警察本部 零課   作:もののあはれ

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七十六 フェンリル

 「パパー!どこに行くの?」

 トムは、トムの父親の背中に問い掛けた。

 「ん?そうだな……、うん!正義のヒーローかな!」

 「えぇ!!パパすごーい!」

 「そうだな!でも良いか?(トム)?ヒーローは、誰にだって出来ることなんだよ。でも、必要なものがあるんだ。わかるか?」

 トムは、首を傾げる。

 「ハハッ、そうだな、必要なのは、勇気だ!じゃっ、行ってくるよ……」

 その後、父は二度と帰ってこなかった。大きくなって知ったことだけど、父は戦争に行っていた。生還兵から聞いた話だと、最期まで戦場にいた人たちを逃がしていたそうだ。トムは、それから心の中のヒーロー像を封印していたのかも知れない。なのに……。

 

 「折角の(しもべ)たちが」

 「どうせ捨て駒だろ?」

 「言っておくが、気絶していても命令は絶対。我が命に従え僕共。Eternalを殺せ」

 兵士たちは、蛸足を引き千切ろうとする。

 「嘘だろ?神経だぞ……?動けるなんて……!」

 しかし、兵士たちは蛸足を引き千切ることが出来ない。すると一人の兵士が、懐からサバイバルナイフを取り出し、体を切りつけ始めた。

 「おぉ、自身の体を切ってまっ二つにして抜けると言うことか!考えたな」

 「よせ!」

 「駄目だ!僕が何とかする!“強欲の罪(フォックスシン)”」

 弁慶は、兵士たちに手を向けた。

 「兵士からナイフを奪え」

 すると、兵士たちの持っていたナイフが、一瞬にして弁慶の足下に落ちた。

 「スゲぇ!」

 佐助が叫ぶ。

 「そんなもの……、こいつらは素手で胴体を引き千切ろうとしているぞ?」

 「させねぇ!」

 (炎司!ごめん!私が、オーディンに背を向けたばかりに!)

 「所詮人間は、弱い生き物だ!」

 「そうだよ!でもな、その分必死に生きようとしている!(ここ)にある“勇気”で、人間は!英雄(ヒーロー)になれるんだ!」

 どくん。トムの胸で何かが高鳴る。思い出したのは、父の言葉。トムはこのとき、動けるような気がした。

 「アオーーーン!!」

 「トム!」

 雄叫びを上げながらトムは、蛸足を引き千切る。体からは毛が伸び、みるみる内に体は大きくなる。

 「やっぱりトムは“(ウルフ)”なんかじゃねぇ!トムは“大口狼神(フェンリル)”……!」

 トムは、大きく口を開ける。トムの口は、雲を超す大きさだった。

 「クソッ!避けきれない!」

 オーディンは槍を構えたが、噛み潰されてしまった。

 「スゲぇ!」

 再び佐助が叫ぶ。

 トムは、口から鉄屑を吐き出す。鉄屑は、放電しながらドロドロ溶けていた。

 戦いが終わった。皆がそう思っていた。しかし、トムは人間に戻らない。それどころか、トムは、炎司に向かって大きな口を開ける。

 「ぉ、おいおいおいおいおいおいおい!」

 炎司は、トムに食べられる。炎司は、トムの上唇を押さえ必死に抵抗していた。

 「目ェ覚ませ!トム!」

 段々トムの口が落ちていく。そのとき海人が叫ぶ。

 「炎司!左手!」

 炎司は、左手を見てはっとする。炎司は、左手の義手でトムの能力を消した。その瞬間、トムは人型に戻った。

 「悪ぃなトム。助かったぜ」

 そう言って、炎司はトムを担いだ。

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