ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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今回は間章です。いつもより長めです。

追記:タイトルが変だったので直しました。



間章 朝田詩乃と出会いの日 後編

 

「私を、私を助けてください……!」

 

涙ながらの私の心からの願いは、彼らに届いた。

 

***

 

二人はまず、どのくらい酷いのかを私に聞いた。

ヴァサゴさんはモデルガンでも買ってくるかなんて言っていたから樹さんが止めた。私もその方がありがたい。

私は口頭で伝えることにした。

 

めまい、吐き気、最悪意識を失う……ね。とヴァサゴさんは静かに私の言葉を反芻する。

 

「成る程、症状としてはかなり酷い……どうしてこうなったか、教えてもらってもいいか?」

 

「っ…………」

 

ヴァサゴさんの問いに私は答えられなかった。

だって、私は……。

するとヴァサゴさんを軽く叩く手があった。樹さんだ。

 

「兄貴、朝田に何があったか知らんが、朝田も被害者だ。そりゃ酷ってもんだろ?」

 

樹さんがそう言ってくれたが、私は本当は……。

 

「はぁ、ったくよぉ…………朝田」

 

ポン、と頭に手を置かれる。

 

「お前に何があったかは知らん。けどさ、お前は間違いなく被害者だよ。例え、お前がどうしようもないクズだったとしても、今こうして苦しんでりゃ、俺たちからすれば被害者だよ」

 

私は何も答えられなかった。

 

その後、対策案を練ることとなったのだが。

 

「まぁ、そう簡単には思いつかないよな……」

 

「ですね……」

 

早1時間が経過した今でも全く良案は出てこない。

と、そこで樹さんがあることを思いついた。

 

「あー、それじゃあ。ほら、ゲーセンとかにあるシューティングゲームとかならどうだ?」

 

「ゲーム……ですか?」

 

「そそ。うちにさすがにゲーセンにあるほど立派なのじゃないけどあんな感じに銃を向けて打つやつがあるからやってみる?」

 

「…………やってみます」

 

と、いうわけでテレビに銃型のコントローラーを接続し、ゾンビを倒すタイプのゲームをやってみることとなったのだが。

 

「……意外と、いけてる……?」

 

駄目元のつもりだったのか、意外そうに樹さんが言うのに私も頷く。

 

「っ、……はい。確かに多少の息苦しさはあるのですが、ひどいめまいや吐き気はないです」

 

「これに慣れてけば多少は楽になるかもな。よし、朝田も意外とゲームの才能あるし、マルチやれば?兄貴」

 

「お前はやらないのか?」

 

「飯作る」

 

「りょーかい」

 

その後小一時間ほどゲームをやり、樹さんの美味しい料理をいただいて樹さんも交えて少しゲームをしたあと部屋に帰った。

 

「楽しかったなぁ……」

 

ポツリ、と呟く。

確かに精神的疲労はかなりあるのだが、それでも楽しいものは楽しかった。

 

そして次の日も、また次の日も私は棚坂兄弟考案のゲーム療法を試した。

これなら多少は楽になるかも、なんて思いがよぎった中。

 

 

事件は起こった。

 

 

***

 

始まりはいつものことだった。

 

私は銃への強い恐怖心や、クラスでもあまり友達がいない物静かなタイプだったためにいじめの標的にされていた。

今日もまた、学校の帰りに不良達に絡まれた。

 

そして、またこの時も。

 

「おい、何やってやがる」

 

「あ、あの時の男⁉︎に、逃げろ!」

 

私は樹さんに助けられた。

そこまでは良かったのだが。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「私は、強くならなくちゃ……」

 

「あ?」

 

私は、自分が情けなかった。

 

本当は自分の力でどうにかしないといけないのに。

本当は自分の力で強くならなきゃいけないのに。

 

どうして助けてもらってばかりなの。

どうして助けてくれるの。

 

「私は!一人でなんとかしなきゃいけないのに‼︎私は、人殺しなのに‼︎」

 

勝手に口が動いてしまった。

ハッとした時にはもう遅い。樹さんは呆然とそこに立っていた。

 

「っ‼︎‼︎」

 

「あ、おい朝田‼︎」

 

私は走った。走って走って走って。

 

家のドアを開け、そして中に入りドアを閉めると同時にそこに蹲ってしまった。

 

──やってしまった。

 

私には後悔しかなかった。

 

