赤髪がオラリオにいるのは間違っている   作:稲荷猫

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道化師の(その4)

 

 

赤髪のヤベーやつが四面楚歌らしい。

 

リヴェリアから解放された赤髪は、漸くロキファミリアから帰路に着こうとしていた。夕陽は既に地平線の彼方へと沈み込もうとしている。空には太陽と月の両方が同居する時間帯であった。

 

「さて、もういい時間だ。俺は帰るとしよう。世話になったな」

 

「ちょい待ちぃや。ウチも途中まで着いてくわ」

 

「私も行こう。そろそろ皆も帰ってくる頃合いだろうからな」

 

三人で連れ立ってロキファミリア本拠の最上階、ロキの部屋より歩みでる。階段を下って行けば、早朝は静かだったというのに、全く別の空間のように騒がしさが伝搬してくる。

 

階段を下りきり、本拠の正面入口まで歩く。扉を開ける前に赤髪は振り向いた。

 

「また飲もう」

 

簡潔な別れの言葉。だがそこには、また会おうという意味も籠められている。

 

それは酒好きとしてロキへと送った素直な気持ちか。それとも先ほどまで怒っていたリヴェリアへ送った、からかいの言葉であったのか。両方の意味を持っていそうだ。

 

ロキは素直に。

 

「おー、待ってんでぇ」

 

リヴェリアは溜め息をついて。

 

「あまり飲みすぎるなよ。体を壊しても知らないぞ」

 

そこで今日のところはお別れだ。

 

赤髪が前を向き扉を開けようとして。しかし向こう側から先に扉が開いてしまった。

 

「おっと」

 

赤髪は横に避ける。

 

そして扉が開ききり、向こう側に誰が立っているのか視認することが出来た。

 

真っ先に声をあげたのはロキだ。

 

「おっ!アイズた~ん!お帰りぃ~!」

 

そしてアイズへ飛び付くロキ。軽く避けられてしまい地面に衝突。

 

「……ただいま、ロキ」

 

地面のロキを見下ろし呟くアイズ。その瞳は心なしか冷たく見える。

 

「はぁ……。毎度毎度なにをやっているんだ。……お帰り、アイズ」

 

「ただいま、リヴェリア」

 

そしてまたも溜め息を付くリヴェリアだが、アイズへの言葉は忘れない。

 

そこへ赤髪。

 

「よおアイズ。ダンジョン帰りか?」

 

「……シャンクス?なんでいるの?」

 

「なんでって、そりゃロキと飲んでたからさ」

 

声をかけた赤髪への返答。どうやらアイズは赤髪と顔見知りのようだ。

 

シャンクスの答えにアイズは納得したと言うように、コクりと一つ頷いた。

 

「今日は運がいい。会いに行く手間が省けた」

 

「おいおい。今日はもう帰るんだ、勘弁してくれ」

 

「だめ、逃がさない。付き合ってもらう」

 

なんだか聞きようによっては色恋沙汰に聞こえるが、赤髪はともかくアイズにそんなつもりは微塵もない。

 

しかし反応する影が一つ。いや二つ。

 

「ちょお待たんかい!おい、シャンクス!アイズたんに手ぇ出したらお前やかって許さへんでぇ!」

 

一つ目。さっきまで地面に抱擁をしていた、美男美女大好きロキファミリアの主神。

 

「おいてめぇ!気に入らねぇ匂いがすると思ったら、なんでここにいやがる!」

 

二つ目。何故かアイズが帰って来てから飛んできた、ロキファミリアの狼人。

 

「いやだから俺はもう帰ると言ってるだろう。ロキとベートもそうカッカッするな」

 

三人に向けて諌めるように言う言葉。

 

「ほらお前たち。シャンクスもそう言ってるんだ、特に突っ掛かることもないだろう。それにここに居ては邪魔になる。早く移動するんだ」

 

一番真面なリヴェリアが場を納めるために言葉を吐き出すが、ここにいるものはファミリア内でも問題児ばかり。そう簡単には動かない。

。そう簡単には動かない。

 

「だめ。付き合って」

 

シャンクスの裾を掴んで、上目遣いでお願いをするアイズ。その様子は梃子でも動きそうにない。

 

そしてその姿に触発されるバカ二人。

 

