ォ!!」

「ぐヌ!?」

 

 周りの海兵から伝えられた言葉に呆けた声を出した藤虎さんは、渾身の燃える飛び蹴りをまともに受けた。腹に抉り込む灼熱のキック。

 遅れて刀が動くも、もはや防御は間に合わない。代わりに腹に張った覇気で防いだみたいで、ジュウジュウと焼けるのはその衣服のみだった。

 

「ぐ、ぅうううう!!!」

「っしょお!」

「ッ!!」

 

 思いっきり蹴り飛ばせば、地面を削って勢い良く後退して転倒を防ごうとしていた藤虎さんは、後ろにいた海兵さん達にぶつかってボーリングのピンよろしく複数纏めて吹き飛んだ。

 

「やった! なんか勝ったあ!!」

 

 うーん、なんだかよくわかんないけど、勝ちは勝ち!

 バーなんとかはお届けしたし、後はトンズラこくのみ!!

 

「宴舞-"ピカピカの型"っ」

「アホんだらあ! なぜ気ィ散らすような事を!!」

「"天女"が逃げるぞ!! 撃て! 構うなッ鉛玉程度では傷つかん!!」

 

 いやつくよ!? 人をなんだと思ってるんだよ!!

 って、わわ、ほんとに撃ってきた! ええい、自然系(ロギア)ガード自然系(ロギア)ガードっと!

 

「ちゅ、中将殿! 全然当たりません!」

「か、海楼石の網も、あ、当たってるのに当たらないです!!」

「なんだと!? な、なぜ──」

「じゃあね!」

 

 帯の両脇から抜き出した扇を打ち合わせ、最大光量をお見舞いすれば、みんな揃って両目を押さえてひっくり返った。効いてないのは盲目の大将一人だけ。その人だって周りの人に掴まれたりぶつかられたりして中々体勢を立て直せないでいる。

 この隙に……さらば!!

 空気を蹴って空高く舞い上がり、一心不乱に逃走をはかる。

 

「……! 逃がしやしたか……ううむ、困った。思った以上に……事態が深刻すぎやしませんか? ……サカさんになんと報告を──」

 

 

 

 

 ドレスローザから離れ、その翌日。新世界の空を気ままに飛ぶ箱舟、マクシムの上で、私はぼうっと黄昏ていた。

 それは昨日、逃走の際に風の中に聞こえた、大将藤虎の口から出てきた「サカさん」って言葉に懐かしさを覚えてしまったためか、似た名前のサカズキさんが夢に出てきちゃって、なんともセンチメンタルな気分になってしまったからだ。

 

 しかし神様はそんな私を小突いて飯作れだの余興で踊れだのなんだの……乙女心を一ミリも理解していない。

 もっとやさーしく扱わないと! 繊細なんだよ、女の子は!!

 

 そういう訳で、私は今、ちょっぴりダウナーなのだ。

 テーブルに頬杖ついて、りんごジュースをちゅーちゅーしてる。

 あま。うま。あま。うま。

 ……甘味、さいこう。

 なんかお菓子が恋しくなってきた。

 さくさくのマカロン、食べたい……。

 レアチーズケーキ、ホールで欲しい……。

 あとでつくろっと。

 

 

「ミューズ。海賊船だ」

「んあー……」

 

 静かなのに良く通る声が聞こえてきて、私はずるっと頭を落とすと、一つ息を吐いてから席を立った。

 うあー、お仕事開始だ。いや、仕事でもなんでもないけどさ……。

 

 甲板に移れば、珍しく席を離れて海を覗き見ている神様がいて、傍まで寄っていくと、代わりに自分が船を消そうかと提案してきた。

 ……私そんなにだるそうな顔してる? そりゃあまあ、まだ疲れが抜けきってなかったりするんだけどさ。

 それともたんに今日の神様は頑張り屋な性格になってるだけかな。

 

「ああでも、待って。……見覚えのある海賊旗だ」

「うん? ……知り合いか?」

「たぶんね」

 

 細いマストの頂点にはためく海賊旗には、砂絵風味でドクロと拳……海軍時代にインペルダウンにぶち込んだ新進気鋭の海賊、名前は……なんか美味しいジュース的な人だったと記憶してるんだけど。

 手すりにあごを乗せて海に浮かぶ小型の船を眺めつつ、腕を組んでうんうん思い出そうと頑張ってみる。

 ……なんか、半裸で……自然系(ロギア)みたいな超人系(パラミシア)で……そうだ、コーラスウォーターだ、たしか!

