赤髪がオラリオにいるのは間違っている   作:稲荷猫

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道化師の

 

 

赤髪のヤベーやつが道化師のファミリアに来訪した。

 

勝手にファミリアの居城へと入ろうとする男。

 

名を赤髪のシャンクス。

 

道化師のファミリア改め、ロキファミリアの門を守る門番二人はそれを見過ごす筈もなく。

 

「お待ちを。今日は何用で?」

 

「ロキと酒を飲みに来た」

 

性懲りもなくまた酒を飲むつもりらしい。まだ朝なのに。

 

門番は赤髪のことを知っている。それは宴に巻き込まれたことが一度や二度ではないから。というのもあるが、まずこのオラリオに住んでいる者で赤髪のことを知らぬ者はいない。もしいるならば、それは十中八九オラリオに来たばかりの新参者か出不精が過ぎる一人暮らしの者くらいだろう。

 

「あぁ、言っておくがロキとは元々そういう約束をしていてな。お前たちのところにそういう話は届いていないか?」

 

「あーなるほど、少々お待ちを。すぐに確認してきます。」

 

どうやら門番たちは知らなかったらしい。門番たちの顔にあるのは呆れの色。どうせロキが伝えるのを忘れていたとか、そんなところだろう。

 

朝から酒を飲もうとする目の前の男と自分たちの主神に対しての呆れかもしれないが。

 

第一に赤髪の男とロキが酒を共にするのは初めてではないのだから、門番たちが警戒心薄く溜息を吐こうとしても仕様がないところだ。全くこの方々は。そんな心境だろう。

 

門番の片方が走って確認を取りに向かう。

 

傍ら、門番は少しの待ち時間の間に赤髪と会話をすることにした。視界に存在する赤髪の姿を不躾にならぬ程度に見遣りながら。

 

左腕は失っており、おそらく酒瓶が大量に入っているだろう袋を担ぐ右腕。腰にはいつも帯刀している剣があり、その身体を黒の大きなマントが包んでいる。象徴ともいえる赤い髪と目元の三本傷があるにも関わらず、その顔や雰囲気は厳つさが全く感じられぬ。

 

快活に笑い声を上げる姿を見てみれば気のいいおっさんにしか見えない。というのに歴戦の強者のようなオーラを感じるのは門番の気のせいではないだろう。

 

「シャンクスさん。いつも思うんですけど何処でその強さを身に付けたんですか?」

 

狼人をあしらい、猪人と遊びのように打ち合う姿はつい先日のよう。それほどに鮮烈で強烈に記憶へと焼き付いている。

 

「何処ってお前、そりゃ海だ」

 

「いやいや……海に出てそんな強くなるなら皆ダンジョンなんか潜ってないですよ……」

 

というかモンスターがいるこの世界で神の恩恵ファルナを持たぬ者が海を旅などまずするまい。ファルナを持たぬ者はいくら鍛えようと人の限界を突破できないのだから。

 

海にてモンスターの一匹や二匹程度ならどうとでもなるだろう。それが群れになれば船上経験豊富な実力者か、それ相応の武具防具が必要になろう。船の上という逃げ場がなく不安定な場所。考えずとも、素人が船旅をすればどうなるか分かろうというものだ。

 

そしてモンスターに関しても、ダンジョンのモンスターの方が精強であり、数も常に産み出されているため多い。

 

船上という戦いにくい場所。モンスターの強弱。この二つを念頭に置いたとき、その身にファルナを受けた者ならば物好きでもなければダンジョンを選ぶ。

 

船にて海にでるのは海沿いに住み生計を立てる者たちか、もしくは物好きに該当する者たち。それ以外は馬鹿と無知の者である。

 

赤髪のいる世界とは何もかもが違うため、門番が海にて強さを身に付けることが想像できなくとも仕様がない。

 

赤髪の世界では生身で空を跳ぶわ、剣一つで海を割るわ、海王類とかいう下手すれば島より巨大な生物がいるわ。常識?なにそれ食えんの。

 

だがこれだけ世界の違いがあっても一つだけ確実に言えることがあった。

 

「……お前たち冒険者は何故ダンジョンに潜る。更に言えば、何故冒険者になった?」

 

「それは……」

 

───ダンジョンに夢を見て

 

