フェイタルバレットついに発売しましたね。
いやー、楽しい楽しい。楽しんでプレイさせていただいています。
キリトとアスナ、そしてエギルさんが第1層のはじまりの街に行き、ついでに22層のおにーさんの元へ向かっている間、僕、ノーチラスとユナはヨルコさんに事情を聞くことにした。
「……ヨルコさん、グリムロックって名前に、心当たりは?」
僕の問いに目を見開き、そして目を伏せるヨルコさん。
「っ……はい。昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」
僕とユナは一瞬顔を見合わせる。
僕は質問を続ける。
「昨日、カインズさんを指していた黒い槍、鑑定したところ、作成者はグリムロックさんだったんだ」
「え…………?」
手を口に当て、驚きを隠せないヨルコさんにユナが続けて、彼の名前から何か心当たりはないか聞いたところ、手応えがあった。
「はい。……あります。昨日、お話しできなくてすみません。忘れたい出来事だったし、無関係だって思いたかったこともあって……。でも、お話しします」
「その出来事のせいで、私たちのギルドは消滅したんです」
ヨルコさんの話を要約すると、こうなる。
半年前、彼女の属していたギルド、《黄金林檎》は敏捷が20もアップする指輪をドロップした。
ギルドではそれを売る派、ギルドで運用する派で別れたらしい。
まぁ、よくある話だよな。僕は思う。
もともとソロでプレイしていたタナトスやおにーさん、アルゴさんが主軸となっている《ファミリー》では、ドロップ品は手に入れた人のもの、というのが規則となっている。欲しければ交渉するか喧嘩でもしてくれというのがおにーさんの指示だ。
実際件の指輪のように敏捷がアップするようなドロップ品が出た際には敏捷と器用に重きをおくタナトスやレアアイテムに目がないキリトはだいたいどちらかが血を見る。
それをあっさり流せるような僕らのような悪友的な間柄ならまだしも、普通の日本人ならそんなことはできないからこそ、黄金林檎では揉めてしまったのだろう。
話を戻すが、その後、5対3で売却が勝ったらしい。
前線の大きな街で競売屋に委託するため、団長のグリゼルダさんが一泊の予定で出かけたが、彼女は一向に帰ってこなかった。
……《ファミリー》で、持ってったのがタナトスならこっそり使ってみたりしてるんだろうなぁ……。キリトとか、おにーさんとかでも。
のちに彼女が亡くなったことを知ったらしいが……。
「そんな大事なものを持って圏外に出るわけないし……と、なると睡眠PK、か?」
「でも半年前ならおにーさんが手口を暴いてるはずじゃあ……?」
「前線には広まっていたけど、下層までは情報がまだ行き渡りきってない時期だ、あり得ない話じゃないよ」
僕とユナは推理を進める。
「でも、それは計画的な何かを感じる。指輪のことを知ってる誰かがそれをやったとすると」
「……黄金林檎の、7人の誰か……」
僕の言葉につぶやくヨルコさん。おそらく、売却に反対していたメンバーの誰かが犯人なのだろう。
「グリムロックさんって?」
僕の質問にヨルコさんは、
「グリムロックさんは、グリセルダさんの旦那さんでした。もちろん、ゲーム内での話ですが。……グリセルダさんはとっても強くて美人な剣士でした」
「グリムロックさんは、いつもニコニコしていて、優しくて。本当にお似合いの二人でした」
少し昔を懐かしむ表情をしたヨルコさんはすぐに暗い顔に戻し、続けた。
「もし、犯人がグリムロックさんなら、指輪の売却に反対したメンバーを生かしてはおかないでしょう」
その後の言葉を紡ぐのに一瞬逡巡する様子を見せたヨルコさんだったが、まっすぐこちらを見て、語った。
「反対した3人のうち、二人はカインズと私なんです」
「「っ⁉︎」」
驚きを隠せず、軽く身を乗り出してしまう僕とユナ。
「じゃあ、もう一人は⁉︎」
「シュミットというタンクです。今は聖龍連合に入っていると聞きました」
聖龍連合……。シュミット……。
記憶の糸をたどっていく。
「確か……聖龍連合の、ディフェンダー隊のリーダー、だったか」
「ああ、あの人……」
僕のつぶやきに思い出した口調のユナ。それを見て今度はヨルコさんが軽く身を乗り出す。
