ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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兄弟、キリトのお株を奪う。



不良少年と殺人者

 

 

第19層、ラーベルグ。

そこに黄金林檎リーダー、グリセルダは眠る。

十字の丘と呼ばれる寂れたフィールドには今現在、3人のプレイヤーしかいなかった。

名を、ヨルコ、カインズ。そしてシュミット。

死んだと思われていたヨルコの左手には、音声を記録する記録結晶が握られていた。

 

「すまない……あんなことになるなんて……すまない……」

 

グリセルダの怨霊に取り憑かれてしまったと信じて疑わなかったシュミットはこのグリセルダの墓にて、一人自白していた。

自分の罪の懺悔である。

それをグリセルダに扮したヨルコとカインズが録音したのだ。

 

「グリセルダのことは決して憎んだり、こ、殺そうなんて思ったことはないんだ!俺は、ただ誰かわからないやつの指示に従っちまっただけなんだ…………。そのせいで、リーダーは……」

 

シュミットがやったことは、グリセルダが暗殺される前日に彼女の寝泊まりする宿屋の部屋内に回廊結晶を設定し、ギルドの共有ストレージに放り込んだだけ。

それだけで大金が手に入ると聞いたシュミットは浅はかにもその誘いに乗ってしまった。

どうせ指輪が強奪されるくらいで事件は終息するだろう。そんなことを考えながら。

結果として、グリセルダは死亡。

 

犯人は未だ、謎に包まれている。

 

黄金林檎の3人は、犯人について、思考を巡らせていた。

圏外にもかかわらず、それこそ浅はかにも。

 

さくっ。

 

シュミットは自らの体を何かで切り裂かれた瞬間、体に麻痺のステータスがついたことを確認した。

 

そして重力に逆らえることなく、地に伏すシュミット。

 

「おやおやぁ?これはこれはこれは……聖龍連合のディフェンダー隊隊長じゃないですかぁ?」

 

少年のような無邪気な声にシュミットは必死に一瞬にして恐怖に支配された視線を上向けた。

目に飛び込んできたのは黒ずくめのブーツ、パンツ、レザーアーマー。左手はポケットに突っ込んでおり、右手には、刀身が緑に濡れるナイフを携えていた。

そのナイフの刀身は、たまにタナトスが使っているのを攻略の際に見たことがあるので知っている。

毒ナイフだ。

その男の特徴は何と言ってもその頭陀袋のような黒いマスクと、オレンジカーソル(犯罪者の印)

 

「あっ……!」

 

背後で小さな悲鳴が聞こえ、視線を向けるとヨルコとカインズを極細の剣で威嚇する、やや小柄の、黒いボロ切れのようなものが全身から垂れ下がっている赤目の髑髏マスクがあった。

同じく、オレンジカーソル。

 

この2人を、シュミットは知っていた。直接見たわけではない。ギルドで見た要注意プレイヤーのスケッチ、そして鼠の情報を見たのみなのだ。

ある意味でボスモンスター以上に凶悪で、恐ろしい。かのオレンジ潰しの《ファミリー》ですら壊滅には至れなかった殺人者(レッド)プレイヤー。

 

赤眼のザザ。ジョニー・ブラック。

 

殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。

究極の自治集団《ファミリー》に対抗するかのように生まれた、過激な思想のもと、先鋭化した集団である。

 

その思想とは、『デスゲームなら殺して当然』。

 

そんな危険思想のもと、《暗殺者》タナトス、《鼠》アルゴ、そして元攻略組のブレインにして22層で攻略の手助けの傍、学生プレイヤーの教育に勤しむ《教授(プロフェッサー)》PoH相手に何度も死闘を繰り広げ、そして生き延びてきた化け物集団。

中でもトップに君臨する2人の存在。ジョニー・ブラックはその戦闘センスはタナトスやキリトにも比肩し、ザザのその速さはアルゴやアスナにも並ぶという。

 

心の中で、絶望に打ちひしがれるシュミット。

 

ああ、俺はここで死ぬのか。

 

そう思っていた矢先。

 

ザッ、ザッ、ザッ。

 