「お、お、お……おおぉぉぉぉぉぉいっ!!何してくれてんねん!ウチの前で!ウチにもしたことないアイズたんのおねだりポーズっ!許さへん!そんなん許さへんでぇシャンクスぅ~!そして何より羨ましい!ウチにも!ウチにもしてぇなアイズた~ん!!」

 

「おいさっさと帰れっ!そして二度とくんな!あとアイズから手ぇ離しやがれ!てめぇみてぇなオッサンとアイズが釣り合うわけねぇだろうがぁ!早く離さねぇと蹴り殺すぞ!このケチャップ頭が!」

 

「お前たち……」

 

少しだけ目を見開き驚く赤髪。

 

なんだ。嫌な予感がするぞ。リヴェリアの胸には一抹の不安が芽生える。止めなければ。

 

「おい!いい加減に───」

 

リヴェリアが言い切る前に、赤髪の口が動いてしまった。

 

「───もしかして嫉妬してんのか!」

 

そして吹き出しながらも、言い切ってしまった。

 

赤髪は相手を煽る。というか、からかい目的で煽っていく。悪気はない。赤髪の元々の気質だ。某ゴムゴムの実の能力者が幼少のころ赤髪にからかわれていたように、からかい概のある者を見付けると直ぐに口が動くのは赤髪の癖のようなもの。

 

もしくは海賊として海の荒くれ者たちの相手をしてきたが故のノリなのか。

 

だが相手をどれだけからかおうとも、赤髪と相手の仲が悪くなるようなことはない。それは赤髪の気持ちの良い在り方や王としての資質があってこそなのか。

 

大穴は大人としての一線を弁えている。などの理由もあるだろう。………いややっぱ無いな。

 

「……浮気癖のある男女と、粗暴な犬っころか。

そりゃ俺を選ぶ」

 

ポツリと呟くように。

 

やれやれ。そんな動作をする赤髪。そして反応する二人。

 

「おいこら何処見て男女言うたんやぁ!!」

 

「犬じゃねぇ狼だ!目ぇ腐ってんのか!!」

 

「……はぁ。」

 

「……?」

 

溜め息を吐くリヴェリアと、なぜ今の状況になったか理解が及んでいないアイズ。全くもって事態は好転しない。

 

ワイワイギャイギャイ。一通り楽しんだのか赤髪は一息ついた。そして、すっとぼけた顔で一言。

 

「じゃあ俺はもう帰るから」

 

ゼェハァゼェハァと息を切らしていたロキとベートは即座に反応する。

 

「帰すわけないやろっ!」

 

「帰すわけねぇだろっ!」

 

ふたりは息ピッタリであった。

 

「なんだ全く。お前たちは帰れと言ったり帰るなと言ったり。一体どっちなんだ。しょうがない奴らだな」

 

ぞんざいな物言いをする赤髪。某ゴムの少年なら鼻くそをほじりながら言っているだろう。間違いない。

 

その雰囲気は実にそっくりである。ただ一つ違うのは、ゴムの少年は天然で相手を煽るが、赤髪は故意であるところ。

 

「こいつっ……!」

 

プルプルと震えるベート。しかし残念。口で赤髪に敵うわけがない。年季が違うのだ、年季が。

 

しかしロキの反応は違った。大きなチャンスを我が物にせんと攻勢に出た。─────ベートに。

 

「帰れ帰るな言うたんはベートだけですぅ~。ウチは帰るなしか言うてません~」

 

「んなっ!!?」

 

というかロキがベートを裏切っただけであった。

 

珍しく息ピッタリに共同戦線を張ってたのに……。しかも主神からその戦線を崩しに掛かるというゲスっぷり。

 

板挟みのベート。

 

(クッ!どうすれば!?)

 

しかし思わぬところから救いの手が差し伸べられた。

 

「もう止めて」

 

「──!……アイズ!!?」

 

「アイズたん……!?」

 

驚くロキとベート。まさかアイズが助け船を出そうとしているなんて。

 

一体誰の味方をするつもりなのか。それともこの争いを止めたい故の発言だったのか。

 

「私は早く、シャンクスと戦いたい」

 

別に助けでもなんでも無かった。自身の欲望を優先していただけだった。

 

そのヒューマンとは思えぬ美しさを誇る顔。そしてその肢体。それらの内側には一体何があるのか。今現在はどうせ、じゃが丸君と強くなりたい想いしか無いんだろうな。考えるだけ無駄だったかもしれない。

 

「私と戦って、シャンクス」

 