「シュミットを知っているのですか⁉︎」
「まあね。僕ら《ファミリー》は遊撃を担当することが多いから、他のギルドにも知り合いがいて、その関係でね」
「シュミットに会わせていただけませんか?彼は、まだこの事件について知っていない可能性もありますので……」
ヨルコさんの言いたいことはわかる。シュミットさんはまだこの事件のことを知らないかもしれない。なら、会いたいのは当然だろう。
呼びに行きたいのは山々だが、ここにヨルコさんを残すのも、僕らのどちらかが呼びにいくのも不安が残る。
なら、とキリトにメッセージを送り、第56層にある聖龍連合の本部から連れてきてもらおうとすると、キリトからメッセージが帰ってきた。
──ごめん、おにーさんつかまらなかったからいまヒースクリフから情報もらうためにアスナとラーメン食ってるから少し待ってて。
……あいつ、情報をもらうって言ってたのにあのラーメンもどきを食わせたのか。
僕の呆れも当然だろう。
これは数日前の出来事だが、僕とタナトスとキリトは第50層を迷子になっているうち、見るからに陰鬱とした怪しい店の前に出た。
これはあのごちゃごちゃしたカオスな街ならよくある光景なのだが、その店はなんとメニューがアルゲードそばなる、無駄にクソ長い時間とともに出されるタナトス曰く『醤油抜きの東京風しょうゆラーメン』という微妙な料理を出される店なのだ。
あそこの麺を食べてタナトスが絶対に醤油、否、和食を作ってみせる……!と意気込んでいたことは記憶に新しい。
おそらくアスナも奮起しているに違いない。
正直、このタイミングであそこに向かう
仕方ない、と椅子から立ち上がり、ユナとヨルコさんに話しかける。
「僕とユナはシュミットさんを呼んできます。それまでこの宿屋から出ないようにしていてください。念のため、窓辺にも近寄らないようにしていてください」
***
トントントントントントン。
部屋に響くは貧乏ゆすりの音。
どこかで貧乏ゆすりは精神安定の効果があるとか聞いたことがあったな、と物思いにふけつつ、ヒースクリフと会談した際に手に入れた情報、二次情報に頼るな。
すなわち、動機面の話をしたヨルコさんを疑えという情報のもと、シュミットさん、ヨルコさんの二人に目を光らせ、動向を見る。二人のどちらかが犯人という可能性だってないわけではないのだ。
やがて口を開くシュミットさん。
「……グリムロックの武器でカインズが殺されたというのは本当か、ヨルコ⁉︎」
ゆっくり頷くヨルコさん。恐怖に顔を歪ませ、立ち上がるシュミットさん。
「どうして今頃、俺たちが殺されなくちゃいけないんだ⁉︎」
それに畳み掛けるヨルコさん。彼女の精神状態の危うさをうかがわせる、感情の起伏のない口調で予想だにしない言葉を紡ぎ始めた。
「もしかしたら、グリセルダさん自身の復讐、なのかもしれない」
「……え……?」
「私、昨日寝ないで考えたの。だって、ダメージを与えられない圏内で、人を殺すなんてそれこそ幽霊じゃなきゃ無理な話だわ……」
「落ち着いてください、ヨルコさん!」
ユナの呼びかけにも答えず、ヨルコさんは完全に錯乱していた。
窓辺に寄り、叫んだ。
「幽霊相手じゃ、いくら知識があろうと、力があろうとまるで歯が立たない!グリセルダさんを殺したのはメンバー全員の責任でもあるのよ⁉︎」
その迫力に一瞬あっけにとられた様子の僕だったが、すぐにハッとした表情になり、ヨルコさんに駆け寄ろうとした。
「待って、ヨルコさん!相手は圏内でも人を──」
とんっ。
よろめき、横向きになったヨルコさんの背中には、黒い短剣が刺さっていた。
そしてそのまま外に向かって倒れるヨルコさん。
「ヨルコさん!」
スローモーションに見える世界の中、僕は駆け寄り、その手をつかもうとしたが、その手は空を切り、地面に落ちたヨルコさんバウンドし、青いエフェクトが包み、そして。
パシャァン、という破砕音ととともにポリゴンのかけらが無に帰して行き。
その場には漆黒のダガーのみが路上に転がっていた。
キリト、ノーチラスが主人公として繰り広げられる圏内事件編。
この時タナトスはキリトたちが抜けた穴を前線で埋めています。
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