ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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詩乃と棚坂兄弟が出会うシリアスな話です。




間章 朝田詩乃と出会いの日 前半

 

 

窓の外を見ると、雪が降り始めていた。

雪を見ると、私はあの日のことを思い出す。

 

私が、あの二人に初めて心を許した、あの日を。

 

***

 

それは、東京に出て一人暮らしを始めてから約数ヶ月が過ぎた頃に起きたことだった。

 

今まで一緒にいた祖父母が体調を崩し、そこから老人ホームに移ったために私は祖父母が売った家のお金でこじんまりとしたアパートの一室で一人暮らしをしている。二人の家をそのまま引き取らなかったわけは、祖父母の家はそれなりに広く、維持費もそれなりにかかってしまうからだ。

 

そんな背景もあってか、私はいじめも受ける羽目になっている。

どんどん悪化するそれに加え、()()の発作までひどくなる始末。

私の生活は外面には出ないものの、内面では荒れに荒れていた。

 

そんな話はさておき、私の隣の部屋に引っ越ししてきた人がいるようだ。

二人は棚坂さんといい、引っ越し初日に軽い挨拶をした程度だ。

二人は私に何か困ったことがあればなんでも言ってくれと言ってはくれたものの、私は決して頼らないようにしている。

 

それじゃあ、私は強くなれないからだ。

 

時々隣の部屋から少しだけ聞こえてくる大きな声から、二人はゲーマーであることがわかっていた。

顔が整っているのに外にも出ずにもったいないな、なんて失礼なことを考えたこともあった。

ただ、隣の部屋から聞こえてくるギターの音色は、私を癒してくれていた。

その曲は私はあまりよく知らない少し昔の恋愛の曲らしいのだけど、なんだか落ち着いた。

恋愛なんて、したことないのに。

 

***

 

その日は、雪が降っていた。

私は都内のスーパーの帰り、近道かなと思って路地裏を通った。

 

それが、私の人生を変えた。

 

 

「おーい、朝田ァ、ちょっと金貸してくんない?」

 

 

まさかこいつがいたなんて、と思わず溜息を吐きそうになったが堪える。

そいつは中学生のくせして金髪に染めた男で、見るからにチンピラです、と言った感じのチャラチャラした服装をしていた。

彼は私を中学でいじめをしている男。

名前はなんだったか、田中だかなんだかだったと思う。

何人かで私からカツアゲをしようという魂胆なのだろう。

 

私はそこから逃げようとした。

 

しかし、体はそれを許容しなかった。

 

 

 

自分に向けられた、人差し指。

 

「バーン」

 

銃。

 

数年前の出来事が頭をよぎる。

 

強盗、母、銀行、血。

 

 

血塗られた自分の手と、銃。

 

銃。

 

銃銃銃ジュウ銃銃銃銃銃銃じゅう銃銃銃銃銃銃銃銃ジュウジュウジュウ銃ジュウジュウじゅウジュウジュウジュウジュウジュウジュうジュウ銃ジュウジュウ銃ジュウジュうジュウ…………

 

「あ、ああ、ああああ」

 

人殺し。

 

「ちょっと、こいつこんなのでビビってんのか?」

 

どこかで声がした。自分の声?いや、あの男の仲間の声だ。

私はすでに正常な判断ができていなかった。

 

「ほら、さっさと金出せや」

 

不良の声が遠くに聞こえる。

視界がぐらぐら揺れる。

胃からせり上がってくる感覚をなんとか押さえ込む。

 

膝をつく。冷たい雪が膝を濡らす。

 

ああ、やっぱり私は弱い。

 

その時。

 

ザッ。

 

足音がした。

 

「うーわ……まったくおいおい、カツアゲなんざ今更誰もやらんぞ?時代錯誤もほどほどにしたらどうですかぁ?」

 

男性の声だ。それにチンピラ連中も反応する。

 

「はぁ?正義の味方なんて、さらに時代錯誤じゃないかな?」

 

「そうだそうだ!邪魔すんなよ‼︎クタバレェ‼︎」

 

「おいおい、んなテンプレ的超展開……」

 

バキッ!

 

「もう流行ってねーぞ、こらぁ」

 

気だるげな声とともにチンピラの取り巻きが一人吹っ飛ぶ。殴り飛ばされたらしい。それを見てチンピラ達が慌てて逃げ出した。

焦点の合わない目で後ろを見ると。

 

「おい、大丈夫か、お隣さん」

 

黒髪の整った顔の男の人。

私は無意識にその人を見て安心したのか、意識を手放した。

 

***

 

目が覚めた時、私は自分のベッドに寝ていた。

 

「あれ……?」

 

「ん、すまないね、上がらせてもらってるよ。さすがにろくに知らない男のベッドに寝かされるのもなんだろう?」

 

私がそちらを見ると、黒い厚手のパーカーを横に抱え、猫を模したちょっと可愛らしい指輪をつけた中性的な顔立ちの男の人がいた。

 

「ま、勝手に上がり込むのも非常識だとは思うがね、許しておくれ」

 

「えと、棚坂さん……?」

 

「それじゃあ兄貴と分けらんねぇだろ?樹でいいよ」

 

樹さんはそういうと台所に行き、小さな鍋を持って来た。

私の元へ持ってきて、蓋をあけると食欲をそそるいい匂いがした。

 

「ほら、食えるか?」

 

無愛想に見えながらも優しさが見え隠れする声でスプーンで口元に持ってきてくれる樹さん。

私は言われんがまま、一口食べてみた。

 

「……美味しい」

 

体が芯から温まるようだった。

そこで樹さんはほおを緩め、良かったと言った。

暫くして、少し逡巡した様子の樹さんが私に問いかけた。

 

「なぁ、朝田。君は何があったんだ?あの怯えよう、普通じゃない」

 

その瞬間、穏やかな気持ちが冷めていくようだった。

それを察したのだろう、樹さんは私の頭にぽん、と手を置くとわるい、ちょっと待ってな、と鍋から容器に移し替えると私にそれを渡し、自分の部屋に戻っていった。

容器も猫柄でそんな状況でもなかったはずなのにちょっと可愛らしく思ったのをよく覚えている。

 

戻ってきた時、彼はお兄さんを連れていた。

 

「えと、棚坂ヴァサゴさん……?」

 

「ヴァサゴでいいよ」

 

そこにいる海外の人のような顔立ちのイケメンのお兄さんは棚坂ヴァサゴさん。樹さんのお兄さんらしいがあまり似ていない。

 

「樹から聞いたよ、不良どもにカツアゲされてたそうだね。まぁ、そこはいいけど」

 

ヴァサゴさんは真面目な表情で私に聞いた。

 

「君はなんらかのPTSDを持っている、違うか?」

 

ドクン。

 

私の心臓が脈打つ。

 

「どうして、それを?」

 

「普通ならありえないからな。不良にカツアゲされたくらいで気を失う。流石にそこまで君も気は小さくないだろう?」

 

確かに、囲まれてもいなかったし、あの銃の構えさえなければ私はあっさり逃走できた。

上体を起こしたままの私に樹さんは優しい声音で私に問いかけた。

 

「聞かせてほしい。俺は、君の助けになりたい」

 

 

助けになりたい。

 

私の心に、その言葉が響いた。

 

 

 

助けて。

 

 

 

私をこの地獄から、助けてほしい。

 

 

そんなことが頭によぎった瞬間、私の口は勝手に動いていた。

 

「……い、します」

 

涙が頬を伝う。

 

二人が驚いた表情になる。

 

 

 

「私を、私を助けてください……!」

 

 

 

二人は、強く頷いた。

 

 





続きは次の章の終了後に。

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