赤髪がオラリオにいるのは間違っている   作:稲荷猫

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道化師の(その2)

 

 

赤髪のヤベーやつがヤベー神と(飲み)友達らしい。

 

「よぉロキ!飲みに来た!」

 

「おーシャンクス、入り入り。さっきはすまんなー。門番に伝えるん忘れとったわ!」

 

邂逅一番ににこやかな二人。場所はロキファミリア拠点の最上階であるロキの部屋。いつもは雑多なその部屋は、珍しく少しだけ片付けられていた。二人が座れるだけの余裕が確保してあるだけだが。いつもはそんな少しのスペースもないことを考えれば、ロキにしては頑張った方である。

 

「ほらほら、ここ座り」

 

「ああ。失礼しよう」

 

肩に担いでいた大きな袋を床に置き、赤髪は質の良さそうな丸テーブルとセットになっているイスへ腰掛ける。赤髪の対面にロキも腰を降ろすが、なにやら先程からソワソワしているロキを見て赤髪は小さく笑った。

 

「ロキ、お前どれだけ楽しみにしていたんだ」

 

言いながら赤髪は大袋の中から酒とつまみを次々に取り出す。それらをロキは準備よく用意していた木製の大きな杯と大皿へ。

 

「そんなん言われたってなー。こっちは毎日リヴェリアママに酒の量決められてんねんぞ」

 

「そりゃあお前が飲み過ぎだからだろう」

 

「どの口が言うてんねん!」

 

すっとぼけた顔で言う赤髪は自身のことなど棚上げ。というよりお前更年期障害なの?ロキが突っ込んでもどこ吹く風だ。

 

そんな赤髪にロキはジットリとした視線を送っている。連日連夜、朝昼晩関係なく宴を開いては二日酔いになるほど飲む赤髪を知っているため、羨望と嫉妬の感情が視線に乗ってしまっても仕様がない。

 

そして赤髪の開く宴に毎日参加してはベロベロの泥酔状態で帰ってくるロキを見かねて、ロキファミリア副団長のリヴェリアがロキを躾したのも仕様がない。

 

”いやだって飲み放題の食い放題で代金全部あっち持ちなんやで?そんなん行くしかないやろ!“

 

そう言ったロキの頭に拳骨が落とされたのも仕様がない。

 

そんなことばかりしてるからリヴェリアがママと言われてしまうのも仕様がない。

 

おいなんだ、赤髪だけ一人勝ちしてる感がすごいぞ。

 

「まあまあ、ほれロキ。今日リヴェリアはいないんだろう?なら早速乾杯といこうじゃないか」

 

「せやな!リヴェリアは朝早くからダンジョンに向かっとるし、今日は飲み放題や!」

 

(さてはこいつ、リヴェリアに今日のこと内緒にしていたな?それなら門番に今日のことを伝えていなかったのも、朝の時間を指定してきたのも全て納得がいく。……今日は早めに帰るか)

 

とばっちりで怒られたくはないからな。赤髪はそんな事を考えながら杯を持ち上げた。

 

この二人、よく考えなくとも実にソックリである。その赤髪と緋色の髪。酒好き。よく回る口。頼りになるが悪知恵にも多用される回転の早い頭。人をよくおちょくる癖。能天気でひょうきん。片や海賊の頂点『四皇』の一角にして赤髪海賊団の船長、片やオラリオの二大ファミリアが片割れ『ロキファミリア』の主神と、両者トップに立つ者同士。さらには赤髪は海賊『四皇』の一角故に周囲から常にマークされており、ロキは過去『悪神』として神々を相手に暴れまわった上で現在が現在なため、やはり周囲から常にマークされている。

 

お前ら実は兄弟?

 

そんな疑問を呈してしまう程の似た者同士。故に恐ろしいほど気が合う。同族嫌悪?この二人に?ないない。

 

それにしても世界は違うのに不可思議なこともあったものだ。ただ両者から割りを食う者たちにとっては有り得て欲しくない奇跡である。というか地獄である。

 

「よっしゃ!ほなシャンクス!音頭頼むわ!」

 

「……そうだな」

 

音頭を頼まれた赤髪はほんの少しだけ頭を悩ませ、言葉が決まったのかロキと目を合わせて口角を上げた。

 

「朝から酒が飲める、俺たちのこの目出度い今日に」

 