助けてくれると言ったのに。

私はその手を払いのけ、しかも本当のことを言ってしまった。

 

──きっと、軽蔑される……。

 

その時だった。

 

トントン、とドアをノックする音。

 

「おい、朝田。いるんだろ?開けてくれないか?」

 

樹さんの声だった。

 

「……どうして私に構うんですか」

 

「どうしても何も、お前が助けてくれって言ったんだろ?親に助けを求められたらちゃんと助けてやれって言われてんのさ」

 

「どうしてあなたはそんなに強くいられるんですか」

 

「は?」

 

ドアを開き、私は叫んだ。

 

「どうしてあなたはあんなことを聞いて私をまだ助けようと思うんですか⁉︎私は被害者じゃない!私は加害者‼︎どうしようもない人間なんです‼︎私は、私は、人を、殺したんですよ……⁉︎裁かれて当然なんです!貴方やヴァサゴさんみたいな、正義のヒーローみたいな人たちに助けられていいわけないんです‼︎‼︎‼︎」

 

思いの丈を叫んだ。

すると樹さんは気圧されたような顔をしていたが、やがて申し訳なさそうな顔をして。

 

私をそっと抱きしめた。

 

「っ⁉︎」

 

「あのな、俺だって長く生きてるわけじゃないし、人並みだ。弱いし、何かを投げ出そうとしたことだってある」

 

優しく、私に喋る。

 

「でもな、それでも俺はお前を助けようと思った。お前はその時泣いていた。ただそれだけで助ける理由は十分だ。お前に何があったかは知らんよ。でもさ、それでも俺にはこうやって今も泣いてる人間を見捨てるわけにはいかんのよ」

 

樹さんは私の頭をそのまま撫でる。

 

「別に俺はヒーローなんかじゃない。お前の助けにならないかもしれないし、助けられないかもしれない……」

 

「でもな」

 

手を離し、私に目線を合わせ。

 

「俺は正義の味方じゃなく、()()()()()()()味方だ」

 

にこりと笑いかけた。

 

「……なんか叫んでるから何かと思いきや、何してるんだ?」

 

ヴァサゴさんが帰ってきた。

 

「兄貴」

 

「ん?」

 

「朝田の過去を聞こう。やっぱりそれが必要だと思う」

 

「……私は……」

 

「話がいまいち読めないが……わかった、いいぜ」

 

***

 

そして語った。

 

私のトラウマの原因を。

 

喋り終わったあと、少しの静寂が部屋に流れた。

そしてゆっくりと、ヴァサゴさんが確認するように言った。

 

「……郵便局に来た強盗を射殺しちまった……か……」

 

「だから私は……加害者なんですよ……人を殺して、私は自分の手で乗り越えないと……」

 

支離滅裂なことを言っている自覚はあった。

それでも二人は真剣な表情で。

 

「あのな、朝田。別に俺だって褒められた人間じゃないんだぜ?」

 

「……え?」

 

そしてヴァサゴさんは自分の過去を簡単に語った。

スラム育ちの境遇。

親から虐待され、生きるために盗みを行い、そして樹さんの両親に同様に盗みを働こうとして逆に撃退。

その後二人に身の上話をさせられ、その二人に引き取られたことを。

 

「別に犯罪歴なら俺にだってあるし、樹は札付きの不良だ。こいつなら見つかってないだけで傷害罪やらなんやらの犯罪犯してるし」

 

「言い方」

 

樹さんがヴァサゴさんにツッコむ。

ごほん、と樹さんは咳払いをすると私にあることを言った。

 

「お前は確かに人を殺した」

 

「っ‼︎」

 

「でもな。お前は同時に人を助けたろ?郵便局の人や、お前のお母さんを」

 

「……‼︎」

 

私が、人を……助けた……⁉︎

 

「……兄貴、父さんと母さんに連絡。その場所にいた人を探しに行くぞ」

 

「はいはい。ったく、学校はどうするんだよ?受験生だろーが」

 

「知るかよ。これでも関心意欲態度を除いた成績だけはいいんだ。大丈夫だろ」

 

ヴァサゴはクスリと笑って両親に電話をしていた。

 

()()、ちょっと待ってな」

 

樹さんの発言に呆然とする私をよそに勝手に計画をして、そして次の日から二人は出かけた。

 

***

 