新手か。冗談じゃないぞ。

 

 

 

 

「hmm……。やはり俺たちの予測通りだったな。対人戦にそこまで明るくないアルゴとノーチラスを後方支援に回してよかった」

 

膝上までを黒いポンチョに身を包み、手には中華包丁のように四角く、赤黒いダガーを持つ美男。

 

「だねぇ。いやはや、シリカにまで前線に出張ることを強いちまってるからね、このくらいはやらんと。……ぶっちゃけ寝てないので辛いのですが」

 

軽く被られた猫耳付きフードに大量のナイフホルスターを取り付けた黒のパンツ。背中には片手剣を携え、そして頬にはギリシア文字のθがある少年。

 

「珍しいよな、タナトス過労死ルート。いつもはおにーさんかノーチラスだってのに。流石に今回ばかりはノーチラスたちは関わらせられないか?」

 

漆黒の装備に身を包み、背はそこまで高くはないが、その身から放つプレッシャーは強者のそれとなっている、中性的な見た目をしている少年。

 

「…………PoH、タナトス、キリト…………… ‼︎」

 

シュミットの唇から漏れた一言は、安堵と希望に満ち溢れていた。

 

 

「「「It’s show time.」」」

 

 

殺人者と、不良たちの戦いが幕を開けた。

 

 

***

 

「よっ、と」

 

ジョニー・ブラックの毒ナイフをギリギリでいなしつつ、PoHは反撃の機会を冷静に伺う。

 

「おいおい!前線にいなかったくせに腕なまってねぇな、Poooooh!相変わらず冷たい目ェしてるねぇ!その武器も人殺しにはぴったりだろうよ!」

 

PoHの持つ《友切包丁(メイトチョッパー)》はモンスタードロップ品で、最高級の武器、魔剣のためにPoHも愛用しているがいかんせん見た目が悪い。

そのことを自覚しているが故にPoHは顔を思い切りしかめる。

 

毒ナイフを何度か受けながらも事前に飲んだ耐毒ポーションの恩恵でダメージを受けるのを最小限に抑えるPoH。

 

ダメージが蓄積し、4分の3ほど削られた頃、彼は、不敵に笑った。

 

「人殺し……ねぇ。全くだな。but、性能は抜群だぜ?」

 

ジョニー・ブラックが突き出したナイフは、PoHの顔面すれすれを横切りながらも、彼は臆することなく友切包丁を切り上げる。

 

パキイィィイン!

 

金属の折れる小気味良い音とともにジョニー・ブラックのナイフが折られる。

システム外スキル、《武器破壊(アームブラスト)》。

キリトが得意とするスキルで、PoHの直伝でもある技。当然、低確率であるはずのこのスキルも、PoHならいとも容易く使える。

 

「っ⁉︎」

 

目を丸くするジョニー・ブラック。即座に武器の切り替えをするも、全て破壊される。

今まではずっと、ジョニー・ブラックの癖を見極めるための戦いだったのだ。

無論、苦戦してなんとか隙を見つけたが故の武器破壊ではあったが。

 

「終わりだ」

 

友切包丁が即座に4つの光を放つ。

その瞬間、ジョニー・ブラックはこのデスゲーム始まって以降、初めての四肢の喪失を体験した。

 

「あっ、ああああああああああああああ⁉︎」

 

ゲーム内なので当然痛みは少ないが、それでもあるはずのものがないことは殺人鬼からしてもパニックを起こすには十分な要素であり、みるみるうちに減るHPを見て顔を青くする。

 

「安心しろ、ちゃんと手加減したさ」

 

その言葉とともに拳を振りかぶるPoHの姿を最後に、ついにジョニー・ブラックの意識はブラックアウトした。

 

***

 

「っとと……お?兄貴の野郎、もう仕留めたのか。早いな」

 

細剣のソードスキルを避け、目に入った光景に目を丸くしつつ、全身に薄く切り傷を負ったキリトはザザを向いて言う。

 

「で?お前もそろそろ降参しないか?タナトスの麻痺が効かないなら降参してくれるとありがたいかな……帰って寝たいし」

 