その訴えかける視線。常人には耐え難いものであろう。しかし目の前にいるのは赤髪の大海賊。自由を信条とする海の無法者だ。

 

「悪いな、俺は忙しいんだ」

 

しかし。ここに来てロキファミリア。

 

「帰ってもどうせ酒飲むだけやろ」

 

「この飲んだくれが」

 

「今日あれほど飲んだというのに、まだ飲むとは」

 

……赤髪は大海賊。自由を信条とする海の無法者。例え四面楚歌になろうとも、赤髪が周囲に流されることなど有りはしないのだ。

 

「訓練場でやろう」

 

「一人また酒飲むとか許さへん。戦ったりぃや」

 

「俺とも戦えクソヤロウ。さっきまでの恨みだ」

 

「酒を絶つには良いかもしれんな。戦ってやれ」

 

四面楚歌であっても、赤髪は大海賊。自由を信条とする海の無法者!

 

「早く行こう」

 

「はよ戦ったりぃや」

 

「ノロマが」

 

「子供の頼みくらい聞いてやれ」

 

いきなり息を合わし始めるロキファミリア。

 

しかし!四面楚歌であっても赤髪は大海賊!自由を信条とする海の無法者!

 

「なんと言われようが今日はもう───のわっ!」

 

帰る。そう言おうとした赤髪は、その言葉を吐き出すこと叶わず。驚きながらも大きく飛び退く。

 

アイズ・ヴァレンシュタインを見てみれば、なんとその手には剣を握っている。というか振り切った後だ。

 

「……無理矢理にでも戦ってもらう」

 

恐らくこのまま問答をしていても、赤髪が頷くことはないと悟ったのだろう。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン。その儚く美しい見た目からは想像できない強引さである。

 

「おいおい。強情なやつだな」

 

「シャンクス程じゃない」

 

そんな言葉を交わしながら。

 

アイズは踏み込み、自身の相棒たる細剣『デスペレート』を赤髪へ突き込む。

 

それをヒラリと軽快に避ける赤髪。

 

そこへリヴェリアの声が響く。

 

「おいシャンクス。この館を傷付けたら弁償して貰うかなら」

 

これがさっきまで戦えと言っていた者の言葉だろうか。まあ未だに屋内に居るのだから当然の話ではあるのだが。

 

「……しょうがない奴だ。おいアイズ」

 

そう言って赤髪は、アイズが帰って来てから開けっ放しとなっていた扉を潜り外へ出た。まるで着いてこいと言っているかのよう。

 

「……」

 

そしてアイズは追いかける。まるで父親を追いかける娘ように見えたのは、ロキの目が可笑しくなってしまったからだろうか。

 

「自分で戦ったりぃ言うたけど、なんやミスった気ぃするなぁ」

 

シャンクスにアイズが盗られてまいそうや。そんなことを考えながら、ロキは外へと出ていく。

 

その後をリヴェリアが。シャンクスが戦うところを見るのが初めてのため、この機会にシャンクスの強さを確かめようと考えながら。

 

そして最後にベート。その瞳に強い意思を宿しながらも、一つ舌打ちをして後を追った。

 

 

 

そしてロキファミリア本拠の庭にて。

 

どうやら皆は離れている訓練場ではなく庭に出たらしい。

 

そこに集まる五つの影。カラフルな頭髪が集まって庭にいるせいか、ロキファミリア本拠の中からも人が続々と集まって来ていた。

 

基本的に娯楽がそれほど多くない世界だ。皆が注目して集まってきても、然して珍しいことではない。ましてやレベル6のアイズが剣を構えて赤髪と対面しているのだ。気にならない者の方が多かろう。

 

さて。これから起こる一幕。

 

庭にて集った者たちが、どんな様相を呈すのか。その心情はどんなモノであるのか。酒の席であれば肴にちょうど良かったが。

 

これから起こるはどうやら肴になりそうもない。

 

夕陽が沈んだ頃合い。本拠から漏れ出した光に照らされて。

 

赤髪はカチャリと、剣を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────────

 

 

 

 

 

同じ頃合い。

 

闇に包まれた世界で蠢くナニカ。

 

バレないように、慎重に。

 

徐々に徐々に、魔の手は忍び寄っている。

 

世界が気付いても手遅れになるように。

 

王を打ち倒さんと迫っている。

 

その時は、近い。

 

 

 

 

 

 

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