 

 私がその名前を思い出したところで、小型の船の船室からそれらしき男の影が出てくると、朝日を一身に浴びるように伸びをした。

 ……海パンいっちょうで。

 

「……知り合いか」

 

 神様の声の調子がワントーンダウンした。

 いや、うん。……なんか記憶と違うんだけど。

 あの紫色の短髪はたしかに彼っぽいんだけどなあ。

 

 首を傾げつつ見下ろした船の上で、彼は身を捻り、両腕を向かい合わせにくっつけて、「スゥ~~パァ~~」と叫んだ。

 

「──知らないおじさんだった!!!」

「……そうか」

 

 うん、あんな人知らない! 見た事ない!!

 

 "鉄人"繋がりで染まっちゃったのかなあとか腕の星手書きっぽかったなあとか色々頭の中を想像が駆けめぐったけれど、全部かなぐりすてて忘れる事にした。

 よし、見なかった事にしておこう!

 憧れる"変態"は一人でじゅうぶんなんだから!!

 

 

 

 

 なんか懸賞金上がった。

 

 お船の上で寝っ転がって直射日光を浴び、日焼けするはたから"生命帰還"にて皮膚を回復させてぺりぺり剥がす一人遊びをしていたら、ニュース・クーがやってきたのだ。高いところに購読者がいるって覚えちゃったんだね。ご苦労様。

 でもそのつぶらな瞳に見つめられると、私すっごく馬鹿なことやってるみたいで恥ずかしいよ……。

 とりあえず新聞を購入し、さっさと神様を呼んで一緒に手配書を見る。

 

 あ、神様電気ショックで私の抜け殻消した!

 ひどい。人一人分の皮が集まれば分身できるかなって試そうと思ってたのに!!

 のの様棒で頭をゴツンと叩かれた。

 

「阿呆」

「いったぁーい!」

 

 いたい! ほんといたい! 不意打ちやめて!!

 またぞろ電気ビリビリされると思ってそっちに意識傾けてたのに物理攻撃するなんて……それでも"自然系(ロギア)"の能力者かー!

 

「……ほう? ドンと上がったな」

「うう、身長縮んじゃうよ……」

「やかましい。先日お前が寝ている間にそれ以上身長が伸びない呪いをかけた。もう伸びん」

「えっ」

 

 ……えっ。神様真顔で何言ってるの。

 嘘だよね? そんなのできっこないよね? ねぇ!?

 ……空島の謎技術とかで、ほんとに呪いをかけた……のか?

 

「……」

 

 おろおろして、悲しくなってきたからへたり込んでしくしくやってれば、神様が呆れた視線を寄越した。

 

「……冗談だ」

 

 ……あ、冗談なんだ。神様冗談言うならもうちょっとわかりやすい顔で言ってよ……本気にしちゃったじゃん。

 私、将来は六メートルくらいの大人の女になるつもりなのだ。今から成長止められたらたまったもんじゃない。

 こないだ身長アップ健康法ってのを知って、毎日実践してるんだからね。努力が実る日は近い……ふふふっ、ふふふふふ!