数日後。

私は樹さん達に呼び出され、近くのカフェに来ていた。

カフェは貸切状態だった。

どこからそんなお金が……なんて思ったのもつかの間、こちらに手をあげる二人の姿があった。

 

「よ、久しぶり」

 

「数日ぶりだな」

 

「樹さん、ヴァサゴさん……」

 

棚坂兄弟と一緒にいた女性は、30歳くらいの、セミロングの髪に落ち着いた格好をした、主婦のイメージが強めの女性だった。

事実、女性の後ろからひょこっと顔を出したこのとても幼い女の子はおそらく娘さんだろう。

面識はないはずなのに、何かが私の記憶が刺激している。

そうしているうちに、女性は立ち上がり、深々と一礼するとかすかに震える声でしゃべりだす。

 

「朝田、詩乃さんですね?私は、大澤祥絵と申します。この子は瑞恵、2歳です」

 

「私が東京に越してきたのはこの子が生まれてからで、それまでは、……市で働いていました」

 

私の住んでいた場所だ。

 

「職場は……町3丁目郵便局です」

 

「あ……」

 

そこは、2年前、私の人生を大きく変えてしまうことになる事件に遭遇した、あの郵便局だった。

 

そうだ……この人はあの時いた女性職員の一人だ。

まさか、何もわからないところから、二人は探してきたというのか?わざわざあの郵便局に行き、すでに職を辞した女性の現住所を調べ、連絡し、見つけたというのか……?それでも。

 

「わ、私は二人に詳しい場所までは……?」

 

教えていないのだ。

 

「んなもん調べたに決まってるだろ、だから数日もかかったんだ」

 

ヴァサゴさんだ。

そんな。どうして……?どうしてそこまで……?

 

「……ごめんなさい、ごめんなさいね、詩乃さん」

 

不意に、目の前の大澤さんが謝ってきて、私は困惑した。

 

「私は、もっと早く……あなたにお会いしなきゃいけなかったのに……あなたが苦しんでらしてることなんて、想像すればわかったことなのに……謝罪も……お礼もせず………」

 

目尻から涙がすうっと零れる。隣の瑞恵ちゃんという少女が心配そうに母を見上げる。

その子を撫でながら大澤さんは。

 

「あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。だから、詩乃さん、あなたは私だけじゃなく……この子の命も救ってくれたの。本当に、本当にありがとう。ありがとう……」

 

「命を……救った?」

 

あの郵便局で、私は拳銃で一つの命を奪った。それだけが私のしてきたことだって、そう思ってきたのに……。

 

私は、救った?

 

「朝田」

 

不意に立ち尽くす私に樹さんが声をかけた。

 

「朝田。お前はずっと、自分を責めてきたんだろ?それは間違いとは言わないが、お前は加害者なんかじゃない。自分は誰かを救った、それだけで、お前はお前を赦していい。お前は、この子と、この人からすりゃ、ヒーローなんだから」

 

そして、瑞恵ちゃんが近づいてきて、にっこり笑い、手紙を取り出した。

それには絵が描かれていた。家族の絵だ。

 

『しのおねえさんへ』

 

このために、頑張って書いたのだろう。そして、一生懸命練習してきたらしい、たどたどしい声ではっきりと言った。

 

「しのおねえさんへ。しのおねえさん、みずえとままを、たすけてくれて、ありがとう!」

 

それが手渡された時、視界が虹色に満たされ、ぼやけた。

 

私は、泣いていた。気づくのに時間がかかったが、こんな、何もかもを洗い流していく涙があるなんて、知らなかった。

 

私がこのことを受け入れられるには、まだ時間がかかるだろう。

 

 

それでも、私は、今のこの世界が、大好きだ。

 

 

***

 

「あの後、名前呼びに変えて貰ったり、料理教えて貰ったり、色々あったなぁ……」

 

私はクスリと笑い、ナーヴギアをかぶって未だ眠りについている少年と青年の姿を見る。

 

そして少年のもとに行き、優しく撫でると。

 

「思い返してみれば、あの時にはすでに樹、あんたが……」

 

 

 

その思いを伝えられるのは、まだまだ先。

 

私は、病室の窓から外を見ながら、誓う。

 

 

 

 

 

あなたが目覚めた時、私は言う。私はあなたのことが────。




というわけで兄弟の手で救われた詩乃。

次回は圏内事件編です。

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