今回は話の都合上、三人称視点で物語が書かれています。
今年最後の投稿となります。
皆さんは今年一年はどうだったでしょうか。僕はそれなりに楽しい一年だったように思えます。
来年もぜひよろしくお願いします。
棚坂樹とキリトと少女
ある日、アインクラッドでプレイヤーが自主制作している新聞の一面をデカデカとある記事が飾った。
『オレンジギルドまた壊滅!《ファミリー》、またもや中層プレイヤーを救う!』
「こりゃまーたド派手にやったナ、タナ坊」
「ま、兄貴曰く今回のは奴らの動きを少しの間でも沈静化させるための牽制も兼ねてるらしいしな。そろそろ攻略に戻らないとアスナとノーチラスにギャーギャー言われかねない」
新聞を見ながら路地裏で佇む男女。
二人とも顔にペイントを施していて、女はネズミの髭のペイント、男はギリシャ文字のθをそれぞれ頰に施していた。
事情を知らない者から見ればそれは恋人の逢瀬にも見えるのやもしれないが。
真実はただの義賊と情報屋の密会。
そこにロマンはない。
「それより、何の用だ?アルゴ、お前から呼び出すなんて珍しいな」
男が聞く。
「ちょっとあるオレンジギルドの壊滅を依頼している男がいてナ。キー坊とともに事件の解決にあたってもらいたイ……途中までお前だと気づかれないように、猫耳パーカーはともかく、そのほおのペイントは落としてくれヨ」
情報を見せる女。男の方は苦笑気味に頭を掻く。
「こりゃまた難儀な依頼だな……現行犯で捕まえ、かつ全員を黒鉄宮に放り込めって……これ、俺がやるのか?兄貴は?あいつのが暇だろ?」
女は肩を竦め、ダメだったことを表す。
「あの野郎、攻略にはたまにしか顔出さなくなったくせに忙しいとか……」
「ま、どーせ“塾”の運営とレベリングでそこそこ忙しくなるのは事実らしいしナ」
「あー……なんで未だにアスナくらいのレベルを維持してられるのか、本当に謎だよな。俺とキリトが攻略組最強の一角を占めるのにどれだけ苦労してるのか分かってんのか?」
女はからから笑い、任せたと言わんばかりに肩に手を置くとキー坊と呼ばれた男との集合場所だけ教え去っていった。
「受けたはいいが……ノーチラスに明日はそっち顔出せるかもって送っちまったぞ……あいつ『やっと攻略が進む!』って喜んでたしなぁ……どーすんだこれ」
友からの折檻は避けられない男こと、タナトスであった。
***
「タイタンズハンド?」
「そ。兄貴、なんか知らないか?」
アルゴから依頼を受けたタナトスはとりあえず自らの兄の元へ向かっていた。
ここは第一層はじまりの街。
兄はここで攻略組を半ば引退して塾兼訓練施設を開いた。
それは笑う棺桶のジョニー・ブラックとザザと存在を重く見た兄が将来的に有望な存在、そしてまだ幼い少年少女の保護を主な目的とした施設だ。
この施設ではまた、中層プレイヤーを鍛えると共に高校生以下の学生の勉強の面倒も見ている。
幸いにも、兄をはじめとした講師、教師を職業としている人も何人かいるために割と成り立っている。
自分からやってくる生徒数が少ないことがここが成り立つもっとも大きな理由だが。
その部屋の一室でタナトス手製の飯をぱくつきながら兄弟は話しあう。
「んー、どーだったかな……確かオレンジギルドの情報は…………んー…………sorry、お前が渡された情報以上のことは俺も調べてないな……しかし、俺のギルド帳に乗ってないっていささか小物がすぎないか?タナトスが出ると攻略のスピードが落ちちまうだろ?」
弟の疑問にそこそこ時間をかけてオレンジプレイヤーのことを独自にまとめた本を見ていた兄が少し申し訳なさそうに、それでいて疑問そうに言う。
「たしかに、アルゴの前情報としてもそこまで規模が大きいとは思えないな。が、今回に関しては犠牲者も出てるらしくてな。迅速に解決したいんだろ。あと依頼人の気持ちも尊重してるんじゃないかね?《ファミリー》はそれだけ
わからんな、と首をかしげるまだ感情より理性を優先するスラム育ちの生存本能の強さが僅かに残る兄にそこまでいって一つのことを思いだす。
「そうだ兄貴、今回の依頼は俺とキリトがいない間、攻略組頼むわ」
ノーチラスとアスナが大変だものな、と兄は弟の依頼に笑って了承すると早速装備品の確認作業に移った。
そこで兄は神妙な表情をして弟を見てきた。
「樹」
「?」
「俺もいくつかオレンジギルドを潰しに動くが……気をつけろよ」
「ったく、リアルネームで呼ぶからなんだと思ったが……。それはこっちのセリフだよ、兄貴。たまにはその合理主義を捨ててゆっくり休んでいてくれよ、最強ギルドの団長さん」
そうして皮肉げにニヤリとして弟もキリトと合流するべく、動き出した。
***
中層プレイヤーシリカはまさかこんな些細な口論からこんな事態になるなんて思いもしなかった。
きっかけはアイテム分配についてだった。
彼女はSAO内でも珍しいビーストテイマーで、その整った容姿からそれなりにちやほやされていた。
そのせいか、多少の慢心が生まれてしまったのだろう。
パーティメンバーの一人の女性と口喧嘩の末、喧嘩別れ。
一人で街まで帰ろうとしたのだが、彼女たちがいた森の名は、《迷いの森》。
案の定道に迷ってしまった彼女はモンスターに襲われ、ついにはポーション、そして非常用にとっておいた回復結晶まで使い果たしてしまったのだ。
そしてそれでもさまよい歩くうち、強力なモンスターと複数相手取って戦う羽目になり、
「ピナァァァァア‼︎」