 

「単純な奴だ……」

「? なに、神様。もっかい言って?」

 

 ぼそっと何か呟いた神様の言葉が気になって聞き返してみるも、無視された。悲しい。

 まあいいや。気を取り直して手配書の確認だ。

 こないだのドレスローザでの事件でルフィさん達はぐっと懸賞金がアップしていた。

 主犯格だからドンと一億だね。

 

 神様もなぜか一億アップしていた。

 ……何したの? 神様。

 ……ひょっとしてルフィさん達と一緒に暴れ回ってたりしてたのかな。

 そうすると私を助けに来てくれなかった理由もわかる。あー、"ご飯半分抜きの刑"と"一時間椅子の刑"とかやんなきゃよかったね。ある意味助けてくれてたようなもんだし……。

 

 それから、私もなんか七千八百万アップしてた。

 あの事件に関わった主犯格以外の手配されてる人達は一律五千万アップなんじゃなかったっけ?

 なんでこんな中途半端に上がってるんだろう。

 

 ……大将に攻撃したからかな。

 でもお互い傷らしい傷もなかったのに、こんなに上がるもんなのかなあ。

 

 腑に落ちなくてふむむと唸っていれば、神様に手配書を取り上げられて燃やされてしまった。

 ああーなんて事を! ルフィさん達のやつお部屋に飾ろうと思ってたのに!!

 

「くだらん」

「くだらなくない!」

 

 面白くなさそうに呟く神様に飛び掛かり、腕に引っ付いてずるずる落ちれば、ちょっと体の傾いた神様はじろりと私を見て、そのまま歩き出した。

 どこに行くかと思えばお部屋。

 枕元にのの様棒をたてかけて、どっさりベッドに仰向けになり、片腕を枕代わりに目を閉じてすぅっと寝入る。

 

 ……引っ付いてる私、完全に無視かー……。

 神様そういうところあるよね……ああもう、ふて寝しよ。

 

 

 

 何日かして。

 私と神様は、大きな島の祭囃子(まつりばやし)に誘われて、その王国へ足を踏み入れた。

 ……といっても最初は空からだったんだけど、なんか身綺麗な金髪の女の子がびゅーんと飛んできてレイピアっぽいので誘導してきたので、なんとなく流されたら島の唯一の入り口とやらに着陸する事になって、そこにサウザンドサニー号を見つけた私は、もう上陸するしかないよねと神様を引っ張ってマクシムから降りた。

 

「貴様、海賊だな?」

 

 ……下りたら、誘導してくれてた金髪の子に喉元にレイピア突きつけられちゃった。

 

 しかし空飛ぶ私達は海賊と呼べるのだろうか? 長い事海には下りてなかったんだけど。

 だいたい雲の上まで飛んで天変地異染みた気候をやり過ごしたりしてた。

 でも私晴れ女だからね、下界に下りればしばらくはお日様が顔を出す。

 今だってとっても良い天気! いい冒険日和だなあ。

 

「答えろ」

「まあまあ……だったとして、なんなの?」

 

 なんとか宥めようとしつつ問い返してみたけど、普通の人が海賊にいい感情を持ってない事くらいわかってる。だからこそこうして凶器を向けられている訳だし。

 こんな時でも神様はマイペース。暢気に耳ほじってのんびりそこら辺を眺めている。

 いちおう、それって私の強さを信頼しているからだよね、と納得しておくけど……手を貸してくれてもいいじゃん。もし戦いになっても神様ってなんにもしてくれないよね……気が向かないと。

 うーん。私、女の子に手をあげる趣味は無いんだよ……。

 

「ここになんの目的があって来たかを聞きたい」

 

 張り詰めた声。

 少し強い緊張を孕んだその声は、少しの引っかかりも無く綺麗で、彼女の容姿……輝くような長い金髪とか、宝石みたいなののついた羽の髪飾りとか、青色が主体の鎧のような衣服とか、凛々しいお顔とか意志の強い緑色の瞳とか……そういうのに、凄く似合っていた。

 ……それと、私と名勝負できそうなナイスバディ! つまり世界最高峰の美少女だね。

 

 あんまりじろじろ見てると不穏な空気が高まってきてしまうので、とりあえず質問に答える事にする。

 