お前ら朝からよく飲んでるだろとか言ってはいけない。そんなことは二人共よく自覚しているのだ。故に、これはただのジョークである。

 

「「乾杯!!!」」

 

部屋に響き渡る。気持ちのいい音が鼓膜も震わせた。

 

 

二人は一気に杯を煽り、その中身を全て胃へと収めてしまった。

 

杯を勢いよくテーブルに叩きつけ。

 

「「プハーッ!」」

 

息を吸うのも同時。そのまま酒瓶を掴むのも、それを相手の杯へ並々と注ぐのも同時。全くもってピッタリと合った動作だ。

 

そのままロキは、赤髪に会うたび言っているお決まりとなったセリフを口に出す。

 

「それにしてもシャンクス~。いつになったらウチのファミリアに入ってくれんねんな~」

 

美男美女に目がないロキは、自身のファミリアへ気に入った者がいれば迎え入れる。しかしロキが見ているのは外見だけではない。その内面もまた自身が気に入るものなのか、常には開いていないように見えるその神眼で隅々まで観ているのだ。

 

そんなロキに言わせてみれば、赤髪は是が非でも欲しい存在である。

 

見た目はイケメンというよりも、男前と行った方が通じる外見。背丈も大男と言うほどではないが、見上げねばならぬ程には長身だ。

 

その肉体も衰えなど感じ得ない程に立派なもの。鍛えたというよりも、旅や冒険、戦いの中などで実践的に練り上げられたのだろう。肉体美などよりも無骨な印象を受ける。

 

しかしそれは相手の不安や恐怖を煽るものではなく、ましてや無法者や粗野な印象を与えるものでもない。真にその素性は無法者だというのに、頼りになる印象がとても強いのだ。まさに王のような。いや事実、赤髪は海の皇帝。さらに皇帝としての資質も群を抜く。

 

だがロキが知っている、周囲に一番インパクトが強い部分で言えば、ロキファミリアの中核メンバーを簡単にあしらう底見せぬ実力だろう。

 

先に実力行使に出るのは必ずロキファミリアのメンバーだというのに、いざ戦い初めても攻撃を全くせずに柳のようにユラユラと攻撃を捌くだけ。口で先におちょくり出すのは赤髪なので自業自得な気もするが。それでも手は絶対に出さない。

 

無駄な争いは避けるタイプなのだろう。もしくはロキファミリアとの戦いになっても、戦いという意識はなく、少しヤンチャな子供と遊んでやっている。そんな程度の意識であろう。

 

「おいおい、何度も言ってるだろう。俺は海賊なんだ。冒険者にゃならねぇよ」

 

「え~!そんなこと言わんで入ってぇな~!」

 

赤髪がファミリアに入るということは冒険者になるということだ。そうすれば赤髪は海賊をやめなければいけなくなる。そんなことは勿論できない。一人勝手な判断で新たな組織へ入り、主神の下で新たな仲間を作り、冒険者としてダンジョン探索を繰り返す生活。そんなものは、今ここにいない自身のクルー達への不義理だ。

 

簡単に言えば、二つの海賊団を掛け持ちするようなもの。両者の団員は赤髪が掛け持ちしていることを知らず。それは同盟を組んでいる訳でも、傘下に入っている訳でもない。下手をすれば、裏切り者のレッテルを貼られるかもしれない。そうなってもしょうがない。

 

”仁義を欠いちゃあこの人の中は渡っちゃいけねぇんだ“

 

かつて世界最強の男、白ひげが赤髪に言った言葉。

 

黒ひげと呼ばれる男。白ひげの船に乗りながら裏で自身の仲間を集め、時が来れば仲間を殺し裏切った男。

 

その男に教えてやりたいんだと叫んだ白ひげの言葉と姿が、何故かふと赤髪の中に甦った。

 

赤髪は考える。

 

仮にファミリアに入り冒険者稼業するとしよう。そして海賊を止めたくないから、同時に海賊としての活動もするとしよう。要はどちらもその手に取るということだ。

 

だが赤髪はそれを良しとしないだろう。

 

赤髪は好きなように生きることを信条としている。そしてそれは海賊として生きる赤髪の信条。冒険者となれば海賊稼業だけに注力するわけにもいかない筈だ。

 