このSAOでの最大の親友、使い魔のドラゴンピナを失ってしまった。
その瞬間彼女は怒りに身を任せ、無謀な突撃をしようと体を迫る棍棒へと向けた瞬間に一閃。
白い横一文字の光と、大量の白い光が彼女の前後で走り、シリカを囲んでいたモンスターたちを一掃した。
オブジェクト片が破砕してく中、器用に落ちていくナイフをキャッチしていく男性プレイヤーとそれを呆れたように見つめる男性プレイヤーの姿があった。
呆れた表情をしていたあまり背は高くないが全身黒ずくめな格好から強烈な威圧感を発しているように思わせる男性、いやまだあどけなさの残る少年プレイヤーがいつの間にか座り込んでいたシリカに穏やかだが自己嫌悪に駆られたような目で手を差し伸べる。
「……すまない。君の友達、助けられなくて……」
その言葉を聞いた瞬間、なんとか起こしていた上半身からも力が抜け、涙が出てきて蹲ってしまった。目の前にはピナの水色の羽が落ちている。
それを見てさらにシリカの目から涙が溢れる。
そこにナイフを器用に集めていた方の猫耳パーカーが特徴的な少年がしゃがんでシリカの頭を優しく撫でた。
「どうどう、おじょーちゃん。まだ希望を捨てるのは早いと思うぜ?」
「……え?」
「その地面に落ちてる羽、名前は?」
シリカは目を落とし、羽の表面をクリックしてアイテム名を表示する。
《ピナの心》。再び涙がこぼれかけた時、黒ずくめの方の少年の声が慌てたように割り込んだ。
「ストップ、ストップ。心アイテムがあれば蘇生の可能性があるんだ。最近わかったことなんだが」
と、少年の話を要約すると47層の南にある《思い出の丘》に使い魔蘇生用のアイテムがあるらしい。そこに心アイテムを三日以内に持っていくと蘇生できる、と。
47層とはシリカが今いる階層よりも12階層も上という絶望的状況。少なくともあとレベルは10は上げなければならず、加えてそれを攻略するのを考えれば二日であげなければならないという絶望的状況。
シリカはうなだれた。男たちがシリカの近くにしゃがんでいたのから立ち上がる。
立ち去るのかとも思い、お礼を言おうとするも口を開く元気すら残っていない。
そんな時。
不意に目の前にトレードウインドウが表示されていた。
「おい、タナトス。お前いくつか使ってないダガーあったろ、それ出せ」
「それ言ったらお前だってそれなりのアーマーあるだろ?……っておい、さすがにそれはダサい。ステータスも大事だがちゃんと女の子に渡すんだから見た目をだな」
「あー、じゃあ、これか?」
「お、良さげじゃん」
と彼らが会話するうちに次々とアイテム名が表示される。
シリカは困惑しながらも、どういうことか気候も口を開く。
「あの……」
「この装備でなら5から6レベ位はステータスの底上げがでいると思う。まぁ、見た目を気にしないならもう少しあげられるが」
「キリト。さすがに見た目が頭だけ戦国武将にさせるのは酷だぞ」
「ということなので俺たちも一緒に行けば余裕で手に入ると思う」
「えっ…………」
目を丸くし、口を小さく開きかけたまま、シリカも立ち上がった。
一瞬オレンジプレイヤーかと失礼な考えもよぎったが違う。彼らからいくつかをはかろうかとも思ったがそれよりもやはり気になるのは。
「なんで、そこまでしてくれるんですか……?」
「えっと……」
正直、警戒心が立った。
13歳という少女であるシリカからしても、それはいわゆる
しかし黒ずくめの少年は恥ずかしそうにボソリと。
「その……君が、妹に似てるから、だ」
ベタベタな返答にシリカは笑ってしまった。普通なら少年は少し傷ついた表情でもして「悪かったな」とでもいう状況なのだが、彼は隣の猫耳の方の少年を見て顔を青ざめさせていた。
手には録音結晶が。
「アルゴにプレゼント」
「やめっ、やめろぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」
手を伸ばすが躱され、手を伸ばすが躱されを繰り返している二人に笑いが止まらないシリカ。
「あの、猫耳の方なあなたは?」
「年下の子には優しくしなさいって兄貴に言われてるので」
「俺、お前より二つ年下……」「知りません」
なんとか笑いを抑え込み、シリカは改めてお礼を言う。
「その、笑っちゃってごめんなさい。何から何まで……これ、全然足りないかもしれないですけど……」
代価として持っているすべての所持金を渡そうとするもやんわり断られてしまう。
「いいよ。どうせ余ってたものだし、俺たちの目的とも、被らないこともないから……」
トレードウインドウのOKボタンを押し、謎めいた言葉を言いながら手をヒラヒラする黒ずくめの少年。
「本当にすみません、ありがとうございます。あの、私シリカって言います」
「俺はキリトだ、よろしくな」
「タナトスだ。暫くの間だが、よろしく」
黒ずくめの方はキリト、猫耳の方はタナトスとしっかり覚えた後、シリカはそれぞれぎゅっと握手を交わす。
タナトスはシリカにぽいっとポーションを渡すとキリトが取り出した迷いの森の地図を一切見ることなく歩き始めた。
大丈夫なのか一瞬思ったがキリトが大丈夫だと笑いかけてくれたのでその後を追いかけた。
そしてシリカはピナに、そして目の前の心優しい二人の剣士に誓った。
ピナを、絶対に生き返らせてみせると。
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