「観光」

「かんこ……」

 

 目的といえばそれ一択だ。

 虚を突かれたように押し黙る彼女に、にっこり笑って無害アピールをする。

 怖くないよー。ただのかわいい女の子と半裸の神様だよー。

 ……怪しいか。

 

 いやいやでも、私達は悪さなんかするつもりはない。本当に観光しに来ただけだ。

 もっとも神様は良質な土を探して回りたがるからそう断言していいかはさだかではないんだけども。

 

 そんな事より、大きな石の建造物の、その向こう側から聞こえてくるテンションが上がるような和風のリズム、これが気になってしょうがない。

 

「ね、今お祭りでもやってるの? なんだかすごく楽しそうだよ」

「……ええ、今日は国をあげての祝典(しゅくてん)の真っ最中です」

 

 口調を変えた彼女が落ち着いた声で話すのに小首を傾げる。

 ふうん? 何か良い事でもあったのだろうか。

 それにしては、この子の挙動が変。

 「国をあげて」でやや後ろへやった目は陰ったし、「祝典」と口にした時は憂うように伏し目がちになった。

 なんか事件の匂いがする。いや、冒険の匂いかな?

 

「この祝典は七日間にわたって続けられています。今日は三日目……」

 

 一度目をつぶった彼女は、数秒経たないうちに目を開けると、柔らかく微笑んだ。

 

「不躾な質問、失礼いたしました」

 

 すっと剣が下げられて、腰の細い鞘にしゅっと納められる。

 わ、かっこいい! それいいなあ。金の飾りがすっごく良い感じ!

 でも、急になんで? どうして剣を収めたんだろうか。

 

「ここは関所。我がミルフィーユ王国に入る資格があるかどうかを見る砦……私はここの団長を務めさせていただいているリン・シュヴァリエルというものです」

「ははあ。私はミューズ……ええと、コーラフロート・S・ミューズです。こっちは相方の神」

「神だ」

「カミ? 不思議な響きの名前ですね」

 

 神様はどうせ興味もないだろうと思って代わりにてきとうな紹介をしてあげたら、こういう時に限って真面目に挨拶をする神様にぞくっとする。

 ……漫才の相方みたいなノリで紹介したの、後で仕返しされないよね……無言の不意打ちでビリビリさせられるのやだよう。

 

「どうぞこちらへ。入国許可証を発行しましょう」

「……? まあ、いいならいいけど」

 

 私達に背を向けて立派な砦の入口へと歩み始める彼女についてゆく。

 最初、あんなに警戒してたのに、今は全然そんな感じがしないのはなぜだろう。

 なんかそういう能力でも持ってるのかな。こう……ミエミエの実のまるっとお見通し人間とか……あれ? そういうの天夜叉さんのところにいたっけかな。

 

 

 砦内部にはもう一人、リンと名乗った女の子とおんなじ格好の人がいた。

 リンさんより背が低くて(私よりは大きい)、短めの淡い金髪。はっきりした金色のリンさんと並ぶと華やかだ。そして私とガチンコ勝負できそうなスーパーボディ! 絶世の美少女にカウントされるな。つよい。

 

 でもすごく眠そうな顔してるし、だるだるーっとした動きはどうにもやる気がないようにも見えた。

 というかその鎧っぽいの、制服だったんだね。

 

「どうも、伏兵のコーニャ・アニーニャです……妙な動きをしたら討ちます」

 

 なにそれこわい。

 扉の無い出入り口をくぐってお隣の部屋に引っ込んじゃったリンさんを見送って、コーニャさんに促されるまま分厚い石のテーブルにつく。神様は当然のように指示を無視して私の後ろに立った。眉をひそめるコーニャさん。ごめんね、聞かん坊で。

 

「海兵とて関係ありません。……気を付ける事です」

 

 ……あっ、あー、なるほど! さっき急にリンさんの態度変わったの、正義のコートに気付いたからなのかな?