しかし門番はそれを言えず詰まってしまった。

 

冒険者になる者はそのほとんどが大なり小なり夢を見てオラリオに集い、ファルナを授かり冒険者となる。そしてそのほとんどが夢は夢でしかなかったと落ちぶれていく。

 

”冒険者は冒険をしてはいけない“

 

このオラリオで口酸っぱく言われる言葉。

 

冒険をせずに堅実に。自身の力を弁えて。いつも命を第一に考えて行動する。

 

ファルナを授かり、強くはなった。だがその先、限界を越えるためにはレベルを上げなければならない。レベルを上げるためには試練を打ち破り、偉業を打ち立てる必要がある。偉業を打ち立てるためには冒険をしなければならない時だってある。しかし皆が言う。

 

”冒険者は冒険をしてはいけない“

 

”冒険者は冒険をしてはいけない“

 

”冒険者は冒険をしてはいけない“

 

試練は自ずと訪れるべき者のところへ訪れるという。

 

ならばそれ以外の者は?

 

堅実に冒険者生活を送るか、冒険をして死ぬか。

 

どちらも多い。

 

このオラリオにレベル1がどれだけいるかを考えれば分かるだろう。そのほとんどはレベル1。レベルを上げた者は冒険者の全体から見れば少ない。

 

そして多くの者は試練が訪れるのを待つ者たち。レベルを上げた者たちもその多くが冒険をすることなどない。

 

赤髪に言わせれば、それは悪いことではない。自身で選んだ結果なのだ。好きなように生きることを是とする。それが海賊の生き方。流儀である。

 

───だが夢を抱えたまま、心の声に従わず生きているのなら。進みたい方向へ進まずに、周りの声に流され、心を恐れに支配されているのなら。

 

「お前たち冒険者は───」

 

「───お待たせしました!どうぞこちらへ、ご案内します!」

 

ちょうど片割れの門番が戻ってきた。

 

残っていた門番は言葉が途中で切られてしまい、その先が気になっている風だ。

 

しかし客人を足止めしてしまうわけにもいかない。戻ってきた門番は門の中へと誘導し、残っていた門番はそれを見送る。

 

「神ロキがお待ちですのでどうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

門を潜り先へと進む赤髪。だがそれほどの間を開けず振り返り。少しの微笑と共に。

 

「好きなように生きるのが一番だ」

 

───お前たち冒険者は、もっと冒険をするといい

 

夢を叶えたいなら。強さを欲すなら。まだ見ぬ景色をみたいと願うなら。

 

冒険がしたいなら、冒険をするといい。

 

ダンジョンというまだ見ぬ未知がそこにあるだろう。ワクワクするような未知がすぐ目の前にあるだろう。

 

だが赤髪はそれを口には出さなかった。門番はロキファミリアだ。自身の家族ではなく、友達というほど親交があるわけでもなく、ましてや自身の仲間、船員でもない。

 

無責任な言葉を放って死なれても気分が悪くなるだけだ。

 

故に海賊の流儀を言葉にした。背中を押す言葉ではなく。自身の背中を見せる言葉を選んだ。

 

───お前の道だ。お前が決めろ。

 

少し突き放すようにも聞こえるが、ここが今の分水嶺だろうと。

 

「ただし!」

 

「……?」

 

「やり過ぎるとリヴェリアママに怒られる」

 

赤髪はそう言って笑い、門番も釣られて笑った。

 

そして袋を持つ右手を後ろ手に上げながら去っていく赤髪を、門番は見えなくなるまで見送った。

 

その背中は何故か大きく見えて、門番は赤髪の後ろ姿が見えなくなるまで動くことを忘れたかのよう。そして一人になった門番はポツリと呟いた。

 

「好きなように、か」

 

その瞳の中には在りし日に見た夢が。その胸には在りし日に燃え上がった情熱が再び芽吹いていた。

 

とてつもなく実感の籠った赤髪の言葉は、ロキファミリアの門番の心へ深く、確かに根差したのだ。

 

その数年後、新たな名が第一級冒険者としてオラリオ中に広まったとか。そうでないとか。

 

だがそれは、今はまだ。誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 






一部の冒険者は無茶と冒険をするらしい
ヒント:ロキファミリア
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