ザザの身体中には、大量のナイフが刺さっている。

キリトのパリィ、そしてタナトスの投剣によるダメージの連鎖により精神的に疲労しているザザ。しかしそれは、彼にとって枷にもならない。

 

「舐め、るなぁああああ‼︎」

 

叫びとともに繰り出されるアスナにも届くのではないかと思われる細剣の連撃に普通の相手なら細切れにされておしまいだろう。

されど相手は《ファミリー》最大戦力の一角、そう簡単には崩れない。

 

「っ、くくっ、まだまだぁっ‼︎」

 

まだ笑う余裕のあるキリトに、ザザはさらに叫ぶ。

 

「っ、こ、のぉぁああああ!」

 

ザザは残りの精神力を費やし、仮面に隠れていない目も赤く血走りながら、攻撃に移る。

それを見たタナトスはナイフを落とし、背中の片手剣を抜く。

 

「どけ、キリト」

 

だらん、と片手剣を持った手を下げ、足は肩幅に開き、自然体の状態で待つタナトス。

 

地面を蹴り、接近するザザのソードスキルの攻撃を、キリトとは違い、()()()()()()()使()()()()()()()()

 

盛大にバランスを崩すザザ。

しかしそれはキリトではなく自分にソードスキルを使われた時は素直に回避に専念していたタナトスも同じで、元々STRに振っておらず、器用と俊敏に極振りの彼もまた、バランスを崩していた。

 

ザザはこの攻撃の意味をついぞ理解し得なかった。

 

次の瞬間、彼の視界もまたブラックアウトしたのだから。

 

***

 

「流石にそれは真似できないな」

 

口笛を吹きながらの兄からの賛辞の言葉に嬉しそうに、寝不足ゆえの疲弊から息切れしながらもタナトスはにやりとしてサムズアップする。

 

タナトスがやったシステム外スキル、名を《剣技連携(スキルコネクト)》と言う。

 

タナトスは生まれつき体がしなやかで柔らかく、ある程度の無茶な体勢でも無理が効き、動く。

故に編み出したこの技はソードスキルの後に否が応でも発生する硬直をなくすために生み出したのだ。

 

SAOの仕様上、両手に武器を持つ、すなわち二刀流などのことだが、ソードスキルを使用しようとするとファンブル、すなわち失敗してしまうが両手に武器さえ持たなければその限りではない。

 

その際タナトスが考案したのがソードスキルでお互いの姿勢を崩しつつ、無理矢理体術スキルの初動に合わせればソードスキルが連続で使える、と言う荒業。

 

間違いなく現実なら腰を変に捻ること間違いなしである。

 

そんな未知の技を使えばいかに寝不足でやや集中にかけるタナトスといえど勝てないはずがない。

 

「ど、どうしてここに……?」

 

まさかのトッププレイヤー登場に、目を白黒させるヨルコ。

 

「それはアルゴだよ。……にしても、生きていて良かったです、ヨルコさん、それに、カインズさんも」

 

「俺は前線で徹夜してたのに駆り出された……。しばらく働きたくない……。第1層の悪夢を思い出す……いや、記憶ないけど」

 

死んだと思っていた人物に会えて心からホッとした様子のキリトと寝ぼけなまこでうわごとを言うタナトスだが、すぐに顔を引き締める。

 

「残念だが、キミたちを襲ったラフコフが現れたのは偶然じゃない。()が、指輪事件、そして今回のラフコフの黒幕さ」

 

「連れてきてくれ」

 

現れたのは、ノーチラスに後ろ手を押さえつけられ、アルゴにクローを突きつけられながら歩いてくるかなりの長身の男。

 

それは、

 

 

「グリムロック……‼︎」

 

 

圏内事件、もう一人の演出家であった。





というわけでこれでラフコフの二人は退場となります。ザザにキリトとタナトス(寝不足)を当てるのはややオーバーキル感が拭えませんがご容赦ください。

ちなみにタナトスが寝不足で少しパフォーマンスが落ちているのは第1層の悪夢ののち、リアルにいた頃と違って夜更かししなくなったために徹夜への耐性が落ちたためです。

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