 ファッションでつけてるだけのようなもんなんだけど……騙してるみたいでちょっと心苦しい。

 い、いやーそれにしてもこのテーブル、表面を撫でるとザラザラしてて気持ち良いなー。

 

 いやほんとに。ひんやりしてるし、人の目が無ければほっぺたとか押し付けたくなっちゃうくらい。

 でもなんでこんなに青っぽいんだろう? テーブルも壁もやや青い。ちょうど彼女達の制服鎧とおんなじような色合いだ。外壁は普通の石だったのに。……壁紙みたいなもんなのかな?

 

「紅茶でも飲みますか」

「いらん」

 

 あっ、神様勝手に返事して!

 せっかく好意を見せてくれた彼女が、即答されて凄い微妙な顔してるじゃん……こういう時は飲む気がなくても「はぁい」って答えなくちゃなのに。

 

「私は、その、いただきたいかなー……と」

「はぁ~…………そうですか。欲しいですか……」

 

 ええー! めっちゃだるそう! というか嫌そうな顔!

 あなたが聞いてきたんだよね、欲しいかどうかって!

 

「では、はい」

 

 彼女の態度に心の中で憤慨していれば、さっと指を振ったコーニャさんの前に、いつの間にかティーカップが現れた。

 ……え、なにそれ!

 

「ああ、魔法を見るのは初めてですか?」

「初めても何も、魔法なんてあるのこの世界!?」

「世界……いえ、世界広しと言えど、魔法を使う者がいるのは我が国くらいのものでしょう」

 

 ちょっと得意げに笑って見せたコーニャさんにミルクはとか砂糖はとか聞かれて、驚きのままこくこく頷けば、つんとカップをつっついた。それからカップを渡されたので、まじまじと覗き込む。

 湯気がたってる。ミルクティー。香りが良い。本物?

 頭の良い私の中では瞬時に様々な情報が溢れた。

 

「魔法とは愉快なものを。……だがそう使い手がいる訳でもあるまい」

「あ、喋るんですか。置物かペットだと思ってました」

 

 さっきの即答への意趣返しか、凄い事を言うコーニャさん。

 ……この子、口悪いな。魔法という不可思議を見て機嫌が良くなった神様が一瞬で不機嫌に傾いたのを感じる。

 駄目だよー、暴れちゃ! これからお祭り堪能するんだから! わたあめとか食べたいんだから!

 鎮まれー、鎮まりたまえー。何を言ったって暴れる時は暴れるから、私にできるのは神様が良い子でいてくれるよう祈る事だけだ。

 

「…………」

 

 幸い怒りよりも興味が勝ったのか、神様はだんまりになって私の後ろに立つのを維持している。

 良かった……コーニャさん助かった。

 

「ペットといえば、先に来た旅行者の方々がつれていたペットはもふもふでかわいかったです……」

 

 命の危機にあったとは知らない彼女は、だるそうな顔のまま世間話に入った。

 もふもふ……ペット。あ、それって船医さんの事だよね! サニー号あったし。でも旅行者ってなんだろう。……ああ、馬鹿正直に海賊とは言わずに誤魔化したのかな?

 ……誤魔化せるもんなんだろうか。私達はいきなり海賊認定されたんだけども。

 

「でも代表者さんは凶暴な方で、いきなり暴れ回ったりして……散々でしたねー……」

「え? 暴れ回った?」

「ええ。そっちの部屋に続く出入り口、本当は扉があったのですけど、どかーんと吹き飛ばされちゃいました」

「なっ、な、なんで?」

 

 だ、代表者って、イコール船長? ルフィさんの事を言ってるんだよね?

 えええ、なんでルフィさんそんな暴れちゃったのぉ!?

 

 お祭りの音に興奮しちゃったのだろうか。あわわ……あ、でも入国は許可されてるんだから、何かしら誤解があって、それは解けたりしたのかな?