様々なことがあった海賊生活。自身の人生そのものであった海賊生活。勝利や敗北、敵や仲間、尊敬する人、約束を交わした少年。苦い経験も辛い経験も、嬉しい経験も楽しい経験も。色んな旅があった。色んな冒険があった。そしてそこには常に大切な仲間たちがいた。

 

それは全て、海賊として生きてきた赤髪の宝物。そしてその宝物はこれから先の全てでもある。

 

海賊が宝を捨てるなど言語道断。

 

赤髪の一番は変わらないのだ。

 

故に冒険者にはならない。ファミリアには入らない。

 

赤髪は必ずあの場所へと帰らなければならない。いつか訪れるその時は、避けようのない確定した未来。

 

今ファミリアに入り冒険者となれば、それは相手側に対しても、自身の宝物に対しても不義となる。

 

赤髪は宝物を蔑ろにしてまで、相手に不義理を働いてまで。そこまでして中途半端な選択を取るなど自身のことであっても許しはしない。

 

何故ならば赤髪は─────

 

 

──────仲間を、友達を傷つける奴は、どんな理由があろうと絶対に許さない。

 

だから、

 

「悪いな、ロキ。これだけは譲れないんだ」

 

男臭い少しの微笑。だがその瞳には、少したりとて曲がらぬ信念が光り輝いていた。

 

「ぶぅー。そんな言われたらしゃあないなぁ」

 

ロキはそう言いながらも、これだと確信する。

 

自身が赤髪を欲する理由。

 

それは誰にも曲げられぬ赤髪の在り方。

 

神でさえ赤髪の信念を曲げることはできないと思わせるその強固な精神。

 

神でさえ汚すことは不可能だと思わせるその高潔な魂。

 

胸の内に秘めた大切なもの。決してそれを譲らず曲げない。それは周囲を良くも悪くも引き寄せる。

 

(例えるならシャンクスは光や。ウチらはただ光に引き寄せられとるだけ。まるで生まれてから今までずっと、暗闇の中を歩いとったような気分になるわ)

 

ロキは思う。

 

(真の英雄。こいつみたいなんを、そう言うんやろなぁ)

 

ロキが生まれて初めて見た人間。

 

(やっぱり下界は、子供らは、おもろいなぁ~)

 

ロキはこの英雄が心底欲しい。

 

けれど、この世の者が太陽に決して手など届かぬように。この世の者が不変不滅の超越存在(デウスデア)へと決してその身が至れぬように。

 

その目に映っていようと、手に入れることは愚か、届くことも、触れることも、決してできはしないのだ。

 

恐らく、真に誰も。

 

この光を好きにできる者はいない。

 

それはこの光に当てられて気分を高揚させ、その存在を欲する美の女神であっても。

 

その内面に惹かれ、溢れ出す光全てを手に入れたいと考えるロキであっても。

 

「あぁ~。シャンクスがおったら酒飲み仲間が増えるし、リヴェリアにも行動縛れへんやろうし、毎日が酒飲み放題になる思たんやけどなぁ~」

 

……恐らく、その内面に惹かれたのであろう。多分、惹かれたのだろう。きっと惹かれたと思う。

 

 

 

二人は杯を煽り続ける。

 

酒も肴もまだまだ残っている。

 

現在はオラリオの朝日眩しい時間帯。

 

その小さな宴は、終わるまで気長に待つ必要がありそうだ。

 

二人はリヴェリアがダンジョンから帰還し、完全に出来上がった姿をその視線と拳で正されるまで、その口を止めることはなかった。

 

「こりゃあ参った。リヴェリアが戻ってくる前に帰るつもりだったんだが。楽しみ過ぎたか」

 

「ほう、そうか。ならば楽しみ過ぎた代償が必要だな。喜べ、私が与えてやろう」

 

「……せや!ウチはそろそろ皆のファルナを更新してこなアカンから、喜ぶのはシャンクスだけになってまうなぁ!」

 

「逃がすと思うのか?ファルナの更新は明日の朝でもいいだろう。皆には私から言っておいてやろう」

 

「おっと!俺も今日はこれから約束があるんだった!いやぁ危ない危ない。それじゃあロキ、また飲もう!」

 

「逃がすと思うのか?酔いを醒ますためにも少し休んで行くといい。部屋は余っているから心配するな」

 

否。

 

ニッコリ笑顔のリヴェリアと、足を引っ張りあう二人の口は暫く止まることはなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






おちょくるとすぐ手を出すやつがいる
ヒント:ロキファミリア
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