 まさか強行突破した訳ではないだろう。ルフィさんの暴走を止める人はたくさんいたはずなんだから。

 

「……本当に、破天荒な人で……」

「……?」

 

 机の向こう側で、たぶん膝に両手を押し当てているんだろうコーニャさんは、少し顔を伏せると、なんとも言い難い表情を見せた。

 神様を見上げる。

 もしかしたら、神様ならその心の内が聞こえてるかもしれなくて、こっそり耳打ちとかしてくれるかもって期待したけれど、そんな事はなく暇そうに部屋の隅に視線を向けている。

 

「ああ、すみません。……貴女方には関係のない話でしたね」

「いえ、知り合い……なので、大丈夫です!」

「そうなのですか?」

 

 何が大丈夫かはわからないけど、意味深な言葉を残したままその話を打ち切ろうとした彼女に食い気味に告げれば、ほんの少し目を丸くした彼女は、一呼吸間を開けて、続きを話してくれた。

 

「コーニャ。あまりぺらぺらと話すものでもないだろう」

「あ、団長……そうですね、申し訳ありません」

 

 いや、話そうとしてくれたんだけど、戻ってきたリンさんに止められてやめてしまった。

 うあああ、気になるところで!!

 ……まぁ、仕方ないか。

 

 リンさんの手には木の板みたいなのが二つ握られていて、たぶんそれが許可証というやつなのだろう。

 二つとも私に手渡してきたので、一個神様に渡してからしげしげと眺める。なんか、絵馬みたい。

 上部に紐が通されてて、首に()げたりして必ず見える位置に置いといてって言われたので、さっそく首から下げてみる。……なんか神社にいる巫女さんになった気分!

 

 あ、神様もつけなきゃだめだよ。ほら屈んで屈んで! つけたげるから!

 嫌そうな顔しない! 私のパーペキなファッションセンスに任せたまえ!

 ……よし、頭に括り付けた。額に絵馬……かわいい。

 

「……!」

「あー!」

 

 怒りマークをぷしゅんと出した神様は乱暴に絵馬を外すと、普通に首から()げちゃった。もう! せっかく私がかわいい感じにセットして、怖い人じゃないって一目でわかるようにしてあげたのにー!

 

「さ、どうぞこちらへ。向こうの部屋から王国側へ出られます」

 

 きびきびした動きで自分が出て来た場所とは別の扉を手で示す彼女に従って席を立つ。

 とうとう入国だ! お祭り楽しみ!

 しかし……むむむ、やっぱり気になるなあ。ルフィさんが暴れたっていうの、この人達の妙な表情に関係してるんじゃないかなあ。

 

 でも深く踏み込んだりしちゃいけない話題だろう。私達はただお祭りを楽しみに来ただけ。なんかに首突っ込みに来た訳じゃない。

 ……ただし、ルフィさんが何かやるって言うなら話は別。せっかく偶然同じ島に踏み入ったのだから、その活躍を間近で見たい!!

 ミーハーかな。

 いいじゃんもうミーハーで。見たい見たい!!

 

 ……なんて考えていたら。

 

「おいリンちゃんいるか!?」

 

 バァン、と凄い音がして、次いで複数人の足音がドタドタと近づいて来たかと思ったら、そのルフィさんを肩に担いだコックさん……サンジさんを先頭に麦わらの一味がどんどん駆け込んできた。

 涙目のウソップさんが叫ぶ。

 

「ルフィが!」

 

 そしてもはや泣いている船医さん……チョッパーくんも叫んだ。

 

「ルフィが呪われちまったよぉおお~~!!」

 

 ゴトリと固い音をたててテーブルの脇に立たされたルフィさんは、まるで今まさに怒っているような表情を浮かべ、攻撃でもしようとしているかのように片腕を伸ばしかけた体勢で、魔法のように固まってしまっていた──。

 

 

 な……なんじゃこりゃあ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~~、イッショウさん。ポン酢はここですよォ」

「あい、すいません。何から何まで……」

「それはお互い様でしょう。大将になってからこっち、出ずっぱりで……お疲れのようですしィ」

 

 美味しい牛鍋が評判の店、赤べこ。

 その個室に、今、三人の男が集っていた。

 

 海鮮ユッケにポン酢をかけ、一動作で口へと掻き込んでご満悦なイッショウ。

 オフなので緩い和装なボルサリーノ。

 そして、ビッチリとした制服に身を包み、ムッと口を閉じているサカズキ。

 

 ボルサリーノとサカズキは、二年前と比べてもその覇気に衰えなく、ちょっとばかりの衣装チェンジはあるものの、おおむね何も変わっていない。

 

「ほらサカズキ、杯を出しなよォ。飯食いに来て……何も手を付けないのは店にも失礼でしょう」

「……わしゃあまだ、ドレスローザでイッショウが仕出かした事に納得しとらん」

 

 男三人、顔つっつき合わせて話していた内容は、先日の、世界へ向けた「大将土下座」の件だ。

 海軍のメンツはどうなるとサカズキの機嫌は斜めに傾き、譲れないイッショウとの間に火花が散っていたその時、たまたま居合わせたボルサリーノが「そういうのは酒の席でやりましょうや」ととりなしたことで、今回の会合となった。

 

「しとらんも何もぉ、起きちまった事は……まァしょうがないとして……」

「何度もお伝えしている通り、あたくしぁこれまでの海軍の、これこの通りの隠蔽(いんぺい)気質、気に入っとりませんので……」

 

 トン、とイッショウの指が机を叩く。

 鍋の煮える音の中、二つの視線が机の一角で肩身が狭そうに縮こまる女性の将校……の前に置かれた数枚の書類に集まった。

 それは明らかに今回の件を誤魔化そうと奔走した誰かの記録。

 

 しかし決定的な映像証拠、そしてそれを目撃した市民らや記者達を誤魔化す事は不可能で、結局頓挫してしまっているが、そういう動き自体があったのは確か。現に書類として残ってしまっている。

 

「気に入る入らんであんなんされたらァわしら海軍全体の威厳もクソもあったもんじゃないじゃろうが!!」

「その程度で揺らぐ威厳など……! 初めから無いも同じじゃあないんですかい……!?」

 

 バチリバチリ。激しく飛び散る火花。

 まさに一触即発の雰囲気が部屋全体をビリビリと震わせた。

 女性の将校などはもはや顔も見えないくらいに俯いて怒気をやり過ごそうとしていた。

 

「まぁまぁ、そうカッカせず……ほら、グイッといっちゃいなよォ」

「……フン」

「……これは、かたじけない」

 

 少し身を乗り出したボルサリーノが二人の杯に酒を注げば、燃え上がろうとした怒りの火はいったん収まり、双方杯を持ち上げて呷ると、それだけの時間は口論せずに済んだ。

 この僅かな時間さえあれば多少頭を冷やす事もできる。こんな場所で吠え合ったってしょうがないと己を律するくらいまでには。

 

「それに……サカズキとしちゃあその"あと"。……"そっち"の報告の方が気になるんじゃあないのかい?」

 

 苛立ち紛れに汁気のある肉とネギをいっしょくたに食らったサカズキに……一度静まりかけたマグマに火種を投げつけるような所業を、ボルサリーノは気付かずしてしまった。

 「その後の報告」とは、イッショウが海賊捕縛の可か否かを(サイ)を転がして決めた後に、たった一人で飛び込んできた少女の一件。

 

 「四皇」黒ひげ、一番船船長、ジーザス・バージェス。もはや意識すらなく瀕死の大物を片手で持ち上げての登場は、イッショウには見えこそしなかったが、周りの声を聞いた限りではかなり鮮烈だったのだろう。

 問題といえば……やむなく交戦した、その後の仲間の声こそが問題だったのだ。

 

「わっしはあの子をよくできた子だと思っていたけど……いやァまあ常識が欠落しているもんで……二年前と変わらなくって笑っちゃったよォ」

「……なぜ、あのように教えたのか、お聞かせ願いたい……! サカさん、答えようによっちゃああっしも身の振り方を……考えねば、なりやせんので……」

 

 ジュワ、と何かが融ける音がした。

 サカズキの手の内にあった杯が、僅かに残っていた中身ごとマグマと化して泡立つ手の内に飲み込まれてしまったのだ。

 瞬間的に上昇する温度に言葉を止め、顔を上げた二人に、サカズキは素肌に戻った手を握りしめてギリギリと音をたてた。

 

「そんなモンわしが知りたい思っちょるわ……!! 誰がミューズにあがいな馬鹿げた事ォ吹き込んだ!!?」

「……サカズキさんでないってぇと……そうなると、一人しか思い浮かびやせんが……」

「いやァ、おお~~……あれは──」

「"神"……何が神じゃ!! まったく忌々しいのう!!!」

 

 代わりの杯に酒を注ぎ、乱暴に呷るサカズキに、ボルサリーノは言いかけた言葉を飲み込んだ。

 

 ……ミューズのそれは、二年前、白ひげとの戦争で前触れなく反旗を翻したあの瞬間から──いや、もしかしたら中将に昇進したその時から──そうだった。

 

 あの戦争でクザンと共に彼女に応戦したボルサリーノもあれには思わずギョッとして大きな隙を晒してしまったものだ。

 どこかぼけっとした、いやいつもボケボケな顔をしていた子だとは思っていたが、何をどうすればあんな勘違いを起こしてしまうのか。大人達の誰にも想像できず、その出どころを突き止める事もできず、もはや正す事もできず。

 

 そもそもあの戦争からこっち、海軍はごたごたしていて抜け出した将校一人にかける手間も暇も足りていなかった。

 最近などは新たな元帥を決めるため、決闘の地パンクハザード島にてサカズキとクザンがぶつかりあい、丸一日をかけて勝負した、その後始末もあった。

 新たに世界徴兵で招き入れた強者たちを組織に組み込むのも一苦労……。

 

 ボルサリーノがそんな事に思いを馳せているうちに、イッショウとサカズキはいくつか言葉を交わして意見を統一したのか、許すまじ"神"と声を熱くさせていた。

 

「次遭うような事があれば……ええ、決してこの刀が逃がしゃあしませんので……」

「当然じゃあ!! イッショウ、ミューズもヤワじゃ無いけぇ、全力で構わん!!」

 

 ヒートアップする二人をよそに、ボルサリーノはのんびりたまごに絡めた肉を頬張ると、咀嚼しながら件の少女に思いを馳せた。

 ……今この瞬間もどこかでぼけっとした顔をしているんだろうなあ、なんて想像しながら。




TIPS
・サカズキの頑張り物語
かつての居候に関する報告を聞くたび酷い頭痛に襲われて頭を押さえる姿がしばしば目撃されている。
最近喫煙量と喫煙頻度が増えた。
新しい部下から「前よりお姿が小さくなられたように感じるというか、怖くなくなったというか」と評されている。

・ボルサリーノ
実はちょっとイメチェンしたけど誰も気づいてくれない。
小さい子に押された危機感からこの二年で鍛え直したりしてみたけど誰も気づいてくれない。
NEO海軍と戦った時に"ゼット"を名乗る男に一言褒められてほろりときたとかきてないとか。

・イッショウ
「ミューズ」と名前を言われても小さい娘の腰から下しか想像できない。
足が喋ってるイメージ。逆てけてけ。


・ご飯半分抜きの刑
文字通り。もう半分は目の前でミューズが食べる。
いじわる。

・一時間椅子の刑
背中に乗ったりはしない。
胡坐掻いてる神様にミューズがすっぽり収まって本読んだりする。
ただのスキンシップ。

・神様
今回は本当に何もしてないのに懸賞金が上がった。
とばっちりとか勘違いとかそういうアレ。
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